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第三章 学園編
第78話 危機は脱した
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私はとにかく、体と頭部を中心にリブロ王子の魔力循環の回復を試みる。最初こそかなり厳しかったものの、少しずつ解れてきている事がとてもよく感じられる。このままいけば完全に近い状態で回復できるだろう。
「リブロ、こんなになるまで放置してしまってすまなかった。本当に不甲斐ない兄で悪かった」
その様子を見ていたフィレン王子が、リブロを呼び戻そうと必死に謝罪しながら呼び掛けていた。うん、肉親からの声は重要だわよ。ただ、発症した時点で気に掛けていれば、ここまで悪くはならなかったでしょうにね。正直こうなった理由を問い詰めたいところだけれども、とにかく今は治療に集中ね。3年もこの状態が続いていたらなら、体全体の魔力循環を回復させたとしても、しばらくはまともに動けないでしょうからね。筋力が落ちちゃってるから、リハビリから始めなくっちゃいけないわ。
しばらく私の魔力を流していると、どんどんとリブロ王子の血色が回復していく。治療法としてはどうやら間違っていなかったらしい。
とはいえど、これが他人にも行えると言うかというそれはずいぶんと怪しいものだった。とはいえど、魔力の循環が認識されているのなら、教えれば誰でもできそうではある。
それにしても、人の創作物から得たアイディアだったけれど、こうもうまくいくとは思っていなかったのだ。これなら、残りも徐々に解していけば、完全回復もそう難しくはないだろう。
「ふぅ、疲れたわ。これでとにかく意識は回復できたはずなので、体の方の循環の回復はまた今度ですね」
私はリブロ殿下の部屋にあった空いている椅子に、勢いよく座り込んでしまう。
「……アンマリア、本当にありがとう。僕はずいぶんと悪い夢にうなされていたようだ」
意識の回復したリブロ王子は、私にお礼を言っていた。思ったより普通に喋れているので、そこまで重篤な状態にまでは至っていなかったようである。それは何よりとしか言いようがない。
「お礼はまだ早いですよ。それこそ、完全に回復して頂かないと困ります。手本は見せましたので、フィレン殿下でもどうにかできると思いますよ。なにせご兄弟なんですから」
私は額に腕を置いて天井を仰いでいる。相当に疲れたのは事実だ。
単に魔力を感知させるために魔力を流すのであれば、他人の流れに合わせればいいので楽なのだが、今回のように凝り固まってしまった魔力の循環を回復させるというのは高難易度なのである。なにせ、相手の魔力の流れが分からないからだ。実に神経を使う。それこそ血管に注射針を刺す時のような難易度である。私の場合は鑑定魔法の応用でリブロ王子の魔力循環を調べながらできたので、まだかなり楽だった。
フィレン王子から方法を聞かれたので、私はその事を踏まえた上で事細かに説明しておいた。兄弟で属性が近いのであれば、魔力循環の筋もそう差がないはずだからだ。
「とりあえず、こうなった原因は確認しておきませんと。二度とこういう事が無いように気を付けませんといけません。一体何があったというのです?」
私は上を向いたまま王子たちに問い掛ける。だが、二人にはどうも思い当たる節がないようだった。
私の鑑定魔法でも原因の特定はできなかった。おそらく情報が古すぎて参照する事ができなかったのだろう。実際、二人に確認してみたところ、やはり3年前からだったらしい。最初こそ風邪などの見られる発熱や怠惰感から始まったらしいが、あれよあれよという間に寝たきりまでいってしまったそうだ。医者にも見てもらったが原因は特定できず、治療法もない。それでそのまま放置となってしまったようである。もちろん、調べてみたらしいのだが結局無駄足に終わってしまったらしい。
「私も失念していたとはいえ、相談してくれればよろしかったのに。私には鑑定魔法があるのですから」
「そうだね。婚約者ですし、今度からはそうするよ」
フィレン王子は本気で凹んでいた。
それにしても、今日の魔力の消費量は半端なかった。鑑定魔法に、魔力循環、それと回復魔法。これなら少しぐらいは痩せられるんじゃないかしら。でも、その一方でリブロ王子の命を救った事で、恩恵がびっしり襲い掛かって来そうである。本当に難儀な体質だわ。
私はしばらくの間、そのままリブロ王子の部屋で休ませてもらっていた。
「そうだわ。リブロ王子の魔力循環が正常に戻りましたら、私に声を掛けて下さい。殿下の体が元に戻るように訓練をさせて頂きますので」
ある程度回復した私は、フィレン王子とリブロ王子にそう声を掛けておく。こうでも言っておかないと、またやらかしてくれそうな気がしたからだ。本当に王族って面倒だわ。
「うん、そうだね。今度からは君に相談する事にするよ」
とりあえず約束を取り付けた事で、私はいい加減に父親やモモのところに戻る事にした。それにしても、これだけ時間が経っているというのにまったくやって来ないなんて、私に気を遣い過ぎなんじゃないかしらね。
私は戻りながら、リブロ王子のために車いすのようなものを作ろうかと考えた。あの分では手足が動くようになるのは相当先になるだろう。回復魔法を使ったとしても、普通の回復魔法では筋力までは回復しないもの。
それにしても、原因不明で起きた魔力循環不全という病気の事も気にかかる。原因不明の病気なんてのは確かにそれなりに存在するとはいえ、さすがに引っ掛かりを覚えてしまう。
(大っぴらにしないようにはしなきゃいけないけれど、気になってしまって仕方ないわ。ちょくちょく殿下たちのところに通うようにしましょう)
私はいろいろと考えを巡らせながら、父親とモモの二人と合流したのだった。
「リブロ、こんなになるまで放置してしまってすまなかった。本当に不甲斐ない兄で悪かった」
その様子を見ていたフィレン王子が、リブロを呼び戻そうと必死に謝罪しながら呼び掛けていた。うん、肉親からの声は重要だわよ。ただ、発症した時点で気に掛けていれば、ここまで悪くはならなかったでしょうにね。正直こうなった理由を問い詰めたいところだけれども、とにかく今は治療に集中ね。3年もこの状態が続いていたらなら、体全体の魔力循環を回復させたとしても、しばらくはまともに動けないでしょうからね。筋力が落ちちゃってるから、リハビリから始めなくっちゃいけないわ。
しばらく私の魔力を流していると、どんどんとリブロ王子の血色が回復していく。治療法としてはどうやら間違っていなかったらしい。
とはいえど、これが他人にも行えると言うかというそれはずいぶんと怪しいものだった。とはいえど、魔力の循環が認識されているのなら、教えれば誰でもできそうではある。
それにしても、人の創作物から得たアイディアだったけれど、こうもうまくいくとは思っていなかったのだ。これなら、残りも徐々に解していけば、完全回復もそう難しくはないだろう。
「ふぅ、疲れたわ。これでとにかく意識は回復できたはずなので、体の方の循環の回復はまた今度ですね」
私はリブロ殿下の部屋にあった空いている椅子に、勢いよく座り込んでしまう。
「……アンマリア、本当にありがとう。僕はずいぶんと悪い夢にうなされていたようだ」
意識の回復したリブロ王子は、私にお礼を言っていた。思ったより普通に喋れているので、そこまで重篤な状態にまでは至っていなかったようである。それは何よりとしか言いようがない。
「お礼はまだ早いですよ。それこそ、完全に回復して頂かないと困ります。手本は見せましたので、フィレン殿下でもどうにかできると思いますよ。なにせご兄弟なんですから」
私は額に腕を置いて天井を仰いでいる。相当に疲れたのは事実だ。
単に魔力を感知させるために魔力を流すのであれば、他人の流れに合わせればいいので楽なのだが、今回のように凝り固まってしまった魔力の循環を回復させるというのは高難易度なのである。なにせ、相手の魔力の流れが分からないからだ。実に神経を使う。それこそ血管に注射針を刺す時のような難易度である。私の場合は鑑定魔法の応用でリブロ王子の魔力循環を調べながらできたので、まだかなり楽だった。
フィレン王子から方法を聞かれたので、私はその事を踏まえた上で事細かに説明しておいた。兄弟で属性が近いのであれば、魔力循環の筋もそう差がないはずだからだ。
「とりあえず、こうなった原因は確認しておきませんと。二度とこういう事が無いように気を付けませんといけません。一体何があったというのです?」
私は上を向いたまま王子たちに問い掛ける。だが、二人にはどうも思い当たる節がないようだった。
私の鑑定魔法でも原因の特定はできなかった。おそらく情報が古すぎて参照する事ができなかったのだろう。実際、二人に確認してみたところ、やはり3年前からだったらしい。最初こそ風邪などの見られる発熱や怠惰感から始まったらしいが、あれよあれよという間に寝たきりまでいってしまったそうだ。医者にも見てもらったが原因は特定できず、治療法もない。それでそのまま放置となってしまったようである。もちろん、調べてみたらしいのだが結局無駄足に終わってしまったらしい。
「私も失念していたとはいえ、相談してくれればよろしかったのに。私には鑑定魔法があるのですから」
「そうだね。婚約者ですし、今度からはそうするよ」
フィレン王子は本気で凹んでいた。
それにしても、今日の魔力の消費量は半端なかった。鑑定魔法に、魔力循環、それと回復魔法。これなら少しぐらいは痩せられるんじゃないかしら。でも、その一方でリブロ王子の命を救った事で、恩恵がびっしり襲い掛かって来そうである。本当に難儀な体質だわ。
私はしばらくの間、そのままリブロ王子の部屋で休ませてもらっていた。
「そうだわ。リブロ王子の魔力循環が正常に戻りましたら、私に声を掛けて下さい。殿下の体が元に戻るように訓練をさせて頂きますので」
ある程度回復した私は、フィレン王子とリブロ王子にそう声を掛けておく。こうでも言っておかないと、またやらかしてくれそうな気がしたからだ。本当に王族って面倒だわ。
「うん、そうだね。今度からは君に相談する事にするよ」
とりあえず約束を取り付けた事で、私はいい加減に父親やモモのところに戻る事にした。それにしても、これだけ時間が経っているというのにまったくやって来ないなんて、私に気を遣い過ぎなんじゃないかしらね。
私は戻りながら、リブロ王子のために車いすのようなものを作ろうかと考えた。あの分では手足が動くようになるのは相当先になるだろう。回復魔法を使ったとしても、普通の回復魔法では筋力までは回復しないもの。
それにしても、原因不明で起きた魔力循環不全という病気の事も気にかかる。原因不明の病気なんてのは確かにそれなりに存在するとはいえ、さすがに引っ掛かりを覚えてしまう。
(大っぴらにしないようにはしなきゃいけないけれど、気になってしまって仕方ないわ。ちょくちょく殿下たちのところに通うようにしましょう)
私はいろいろと考えを巡らせながら、父親とモモの二人と合流したのだった。
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