伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
83 / 500
第三章 学園編

第83話 ひとまず解決かしら

しおりを挟む
「それでは、車椅子の実演を始めますわね。リブロ殿下の循環不全がもう少し改善すれば、自分で操作する事もできるようになりますのでね。今日のところは恐れ入りますが、私が操作致します」
 私はリブロ王子を乗せた車椅子の背後で、椅子に取り付けられた魔石に魔力を流す。すると、乗せるために魔力を切って床に置いていた車椅子が、ふわりと宙に浮いた。
「すごい、何度見ても不思議なんだが、宙に浮いている」
 フィレン王子が再び驚いている。やはり、宙に浮かぶというのはこの世界ではまだまだイメージできないようだ。
「フィレン殿下、ちょっと静かにしていて下さい」
 私はフィレン王子を叱る。
「まだ説明を始めたばかりです。いいですかリブロ殿下。手元の肘置きの手の当たる部分に穴があるのが見えると思います」
「……確かにありますね」
 リブロ王子はまだあまり動かない手を動かして穴を確認する。
「ご自身で操作される時はその穴に魔石を入れて、ご自身の魔力を魔石に流して下さい。そうすれば同じように動きますから」
「なるほど。分かりました」
 リブロ王子の口調がしっかりしている瞬間がある。それなりに回復してきている事がよく分かる。
「そして、魔力を流し続けている状態で、前に進みたい、右に曲がりたいなど思いながら魔力に変化を持たせると、そのように車椅子は動きます」
 私は前に動けと思いながら魔力を流すと、ゆっくりとだけど車椅子は前進を始めた。そして、障害物に当たる前に止まれと魔力を流すと、ぴたりと車椅子は止まった。
「細やかな魔力調整が必要になりますので、殿下のように魔力循環不全に陥った方には、魔力の扱いのリハビリ……再訓練にもなると思います。いかがでしょうか」
「すごい……、僕は動けているんだ……」
 私が問い掛けるものの、リブロ王子は人の手を借りながらではあるが、動けた事に感動していた。
「とりあえず、手足が動くようになれば、魔力循環も回復してきているでしょうからね。車椅子の降り時は私の方で判断致しますので、その時にはお呼び頂けるとよろしいかと思います。……まあ、癒しの力を持つサキ様に頼んでもよろしいでしょうが、彼女には魔力循環不全が理解できないので無理かと思います。魔法とて万能ではないですからね」
「分かった。助言感謝する」
 フィレン王子が私の言葉にそう返してくる。
 こう啖呵を切ったはいいけれど、こうなるとサキの魔法も訓練しておく必要があるかしらね。怪我と病気のほとんどに対応してもらえるようにならなきゃいけないもの。
 なにせ、リブロ王子の魔力循環不全は予想外過ぎたのだ。こうなってくると前世なんかでもあったウィルス性の病気とかも出てくる可能性があるもの。油断はできなさそうだわねぇ……。
 悶々と考える私だけれども、ゲーム内では流行病の事なんて全く出てこなかったわけだし、こればかりは現状どうにもならない話だった。
 そうなれば、とりあえずは目の前のリブロ王子に集中するだけだった。
 私はリブロ王子の身の回りを世話している人に、車椅子の使い方を教えておく。魔石は残りが少なくなると色が変わってくるようにしておいたので、色が変化したら予備の魔石と入れ替えて、空になりかけた魔石を私の所まで持ってくるようにお願いしておいた。
 その後も、リブロ王子の車椅子操作の講習が行われる。この車椅子は魔力で空中に浮かせているので、階段などの段差も移動できる。試しに部屋の中で段差を作って試してみる。すると、魔力操作でその段差もすんなりとクリアしていた。デフォルトの設定で床から10cm程度の高さで浮くようにしておいたのが功を奏した感じだろうか。
 結果として、私が作って持ち込んだ車椅子に、リブロ王子はやつれていて分かりにくいとはいえ、満足しているような様子だった。これならば、昔のように歩けるようになるのもそう遠くないかも知れない。魔力をうまく扱えば、自分の体の筋力が衰えていたとしても体を動かす事は可能になるわけだものね。身体強化とは違うけれどね。とにかく、魔力循環不全の完治が最優先といったところね。
「アンマリア嬢、こちらの車椅子、量産のご予定はございますでしょうか」
 今まで黙っていたギーモが、私に話し掛けてきた。
「量産とはいかなくても、動けなくなっている人の希望にはなりそうですものね、少々ばかり生産しておいてくれないかしら。それで、足を悪くされている方に売り込んでみてちょうだい」
「承知致しました。そのように手配致します」
 とりあえずお試しで作っておいて、目ぼしい人に使ってもらうようにギーモに言っておいた。別に売り物にしたいわけじゃないからね。とはいえど、作るにもいろいろとコストが掛かるので、いずれは費用を回収しなきゃいけないのは世知辛いわね……。特に魔石が高いのよ、魔石が。
 そんなわけで、リブロ王子たちに車椅子の使い方を教え終わった私たちは、すっかり暗くなった中、馬車に揺られて帰宅したのであった。最初こそ両親に怒られた私たちだったけれど、事情を説明したら許してもらえた。さすがに王族から呼ばれたんだから、そうなるわよね。
 車椅子の納品を無事に終えた私は、心底ほっとした気分でその夜はよく眠る事ができたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

処理中です...