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第三章 学園編
第82話 車椅子を届けよう
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私はモモたちとギーモを伴って、先触れを出した上で城へと向かう。国王と王妃にも一応連絡はするものの、用事があるのはフィレン王子とリブロ王子の兄弟だけだ。
城についた私たちは、門でフィレン王子の出迎えを受ける。まさか王子自ら出てきているとは予想外だった。
「待ちくたびれたぞ。アンマリアが来ると聞いて、居ても立っても居られなかった。今回はどんな用事なんだい?」
フィレン王子、早口になってますよ。
私はそんな野暮なツッコミは声に出さず、馬車から例のものを降ろさせた。スーラとネスの二人でも降ろせるほどの軽量の車椅子である。
「……なんだいこれは?」
まあ当然という反応だろう。なにせ足置きが付いた妙な椅子が出てきたのだから。だけれども、私はそんな事にはおかまいなしに喋り始める。
「こちらは車椅子というものになります。殿下、試されてみますか?」
「うん? くるまいす?」
私の言葉に訳が分からないよという感じに首を傾げているフィレン王子。そこで私は、フィレン王子に近付いて耳打ちをする。
「リブロ殿下のために、足代わりになる道具を作ったのです。肘置きか背もたれの上部に魔石をはめて、浮かせて移動する事ができる椅子なんですよ」
「な、なんだと?!」
フィレン王子が大声を上げて驚く。目の前で驚かれたものだから、私は目を見開いて思わず仰け反ってしまう。体型のせいでこけそうになったけれど、私はなんとか耐えたわ。
「見てもらえれば早いかと思います。スーラ、背もたれに魔石を」
「畏まりました」
背もたれの後ろにある出っ張りに、魔石をはめ込むスーラ。そして、魔力を流すと椅子が地面から浮き上がったのである。
「なんと、椅子が……浮いた?!」
フィレン王子が驚いている。うんうん、実にいい反応だわ。そこへ、私は声を掛ける。
「さあ、フィレン殿下。リブロ殿下のところまでご案内頂けますか?」
「あ、ああ。分かった。ついてこい」
どこか浮ついているフィレン王子を、見事リブロ王子の元へ案内させるように仕向ける事に成功する私。心の中でガッツポーズを決めた。
私とスーラ以外は、リブロ王子の現状を知らない。きっと見たら三人とも驚愕の表情を浮かべるのだろう。この間の治療でそこそこ血色はよくなったものの、まだ食事などはうまく取れずに痩せこけているはずだからだ。正直、経過が気になる。私はいろいろと考えながら、フィレン王子の後についていった。
「リブロ、アンマリアが来たぞ」
リブロ王子の部屋の扉と叩くフィレン王子。
「そうか、……通していいよ」
声は細いようだが、まあ元気そうな声だった。この声を聞いた私はちょっと安心する。
「アンマリア以外は多分驚くだろうが、この事はまだ外部には伝えないでくれ」
フィレン王子が神妙な面持ちで言うものだから、モモたちは訳も分からず頷いていた。まぁそりゃそうでしょうね。
妙な緊張感が漂う中、リブロ王子の部屋の扉が開かれる。部屋の中に目をやると、リブロ王子はまだ体調がよろしくないようで、ベッドに横たわっていた。あの距離から声が届くあたり、声が出せるのか、声を伝えるように魔法が使えるのか、どちらにせよそれなりの回復が見られる事は間違いなかった。
だが、顔の頬はすっかりこけ落ちたままであり、その姿を見たモモとギーモはものすごく青ざめた顔で立ち尽くしていた。
「リブロ殿下、体調はいかがでしょうか」
私は、とりあえず状態を確認する。質問をしながら鑑定魔法をリブロ王子に掛けているのである。本来は人間に対して鑑定魔法を使ってはならないものとされているのだが、今回はその例外にあたるので問題はない。
(うん、体調はよろしくないようだけど、魔力循環は落ち着いてきているわね。手足の方にも細々ながらだけど、魔力が巡り始めているわ)
リブロ王子からの回答を聞く前に、私は鑑定結果でちょっと安心してしまっていた。
「お姉様。……リブロ殿下は一体どうされてしまったのですか?」
モモが青ざめながら尋ねてくる。私はフィレン王子、リブロ王子の双方の顔を見る。説明しても大丈夫なような顔をしたので、私はモモとギーモにリブロ王子の状態を説明した。
「なるほど……、それでこの車椅子というわけですか。急に変なものを作れと言われたので何かと思ったのですが、これで納得がいきました」
酷いわね、変なものだなんて!
「スーラ、ベッドの横まで車椅子を移動させて」
「畏まりました、アンマリアお嬢様」
私の声に、スーラは車椅子をリブロ王子の横たわるベッドまで移動させた。
「リブロ殿下、自力で動く事はできますでしょうか」
「……ごめんなさい。ちょっと厳しいようです」
弱々しいながらも、言葉ははっきりしている。この声の大きさからするに、先程の返事はどうやら風魔法で声を飛ばしたようである。まだ病床の中だというのに、器用な事ができるものだ。
「それでは、殿下。少々失礼致します」
私は風魔法を使って、リブロ王子をベッドから車椅子に移動させる。ゆっくり慎重に、リブロ王子を車椅子へと座らせる。
「ふぅ。無事に移動させられたわ」
私は繊細な魔法を使い終えて、額を拭いながらひと息ついた。
「さあ、ここからが車椅子のすごいところですわよ」
私はスーラと入れ替わって、車椅子の後ろに立つ。
さあ、車椅子の売り込みを始めるわよ!
城についた私たちは、門でフィレン王子の出迎えを受ける。まさか王子自ら出てきているとは予想外だった。
「待ちくたびれたぞ。アンマリアが来ると聞いて、居ても立っても居られなかった。今回はどんな用事なんだい?」
フィレン王子、早口になってますよ。
私はそんな野暮なツッコミは声に出さず、馬車から例のものを降ろさせた。スーラとネスの二人でも降ろせるほどの軽量の車椅子である。
「……なんだいこれは?」
まあ当然という反応だろう。なにせ足置きが付いた妙な椅子が出てきたのだから。だけれども、私はそんな事にはおかまいなしに喋り始める。
「こちらは車椅子というものになります。殿下、試されてみますか?」
「うん? くるまいす?」
私の言葉に訳が分からないよという感じに首を傾げているフィレン王子。そこで私は、フィレン王子に近付いて耳打ちをする。
「リブロ殿下のために、足代わりになる道具を作ったのです。肘置きか背もたれの上部に魔石をはめて、浮かせて移動する事ができる椅子なんですよ」
「な、なんだと?!」
フィレン王子が大声を上げて驚く。目の前で驚かれたものだから、私は目を見開いて思わず仰け反ってしまう。体型のせいでこけそうになったけれど、私はなんとか耐えたわ。
「見てもらえれば早いかと思います。スーラ、背もたれに魔石を」
「畏まりました」
背もたれの後ろにある出っ張りに、魔石をはめ込むスーラ。そして、魔力を流すと椅子が地面から浮き上がったのである。
「なんと、椅子が……浮いた?!」
フィレン王子が驚いている。うんうん、実にいい反応だわ。そこへ、私は声を掛ける。
「さあ、フィレン殿下。リブロ殿下のところまでご案内頂けますか?」
「あ、ああ。分かった。ついてこい」
どこか浮ついているフィレン王子を、見事リブロ王子の元へ案内させるように仕向ける事に成功する私。心の中でガッツポーズを決めた。
私とスーラ以外は、リブロ王子の現状を知らない。きっと見たら三人とも驚愕の表情を浮かべるのだろう。この間の治療でそこそこ血色はよくなったものの、まだ食事などはうまく取れずに痩せこけているはずだからだ。正直、経過が気になる。私はいろいろと考えながら、フィレン王子の後についていった。
「リブロ、アンマリアが来たぞ」
リブロ王子の部屋の扉と叩くフィレン王子。
「そうか、……通していいよ」
声は細いようだが、まあ元気そうな声だった。この声を聞いた私はちょっと安心する。
「アンマリア以外は多分驚くだろうが、この事はまだ外部には伝えないでくれ」
フィレン王子が神妙な面持ちで言うものだから、モモたちは訳も分からず頷いていた。まぁそりゃそうでしょうね。
妙な緊張感が漂う中、リブロ王子の部屋の扉が開かれる。部屋の中に目をやると、リブロ王子はまだ体調がよろしくないようで、ベッドに横たわっていた。あの距離から声が届くあたり、声が出せるのか、声を伝えるように魔法が使えるのか、どちらにせよそれなりの回復が見られる事は間違いなかった。
だが、顔の頬はすっかりこけ落ちたままであり、その姿を見たモモとギーモはものすごく青ざめた顔で立ち尽くしていた。
「リブロ殿下、体調はいかがでしょうか」
私は、とりあえず状態を確認する。質問をしながら鑑定魔法をリブロ王子に掛けているのである。本来は人間に対して鑑定魔法を使ってはならないものとされているのだが、今回はその例外にあたるので問題はない。
(うん、体調はよろしくないようだけど、魔力循環は落ち着いてきているわね。手足の方にも細々ながらだけど、魔力が巡り始めているわ)
リブロ王子からの回答を聞く前に、私は鑑定結果でちょっと安心してしまっていた。
「お姉様。……リブロ殿下は一体どうされてしまったのですか?」
モモが青ざめながら尋ねてくる。私はフィレン王子、リブロ王子の双方の顔を見る。説明しても大丈夫なような顔をしたので、私はモモとギーモにリブロ王子の状態を説明した。
「なるほど……、それでこの車椅子というわけですか。急に変なものを作れと言われたので何かと思ったのですが、これで納得がいきました」
酷いわね、変なものだなんて!
「スーラ、ベッドの横まで車椅子を移動させて」
「畏まりました、アンマリアお嬢様」
私の声に、スーラは車椅子をリブロ王子の横たわるベッドまで移動させた。
「リブロ殿下、自力で動く事はできますでしょうか」
「……ごめんなさい。ちょっと厳しいようです」
弱々しいながらも、言葉ははっきりしている。この声の大きさからするに、先程の返事はどうやら風魔法で声を飛ばしたようである。まだ病床の中だというのに、器用な事ができるものだ。
「それでは、殿下。少々失礼致します」
私は風魔法を使って、リブロ王子をベッドから車椅子に移動させる。ゆっくり慎重に、リブロ王子を車椅子へと座らせる。
「ふぅ。無事に移動させられたわ」
私は繊細な魔法を使い終えて、額を拭いながらひと息ついた。
「さあ、ここからが車椅子のすごいところですわよ」
私はスーラと入れ替わって、車椅子の後ろに立つ。
さあ、車椅子の売り込みを始めるわよ!
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