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第三章 学園編
第105話 気遣いは無用なんですよ
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そういうわけで、フィレン王子の誕生日パーティーの翌々日までエスカ王女はサーロイン王国に滞在する事になった。その間の寝泊まりはなんと私の家だ。ついでに学園も見学していくらしいので、正直私は気が気ではなかった。こんなのストレスで胃がマッハだわ。御覧なさいよ。モモなんて王族を家に迎えるなんて聞いて顔面蒼白じゃないのよ。この分じゃリブロ王子の時にもまた来そうだわ。やり込んでいるなら知ってそうだからね。
いろいろ思うところはあるものの、私たちは城から戻ってくる。私は不機嫌、モモは緊張で固まり、エスカは城じゃない事を不本意に思いつつもにこにことした笑顔を見せている。
「アンマリアってば、なんでそんな顔をしているのかしら」
「なんでって言われましてもね。一貴族の邸宅に王族を泊めるという事自体に怒っていますのよ。責任を押し付けられたと申しますか……。あの分では、お城はアーサリー殿下だけで相当に手を焼いているのでしょうね」
エスカの質問に、ものすごく刺々しく答える私。転生者同士で話ができるのはいいのだけれど、何かあった時の責任を当家に押し付けられた感じしかなかったからだ。つまり、怒りの矛先はサーロイン王家である。不敬になるから言わないけれど。
そんな感じで、不穏な空気が漂う中、私たちは屋敷へと戻ったのだった。
屋敷に戻ると、玄関の前に使用人たちがずらっと並んでいた。私は何事かと思ったけれど、そっかエスカが居るからかとすぐに納得した。城から使いを出していたので、家にはすでに連絡が行っていたのである。
それにしても、使用人の人数が少し足りないわね。多分、エスカの部屋を大慌てで用意しているんだわ。
私の家は伯爵位とはいっても、父親が大臣を務めているので、思ったよりも屋敷が大きいのだ。領地もそこそこ安定した収入があるし、今では商会との取引による収入だってある。下手をすると侯爵に匹敵する可能性だってある家なのだ。
馬車が玄関の前に着いて、私たちは馬車から降りていく。すると、使用人たちが一斉に頭を下げてきた。
「ようこそおいで下さいました、エスカ・ミール王女殿下」
まぁそうなるわよねぇ……。王族を目の前にしてしまえば、自分たちが仕える家族ですらもその他大勢になってしまうのだ。私は分かっていたからあえて何も突っ込まない。モモもそれは承知のようである。
「アンマリアお嬢様、モモお嬢様もお帰りなさいませ」
あっ、遅れながらも出迎えの挨拶をしてくれたわね。
「お出迎えご苦労様です。エスカ王女殿下の事は私に任せて、みなさんは持ち場に戻って下さい」
「しっ、しかし……」
「個人的にお話がありますので、私にお任せ下さいませ」
食い下がろうとする使用人たちに、私は笑顔で圧を掛ける。その気迫に使用人たちは押されてしまい、「承知致しました」と言って渋々家の中に入っていった。
「ああ、そうだ。用意したお部屋までの案内は頼みますわね」
一応使用人一人だけを引き留めておく。そうよ、どこの部屋を用意したのか知らないんだから、案内させなきゃね。思わず私はやらかしてしまうところだった。
しかし、案内された部屋を見て、私はびっくりした。
(隣の部屋かいっ!)
そう、私の隣の部屋だったのだ。まあ、私とエスカとの間には文通するような間柄がある事は知られていたし、個人的に贈り物だって届いている。だったら隣の部屋に配置するのは、実に自然な流れなのである。モモですら部屋が離れているのに、どうしてこうなった。
「あははは……、どうやら隣の部屋のようですわね」
案内された部屋を目の前にして、私はエスカに対して苦笑いで語り掛ける。それに対して、エスカも笑顔を向けてくるのだけれども、うん、目が怖いわね。後でお説教かしら。
部屋に着いたので、私はここまで案内してくれた侍女を別の仕事に向かわせ、スーラだけを連れてその部屋の中へと入っていく。部屋の中は大慌てで片付けたのがよく分かるくらいに殺風景だった。ベッドには布団がないし、装飾品だって何もない。一時的な滞在ならこれでもいいのだけれども、さすがに王族を迎えてだというのにこれではなんともといったところだ。テーブルや椅子はさすがに伯爵家らしくそこそこの飾りのついた高級品なのだけれども、ベッドの布団がないのは何ともいただけない感じである。
「あの侍女よりお聞きしたところ、この後、食事の間に用意するとの事です。急な話でしたので、仕方ないと思われます」
「まあそうね。埃やクモの巣が見当たらないだけマシとしなきゃね」
スーラの弁解に私は頷く。
「そうだ、エスカ王女殿下の使用人たちは? 護衛とかたくさん居たと思うんだけれど」
「みなさんでしたらお城に滞在してらっしゃいますよ。お兄様の監視という名目でですけれど」
「ああ、そうなんだ……」
どうやら、向こうの王様にとってもアーサリー王子は悩みの種のようである。エスカに同行させていた騎士に兵士や使用人はほぼすべて、最初からアーサリーの監視に当たる予定だったようだ。エスカについて来たのは侍女が二人だけである。その二人は今、他の使用人たちと一緒に仕事している。エスカがそのように仕向けたからだ。
そういう状況なので、私たちはスーラが居るとはいえども、久しぶりに直に話をする事になったのだった。
いろいろ思うところはあるものの、私たちは城から戻ってくる。私は不機嫌、モモは緊張で固まり、エスカは城じゃない事を不本意に思いつつもにこにことした笑顔を見せている。
「アンマリアってば、なんでそんな顔をしているのかしら」
「なんでって言われましてもね。一貴族の邸宅に王族を泊めるという事自体に怒っていますのよ。責任を押し付けられたと申しますか……。あの分では、お城はアーサリー殿下だけで相当に手を焼いているのでしょうね」
エスカの質問に、ものすごく刺々しく答える私。転生者同士で話ができるのはいいのだけれど、何かあった時の責任を当家に押し付けられた感じしかなかったからだ。つまり、怒りの矛先はサーロイン王家である。不敬になるから言わないけれど。
そんな感じで、不穏な空気が漂う中、私たちは屋敷へと戻ったのだった。
屋敷に戻ると、玄関の前に使用人たちがずらっと並んでいた。私は何事かと思ったけれど、そっかエスカが居るからかとすぐに納得した。城から使いを出していたので、家にはすでに連絡が行っていたのである。
それにしても、使用人の人数が少し足りないわね。多分、エスカの部屋を大慌てで用意しているんだわ。
私の家は伯爵位とはいっても、父親が大臣を務めているので、思ったよりも屋敷が大きいのだ。領地もそこそこ安定した収入があるし、今では商会との取引による収入だってある。下手をすると侯爵に匹敵する可能性だってある家なのだ。
馬車が玄関の前に着いて、私たちは馬車から降りていく。すると、使用人たちが一斉に頭を下げてきた。
「ようこそおいで下さいました、エスカ・ミール王女殿下」
まぁそうなるわよねぇ……。王族を目の前にしてしまえば、自分たちが仕える家族ですらもその他大勢になってしまうのだ。私は分かっていたからあえて何も突っ込まない。モモもそれは承知のようである。
「アンマリアお嬢様、モモお嬢様もお帰りなさいませ」
あっ、遅れながらも出迎えの挨拶をしてくれたわね。
「お出迎えご苦労様です。エスカ王女殿下の事は私に任せて、みなさんは持ち場に戻って下さい」
「しっ、しかし……」
「個人的にお話がありますので、私にお任せ下さいませ」
食い下がろうとする使用人たちに、私は笑顔で圧を掛ける。その気迫に使用人たちは押されてしまい、「承知致しました」と言って渋々家の中に入っていった。
「ああ、そうだ。用意したお部屋までの案内は頼みますわね」
一応使用人一人だけを引き留めておく。そうよ、どこの部屋を用意したのか知らないんだから、案内させなきゃね。思わず私はやらかしてしまうところだった。
しかし、案内された部屋を見て、私はびっくりした。
(隣の部屋かいっ!)
そう、私の隣の部屋だったのだ。まあ、私とエスカとの間には文通するような間柄がある事は知られていたし、個人的に贈り物だって届いている。だったら隣の部屋に配置するのは、実に自然な流れなのである。モモですら部屋が離れているのに、どうしてこうなった。
「あははは……、どうやら隣の部屋のようですわね」
案内された部屋を目の前にして、私はエスカに対して苦笑いで語り掛ける。それに対して、エスカも笑顔を向けてくるのだけれども、うん、目が怖いわね。後でお説教かしら。
部屋に着いたので、私はここまで案内してくれた侍女を別の仕事に向かわせ、スーラだけを連れてその部屋の中へと入っていく。部屋の中は大慌てで片付けたのがよく分かるくらいに殺風景だった。ベッドには布団がないし、装飾品だって何もない。一時的な滞在ならこれでもいいのだけれども、さすがに王族を迎えてだというのにこれではなんともといったところだ。テーブルや椅子はさすがに伯爵家らしくそこそこの飾りのついた高級品なのだけれども、ベッドの布団がないのは何ともいただけない感じである。
「あの侍女よりお聞きしたところ、この後、食事の間に用意するとの事です。急な話でしたので、仕方ないと思われます」
「まあそうね。埃やクモの巣が見当たらないだけマシとしなきゃね」
スーラの弁解に私は頷く。
「そうだ、エスカ王女殿下の使用人たちは? 護衛とかたくさん居たと思うんだけれど」
「みなさんでしたらお城に滞在してらっしゃいますよ。お兄様の監視という名目でですけれど」
「ああ、そうなんだ……」
どうやら、向こうの王様にとってもアーサリー王子は悩みの種のようである。エスカに同行させていた騎士に兵士や使用人はほぼすべて、最初からアーサリーの監視に当たる予定だったようだ。エスカについて来たのは侍女が二人だけである。その二人は今、他の使用人たちと一緒に仕事している。エスカがそのように仕向けたからだ。
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