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第三章 学園編

第104話 問題児王女がやって来た

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 さてさて、フィレン王子の誕生日まで一週間を切ったある日の事、私とモモが揃って城へと呼び出された。まったく、なんでこうも頻繁に城に呼び出されるのよ。私は文句の一つも言いたいものである。
 しかし、城に出向いた中でちらっと目に入った馬車に、私は目を丸くした。見覚えのある紋章の入った馬車が止まっていたのである。
(げえ、あれはお隣のミール王国の紋章。って事はエスカが到着してるのね!)
 心の中とはいえ、令嬢にあるまじき声を出してしまったわ。
 紋章以外にもミール王国の馬車には特徴的な点がある。それが馬車本体に使われている濃紺。青系統をよく使っているのがミール王国の最大の特徴なのだ。まあ、海が近いし、元々が海賊っていうのもあるのだろう。なので、青色は守り神と言わんばかりに王族の衣装にもふんだんに使われているである。
 というわけで、私は完全に呼ばれた用件を察してしまった。モモは隣で首を傾げていたのだが、それをなんとも思えないくらいに私は頭を痛くした。
 そうそう、モモの行動を見張っていたけれど、特に怪しい言動は見られなかった。私の直感は杞憂だったようよ。まあ、もし変な事を企んでいたとしても、可愛い妹だから一生懸命諭すけれどね。とにかく、頭痛案件が増えなくてよかったわ。
 私たちが城に到着すると、門番にしばらく止められていたわけだけれども、しばらくすると案内役の兵士がやって来て、彼について城の中へと入っていく。案内された先は謁見の間だった。
「ファッティ伯爵令嬢アンマリア様とモモ様をお連れしました」
 案内役の兵士がこう叫ぶと、謁見の間の扉の両脇に立っていた兵士が扉を開けてくれた。
「ささっ、お入り下さい」
 案内役の兵士が脇へと退いて、私とモモは謁見の間の中へと踏み入れていった。
 中へと入った私たちの前には、国王、王妃、フィレン王子、リブロ王子、それとミール王国のアーサリー王子、エスカ王女と、王族がこれでもかと勢ぞろいしていた。よく見ると宰相も居るし、大臣を務める父親も立っていた。ものすごい光景である。
 それにしても、リブロ王子もよく頑張って姿を見せたものだわ。最近は魔力循環もだいぶ回復してきてある程度動けるようになったとは聞いていたけれど、それでも車椅子姿だから足はまだうまく力が入らないようだった。
 中央ほどまで進んだところで私とモモは足を止め、国王たちを目の前にカーテシーをする。
「よく来てくれたな、アンマリア、モモ」
 それを見届けて、国王が言葉を掛けてくる。
「はい、陛下からお呼びたてがございましたら、駆けつけるのが臣民というものでございます」
 国王の言葉に対して、私はそのように返す。まぁ、無理な時は無理だけどね。いつでも駆けつけられるのは瞬間移動テレポートを持つ私くらいのものよ。
「ふふっ、実に頼もしい限りよな、アンマリア」
 国王はそう言って、にこにこと笑っている。その笑顔が地味に怖いんだけど?!
「時にアンマリアよ。今日呼びたてたのは他でもない。このエスカ王女の事をそなたに頼もうと思ってな。引き受けてくれるか?」
 特大の爆弾をいきなり放り込んでくる国王。なんで私が隣国の王女の面倒を見なければいけないのよ。
 文句のある私がエスカの方に視線を送ると、にこにことこの上ない笑顔を向けてくるエスカの姿があった。これを見て私はすぐに分かった。これはエスカのわがままだと。
 私たちの間にはゲーム中ではまったく接点がないどころか、隣国ミール王国に対してほぼ言及がない。王族にいたっては誰も語られない。しかし、今この場に居る私とエスカの共通点はある。
 それは他でもない、異世界からの転生者という事だ。国王とフィレン王子の二人はこれを知っている。そのためにこんな事を私に命じてきたのだろう。
 はっきり言って断りたい。しかし、エスカからは希望の眼差しを向けられているし、さすがに来年からの留学中もこうなる事はない、今回限りの事だろうとして私はやむなく引き受ける事にした。国賓を伯爵邸に泊まらせるなど前代未聞ではあるものの、私の手元に置いておいた方が今回ばかりはいいだろうという最終的な判断である。だって、すでにやらかしてるんですもの。
「そうか、引き受けてくれるか。それでは頼んだぞ、アンマリア」
 国王の物言いが、ものすごく厄介払いをしたような声の調子で放たれる。うん、間違いなく厄介払いだ。アーサリー王子だけで手一杯なのだろう。これは留学の際にもうちに押し付けられる可能性が高まってきた。なので、
「今回はフィレン殿下の誕生パーティー前後の約10日間ですので、お引き受けするだけです。さすがに留学をなされた場合は、王族なのですからお城で預かって頂きたく存じ上げます」
 はっきりと今回だけという条件を叩きつけておいた。魔石剣の製造を禁止したお返しよ。というか、それが当然ですしね。伯爵家に無理を押し付けないで頂きたい。
 私がこの上なくはっきりと言い返した事に、国王がしばらく唸っていたのだけれど、最終的にはその条件で押し通す事ができた。
 まあそんなこんながあって、エスカは今回のパーティーの前後は私の家で寝泊まりする事が決まったのだった。ごめんなさいね、お母様。喜びの表情を浮かべるエスカのを尻目に、私は母親に心の中で謝っておいた。
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