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第三章 学園編
第127話 懐かしのファッティ伯爵領
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「さあ、目を開けても大丈夫よ、モモ」
モモがゆっくり目を開けると、そこに広がっていたの景色は、王都の伯爵邸ではなかった。
「ようこそ、モモ。ここがファッティ伯爵領の本邸よ」
私は両手を広げて笑顔でモモに紹介する。その景色に、感嘆の表情を浮かべているモモ。言葉が出ないようだった。
瞬間移動してきた私たちが庭で佇んでいると、どこからともなく私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。
「アンマリアお嬢様! 本当に来られたのですか?」
「あら、ツラミじゃありませんの。お久しぶりですね」
やって来たのはファッティ本邸の庭師であるツラミである。広い庭を一人で見ているせいか、私とは対照的に頬がこけ落ちていて心配になる痩せ具合をしている。
「相変らず痩せこけていますね。ちゃんと食べていますの?」
「申し訳ございません。私、食が細くてあまり食べ物を受け付けないのですよ」
おう、まさかの小食だった。なんかの病気じゃないわよね? 心配になる私だけれども、ツラミは笑っていた。
「私の事はいいのですよ。楽しくやっているのですから」
ツラミはそう言うと、私たちに跪いた。
「ようこそお戻り下さいました、アンマリアお嬢様」
「私が分かっただけでもすごいですわね。これだけ面影ないくらいに太りましたのに」
「さすがにお嬢様の事は分かりますよ。それはそうと、そちらのご令嬢は一体どちら様でしょう?」
私を見た後に隣に立つモモを見て、ツラミは首を傾げていた。まあ初めて見るのだから仕方がない話だ。
「もう5年も昔の事なので、話だけはご存じだと思いますけれど、この子がその時引き取ったモモ・ハーツ元子爵令嬢です。今は養子に迎え入れましたので、私の義妹で通っておりますわ」
私が紹介すると、モモはぺこりとお辞儀だけしていた。まあ、相手はただの使用人ですからね。
「とりあえず、領主代理をしている叔父様に会わせてもらえるかしら」
「畏まりました。ですが、私は庭師としての仕事が残っておりますので、玄関までで失礼致します」
「分かりました。では、それでお願いします」
私とモモは荷物の入った大きなカバンを提げて、ツラミに連れられて領主邸の玄関までやって来た。
「すまない。昨日ついた早馬の通り、アンマリアお嬢様がお戻りになられた。誰か来ておくれ」
ツラミが玄関を叩くと、ギギギと扉が開いて中から立派な執事服を着た男性が出てきた。
「あら、ランプじゃありませんの。お久しぶりですね」
「これはこれはアンマリアお嬢様、よくお戻りになられました。そちらは、お手紙にありましたモモお嬢様でございますね」
ランプと呼んだ初老の男性は、モモに目を向けると名前を呼んで頭を下げている。さすがは伯爵家の執事だ。できる。
「デバラおじ様はいらっしゃるかしら?」
「はい、執務室にいらっしゃいます。お嬢様がお戻りになられたと聞けば、きっとお喜びになります」
私が尋ねると、すぐさま返答があった。本当にこの執事は優秀だ。
「では、案内をお願いします。モモも紹介しないといけませんからね」
「畏まりました。それではご案内致します」
くるりとランプが振り向いて、私たちの案内を始める。
最後に見たのは本当に何年前かしらね、この屋敷。それでも、記憶が徐々に蘇ってくるくらいには覚えているものだった。
2階に上がり、ランプについていって通された部屋。そこは確かに、領主の執務室だった。扉の前に立ったランプは、扉を軽く3度ノックする。
「うん、誰だ?」
部屋の中から中年男性の声がする。
「ランプでございます。アンマリアお嬢様がご到着されたので、お連れ致しました」
「そうか、もうそんな時間なのか。通しなさい」
「はっ、失礼致します」
扉を開けて、私たちは中に入る。そこの執務室に座っている男性は、私の父親ゼニークとよく似ている男性だった。彼こそは父親ゼニークの兄であるデバラ・ファッティ男爵だ。
ファッティ家は伯爵家である。しかし、家督を継いだのは次男であるゼニークだった。国の要職に就くくらい優秀だったのだ。ただ、優秀という点であるなら、長男デバラも負けてはいない。なにせ、国政で忙しい弟に代わってファッティ伯爵領を切り盛りしているのだから。そういう事もあり、家督を継げなかったデバラにせめてものという事で、男爵位を与えて領地経営に携わらせているわけなのである。
「お久しゅうございますわ、デバラおじ様」
「おお、アンマリアか。弟から手紙で聞かされていたが、そのまあ、なんだ、立派に育ったな……」
「おじ様、私の事は遠慮なく言って頂いて構いませんのよ。私も分かっていますもの」
私がにっこりそう言えば、デバラはものすごく冷や汗をかいていた。姪とはいっても貴族の女性だ。そういった気遣いをするのは貴族として当然のものなのだから、そりゃ困るというものである。
さてさて、ものすごく久しぶりのおじとの再会は、私の先制パンチがよく効いたようでなかなか愉快なものになりそうだった。
これから学園の夏合宿が始まるまでの4日間、きっちり領地経営の状況を見極めてあげようじゃないの。私は俄然やる気を出していたのだった。
モモがゆっくり目を開けると、そこに広がっていたの景色は、王都の伯爵邸ではなかった。
「ようこそ、モモ。ここがファッティ伯爵領の本邸よ」
私は両手を広げて笑顔でモモに紹介する。その景色に、感嘆の表情を浮かべているモモ。言葉が出ないようだった。
瞬間移動してきた私たちが庭で佇んでいると、どこからともなく私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。
「アンマリアお嬢様! 本当に来られたのですか?」
「あら、ツラミじゃありませんの。お久しぶりですね」
やって来たのはファッティ本邸の庭師であるツラミである。広い庭を一人で見ているせいか、私とは対照的に頬がこけ落ちていて心配になる痩せ具合をしている。
「相変らず痩せこけていますね。ちゃんと食べていますの?」
「申し訳ございません。私、食が細くてあまり食べ物を受け付けないのですよ」
おう、まさかの小食だった。なんかの病気じゃないわよね? 心配になる私だけれども、ツラミは笑っていた。
「私の事はいいのですよ。楽しくやっているのですから」
ツラミはそう言うと、私たちに跪いた。
「ようこそお戻り下さいました、アンマリアお嬢様」
「私が分かっただけでもすごいですわね。これだけ面影ないくらいに太りましたのに」
「さすがにお嬢様の事は分かりますよ。それはそうと、そちらのご令嬢は一体どちら様でしょう?」
私を見た後に隣に立つモモを見て、ツラミは首を傾げていた。まあ初めて見るのだから仕方がない話だ。
「もう5年も昔の事なので、話だけはご存じだと思いますけれど、この子がその時引き取ったモモ・ハーツ元子爵令嬢です。今は養子に迎え入れましたので、私の義妹で通っておりますわ」
私が紹介すると、モモはぺこりとお辞儀だけしていた。まあ、相手はただの使用人ですからね。
「とりあえず、領主代理をしている叔父様に会わせてもらえるかしら」
「畏まりました。ですが、私は庭師としての仕事が残っておりますので、玄関までで失礼致します」
「分かりました。では、それでお願いします」
私とモモは荷物の入った大きなカバンを提げて、ツラミに連れられて領主邸の玄関までやって来た。
「すまない。昨日ついた早馬の通り、アンマリアお嬢様がお戻りになられた。誰か来ておくれ」
ツラミが玄関を叩くと、ギギギと扉が開いて中から立派な執事服を着た男性が出てきた。
「あら、ランプじゃありませんの。お久しぶりですね」
「これはこれはアンマリアお嬢様、よくお戻りになられました。そちらは、お手紙にありましたモモお嬢様でございますね」
ランプと呼んだ初老の男性は、モモに目を向けると名前を呼んで頭を下げている。さすがは伯爵家の執事だ。できる。
「デバラおじ様はいらっしゃるかしら?」
「はい、執務室にいらっしゃいます。お嬢様がお戻りになられたと聞けば、きっとお喜びになります」
私が尋ねると、すぐさま返答があった。本当にこの執事は優秀だ。
「では、案内をお願いします。モモも紹介しないといけませんからね」
「畏まりました。それではご案内致します」
くるりとランプが振り向いて、私たちの案内を始める。
最後に見たのは本当に何年前かしらね、この屋敷。それでも、記憶が徐々に蘇ってくるくらいには覚えているものだった。
2階に上がり、ランプについていって通された部屋。そこは確かに、領主の執務室だった。扉の前に立ったランプは、扉を軽く3度ノックする。
「うん、誰だ?」
部屋の中から中年男性の声がする。
「ランプでございます。アンマリアお嬢様がご到着されたので、お連れ致しました」
「そうか、もうそんな時間なのか。通しなさい」
「はっ、失礼致します」
扉を開けて、私たちは中に入る。そこの執務室に座っている男性は、私の父親ゼニークとよく似ている男性だった。彼こそは父親ゼニークの兄であるデバラ・ファッティ男爵だ。
ファッティ家は伯爵家である。しかし、家督を継いだのは次男であるゼニークだった。国の要職に就くくらい優秀だったのだ。ただ、優秀という点であるなら、長男デバラも負けてはいない。なにせ、国政で忙しい弟に代わってファッティ伯爵領を切り盛りしているのだから。そういう事もあり、家督を継げなかったデバラにせめてものという事で、男爵位を与えて領地経営に携わらせているわけなのである。
「お久しゅうございますわ、デバラおじ様」
「おお、アンマリアか。弟から手紙で聞かされていたが、そのまあ、なんだ、立派に育ったな……」
「おじ様、私の事は遠慮なく言って頂いて構いませんのよ。私も分かっていますもの」
私がにっこりそう言えば、デバラはものすごく冷や汗をかいていた。姪とはいっても貴族の女性だ。そういった気遣いをするのは貴族として当然のものなのだから、そりゃ困るというものである。
さてさて、ものすごく久しぶりのおじとの再会は、私の先制パンチがよく効いたようでなかなか愉快なものになりそうだった。
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