伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

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第三章 学園編

第142話 急展開は割と起きるのね

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 魔力の渦を消し去った私は、サキたち攻略対象とライバル令嬢たちの戦いっぷりを観察していた。エスカという(年齢的な)イレギュラーこそ居るものの、一応ゲーム再現である。
 武術型と魔法型とでうまく連携を取っていて、曲がりなりにも主要キャラクターたちなんだなという事を再認識させられる。
「あはははははっ! この剣すごいわ。斬れ味が全然違う!」
 その中でも笑いながら魔物をばっさばっさと斬り倒しているサクラがもの凄く目立ってるんだけどね。これが脳筋ゆえの戦い方か……。思わず表情が歪んじゃうわね。よく見ると、使ってるのは私が誕生日にあげた魔石剣じゃないの。あれ持ってきてたんだ。
 フィレン王子も剣と魔法をうまく使い分けながら魔物を倒しているし、残り令嬢たちはエスカを中心にして前衛を支援してるわね。
 それにしても、前衛はフィレン王子とサクラ、それとタンの三人か。ちょっと心もとないかしらね。
「お前たち、殿下とお嬢様をお助けするのだ!」
「おおーっ!」
 おっと、ここでバッサーシ辺境伯の私兵と国境警備隊が乱入か。これでだいぶ戦えるようになるかしらね。100体ほどの魔物が押し寄せてるけど、これなら対処できるかしら。
「ぎょぎょーっ!」
 っと、のんびり見て場合じゃないか。私の方にも漏れた魔物がやって来たわね。
「まったく、この程度なんてぬるいわね」
 私は座り込んだまま、襲ってきた魔物を風魔法で一刀両断にする。まったく、不意打ちにも強襲にもなりゃしないわ。こんな簡単に倒されているようではね。
 それにしても、ゲームはよくもこんな場面をスチル1枚で済ませたわね。いくらヒロインが出てこないからといってもありえないわ。アンマリアが戦ってるシーンは、あれだけ鬼のような連戦をしてたのに。これがメインと脇役の扱いの差なのね。
 ある程度魔物を倒したところで、一気に突然魔物が退いていく。その様子にフィレン王子たちは驚いて棒立ちなる。
「魔物が退いていくぞ」
「俺たちは勝ったんだ!」
 モブである兵士たちが叫び始める。その声に安堵が広がっていくのだが、その様子に違和感を持つ者たちが居た。
(おかしいわね。魔物が全滅するまでの戦いになるはずなのに、なぜここで退いたの?)
 まずは当然ながら私。このスタンピードの結末はどちらでもと書かれていたんだもの。取り逃がすなんて事はあり得ない。
 私がこう違和感を持つのであるなら、当然ながら同じような転生者であるエスカも違和感を持っているはず。そこで私がその様子を見てみると、やっぱり表情は険しいままだ。
 あとはフィレン王子とサクラの二人ね。フィレン王子は多分王子としての責任感からだろうけど、サクラが険しい表情のままなのは領地でそれなりにスタンピードを経験しているからだろう。
「まだです。!」
 サクラが叫ぶ。この声に楽観的な反応を示すのは、国境警備に派遣された兵士たちだ。よく見れば、バッサーシ辺境伯の私兵たちの表情もまだ鋭い眼光を湛えたままだった。
 それにしても、魔物が一気に退いていった事は事実。一体この後に何が待っているというの?
 その疑問はすぐに解消された。
 退いたと思った魔物たちがひとところに集まって止まったのだ。
 何をするのかと思えば、一斉に雄たけびを上げ始めた。すると、その場に黒い魔力の渦が発生して魔物を飲み込んでいっている。一体何が起きているというの?!
 次の瞬間、魔物をすべて飲み込んだ魔力の渦は、急激に収縮していく。そして、縮み切ったかと思うと思い切り弾け飛んだのだ。
「な、なんだあれはっ!?」
 兵士たちが声を上げる。驚くのも無理はないと思う。どす黒い魔力が足元から何かを形作っていっているのだもの。兵士たちが怯えながら見上げるそこには、今まで見た事のないくらい巨大な魔物が姿を現した。
「ギガンテス……」
 冷や汗を流しながら、エスカが驚愕の表情を浮かべながら呟く。
「ギガンテスですって?!」
 その名前に反応して叫んだのは意外にもサクラだった。だけども、それだけじゃない。バッサーシ辺境伯の私兵たちもその名前に驚いて動揺し始めていた。
(ギガンテス? 何かゲームに出てきたモンスターだった気がするけれど、この世界にも居たのね)
「一体そのギガンテスとは?」
「バッサーシ領に伝わる伝説の巨人です。一説にはこのクッケン湖ができた原因と言われています」
 フィレン王子の質問に答えるサクラ。湖を作り上げた巨人って……。
 それにしても、このギガンテスはかなり大きい。鼻で笑いかけた話だけど、よくよく見てみたら納得のできる大きさだった。
 というか、この巨体、どう見てもゲームの序盤で出てくる様な敵じゃないでしょ?! こんなのってRPG系のゲームだったら、負け確定のイベント戦闘みたいなものじゃないの。でも、ここは現実なんだから、そういう事はないはずよね? これはかなり危険ではと私は感じていた。その場に居る全員の視線が、ギガンテスに釘付けである。
「グルアアアァァァァッ!!」
 そんな時、突如としてギガンテスの咆哮がこだましたのだった。
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