伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
143 / 500
第三章 学園編

第143話 ギガンテス

しおりを挟む
 クッケン湖におぞましいまでの雄たけびがこだまする。伝説級の魔物である巨人ギガンテス。そんな魔物が出てくるなんて、誰の頭にも予想できなかった。いえ、できた方がおかしい話よ。
 ギガンテスが一歩歩くだけでものすごい衝撃が辺りに広がる。鍛え方の足りない兵士たちは、これだけで立っている事ができなくなっているみたいだった。
 さすがの私も、この状況には焦るばかりだ。ケルピーなんてものは比較にもならない化け物が目の前に居るのだから。
(まったく、あんな化け物どうやって相手すればいいのよ……)
 私が困惑する中、エスカは違う反応を示していた。
「まったく、ギガンテスなんてエピローグで文字しか出てこなかった相手じゃないのよ。こんなところで戦えるなんて、わくわくするわね!」
 エスカの言葉で私は思い出した。
 確かに、ゲームではエピローグだったかに出てきた魔物だ。しかも名前だけ。実は、サクラとの百合エンドのエピローグで倒した相手なのだ。というわけで、当然ながら戦い方とか分かるわけがないのである。
 まったく、そんな相手を前に、どうしてそんなに楽しそうにしているのかしら。あなた隣国のお姫様でしょうが。
「アンマリア! 私と二人であいつを抑え込みますわよ!」
 エスカが叫ぶ。その声に私は仕方ないなと腹を括る。
 立ち上がってエスカたちの所まで走っていく私。だが、それと同時にギガンテスが動き出した。
「やっば、これ、私がタゲ取ってるわ……」
 そう、急に走り出した豚のような体は、ギガンテスの視界に思いっきり入り込んでしまったのだ。「動くもの=獲物」という肉食獣のような思考回路を持っているのか、ギガンテスは私に狙いを定めたのだ。
「やっぱり、アンマリアに目標を定めましたわね。隙が大ありでしてよ!」
 エスカの両手がバチバチと火花を散らしている。雷魔法を使う気のようだ。しかし、エスカは雷は適正外の魔法のはず。どうやって雷を起こしているのだろうか。
「スパークリングダークネス!」
 日本語に訳すと『火花散らす闇』といったところだろうか。どうやら、闇魔法を擦り合わせる事で、その摩擦によって雷っぽいものを起こしていたようである。そういう発想ができるあたり、転生者って感じね。だったら、私だって負けてられないわね。こっちは8属性全部使えるんですから!
「アイスウォール!」
 走って近付いてくるギガンテスの目の前に、巨大な氷壁を出現させる私。回復しきっていないとはいえども、できる限り大きくて頑丈な氷壁を出現させたのだ。
「ウガッ?!」
 化け物は急には止まれない。
 私の目論見通り、ギガンテスは氷壁に思いっきりぶつかっていた。特に顔を強打したのか、顔面を押さえて震えている。しかし、すぐに再び私に対して突撃しようとするギガンテスだったが、そこへエスカの放った闇魔法が直撃した。
「よしっ、直撃よ!」
 雷をまとった闇魔法が炸裂して、バリバリとギガンテスの全身へと衝撃が巡っていく。ところがどっこい、そう簡単にやられるようなギガンテスではなかった。耐えているのである。さすがは伝説の魔物といったところか。
「あちゃー……、やっぱり効き目が薄いわね。こんな事ならもっと魔法の鍛錬しとくべきだったわ……」
 痺れたかと思ったが、すぐにまともに動き出したのであまり効いていないようだ。
 ギガンテスはエスカたちの方に顔を向けて、けたたましい咆哮を上げる。空気がびりびりと振動して、エスカたちは動きを封じられてしまう。そこを狙いすますかのように、ギガンテスが大きく振りかぶって攻撃を仕掛けようとしている。
「まずいわね……」
 私は正直焦っている。あの攻撃を繰り出されたら、直撃ならぺしゃんこ。そうでなくても抉れた地面が破片となって襲い掛かる。しかし、振り下ろされるまでは一瞬だ。迷っている暇なんてなかった。
「プロテクションスフィア!」
 光属性の防護壁をギガンテスを弾き飛ばすように展開する。
「ウゴァ?!」
 急な防護壁の展開に、ギガンテスは足を取られてバランスを崩す。どうにか耐えようとするギガンテスだったが、バランスを崩し切ってしまい、そのままクッケン湖へと倒れ込んでしまった。
 バシャーンと大きな水しぶきを上げて、ギガンテスは湖に転落する。これで倒せればいいのだろうけれど、やっぱりそうは甘くはなかった。ギガンテスが立ち上がり、私を睨み付けてきた。あまりの形相に、さすがの私もひぇっと震えてしまう。
(怖いわ。でも、ここで倒さなければ被害が広がってしまう!)
 私は、先程ギガンテスが巻き上げた塩湖の水にまみれてしまっているので、この状態では雷魔法が使えなかった。一体どうしたらいいのだろうか。私は一生懸命考える。
 だが、その間にも、ギガンテスが塩湖の湖底に足を取られながらも私に近付いてくる。それはまるで、死へのカウントダウンのようなものだった。
 エスカたちも雄たけびで動きが取れない状態。まさかここに来ての絶体絶命のピンチ。私たちは無事に生き残れるのかしら……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...