伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

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第三章 学園編

第144話 死力を尽くして

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 ギガンテスが私に勢いよく迫ってくる。そして、その拳を大きく振り上げる。
(あっ、これ死んだわ)
 意外とあっさりとした感想しか出てこない。諦めがつくと思考回路が単純になるのね。
(っていやいや、何を諦めてるのよ、私!)
 ギリッと私は歯を食いしばる。こんなところで死んでたまるもんですか。モモなんて発狂しそうだし、両親だって悲しむわ。
 気持ちを落ち着けた私は、魔力で自分の体を覆う。こうなったら、サキの覚醒イベント、それに賭けるしかないわね!
 覚悟を決めた私は、防御魔法を掛けるだけ掛けて、ギガンテスの攻撃に耐える事にした。追い詰められた子豚令嬢の根性を甘く見ないでちょうだい!
 アンマリアに向けてギガンテスの拳が振り下ろされる。それが直撃する様子を見て、エスカやサキたちの表情が固まってしまった。
「うそですわ、アンマリア……様?」
「お姉様ーっ!」
 ラムとモモが叫ぶ。
「バーニングサークル!」
 それと同時にモモは魔法を使っていた。さすが火属性を得意とするモモ。扱える火の魔法のランクが上がってるわね。
 ……でもね、ギガンテスの拳の下には私が居るのよ。頼むから、もうちょっと上に放ってくれなかったかしらね、防御壁を張ってるとはいっても熱いのよ。
「グオアァッ!!」
 あまりの熱さに耐えきれなかったのか、ギガンテスは腕を思いっきり上空に持ちあげ振り回している。それでも火は簡単に消えず、ギガンテスは仕方なくクッケン湖に腕を突っ込み、それでようやく鎮火したのだった。
「グルゥ……」
 獣のように唸り声しか上げられないギガンテスだが、表情を加味してみると、ものすごく怒っているようだった。その視線は火の魔法を使ったモモへと注がれている。
 モモたちが危険なのは分かっているけれど、今の私は死んだふりの真っ只中。助けに行けないのはつらいものね。サキが覚醒できなかったら、その時は助けましょう。歯がゆい思いをする中、私は地中に半分地面に植わりながら戦況を見守っていた。
 それにしても、フィレン王子たちはギガンテスの咆哮による痺れからまだ回復できていない。危機的状況なのには変わりがなかった。
 ギガンテスはエスカやモモたちの居る場所に向かい始める。あの巨体を前にしては、その中には絶望感が漂い始めてしまうものの、一人だけ諦めてはいなかった。
「アンマリアを無駄死にさせるわけにはいかないわ!」
 エスカが叫んでいる。いや勝手に殺さないでよ。死んだと思われるのは仕方ないけど、はっきり言わないでちょうだい。
 そう叫ぶエスカの手元が青く光り始める。
「凝固点降下ってご存じかしら。塩分などを含むと、そのせいで通常の温度では水は凍らなくなるのよ」
 エスカの言葉に、サキやモモたちは首を傾げている。何を言っているのか分からないようだ。そりゃ、この世界じゃそういう概念なさそうだものね。
 しかし、ギガンテスは歩みを止めず、腕を大きく振り上げた。体重を掛けて全力で押し潰しに来ていた。
「サキ、私が水魔法を放つから、それに合わせて全力で氷魔法を使って下さい!」
「え、ええ?!」
「とにかく全力です!」
「わ、分かりました!!」
 エスカに声を掛けられて戸惑うサキだったけれど、念押しされて勢いに負けちゃってるわね。
 サキはエスカに言われた通りに両手に魔力を込め始める。
 そして、ギガンテスが腕を振り下ろそうとしたその瞬間だった。
「今です! メイルシュトローム!」
 エスカが魔法を放ち、水流がギガンテスを飲み込んでいく。さすが転生者、もの凄い威力の水流がギガンテスの体を飲み込んでいく。
「ふ、フリージングスフィア!」
 そして、続けざまに杖を突き出し、氷属性の魔法を放つ。最上位とは言えないけれど、かなり高威力の氷属性の魔法だった。さすがに今のサキには「アブソリュート」は無理だったわね。
 塩分を含んだ水が、じわじわと凍り付いていく。
「凍り方が遅い?」
「ええ、これが凝固点降下ですわ。通常よりは20度は低くないと凍り付かなくなっています」
 なかなか凍り付かないので、ギガンテスは凍り付きに抵抗して拳を振り下ろし続けている。フィレン王子たちは動けない中、その絶望的な光景をただただ見ている事しかできなかった。その中でエスカだけは勝ち筋を見失っていなかった。
「無駄です。通常よりも凍り付かないという事は、その分、あなたを取り巻く空気の温度が低くなっているという事。はたしてあなたにそれだけの寒さに耐えるだけの力があるのかしらね?」
 寒さのあまり、明らかに動きが鈍くなっていくギガンテス。そして、同時にじわじわと体を氷が包み込んでいく。やがて、ギガンテスの体は全身凍り付いてしまった。その拳はついにエスカたちに届く事はなかったのである。
 ところが、動かなくなったギガンテスを睨み付け、エスカはサキたちに向けて叫ぶ。
「まだ終わっていません。全力でとどめを刺して下さい!」
 大声で叫ぶエスカの声に動いたのはサクラだった。
「うおおおっ!!」
 サクラの持つ魔石剣が赤と黄色の光を放っており、その剣で思い切りギガンテスへと斬りかかったのだった。
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