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第三章 学園編
第152話 勝手に話を進めないで?
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さて、私はダンスを披露しているみんなを横目に、リブロ王子に近付いていく。
「リブロ殿下、失礼致します」
「おや、アンマリアじゃないですか。どうしたのですか」
私の声掛けに反応するリブロ王子。どこか不思議そうにこてんと軽く首を傾げている。
「私は太っているので、こういった場で踊るのはさすがにどうかと思いまして遠慮させて頂きました。それに、あのままでは女性の方が一人多いので誰かが余ってしまいますから」
「ふふっ、そういう変な気遣いの仕方は、アンマリアらしいという気がしますね」
リブロ王子がくすくすと笑っている。しかし、私はあまり嫌な気にはならなかった。
「リブロ殿下」
「何でしょうか、アンマリア」
「その後、体の状態はいかがでしょうか。お見受けするに、だいぶ調子は良くなってきているようですが」
私はリブロ王子の状態を確認する。少なくとも5か月くらいは経っている。これだけ経っていれば魔力の循環はほぼ回復しているはず。それでもまだ車椅子という事は、リハビリに時間が掛かっているという事だろう。
「だいぶ歩けるようにはなってきていますよ。そのうち、車椅子を卒業できると思っています。なんとしても学園の入学までには歩けるようになりませんとね」
リブロ王子からはそんな風に答えが返ってきた。車椅子の状態で甘えているわけではなかったようだ。やっぱり、相当な期間にわたって魔力循環不全で死にかけていたのだから、そう簡単には回復していないらしい。
「そうでございますか。では、そのお姿を楽しみにしております」
「ええ、楽しみにしていて下さい」
私がすました顔で言うと、リブロ王子はそう呟いて笑っていた。
そうこう話をしている間に、みんなのダンスが終わったようで会場には大きな拍手が起きていた。
「それでは、リブロの誕生日を祝って、乾杯!」
ここで国王が乾杯の音頭を取ると、会場は一気に歓談の場と化したのだった。
フィレン王子たちもそれと同時にそれぞれに散っていく。みんなの前で叙勲された上にダンスまで披露させられて、みんなお疲れ様と労いたいわね。
「お、お姉様……。なんで一人で去っちゃうんですか……」
モモは真っ先に私のところにやってきて、疲れ切った様子で文句を言ってきた。そんなモモを私は近付いてきゅっと抱き締める。
「ごめんなさいね。私はあまり討伐に役に立っていなかったし、踊る上で一人余るなら私がいいと思ったからよ。モモ、頑張ったわね」
「お、お姉様……」
私が謝った上で褒めると、モモは恥ずかしそうにしていた。
「リブロ、今日の主役の君より目立ってしまってすまなかった」
「いえ、兄上、気にしなくてもいいですよ。僕はこの通りまだ体の状態がよろしくないですからね。変に注目が集まらなくて助かっています。……一日でも早く歩けるようになりませんとね」
フィレン王子は謝罪をするが、リブロ王子は体の状態が悪い事を理由に特に咎めるような事はなかった。ただ、こうして気遣わせてしまう事に、悔しさを滲ませているようだった。
「そうだな。学園に入るまでにはとにかく直してもらわないといけない。歩けないとなると、いろいろと授業にも支障が出るだろうし……」
フィレン王子はいろいろと考えている。そして、何かを思いついたようだった。
「そうだ。アンマリアに魔法を教えてもらうのはどうだろうか。魔法を使えば魔力循環は強化されるし、そうしたら体の状態も良くなると思うんだ」
(ちょっと、フィレン王子? 何を言っちゃってくれますの?)
私は心の中で思いっきり抗議をする。
「サキもアンマリアに魔法を教えてもらっているんだよね?」
フィレン王子がそう言うと、その視線の先には私と同じ王子の婚約者であるサキも立っていた。
「は、はい。アンマリア様の教え方はとてもいいので、私もあれだけの魔法を使う事ができたんです」
サキがフィレン王子の質問に答えている。その後ろでは王族の席に戻ってきたエスカが、もの凄くにやにやと笑っていた。実に殴りたい笑顔ね。
「そうか、アンマリアは魔法が得意なのか。それなら俺も教えてもらいたいものだな!」
それを聞きつけたアーサリーまでもがそんな事を言い出した。ちょっと、いい加減にしてくれないかしら。
ここまで実に私は一言も発していないんだけど、勝手にほいほいと話が進んでいく。
「ちょうど学園は夏休み中ですから、明日からでもお願いできますか?」
「うっ……」
リブロ王子がせがむような目で私を見てくる。一つ年下の12歳の少年の純粋な瞳に、私はついくらっと来てしまった。
(ダメ、耐えるのよ、私!)
私は断ろうと必死に気を保とうとしている。
「お願いします、アンマリア様。私ももっと魔法の練習をして、みんなの助けになりたいんです!」
サキもサキで、私に頭を下げてお願いをしてくる。
「分かりましたわ。来週はサキの誕生日がありますしね、学園が始まるまでで良ければ、二人を一緒に教えましょう」
「俺は?!」
私がリブロ王子とサキに対して言うと、アーサリーがスルーされた事に気が付いてすぐに反応していた。ちっ、気付いたか。
私はため息を吐きながらも、アーサリーにも了承の返事をしておいた。明日から一週間、また城通いか……。
「うふふ、お兄様の事をよろしく頼むわね、アンマリア」
私が嫌そうな顔をしているものだから、エスカは揶揄するように笑っていた。はあ、本当に殴りたいわ、この笑顔。
そんなわけで、私がお祝い気分になれないまま、パーティーの時間は過ぎていったのだった。
「リブロ殿下、失礼致します」
「おや、アンマリアじゃないですか。どうしたのですか」
私の声掛けに反応するリブロ王子。どこか不思議そうにこてんと軽く首を傾げている。
「私は太っているので、こういった場で踊るのはさすがにどうかと思いまして遠慮させて頂きました。それに、あのままでは女性の方が一人多いので誰かが余ってしまいますから」
「ふふっ、そういう変な気遣いの仕方は、アンマリアらしいという気がしますね」
リブロ王子がくすくすと笑っている。しかし、私はあまり嫌な気にはならなかった。
「リブロ殿下」
「何でしょうか、アンマリア」
「その後、体の状態はいかがでしょうか。お見受けするに、だいぶ調子は良くなってきているようですが」
私はリブロ王子の状態を確認する。少なくとも5か月くらいは経っている。これだけ経っていれば魔力の循環はほぼ回復しているはず。それでもまだ車椅子という事は、リハビリに時間が掛かっているという事だろう。
「だいぶ歩けるようにはなってきていますよ。そのうち、車椅子を卒業できると思っています。なんとしても学園の入学までには歩けるようになりませんとね」
リブロ王子からはそんな風に答えが返ってきた。車椅子の状態で甘えているわけではなかったようだ。やっぱり、相当な期間にわたって魔力循環不全で死にかけていたのだから、そう簡単には回復していないらしい。
「そうでございますか。では、そのお姿を楽しみにしております」
「ええ、楽しみにしていて下さい」
私がすました顔で言うと、リブロ王子はそう呟いて笑っていた。
そうこう話をしている間に、みんなのダンスが終わったようで会場には大きな拍手が起きていた。
「それでは、リブロの誕生日を祝って、乾杯!」
ここで国王が乾杯の音頭を取ると、会場は一気に歓談の場と化したのだった。
フィレン王子たちもそれと同時にそれぞれに散っていく。みんなの前で叙勲された上にダンスまで披露させられて、みんなお疲れ様と労いたいわね。
「お、お姉様……。なんで一人で去っちゃうんですか……」
モモは真っ先に私のところにやってきて、疲れ切った様子で文句を言ってきた。そんなモモを私は近付いてきゅっと抱き締める。
「ごめんなさいね。私はあまり討伐に役に立っていなかったし、踊る上で一人余るなら私がいいと思ったからよ。モモ、頑張ったわね」
「お、お姉様……」
私が謝った上で褒めると、モモは恥ずかしそうにしていた。
「リブロ、今日の主役の君より目立ってしまってすまなかった」
「いえ、兄上、気にしなくてもいいですよ。僕はこの通りまだ体の状態がよろしくないですからね。変に注目が集まらなくて助かっています。……一日でも早く歩けるようになりませんとね」
フィレン王子は謝罪をするが、リブロ王子は体の状態が悪い事を理由に特に咎めるような事はなかった。ただ、こうして気遣わせてしまう事に、悔しさを滲ませているようだった。
「そうだな。学園に入るまでにはとにかく直してもらわないといけない。歩けないとなると、いろいろと授業にも支障が出るだろうし……」
フィレン王子はいろいろと考えている。そして、何かを思いついたようだった。
「そうだ。アンマリアに魔法を教えてもらうのはどうだろうか。魔法を使えば魔力循環は強化されるし、そうしたら体の状態も良くなると思うんだ」
(ちょっと、フィレン王子? 何を言っちゃってくれますの?)
私は心の中で思いっきり抗議をする。
「サキもアンマリアに魔法を教えてもらっているんだよね?」
フィレン王子がそう言うと、その視線の先には私と同じ王子の婚約者であるサキも立っていた。
「は、はい。アンマリア様の教え方はとてもいいので、私もあれだけの魔法を使う事ができたんです」
サキがフィレン王子の質問に答えている。その後ろでは王族の席に戻ってきたエスカが、もの凄くにやにやと笑っていた。実に殴りたい笑顔ね。
「そうか、アンマリアは魔法が得意なのか。それなら俺も教えてもらいたいものだな!」
それを聞きつけたアーサリーまでもがそんな事を言い出した。ちょっと、いい加減にしてくれないかしら。
ここまで実に私は一言も発していないんだけど、勝手にほいほいと話が進んでいく。
「ちょうど学園は夏休み中ですから、明日からでもお願いできますか?」
「うっ……」
リブロ王子がせがむような目で私を見てくる。一つ年下の12歳の少年の純粋な瞳に、私はついくらっと来てしまった。
(ダメ、耐えるのよ、私!)
私は断ろうと必死に気を保とうとしている。
「お願いします、アンマリア様。私ももっと魔法の練習をして、みんなの助けになりたいんです!」
サキもサキで、私に頭を下げてお願いをしてくる。
「分かりましたわ。来週はサキの誕生日がありますしね、学園が始まるまでで良ければ、二人を一緒に教えましょう」
「俺は?!」
私がリブロ王子とサキに対して言うと、アーサリーがスルーされた事に気が付いてすぐに反応していた。ちっ、気付いたか。
私はため息を吐きながらも、アーサリーにも了承の返事をしておいた。明日から一週間、また城通いか……。
「うふふ、お兄様の事をよろしく頼むわね、アンマリア」
私が嫌そうな顔をしているものだから、エスカは揶揄するように笑っていた。はあ、本当に殴りたいわ、この笑顔。
そんなわけで、私がお祝い気分になれないまま、パーティーの時間は過ぎていったのだった。
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