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第四章 学園編・1年後半

第188話 1年目の学園祭を終えて

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 後夜祭も終わり、その翌朝、エスカはミール王国へと戻っていった。だいぶごねていたらしく、従者の人たちにはあざのようなものが見られた。本当にわがまま王女だわね。
 学園祭6日目は、しっかり撤収と後片付けに丸1日が充てられた。出展内容によっては大規模なものもあるので、どうしてもそのくらいかかってしまうのである。
 私たちが出していたボンジール商会の出店はものすごく簡素なものだったので、非常に片付けも簡単。午前中だけであっさり終わってしまっていた。だけれども、周りを見ているとまだ半数以上の出展が片付けの真っ只中である。特に学生だけでの出し物ともなると片付けがまったく考慮されていなかったのか、口論とかが起きてまったく進んでいる様子がなかった。まあ、そういうあたりが貴族子女たちの確執みたいなものなんでしょうね。
 それはともかくとして、1年間の流れとしては残りは年末のパーティーくらいしかない。しばらくは自由にできそうなので、再び痩せる努力をしましょうかね。
 え、その年末パーティーって何かって?
 1年間の評価を出すゲーム内のミニイベントが、この48ターン目の固定イベントである年末パーティーなのよね。攻略対象全員から声を掛けられるんだけど、その時の言葉で好感度が分かるっていうものなのよ。ちなみにそこには次の年でのイベントを示唆するような発言もあるから、何かと注意しちゃうイベントなのよ。
 1年目の年末パーティーで一番気を付ける発言は、実は攻略対象ではなくてサキの発言というのが、このゲームの肝。ゲーム内のサキはこの時点では聖女として覚醒しているので、私に寄ってきて意味深な発言をしていくの。サキだってライバル令嬢の一人ですもの。そりゃ攻略に関わる発言だってするわよね。これは断罪ルートへの分岐など諸々の条件で様々なセリフがあって、その全パターンやり込んだ私だから自信をもって発言できるわ。クソゲーハンターですから。
 この時のセリフは大体次のような感じ。
 まず最初。「不幸の星の影が見える」と言われたら、これは断罪ルートの分岐がある証拠。100kg以上かつ、好感度が最も高いのがフィレン王子であれば確実に言われるセリフよ。ちなみにその分岐イベントである【怪しげなお店】は2年目の4ターン目に強制お出かけで発生するわ。こうなっても回避する方法はあるので、気を落とさないでほしいかしら。
 次に、「輝く星のような方」と言われたら、だいたい40kgマイナスを達成していて、フィレン王子の好感度が最も高い証拠。
 他にもパターンがあり過ぎたけれど、「輝きが曇っている」と言われたら、好感度の上がり方がほぼ全員0の時。こうなるとライバル令嬢との友情エンドなんてのも発生させられる、ネタエンド待ちというわけだった。
 それにしても、星とかどうかとかって、聖女は占星術師か何かだったのかしらね。
 そんなこんなでいろいろと思うところがあるものの、私は学園祭が終わった後から鍛錬を再開した。何と言っても、来年に迎える断罪ルートへの分岐を潰さなければね。100kgに体重が戻っちゃったから、なおの事気を引き締めていかなきゃね。とにかく断罪ルートだけは絶対避けなければならないもの。
 それと、鍛錬をする理由はもう一つ。剣術大会で2回戦で負けてしまった事。私の負けず嫌いの魂に火がついたわ。来年こそはもっと上を目指してやるんだからね。
「お姉様、熱が入ってますわね」
 庭の手入れを終えた私が剣の素振りをしていると、モモがやって来た。
「そりゃもう、あんな負け方をしたのでは悔しくてたまりませんもの。来年こそは優勝目指してやりますわよ」
 私は剣の素振りをする手を止めず、モモの声に反応していた。
「魔法の才能だけではなく、剣の才能もおありだなんて、私、妬けてしまいます」
「普通は、双方に才能を持つなんて事はありませんものね。私は洗礼式で恩恵があったからこそ、こうやって剣も魔法もこなせるようになっただけなのですからね」
 それでも手を止めない私。
「そのせいで、私はこうやって太りやすい体になってしまったのですよ。世の中、そううまくいくなんて事は、そんなに多くないのです」
 私がこう言うと、モモは言葉を詰まらせたようだった。
「私が殿下方の婚約者になれたのは、その恩恵によるところも大きかったのですわ。ですが、なにぶんこの体質。婚約者になれたからとはいっても、まったく安心はできませんのよ。ですから、殿下の婚約者としてふさわしい令嬢であるために、日々努力をしているのです」
「お姉様……」
 私が鍛錬を続ける理由を聞いて、私の覚悟を思い知ったようだった。
「そう、ですね。でしたら、私も負けていられません。タカー様の隣に立つ令嬢としてふさわしいように、文官となる努力をいたしませんと」
 モモはむんと両手の拳を握っていた。
「そうね、それだったら女官を目指してみてはどうかしら」
「女官……ですか?」
「ええ、お城で働くのよ」
「えええ、それは恐れ多いかと思います」
「あら、それはどうしてかしらね。タカー様の隣に立つのであるのなら、目指してみてもいいのでは?」
 慌てふためくモモに、私がその様に言い切ってみる。すると、モモは本気で悩み始めていた。
「慌てて結論を出す必要はないわ。少なくともあと2年は学生なんですからね」
 ようやく剣を振る手を止めた私は、モモに優しくそう声を掛けた。するとモモは、小さく黙ってこくりと頷いていた。
「では、そろそろ日が暮れますし、屋敷に入ってゆっくり休みましょう」
「はい、お姉様」
 夕焼けが少しずつ宵闇に染まり始めた頃、私とモモは揃って屋敷の中へと入っていったのだった。
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