伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

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第四章 学園編・1年後半

第199話 義理の妹との対決

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 まったく、魔法の試験のはずが、なんで実戦になってるんですかね。正直、サキを泣かせてしまったのは、後から思うと心苦しかった。でも、試験である以上は手が抜けないものね……。
 それにしても、私の魔法を見せつけられた学生たちは、さっき以上に怖気づいてしまった。サキのあの魔法をあっさり返してしまった私相手では、勝負にならない事がはっきり分かってしまったのだろう。
 だけども、ここで手を挙げる猛者が居た。
「はいっ!」
 モモだった。
「ふむ、モモ・ファッティ。やってみるか?」
「はい、お姉様の魔法は一番間近で見てきてますもの。たとえ負かせなくても、できる限りやってみせます」
 大した自信を見せるモモ。だったら、私もしっかり相手をしてあげようじゃないかしらね。
 私とモモが向かい合う。その姿にどよめく訓練場。
「さて、その自信がどこまで本物か、見定めてあげますわ」
 私はこう言うと、サキの時のように防護壁を展開する。さすがに周りを巻き込むのはいけないものね。
 私の防護壁の展開が終わると、いよいよ試験が始まる。
 モモが使う魔法は火属性だけなのよね。それでも単属性特化だし、商会に卸している魔道具の作製もしているので、結構火魔法の扱いは長けているのよね。
 そんなわけで、試験が始まると、モモは火の魔法を展開してくる。魔法の試験だから魔法を使わないといけないものね。
 学生たちはモモの披露した火の魔法に驚いている。なにせ10個くらい火の玉が浮かんでいるものね。これも魔道具を作っていた事による恩恵かしらね。
 そう、ボンジール商会で売られている火の魔法を利用した魔道具は、そのほとんどをモモの手に作られているんだもの。特にこの秋に売り出した懐炉なんて、モモが悪戦苦闘して作り出した商品だものね。そのせいで、細やかな魔法操作もできるようになったし、前期の時より明らかにその魔力は強くなっているのよ。一緒に居る私だからこそ、そのモモの努力がよく分かる。
 ヒロインという立場に甘んじていたわけではないけれど、さすがにサキの時よりは厳しいかも知れない。私は攻撃に備える。
「いっけーっ!」
 モモが10個くらいの火炎球を私に目がけて飛ばしてくる。これはかなり本気な模様だわね。
 だけど、私を甘く見てもらっちゃ困る。前期の時はこの魔法には追加効果があったんだもの。私がそれを失念しているとでも思って?
 私はすぐさま相殺の構えに入る。
「氷よ!」
 水球ではなく、より強力な氷球で迎え撃つ。これを見たモモはすぐさま追加の火炎球を生み出していた。さっきのサキの件をかなり警戒している事が分かる。それにしても、これだけ火炎球を放った後に、同量程度の火炎球を生み出して、モモの魔力ははたしてもつのかしらね。
 よく見ていると、案の定、モモの足元が少しふらついている。やっぱりモモの魔力量じゃこれはかなり厳しいわよね。
 そう思いながらも私だって遠慮しない。モモの最初の火炎球をすべて氷球で相殺していく。さすがのモモの魔法でも、空中に魔法陣は出せないでしょうから、すべて空中で相殺させてもらうわよ。
 この判断は別にモモを甘く見ているわけじゃなくて、空中に魔法を通じて魔法陣を出す事は私にすら不可能な事なのよ。これができるようなら、モモの魔法センスはずば抜けてるという事になるわ。ライバル令嬢の一人なんだし、さあ、どうかしらね。
 ちなみに魔法陣の話だけど、魔法になる前なら自分の魔力で書くから空中にも書ける。魔法になった後でも書くための面があれば書けるんだけど、空中では魔法陣を書くための魔力をそこで安定させなければならないわけで、これが結構難しいのよ。ましてや今回みたいに相殺されれば、そんな魔力を確保できないわけだからね。
 そしたら、やっぱり空中では魔法陣は発動できなかった。そんな高等技術、そう簡単にできるわけないものね。でも、少しだけ線が伸びたように見えたから、できなくはないかも知れないわね。これがモモの魔力の限界かしら。
「ふふっ、空中に魔法陣を書こうとしたのは驚いたけれど、自分の魔力の限界を忘れていたみたいね。二度目の火の玉が発動できなくなってるわよ」
 私がこう言うと、モモは発動させた二度目の火炎球を全部引っ込めてしまった。
「むぅ、やっぱりお姉様には敵いませんわ。降参です」
 モモは肩を落としてその場に座り込んでしまった。
「モモ、これは試験なんだから、降参なんてないわよ。むしろ、空中に魔法陣を書こうとしていたから、こっちが降参だわ」
 だけど、私が微笑みながらこう言うと、今度は嬉しそうに顔を上げていた。まったく、感情の忙しい子ね。
「アンマリア・ファッティ。本当にモモ・ファッティは空中に魔法陣を書こうとしていたのか?」
「はい、ここらあたりに魔力の痕跡があります。魔法型の教官であるなら、感知できると思われますわ」
「むむむ……」
 私がこう言うと、試験官が唸っている。あれ、魔法の痕跡を探るって、魔法を扱うのなら簡単にできるものじゃないのかしら。私は思わず首を傾げてしまった。
 こういったやり取りをしていると、すっとライバル令嬢の真打が前へと歩み出てきた。
「ふふっ、サキ様とモモ様にそういった姿を見せられますと、公爵令嬢としては黙っていられませんわね」
 そう、ラム・マートン公爵令嬢だった。
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