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第五章 2年目前半
第213話 驚異のプレゼント
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家族だけのささやかな誕生日パーティー。年の初めなばかりに毎年こんな感じだ。それでも私には不満はない。家族にちゃんと祝ってもらえるのだから。
誕生日の料理を味わっていると、私の侍女のスーラが入ってきた。
「アンマリアお嬢様、フィレン殿下とリブロ殿下からお届け物がございました」
先程、玄関でノックをする音があったらしく、スーラはその対応のために一度出ていったのである。そしたらば、家を訪れたのは王子の使者たちだった。王子たちは本当は来たかったらしいのだが、まだ年初でいろいろ城が忙しいために公務から逃げられず、仕方なく使いを寄こしたというわけである。毎年これなのよ。一度でいいから婚約者と直に会って祝って下さいませんかしらね。とはいえども、年明けは結構国内の各地からの挨拶が絶えないのである。王子たちも将来のための勉強として逃げられないのは知っているから、声には出しませんけれどね。
「わあ、こんなものを頂いてよろしいのかしらね」
プレゼントを開けた私はつい口に出してしまう。届けられた包みから出てきたのは、髪飾り、リボン、ブローチの3点セットだった。私に合うようにと色がとても考えられていた。
だというのに、私が嬉しいと思った次の瞬間に考えてしまうのは、
(はあ、太ってなければきっと似合ったでしょうね……)
という自虐な感想である。もはや悪い癖と化していた。いや、自覚はしているんだけど、完全に無意識で出てしまうのでどうにかならないものだろうか。まあ、こればかりは自分でどうにかしなきゃいけないから、人に頼っても仕方ないわよね、うん。
こうして、完全に王子二人からの贈り物に話題をかっさらわれた中、エスカがお行儀悪くテーブルに肘をつきながら不機嫌な顔をしていた。完全に前世の癖が出てきてしまっているようだ。とはいえ、この流れはよろしくなさそうなのだ。
「と、ところで、エスカ王女殿下とモモは一体何を用意して下さったのかしら」
そう、二人へと誕生日プレゼントの話を振ったのである。
私から話題を振られると、モモはもじもじとして顔を赤らめていた。一体何がどうしたというのだろうか。
「ふふふ、アンマリア、喜びなさいよ。今年の誕生日プレゼントは、私とモモとの合作なのですからね」
自信たっぷりに言うエスカだが、どんなに取り繕ったところで私がエスカから感じるのはうさん臭さだけである。
しかし、この二人が合作とは一体どういうものを用意したのやら……。モモの属性は火、エスカの属性は闇と水。属性だけを見たら、どう考えても相性が悪そうである。それに、モモはおとなしい引っ込み思案的な性格だし、エスカはぐいぐい来る積極的なタイプと、性格もまるで正反対だ。そのせいで、二人が一緒に用意したというそのプレゼントが一体どんなものなのか、この時点ではまったく想像できなかった。
私の目の前にはおどおどとしたモモと、自信たっぷりなエスカという見事なまでに対照的な表情の二人が立っている。その様子を見ながら、私は今か今かと黙って座っていた。
「お、お誕生日、お、おめでとうございます、お姉様!」
すごく噛み噛みながらも言い切るモモ。去年までは普通に喋っていたので、おそらくこの噛みの原因はエスカだろう。このお姫様、そこまで緊張しなくていい相手なんだけど、元々は子爵令嬢のモモには雲の上の存在のようなものだから、それは無理というものかしらね。
とりあえず、モモとエスカが揃って差し出してきた包みを見る。わざわざ包装しているとは、これは間違いなくエスカの入れ知恵でしょうね。お店でもなければ包装するなんて事は滅多にある事じゃないもの。ましてや身内だものね。
私は立ち上がってそれを受け取ると、二人に問い掛ける。
「開けていいかしら?」
「はい、もちろんです」
「ええ、ここで開けてもらいたいですね」
二人からは揃って了承の返事があった。なので、私は早速その包みを開けて中身を取り出してみる。
「何かしらこれ……」
出てきたのは飾りのついたただの棒きれだった。まったく何か分からない。
「お姉様が教えて下さった、トレント木材を使った魔法訓練。それを応用して作ったロッドです」
「そうそう。魔法を込めると何にでも形を変えるっていうトレント木材ですよ。季節外れのせいで手に入れるのは難しかったけれど、私たちの魔力を込めて何度でも変形できるっていうものを作り上げてみたのです」
何ともまあ、まるで夢のような道具を作ってくれたものである。エスカが絡んだ割には、機能はとんでもないけれど見た目が普通のものが出てきたので驚いた。
「ちょっと使ってみて下さいません? 私たちが使ってしまうと、他人ではもう変形できなくなってしまいますから」
「安全機能付きなのね。それもまた面白いわ」
エスカが言うものだから、私は早速魔力を通して変形させてみる。やっぱり最初に変形させるなら、あれかしらね。
「……なんでハリセンなのよ」
私が変形させたものを見て、エスカがドン引きしていた。
「あら、お気に召しませんでしたか? おほほほほ」
わざとらしく笑う私。まあ、せっかくだしという事でもう一つくらい変形させておこうかしら。
「……ヌンチャク。もしかしてツッコミたい相手でも居るのですかしら、アンマリア」
エスカは引き続きドン引きである。モモはよく分からないものが出てきているものの、ちゃんと思い描いたように木の棒が変化しているので嬉しそうにしていた。
「こういうのはいざという時の護身用にいいですね。エスカ王女殿下、モモ、本当にありがとう」
私はにこりと微笑んだ。
「エスカ王女殿下、これはやはり闇魔法ですかね」
「ええ、そうです。これだけの機能を持たせようとすると、私の魔力だけでは足りませんでしたから、モモにも手伝って頂きました」
エスカがこう言うと、モモは照れ照れと顔を赤くしていた。
「そうなのですね。ふふっ、これだけの事ができるのでしたら、もうモモも魔法は一人前ですね」
「あ、ありがとうございます、お姉様!」
私が褒めると、モモは元気いっぱいに反応していた。
「ふむ、いくらでも魔力で変化できる物体というのは、とても気になるな」
「そうですね。これが量産できればいいですけれどね」
両親もものすごく興味があるようである。
とにかく、大盛り上がりで今年の誕生日パーティーは終わったのだった。これがまた後に大きな騒ぎを引き起こすとは思わずに……。
誕生日の料理を味わっていると、私の侍女のスーラが入ってきた。
「アンマリアお嬢様、フィレン殿下とリブロ殿下からお届け物がございました」
先程、玄関でノックをする音があったらしく、スーラはその対応のために一度出ていったのである。そしたらば、家を訪れたのは王子の使者たちだった。王子たちは本当は来たかったらしいのだが、まだ年初でいろいろ城が忙しいために公務から逃げられず、仕方なく使いを寄こしたというわけである。毎年これなのよ。一度でいいから婚約者と直に会って祝って下さいませんかしらね。とはいえども、年明けは結構国内の各地からの挨拶が絶えないのである。王子たちも将来のための勉強として逃げられないのは知っているから、声には出しませんけれどね。
「わあ、こんなものを頂いてよろしいのかしらね」
プレゼントを開けた私はつい口に出してしまう。届けられた包みから出てきたのは、髪飾り、リボン、ブローチの3点セットだった。私に合うようにと色がとても考えられていた。
だというのに、私が嬉しいと思った次の瞬間に考えてしまうのは、
(はあ、太ってなければきっと似合ったでしょうね……)
という自虐な感想である。もはや悪い癖と化していた。いや、自覚はしているんだけど、完全に無意識で出てしまうのでどうにかならないものだろうか。まあ、こればかりは自分でどうにかしなきゃいけないから、人に頼っても仕方ないわよね、うん。
こうして、完全に王子二人からの贈り物に話題をかっさらわれた中、エスカがお行儀悪くテーブルに肘をつきながら不機嫌な顔をしていた。完全に前世の癖が出てきてしまっているようだ。とはいえ、この流れはよろしくなさそうなのだ。
「と、ところで、エスカ王女殿下とモモは一体何を用意して下さったのかしら」
そう、二人へと誕生日プレゼントの話を振ったのである。
私から話題を振られると、モモはもじもじとして顔を赤らめていた。一体何がどうしたというのだろうか。
「ふふふ、アンマリア、喜びなさいよ。今年の誕生日プレゼントは、私とモモとの合作なのですからね」
自信たっぷりに言うエスカだが、どんなに取り繕ったところで私がエスカから感じるのはうさん臭さだけである。
しかし、この二人が合作とは一体どういうものを用意したのやら……。モモの属性は火、エスカの属性は闇と水。属性だけを見たら、どう考えても相性が悪そうである。それに、モモはおとなしい引っ込み思案的な性格だし、エスカはぐいぐい来る積極的なタイプと、性格もまるで正反対だ。そのせいで、二人が一緒に用意したというそのプレゼントが一体どんなものなのか、この時点ではまったく想像できなかった。
私の目の前にはおどおどとしたモモと、自信たっぷりなエスカという見事なまでに対照的な表情の二人が立っている。その様子を見ながら、私は今か今かと黙って座っていた。
「お、お誕生日、お、おめでとうございます、お姉様!」
すごく噛み噛みながらも言い切るモモ。去年までは普通に喋っていたので、おそらくこの噛みの原因はエスカだろう。このお姫様、そこまで緊張しなくていい相手なんだけど、元々は子爵令嬢のモモには雲の上の存在のようなものだから、それは無理というものかしらね。
とりあえず、モモとエスカが揃って差し出してきた包みを見る。わざわざ包装しているとは、これは間違いなくエスカの入れ知恵でしょうね。お店でもなければ包装するなんて事は滅多にある事じゃないもの。ましてや身内だものね。
私は立ち上がってそれを受け取ると、二人に問い掛ける。
「開けていいかしら?」
「はい、もちろんです」
「ええ、ここで開けてもらいたいですね」
二人からは揃って了承の返事があった。なので、私は早速その包みを開けて中身を取り出してみる。
「何かしらこれ……」
出てきたのは飾りのついたただの棒きれだった。まったく何か分からない。
「お姉様が教えて下さった、トレント木材を使った魔法訓練。それを応用して作ったロッドです」
「そうそう。魔法を込めると何にでも形を変えるっていうトレント木材ですよ。季節外れのせいで手に入れるのは難しかったけれど、私たちの魔力を込めて何度でも変形できるっていうものを作り上げてみたのです」
何ともまあ、まるで夢のような道具を作ってくれたものである。エスカが絡んだ割には、機能はとんでもないけれど見た目が普通のものが出てきたので驚いた。
「ちょっと使ってみて下さいません? 私たちが使ってしまうと、他人ではもう変形できなくなってしまいますから」
「安全機能付きなのね。それもまた面白いわ」
エスカが言うものだから、私は早速魔力を通して変形させてみる。やっぱり最初に変形させるなら、あれかしらね。
「……なんでハリセンなのよ」
私が変形させたものを見て、エスカがドン引きしていた。
「あら、お気に召しませんでしたか? おほほほほ」
わざとらしく笑う私。まあ、せっかくだしという事でもう一つくらい変形させておこうかしら。
「……ヌンチャク。もしかしてツッコミたい相手でも居るのですかしら、アンマリア」
エスカは引き続きドン引きである。モモはよく分からないものが出てきているものの、ちゃんと思い描いたように木の棒が変化しているので嬉しそうにしていた。
「こういうのはいざという時の護身用にいいですね。エスカ王女殿下、モモ、本当にありがとう」
私はにこりと微笑んだ。
「エスカ王女殿下、これはやはり闇魔法ですかね」
「ええ、そうです。これだけの機能を持たせようとすると、私の魔力だけでは足りませんでしたから、モモにも手伝って頂きました」
エスカがこう言うと、モモは照れ照れと顔を赤くしていた。
「そうなのですね。ふふっ、これだけの事ができるのでしたら、もうモモも魔法は一人前ですね」
「あ、ありがとうございます、お姉様!」
私が褒めると、モモは元気いっぱいに反応していた。
「ふむ、いくらでも魔力で変化できる物体というのは、とても気になるな」
「そうですね。これが量産できればいいですけれどね」
両親もものすごく興味があるようである。
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