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第五章 2年目前半
第221話 企みは消えない
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王都にあるとある家……。
「ぐぬぬぬ……。なんと、わしが掛けた魔法が解かれたというのか?」
やせこけた老婆が家の中で唸っていた。
この老婆こそ、今回の激痩せ騒動の原因となった老婆である。
なぜあのような騒動が起きたかというと、老婆は夜中にこっそりと、作り上げた薬を魔法と共に食堂へと振りまいたのだ。建物に入れば物音を出してしまう。だが、魔法ならば隠蔽しながら巻き散らかす事が可能だ。それによって人知れずに薬をばら撒いていたのである。
「それにしても、一体何があったというのじゃ。そう簡単に解かれるようなものではないはずなのじゃがな」
老婆は首を傾げていた。どうやら、王都全体を包み込んだ聖女の光を知らないようである。
「ケヒヒヒヒ、と解かれたというのなら、もう一度試すまで。理想の体にまで痩せられるんじゃ、止める理由などあるまいて。ケヒヒヒヒッ!」
老婆はまったく諦めるつもりがないようである。
本当にこの老婆は何も知らなさすぎた。
痩せる薬による呪いは、限度を超えて痩せてしまい、命の危険すらあった事。
聖女の能力によって王都全体が浄化されて、呪いをしばらく受け付けられなくなっていた事。
そんな事も知らない老婆は、今夜もまた、薬をばら撒きに王都の中をさまよい始める。
「ケヒヒヒ、ここじゃな。そうれ、この王都に痩せの美学を広めるのじゃ!」
老婆は不気味な笑みを浮かべながら薬を建物にぶちまけている。
「う……ん?」
だが、どうした事だろうか。妙な感覚を覚えた老婆は首を傾げている。
「なんじゃ? 何かがおかしいぞ?」
老婆がおかしく思うのも無理はない。
実は、先日のサキの浄化の力に加え、通常版と拡張版のヒロイン二人分の魔力が乗った魔法は、とんでもない効果を発揮していたのだ。新たに呪いを掛けようとしても、それを跳ね除けてしまうのである。つまり、この老婆がいくら薬と魔法で呪いを掛けようにも、それは直ちにきれいさっぱりかき消されてしまうのである。
「ぐぬぬぬぬ……。解せぬ、解せぬぞおっ!」
老婆が叫んだその時だった。
「誰だ! 誰かそこに居るのか?!」
見回りをしている兵士に気付かれてしまった。感情が乗り過ぎた声までは消せなかったようである。
「ぐぬぅ、気付かれてしもうたか。これは一度作戦を練り直す必要があるのう」
仕方なく今夜は諦めた老婆は、魔法で気配を消しながら自宅へと戻ったのだった。だが、その野心が消え去ったわけではない。これから先もアンマリアやミズーナ王女たちはこの老婆の魔の手に悩まされそうだった。
……
サキのお見舞いから戻った私は、エスカに声を掛けた。
「エスカ、ちょっと頼まれてくれてもいいかしら」
「何なの、アンマリア。変なお願いだったら聞かないわよ」
今は二人だけなので、言葉がもの凄く砕けている。
「サキの魔法の練習のために、私に作ってくれたあの棒切れをもう一本作ってほしいのよ。いくら私でも構造的な事が分からないと作れないから、こればかりはエスカ頼みなの」
私が困ったような顔をしながらエスカに話し掛けていると、エスカは妙な笑顔を浮かべて私を見ている。なにこれ、殴っていいのかしら。
「ほうほう、無敵のヒロイン様が私に頼み事とは。これはこれは面白いですな」
「……ねえ、エスカ。むかつくから殴っていい?」
「ちょっと、王女様に手を上げるつもり?!」
「だったら普通に対応してちょうだいよ。調子に乗るから殴りたくなるの」
私はこういう時だけ権力を盾にするエスカに呆れながら、苦言を呈しながら構えた拳を静かに下げた。
「まったく、アンマリアって結構暴力的なのね。……それはそうと、その棒切れだったら作ってあげてもいいわよ。一昨日魔法を使った後、ぐったりしてたそうだものね。単純に魔力不足でしょうから、鍛える必要があるのは私だって理解できるわよ」
「分かってるのなら、さっさと作ってちょうだい。ちゃんとお礼はするから」
エスカの調子の良さには正直言って疲れてしまう。それはそれとして、サキのためにも私はエスカに頼み込んだ。結局、私のお手製の料理を食べさせる事で、エスカはこの頼み事を引き受けてくれた。ただ、完成にはモモの力も必要なので、エスカはモモの部屋へとそそくさと移動していったのだった。
そして、翌朝の事、エスカはでき上がった棒切れを私に渡してくれた。
「サキのものだと分かりやすいように、色を変えてイニシャルも彫り込んでみたわ。トレント木材って本当にすごいわね」
「うん、ありがとう、エスカ」
私はそれを収納魔法にしまい込むと、エスカにお礼を言った。
それで、見返りとしてエスカに食べさせる事になったのはフルーツタルト。果物を集めるのが面倒だけど、約束は約束だからやらざるを得ない。これはおじ様たちの所にも行かなきゃいけなさそうね。
とりあえず、どのくらいの期間が掛かるか分からないけれど、エスカには気長に待ってもらう事にしたのだった。エスカもそれを分かっているので、にこにこするだけで文句も言ってこなかった。無理難題を吹っかけている自覚があるのだろう。
それはそれとして、サキの魔力を鍛えるための道具は手に入った。学園に行ったら、ちゃんと手渡ししなきゃね。
「ぐぬぬぬ……。なんと、わしが掛けた魔法が解かれたというのか?」
やせこけた老婆が家の中で唸っていた。
この老婆こそ、今回の激痩せ騒動の原因となった老婆である。
なぜあのような騒動が起きたかというと、老婆は夜中にこっそりと、作り上げた薬を魔法と共に食堂へと振りまいたのだ。建物に入れば物音を出してしまう。だが、魔法ならば隠蔽しながら巻き散らかす事が可能だ。それによって人知れずに薬をばら撒いていたのである。
「それにしても、一体何があったというのじゃ。そう簡単に解かれるようなものではないはずなのじゃがな」
老婆は首を傾げていた。どうやら、王都全体を包み込んだ聖女の光を知らないようである。
「ケヒヒヒヒ、と解かれたというのなら、もう一度試すまで。理想の体にまで痩せられるんじゃ、止める理由などあるまいて。ケヒヒヒヒッ!」
老婆はまったく諦めるつもりがないようである。
本当にこの老婆は何も知らなさすぎた。
痩せる薬による呪いは、限度を超えて痩せてしまい、命の危険すらあった事。
聖女の能力によって王都全体が浄化されて、呪いをしばらく受け付けられなくなっていた事。
そんな事も知らない老婆は、今夜もまた、薬をばら撒きに王都の中をさまよい始める。
「ケヒヒヒ、ここじゃな。そうれ、この王都に痩せの美学を広めるのじゃ!」
老婆は不気味な笑みを浮かべながら薬を建物にぶちまけている。
「う……ん?」
だが、どうした事だろうか。妙な感覚を覚えた老婆は首を傾げている。
「なんじゃ? 何かがおかしいぞ?」
老婆がおかしく思うのも無理はない。
実は、先日のサキの浄化の力に加え、通常版と拡張版のヒロイン二人分の魔力が乗った魔法は、とんでもない効果を発揮していたのだ。新たに呪いを掛けようとしても、それを跳ね除けてしまうのである。つまり、この老婆がいくら薬と魔法で呪いを掛けようにも、それは直ちにきれいさっぱりかき消されてしまうのである。
「ぐぬぬぬぬ……。解せぬ、解せぬぞおっ!」
老婆が叫んだその時だった。
「誰だ! 誰かそこに居るのか?!」
見回りをしている兵士に気付かれてしまった。感情が乗り過ぎた声までは消せなかったようである。
「ぐぬぅ、気付かれてしもうたか。これは一度作戦を練り直す必要があるのう」
仕方なく今夜は諦めた老婆は、魔法で気配を消しながら自宅へと戻ったのだった。だが、その野心が消え去ったわけではない。これから先もアンマリアやミズーナ王女たちはこの老婆の魔の手に悩まされそうだった。
……
サキのお見舞いから戻った私は、エスカに声を掛けた。
「エスカ、ちょっと頼まれてくれてもいいかしら」
「何なの、アンマリア。変なお願いだったら聞かないわよ」
今は二人だけなので、言葉がもの凄く砕けている。
「サキの魔法の練習のために、私に作ってくれたあの棒切れをもう一本作ってほしいのよ。いくら私でも構造的な事が分からないと作れないから、こればかりはエスカ頼みなの」
私が困ったような顔をしながらエスカに話し掛けていると、エスカは妙な笑顔を浮かべて私を見ている。なにこれ、殴っていいのかしら。
「ほうほう、無敵のヒロイン様が私に頼み事とは。これはこれは面白いですな」
「……ねえ、エスカ。むかつくから殴っていい?」
「ちょっと、王女様に手を上げるつもり?!」
「だったら普通に対応してちょうだいよ。調子に乗るから殴りたくなるの」
私はこういう時だけ権力を盾にするエスカに呆れながら、苦言を呈しながら構えた拳を静かに下げた。
「まったく、アンマリアって結構暴力的なのね。……それはそうと、その棒切れだったら作ってあげてもいいわよ。一昨日魔法を使った後、ぐったりしてたそうだものね。単純に魔力不足でしょうから、鍛える必要があるのは私だって理解できるわよ」
「分かってるのなら、さっさと作ってちょうだい。ちゃんとお礼はするから」
エスカの調子の良さには正直言って疲れてしまう。それはそれとして、サキのためにも私はエスカに頼み込んだ。結局、私のお手製の料理を食べさせる事で、エスカはこの頼み事を引き受けてくれた。ただ、完成にはモモの力も必要なので、エスカはモモの部屋へとそそくさと移動していったのだった。
そして、翌朝の事、エスカはでき上がった棒切れを私に渡してくれた。
「サキのものだと分かりやすいように、色を変えてイニシャルも彫り込んでみたわ。トレント木材って本当にすごいわね」
「うん、ありがとう、エスカ」
私はそれを収納魔法にしまい込むと、エスカにお礼を言った。
それで、見返りとしてエスカに食べさせる事になったのはフルーツタルト。果物を集めるのが面倒だけど、約束は約束だからやらざるを得ない。これはおじ様たちの所にも行かなきゃいけなさそうね。
とりあえず、どのくらいの期間が掛かるか分からないけれど、エスカには気長に待ってもらう事にしたのだった。エスカもそれを分かっているので、にこにこするだけで文句も言ってこなかった。無理難題を吹っかけている自覚があるのだろう。
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