236 / 500
第五章 2年目前半
第236話 拡張版、最初のイベント
しおりを挟む
表面上、サーロイン王国、ミール王国、ベジタリウス王国の三国の関係は良好である。
だが、それはあくまでも王家レベルの話であって、少し下の貴族のあたりになると少々空気が違う。国内の貴族たちも一枚岩というわけではなかった。王家と歩調を合わせる者が多いのだが、中には昔の考えを引きずる者も存在する。いわゆる過激派といわれる派閥だって存在するわけで、サーロイン王国では警戒が強まっているわけだった。
それに伴って、私の父親も忙しく動いていた。国の大臣を務める父親は、防衛に対しても責任を負っているのである。洗礼式で受けた私の恩恵というものに強く反応したのもそのためだった。普段から国を守るために腐心しているのなら、まあそうなるのも仕方ないわよね。小さい頃の私はそんな事知らなかったけど。
「お父様、仕事も体調も大丈夫ですか?」
先日のサクラと話をした帰りに街の中の警備を改めて確認してみたのだけれど、やっぱり巡回している兵士の数が増えていた。
それを踏まえた上で、父親の顔色を見てちょっと心配になってしまった私なのである。
思った以上に父親の顔色が悪い。せっかく痩せてきているというのに、このままじゃ過労で倒れかねない。まったくどうしたらいいものだろうか。
「ああ悪いね、マリー。大丈夫だよ、誕生祭を乗り越えられれば仕事は減るはずだから」
「いけません。それだけ顔色が悪いと心配になります。食べたらすぐに寝て下さい、お父様」
バンとテーブルを叩く私。令嬢としての振る舞いとしてはよくないのだろうが、さすがに父親のやつれた姿を見るわけにはいかない。私は強く父親に意見した。
私の唐突の行動に、モモもエスカもびっくりしている。ここまで強く言うのも滅多にないから仕方がないかな。
「むぅ、しかしだな。少なくとも王城内の警備計画を仕上げておかねば、当日何かあっては困るだろう?」
「いいえ、お父様。もう今の段階で計画しても遅いくらいです。もし不穏な輩が居たとしたら、すでに潜入していると見てもよろしいかと思います」
言い訳をして仕事をしようとする父親に、私は鋭く意見する。魔法という力があるこの世界なら、人員を割いての警戒など限界があるし簡単に突破されてしまう。ならば、ここは魔法の強力な人物が当たるのが一番ではないだろうか。
「お父様、明日、私とエスカ王女殿下を城に入れさせて頂けません? そこでミズーナ王女殿下と会わせて頂ければ、もう警備の心配は要りませんわよ」
私の意見に首を傾げる父親。一体娘は何を考えているのだろうと頭に疑問符が浮かんでいるのが見える。
「ファッティ伯爵、ここはアンマリアの言う通り、私たちにお任せ頂けませんでしょうか」
混乱する父親に、エスカが王女らしい態度で声を掛けている。いやぁ、普段の態度とだいぶ違わないかしらね、エスカ。
しかし、ここでは他国とはいえども、王女からの言葉となるとそれなりに意味が重かった。父親はものすごく悩んだものだが、王族からの申し出を断れるわけもなかった。
「しょ、承知致しました。では、王女殿下、お頼み申します」
どんと自信たっぷりに構えたエスカに、父親は完全に折れてしまったのであった。
そして、約束した翌日。私とエスカは学園が終わってから城へと出向いていた。もう4日くらいしかないので、もう急ぐべきだろう。
「分かりました。それは拡張版にある私のストーリーのイベントですね。実は三国の王子たちと私が協力して暗殺者と戦うというとんでもイベントなんですよ、これが」
ミズーナ王女の言葉に、私とエスカはぽかんとするばかりである。エスカは夢で拡張版の話を少し知っていたとはいえど、まさかそんなイベントがあるとは思っていなかった。
「まあ、1年目のイベントですので、難易度は簡単なんですけれどね。ですが、ゲームと同じような感覚でいると痛い目に遭いますからね。油断はできません」
ミズーナ王女は実に真剣な表情をしていた。私同様にゲームと現実の違いにしっかりと地に足をつけているのだろう。実に頼りがいのある表情だった。
ただ、痩せているエスカ、ちょっとぽっちゃりの私、かなり太っているミズーナ王女と、絵面としてはかなりきついものがある。でも、私たちだけだからなんとか耐えられるようなものだった。
「暗殺者たちを排除するというのなら、私たちの魔法を使えば可能でしょうね。防護壁を張る魔法を使えますか? アンマリア」
ミズーナ王女が私に話を振ってくる。
「ええ、張れるわよ。というか、ヒロインなら普通に持っている補助魔法よね?」
私が聞き返すと、ミズーナ王女もエスカもこくりと頷いていた。さすが二人ともやり込んでいるだけの事はある。
「ですから、城全体を覆うようにその魔法を張り巡らせるんです。悪意や害意を持っていれば、その領域の外に弾き出されるような機能を持たせてね」
「うう、闇と水の魔法しか使えない私じゃ無理じゃないのよ……」
エスカは非常に悔しそうな顔をしていた。まあ、この魔法は光と土でしか習得できないものね。対極の属性の魔法だけにエスカには扱えるものではなかったのだ。
「それじゃアンマリア、張りましょうか」
「ええ、分かったわ」
私とミズーナ王女は手を取り合うと、目を閉じて集中する。そして、しばらくすると私たちから光があふれて城全体を不思議な光が包み込んだのだった。
だが、それはあくまでも王家レベルの話であって、少し下の貴族のあたりになると少々空気が違う。国内の貴族たちも一枚岩というわけではなかった。王家と歩調を合わせる者が多いのだが、中には昔の考えを引きずる者も存在する。いわゆる過激派といわれる派閥だって存在するわけで、サーロイン王国では警戒が強まっているわけだった。
それに伴って、私の父親も忙しく動いていた。国の大臣を務める父親は、防衛に対しても責任を負っているのである。洗礼式で受けた私の恩恵というものに強く反応したのもそのためだった。普段から国を守るために腐心しているのなら、まあそうなるのも仕方ないわよね。小さい頃の私はそんな事知らなかったけど。
「お父様、仕事も体調も大丈夫ですか?」
先日のサクラと話をした帰りに街の中の警備を改めて確認してみたのだけれど、やっぱり巡回している兵士の数が増えていた。
それを踏まえた上で、父親の顔色を見てちょっと心配になってしまった私なのである。
思った以上に父親の顔色が悪い。せっかく痩せてきているというのに、このままじゃ過労で倒れかねない。まったくどうしたらいいものだろうか。
「ああ悪いね、マリー。大丈夫だよ、誕生祭を乗り越えられれば仕事は減るはずだから」
「いけません。それだけ顔色が悪いと心配になります。食べたらすぐに寝て下さい、お父様」
バンとテーブルを叩く私。令嬢としての振る舞いとしてはよくないのだろうが、さすがに父親のやつれた姿を見るわけにはいかない。私は強く父親に意見した。
私の唐突の行動に、モモもエスカもびっくりしている。ここまで強く言うのも滅多にないから仕方がないかな。
「むぅ、しかしだな。少なくとも王城内の警備計画を仕上げておかねば、当日何かあっては困るだろう?」
「いいえ、お父様。もう今の段階で計画しても遅いくらいです。もし不穏な輩が居たとしたら、すでに潜入していると見てもよろしいかと思います」
言い訳をして仕事をしようとする父親に、私は鋭く意見する。魔法という力があるこの世界なら、人員を割いての警戒など限界があるし簡単に突破されてしまう。ならば、ここは魔法の強力な人物が当たるのが一番ではないだろうか。
「お父様、明日、私とエスカ王女殿下を城に入れさせて頂けません? そこでミズーナ王女殿下と会わせて頂ければ、もう警備の心配は要りませんわよ」
私の意見に首を傾げる父親。一体娘は何を考えているのだろうと頭に疑問符が浮かんでいるのが見える。
「ファッティ伯爵、ここはアンマリアの言う通り、私たちにお任せ頂けませんでしょうか」
混乱する父親に、エスカが王女らしい態度で声を掛けている。いやぁ、普段の態度とだいぶ違わないかしらね、エスカ。
しかし、ここでは他国とはいえども、王女からの言葉となるとそれなりに意味が重かった。父親はものすごく悩んだものだが、王族からの申し出を断れるわけもなかった。
「しょ、承知致しました。では、王女殿下、お頼み申します」
どんと自信たっぷりに構えたエスカに、父親は完全に折れてしまったのであった。
そして、約束した翌日。私とエスカは学園が終わってから城へと出向いていた。もう4日くらいしかないので、もう急ぐべきだろう。
「分かりました。それは拡張版にある私のストーリーのイベントですね。実は三国の王子たちと私が協力して暗殺者と戦うというとんでもイベントなんですよ、これが」
ミズーナ王女の言葉に、私とエスカはぽかんとするばかりである。エスカは夢で拡張版の話を少し知っていたとはいえど、まさかそんなイベントがあるとは思っていなかった。
「まあ、1年目のイベントですので、難易度は簡単なんですけれどね。ですが、ゲームと同じような感覚でいると痛い目に遭いますからね。油断はできません」
ミズーナ王女は実に真剣な表情をしていた。私同様にゲームと現実の違いにしっかりと地に足をつけているのだろう。実に頼りがいのある表情だった。
ただ、痩せているエスカ、ちょっとぽっちゃりの私、かなり太っているミズーナ王女と、絵面としてはかなりきついものがある。でも、私たちだけだからなんとか耐えられるようなものだった。
「暗殺者たちを排除するというのなら、私たちの魔法を使えば可能でしょうね。防護壁を張る魔法を使えますか? アンマリア」
ミズーナ王女が私に話を振ってくる。
「ええ、張れるわよ。というか、ヒロインなら普通に持っている補助魔法よね?」
私が聞き返すと、ミズーナ王女もエスカもこくりと頷いていた。さすが二人ともやり込んでいるだけの事はある。
「ですから、城全体を覆うようにその魔法を張り巡らせるんです。悪意や害意を持っていれば、その領域の外に弾き出されるような機能を持たせてね」
「うう、闇と水の魔法しか使えない私じゃ無理じゃないのよ……」
エスカは非常に悔しそうな顔をしていた。まあ、この魔法は光と土でしか習得できないものね。対極の属性の魔法だけにエスカには扱えるものではなかったのだ。
「それじゃアンマリア、張りましょうか」
「ええ、分かったわ」
私とミズーナ王女は手を取り合うと、目を閉じて集中する。そして、しばらくすると私たちから光があふれて城全体を不思議な光が包み込んだのだった。
6
あなたにおすすめの小説
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる