250 / 500
第五章 2年目前半
第250話 ドキドキ、ダブルデート
しおりを挟む
そんなわけで、まだアンマリアたちがミール王国に出向いている週末の事だ。
公爵令嬢ラムは、カービルとお出かけをする事になった。何気にこうやって二人でお出かけというのは、驚いた事に初めてになる。
それというのも、カービルがゲームの設定どおりにふくよかな方が好みだからである。
この世界のラムは、サクラから教えられた運動を続けており、筋肉質とまではいかなくても、それなりにしっかりとした体つきになっていた。あと、地味に胸がでかい。ちなみに公式絵では、明らかに太っているというのにそれでもはっきりと大きさが分かるという巨体だったのだ。痩せてもそこだけはきっちり変わらないようだった。
その上で、公爵令嬢としての所作もしっかり身に付いており、勉学もできるという完璧超人っぷりだ。何を持ってカービルはラムを拒否するのだろうか。周りから見れば理解に苦しむ状況である。
「うふふ、今日はカービル様とお出かけなのですね。楽しみですわ」
待ち合わせの場所へとやって来たラムは、とても楽しみにしているようだった。
しばらく遅れて、カービルがやって来た。その顔はどことなく不服なところがあるように見える。
「あら、カービル様。おはようございますわ」
「ああ、ラム嬢、おはよう」
「うふふ、婚約者を前にその表情は頂けませんわね。カービル様、こういう時は嘘でも笑顔を見せるものですよ」
現れたカービルに対して苦言を呈するラムである。公爵令嬢として厳しく鍛えられてきているので、世渡りに関しても結構知識があるのである。
「カービル様はお母様が大好きですものね。そのせいで太った方にしか興味を持たれない事も重々承知しております。ですが、包容力というのでしたら、太っている事が必要とは限りませんわよ」
ラムはカービルの前に人差し指を突き出しながら、諭すように話し掛けている。
「ともかく、今日はしっかりとエスコートを頼みますわよ、カービル様」
最後は後ろ手に手を組んでにこりと笑うラムである。普通の男性ならころっとやられそうな笑顔なのだが、カービルは手強かった。
「こほん、私があなたと付き合うのは、婚約者としての立場があるからです。あなたを好きになるかどうかとは、また別の話ですからね」
だが、微動だにしていないカービルかと思ったが、発言を聞く限りは動揺しているようだった。実はちょろいのではないのだろうか。
「さあ、どこに参りましょうか」
ラムがカービルに話し掛ける。
「そうだな。最近、学園の中でも噂になっている装飾品店などどうだろうか」
「あら、悪くはないですわね。では、早速参りましょう」
少し前に出たラムは、くるりと振り向いてカービルに笑顔を向ける。この笑顔に、カービルは思わずドキッとしてしまうのだった。
「ふっふっふっ、カービル様も照れてますね」
「おい、なんで俺たちはこんな事をしているんだ?」
その姿を隠れて見守るのは、タンとサクラの脳筋コンビだった。ちなみにこれの発案はサクラである。先日の様子をタンから聞いて思い立ったのである。
「何を言っているの。友人の恋路は、ちゃんと見守るのが友人たる役目なんですよ」
「本気で何を言っているんだ。よく分からないから説明してくれ」
「説明なんて要りません。というか今説明したじゃないですか!」
あまりに理解力のないタンを叱るサクラ。これだけ大声で叫ぶと気付かれてしまいそうなものである。案の定ラムには気付かれていたが、ラムは気遣いができるのでスルーしているようである。できる女は違うのである。
「あっ、移動を始めるわ。追いかけますよ、タン様」
「お、おう」
サクラに引っ張られるようにして、タンも一緒になって駆けていった。
やって来たのは王都でも有名な装飾品店である。貴族の御用達と言われているそれは高いお店である。
ちなみに誕生日はどちらもまだまだ先の話だ。カービルは31ターン目、ラムにいたっては40ターン目だ。今はまだフィレン王子の誕生日パーティーが終わったばかりの16ターン目である。季節的には初夏だ。
しかし、ラムがいいと言ったが、正直この時期に装飾品店というのはむしろマイナスポイントになりかねない。大体の場合、貴族にとっての装飾品というのはジャラジャラとした宝石や貴金属なのだから。
ところが、別に装飾品といってもそういったものばかりではなかった。頭に着ける髪飾りなどのワンポイントだってある。別に悪い判断ではないと思われる。
店内を見て回るラムとカービルを、客に紛れながらサクラとタンは見守っている。ばれそうな感じだというのに、カービルは二人にまったく気が付いていないようだった。令嬢とのデートに緊張しているようである。
(まったく、あの二人はあれで気付かれてないと思っているのかしら。筋肉質のせいで目立ちますわよ)
一方のラムは、すっかりサクラとタンの姿を捉えていた。それを言わないあたり、ラムはしっかり配慮できる令嬢なのである。
はてさて、こんな状態のラムとカービルのデート。カービルはデブ専という立ち位置を維持できるのか、それともラムに本格的に魅せられるのか、緊張の一日はまだ始まったばかりである。
公爵令嬢ラムは、カービルとお出かけをする事になった。何気にこうやって二人でお出かけというのは、驚いた事に初めてになる。
それというのも、カービルがゲームの設定どおりにふくよかな方が好みだからである。
この世界のラムは、サクラから教えられた運動を続けており、筋肉質とまではいかなくても、それなりにしっかりとした体つきになっていた。あと、地味に胸がでかい。ちなみに公式絵では、明らかに太っているというのにそれでもはっきりと大きさが分かるという巨体だったのだ。痩せてもそこだけはきっちり変わらないようだった。
その上で、公爵令嬢としての所作もしっかり身に付いており、勉学もできるという完璧超人っぷりだ。何を持ってカービルはラムを拒否するのだろうか。周りから見れば理解に苦しむ状況である。
「うふふ、今日はカービル様とお出かけなのですね。楽しみですわ」
待ち合わせの場所へとやって来たラムは、とても楽しみにしているようだった。
しばらく遅れて、カービルがやって来た。その顔はどことなく不服なところがあるように見える。
「あら、カービル様。おはようございますわ」
「ああ、ラム嬢、おはよう」
「うふふ、婚約者を前にその表情は頂けませんわね。カービル様、こういう時は嘘でも笑顔を見せるものですよ」
現れたカービルに対して苦言を呈するラムである。公爵令嬢として厳しく鍛えられてきているので、世渡りに関しても結構知識があるのである。
「カービル様はお母様が大好きですものね。そのせいで太った方にしか興味を持たれない事も重々承知しております。ですが、包容力というのでしたら、太っている事が必要とは限りませんわよ」
ラムはカービルの前に人差し指を突き出しながら、諭すように話し掛けている。
「ともかく、今日はしっかりとエスコートを頼みますわよ、カービル様」
最後は後ろ手に手を組んでにこりと笑うラムである。普通の男性ならころっとやられそうな笑顔なのだが、カービルは手強かった。
「こほん、私があなたと付き合うのは、婚約者としての立場があるからです。あなたを好きになるかどうかとは、また別の話ですからね」
だが、微動だにしていないカービルかと思ったが、発言を聞く限りは動揺しているようだった。実はちょろいのではないのだろうか。
「さあ、どこに参りましょうか」
ラムがカービルに話し掛ける。
「そうだな。最近、学園の中でも噂になっている装飾品店などどうだろうか」
「あら、悪くはないですわね。では、早速参りましょう」
少し前に出たラムは、くるりと振り向いてカービルに笑顔を向ける。この笑顔に、カービルは思わずドキッとしてしまうのだった。
「ふっふっふっ、カービル様も照れてますね」
「おい、なんで俺たちはこんな事をしているんだ?」
その姿を隠れて見守るのは、タンとサクラの脳筋コンビだった。ちなみにこれの発案はサクラである。先日の様子をタンから聞いて思い立ったのである。
「何を言っているの。友人の恋路は、ちゃんと見守るのが友人たる役目なんですよ」
「本気で何を言っているんだ。よく分からないから説明してくれ」
「説明なんて要りません。というか今説明したじゃないですか!」
あまりに理解力のないタンを叱るサクラ。これだけ大声で叫ぶと気付かれてしまいそうなものである。案の定ラムには気付かれていたが、ラムは気遣いができるのでスルーしているようである。できる女は違うのである。
「あっ、移動を始めるわ。追いかけますよ、タン様」
「お、おう」
サクラに引っ張られるようにして、タンも一緒になって駆けていった。
やって来たのは王都でも有名な装飾品店である。貴族の御用達と言われているそれは高いお店である。
ちなみに誕生日はどちらもまだまだ先の話だ。カービルは31ターン目、ラムにいたっては40ターン目だ。今はまだフィレン王子の誕生日パーティーが終わったばかりの16ターン目である。季節的には初夏だ。
しかし、ラムがいいと言ったが、正直この時期に装飾品店というのはむしろマイナスポイントになりかねない。大体の場合、貴族にとっての装飾品というのはジャラジャラとした宝石や貴金属なのだから。
ところが、別に装飾品といってもそういったものばかりではなかった。頭に着ける髪飾りなどのワンポイントだってある。別に悪い判断ではないと思われる。
店内を見て回るラムとカービルを、客に紛れながらサクラとタンは見守っている。ばれそうな感じだというのに、カービルは二人にまったく気が付いていないようだった。令嬢とのデートに緊張しているようである。
(まったく、あの二人はあれで気付かれてないと思っているのかしら。筋肉質のせいで目立ちますわよ)
一方のラムは、すっかりサクラとタンの姿を捉えていた。それを言わないあたり、ラムはしっかり配慮できる令嬢なのである。
はてさて、こんな状態のラムとカービルのデート。カービルはデブ専という立ち位置を維持できるのか、それともラムに本格的に魅せられるのか、緊張の一日はまだ始まったばかりである。
6
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる