伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
276 / 500
第五章 2年目前半

第276話 疑惑の矛先は

しおりを挟む
 翌日になると、私はテールを連れて城へと赴いた。
「はい、着いたわよ」
「えっ?!」
 私の言葉に、テールは驚いた顔をしている。
 それもそのはず、さっきまで王都のファッティ伯爵邸に居たのだから。だというのに、ほんの一瞬で城の中である。何が起こったのか分からないというものだ。
「やあ、アンマリア。わざわざ私の部屋を指定して跳んでくるとは、本当に君は面白い子だね」
「ふぃ、フィレン殿下?!」
 テールはさらに混乱していく。
 そりゃまあそうよね。一瞬で城の中に移動して、そこに居たのがサーロイン王国第一王子のフィレン殿下なんだもの。
 めまいで倒れそうになるテールをどうにか支える私。ここ連日の魔力の消耗の激しさのせいでかなり痩せてしまった私では、テールを支えるのもちょっと厳しくなってきてしまった。
 これでも鍛えてるというのに、もしかしたら恩恵の魔力によって筋力も強化されていたのかも知れないわね。油断ならないものだわね……。
「それでアンマリア。父上に話というのは?」
 テールをソファーに座らせて、フィレン王子は私に本題を突っ込んできた。まったく、遠慮がなさすぎてついつい笑ってしまうわね。
「お話というのは合宿での事ですわ。なにぶん面倒な事のようですので、国王陛下に謁見させて頂きたく思うのです」
「ふむ……」
 私の話を聞いて、フィレン王子が考え込み始めた。国王に直接会うのは、やっぱり婚約者でも厳しいのかしらね。
 しばらく考え込んだフィレン王子だったが、顔を上げて私の方へと視線を向けてきた。
「分かった、すぐに取り次ぐよ」
 フィレン王子からOKが出たものの、今の間は一体何だったのかしらね。
 ともかく、私とテールは国王に謁見できる事になったので、フィレン王子の後について国王の執務室へと向かう事になった。

「父上、失礼してもよろしいでしょうか」
 フィレン王子は執務室前に立つと、扉を叩いて中へと呼び掛けていた。
「フィレンか、どうした」
「お話がございます」
 国王の問い掛けに即答するフィレン王子。すると、入室の許可が出たので私たちは執務室へと入っていった。
「おお、アンマリアか。一体今日はどうしたのだ。リブロのパーティーならまだだぞ?」
 国王は気さくに声を掛けてくるけど、私の陰に隠れているテールに気が付くと、顔をちょっとしかめていた。
「うぬ? そっちの娘は誰だ?」
 あまりにこそこそしているものだから、国王は気になったようだ。
「こちらはテール・ロートント男爵令嬢です。先日の合宿での一件の重要参考人でございます」
 国王の質問に私が答える。その間もテールは私の陰に隠れてぶるぶると震え続けていた。
「ほう、そなたがそうか。フィレン、アンマリア、当時の話をお前たちからも聞かせてくれないか?」
 改めて国王から問われた私たちは、合宿で起きた魔物襲撃の一部始終を国王へと話したのだった。
 すべてを聞いた国王の表情は、実に深刻な事ゆえにかなり曇っていた。顎を触る手が止まらないくらいである。
「……そうか。そんな大変な状況だったのか。よくぞ被害なく食い止めてくれたものだな。感謝するぞ」
「ええ、まったく大変でございました。まさか数人の魔力を使い果たすような状態になるとは思ってみませんでしたから」
 国王の言葉に返す私。しかし、当時の事を思い出すと、思わず身震いをしてしまう。私のような転生チートをもってしても、翌日1日安静にしなければならないほどの消耗をしてしまったのだから。
「ところで、テールよ」
「は、はいっ!」
 国王に名前を呼ばれて、つい飛び跳ねてしまうテール。
「覚えている限りで構わぬから、合宿のその時までにあった事を教えてくれぬか? なにせ国家の一大事なのだからな」
「は、はい。分かりまふぃた」
 あまりの緊張からか、思い切り噛んでしまうテールである。何度となく深呼吸をした後、私に対してした話を国王とフィレン王子にも話したのだった。
 その話を聞き終わった国王たちは、思い切り考え込んでしまった。
「ふむ、そうなると、そなたの父親ロートント男爵から話を聞かねばならぬな」
 国王はかなり真剣に悩んでいるようである。
 娘であるテールの事を預かっているわけだし、どのみちロートント男爵とは話をしなければならない。だが、その時にどういった説明をするのか、それが王家の方針としてはまだ定まっていないのである。実に慎重にならざるを得ない話だった。
「国王陛下、テール様については重要参考人として身柄を拘束したと伝えておくべきでしょう。実際、多くの目撃証言が上がっている以上、これは覆せないでしょうから」
「ううむ、だが、その後はどうするというのだ」
 私の意見に渋る国王である。
「当面はうちで預かります。ロートント男爵に疑惑がある以上、テール様を家に帰すわけには参りませんからね」
「うむ、アンマリアの家なら、まあ大丈夫か。ならばそれでいこうか」
 悩んだ国王だったが、私の決意を秘めた瞳に結局了承してくれたのだった。
 それが決まれば、テールの身に着けていたブローチの分析だわ。何か分かれば前進するんだろうけど。
 とにかく、正念場ね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...