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第六章 2年目後半
第317話 そういえば冬でしたね
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エスカの淹れたハーブティーは意外と好評だった。
「うーん、趣味でやっていたハーブだけど、役に立ったと思うと嬉しいものね」
食事の終わったエスカは、満足そうに背伸びをしていた。本当に見るからに嬉しそうな満面の笑みだった。
「エスカがそんな事してたなんて知らなかったわね。詳しいの?」
「そこら辺の人よりは詳しいわ。アロマにも手を出してたから、そっちもしてみたいんだけどね」
なんだかいつも以上にやる気に満ちているエスカだった。これを勉強にも発揮してくれれば赤点回避できるはずなのに……。学校の勉強は嫌いなタイプなのね、きっと。
「アロマだったら私も興味があるわね。やり方教えてもらえないかしら。私の魔法なら作るの簡単だと思うし」
「それは助かるわ。いろいろ工程が面倒だからね」
私とエスカがため口で話しているのを、実は後ろでモモとタミールが見ていた。私たちはあれこれと話をしていたせいで、部屋に戻ってモモに指摘されるまで気が付かなったのだった。
「うふふ、モモだって私と砕けた喋り方をしてもいいのですからね」
「あうあう……。それはさすがに、ふ、不敬です!」
エスカがごまかそうとして提案していたのだけど、モモからはあっさり断られてしまった。少し残念そうな表情のエスカである。
部屋に戻ったところで、やる事がなくなったのかくつろぐ私たち。しばらくすると、エスカは急に口を開く。
「はあ……、せっかくだからアロマも作ってみたいけどさすがにそんな設備を作るとなると大変よねぇ?」
「どうやって作るのよ、アロマって……」
エスカの戯言に、私が質問する。ところが、そこにモモが口を挟んできた。
「あの、アロマって何なんですか?」
この世界には無いものだからなのか、モモは本当に分からないという困った顔をしていた。
「アロマっていうのは、植物に含まれる香り成分を抽出したものっていえばいいのかしらね。基本的に心を落ち着かせる香りの事を指すわ」
「ふむふむ……」
エスカの説明を真剣に聞くモモ。
「さっきのハーブが口に入れるものであるのに対して、ここ、鼻で感じるものがアロマというわけね」
「なるほどです」
モモは元気よく反応している。
「それにしても、今冬よね? よくこんなにハーブが採れたと思うわ」
確かにそう言われればそうだった。今は1年の最後の45ターン目から46ターン目の切り替わりの時期だ。真冬なので、基本的に雪に閉ざされる時期だった。
「それはですね、ファッティ伯爵家が花が好きだからです」
突如として聞こえてきた声に、私たちは勢いよく振り向く。そこに立っていのは伯母だった。
「あら、ごめんなさい。花の話が聞こえてきたので、つい割り入ってしまいましたわ」
笑いながら謝罪をする伯母である。
「花が好きな事もありますが、ファッティ家にはもう一つの使命があるのですよ」
「そ、それは何なのですか?」
伯母の言葉が気になるので、私は鼻息を荒くして伯母に問い掛ける。それに対して伯母はクスッと笑いながらも答えてくれる。
「王家に花を届ける事……。それがファッティ家の使命なのですよ」
思わず目が点になる私たち。
「王家の食料庫とも言えるのは、何もボンジール商会を抱えるテトリバー家だけではありません。ファッティ家もこのサーロイン王国の食料事情を支えているのです。第一、アンマリアたちがあれだけ丸々太れたのも、この領地の農業あっての事なのですよ?」
「うぐっ……」
伯母にこう言われて言葉に窮する私。いやまぁ、恩恵の事があったとはいえ、丸々太っていた事は事実なので何も言い返せなかった。
「さすがに領地全体というわけには参りませんが、このファッティ伯爵邸の庭だけは、その特別な加護を受けているのですよ」
伯母はそう話し切ると、ふわりとした表情で微笑んでいた。
「それで、エスカ王女。先程話していたアロマとやらはどのようなものなのですか?」
おっと、全部伯母に聞かれていたようだった。
ところが、エスカは怯むどころか、目を輝かせて伯母に対して話をし始めた。よっぽどアロマについて語りたかったらしい。伯母も伯母で、そのエスカの説明を熱心に聞いていた。自分もファッティ家の一員として何かがしたいという事なのだろうか。
「あらあら、そうなのですね。それは面白そうですね」
「そうでしょう、そうでしょう。普段なら捨てている部分も役に立ちますからね」
「ええ、とても興味があります。もっと詳しく聞きたいですので、お部屋にどうでしょうかね」
伯母はそう言うと、エスカの腕を掴んでいた。
「アンマリア、モモ。あなたたちも来なさい。ボンジール商会での腕前、見させてもらいたいですからね」
「わ、分かりました、おば様」
伯母の強引な誘いもあってか、私たちは再び館の中へと入っていった。
この後、エスカが軽い気持ちで言っていたアロマの生産。それが伯母の耳に入った事で本格的な事業へと発展しようとしていた。はたして、このアロマはファッティ伯爵領の産業として根付くのだろうか……。
「うーん、趣味でやっていたハーブだけど、役に立ったと思うと嬉しいものね」
食事の終わったエスカは、満足そうに背伸びをしていた。本当に見るからに嬉しそうな満面の笑みだった。
「エスカがそんな事してたなんて知らなかったわね。詳しいの?」
「そこら辺の人よりは詳しいわ。アロマにも手を出してたから、そっちもしてみたいんだけどね」
なんだかいつも以上にやる気に満ちているエスカだった。これを勉強にも発揮してくれれば赤点回避できるはずなのに……。学校の勉強は嫌いなタイプなのね、きっと。
「アロマだったら私も興味があるわね。やり方教えてもらえないかしら。私の魔法なら作るの簡単だと思うし」
「それは助かるわ。いろいろ工程が面倒だからね」
私とエスカがため口で話しているのを、実は後ろでモモとタミールが見ていた。私たちはあれこれと話をしていたせいで、部屋に戻ってモモに指摘されるまで気が付かなったのだった。
「うふふ、モモだって私と砕けた喋り方をしてもいいのですからね」
「あうあう……。それはさすがに、ふ、不敬です!」
エスカがごまかそうとして提案していたのだけど、モモからはあっさり断られてしまった。少し残念そうな表情のエスカである。
部屋に戻ったところで、やる事がなくなったのかくつろぐ私たち。しばらくすると、エスカは急に口を開く。
「はあ……、せっかくだからアロマも作ってみたいけどさすがにそんな設備を作るとなると大変よねぇ?」
「どうやって作るのよ、アロマって……」
エスカの戯言に、私が質問する。ところが、そこにモモが口を挟んできた。
「あの、アロマって何なんですか?」
この世界には無いものだからなのか、モモは本当に分からないという困った顔をしていた。
「アロマっていうのは、植物に含まれる香り成分を抽出したものっていえばいいのかしらね。基本的に心を落ち着かせる香りの事を指すわ」
「ふむふむ……」
エスカの説明を真剣に聞くモモ。
「さっきのハーブが口に入れるものであるのに対して、ここ、鼻で感じるものがアロマというわけね」
「なるほどです」
モモは元気よく反応している。
「それにしても、今冬よね? よくこんなにハーブが採れたと思うわ」
確かにそう言われればそうだった。今は1年の最後の45ターン目から46ターン目の切り替わりの時期だ。真冬なので、基本的に雪に閉ざされる時期だった。
「それはですね、ファッティ伯爵家が花が好きだからです」
突如として聞こえてきた声に、私たちは勢いよく振り向く。そこに立っていのは伯母だった。
「あら、ごめんなさい。花の話が聞こえてきたので、つい割り入ってしまいましたわ」
笑いながら謝罪をする伯母である。
「花が好きな事もありますが、ファッティ家にはもう一つの使命があるのですよ」
「そ、それは何なのですか?」
伯母の言葉が気になるので、私は鼻息を荒くして伯母に問い掛ける。それに対して伯母はクスッと笑いながらも答えてくれる。
「王家に花を届ける事……。それがファッティ家の使命なのですよ」
思わず目が点になる私たち。
「王家の食料庫とも言えるのは、何もボンジール商会を抱えるテトリバー家だけではありません。ファッティ家もこのサーロイン王国の食料事情を支えているのです。第一、アンマリアたちがあれだけ丸々太れたのも、この領地の農業あっての事なのですよ?」
「うぐっ……」
伯母にこう言われて言葉に窮する私。いやまぁ、恩恵の事があったとはいえ、丸々太っていた事は事実なので何も言い返せなかった。
「さすがに領地全体というわけには参りませんが、このファッティ伯爵邸の庭だけは、その特別な加護を受けているのですよ」
伯母はそう話し切ると、ふわりとした表情で微笑んでいた。
「それで、エスカ王女。先程話していたアロマとやらはどのようなものなのですか?」
おっと、全部伯母に聞かれていたようだった。
ところが、エスカは怯むどころか、目を輝かせて伯母に対して話をし始めた。よっぽどアロマについて語りたかったらしい。伯母も伯母で、そのエスカの説明を熱心に聞いていた。自分もファッティ家の一員として何かがしたいという事なのだろうか。
「あらあら、そうなのですね。それは面白そうですね」
「そうでしょう、そうでしょう。普段なら捨てている部分も役に立ちますからね」
「ええ、とても興味があります。もっと詳しく聞きたいですので、お部屋にどうでしょうかね」
伯母はそう言うと、エスカの腕を掴んでいた。
「アンマリア、モモ。あなたたちも来なさい。ボンジール商会での腕前、見させてもらいたいですからね」
「わ、分かりました、おば様」
伯母の強引な誘いもあってか、私たちは再び館の中へと入っていった。
この後、エスカが軽い気持ちで言っていたアロマの生産。それが伯母の耳に入った事で本格的な事業へと発展しようとしていた。はたして、このアロマはファッティ伯爵領の産業として根付くのだろうか……。
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