353 / 500
第七章 3年目前半
第353話 聞き流された発言
しおりを挟む
メチルの話はまだ続いている。
「私以外で活発に動いているのは、サーロイン王国の中に入り込んだテトロですね。呪具の扱いに長けている魔族です」
「そっか、テールとその家族に呪具を仕掛けたのはそいつってわけね……。許せないわね」
メチルの証言に、エスカが苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「ゲームの中での彼の動きは、王子の誕生日パーティーに乗じて反乱を起こす事です。サーロインの三人の辺境伯の誰かを呪具で操って仕掛ける事になります。もうそろそろフィレン王子の誕生日ですので、起きるとすればそこかと」
「なんて事なの」
説明を聞いたサキが声を上げている。
「ただ、この辺りはなぜか覚えていないんですよね。特定だったかもしれないし、ランダムだったかもしれない。とにかく、辺境伯の誰かが騒ぎを起こす事になると思われます」
これにはさすがに場が静まり返ってしまう。私は先に聞いていたとはいえ、伝手がない。伝えたとしても信じてもらえるか分からなかったので、手の打ちようがなかった。
「テッテイの様子は見てきましたけれど、特に変わった様子はなかったのでこちらは問題なさそうですね」
メチルの証言に、私やサキはほっとひと安心だった。なにせ友人の家なのだから、気になってしょうがないというものだ。
しかし、サーロイン王国には辺境伯は三家存在する。北西のバッサーシ家、南のサングリエ家、そして北東である。
北東の国はゲーム中にまったく出てこないとはいっても、ここは現実世界。警戒をしておくに越した事はない。
「私が柑橘の香りで気分が悪くなったように、おそらくは柑橘の香りがあればテトロや呪具の力を軽減や無効化ができるかと思います。実際、バッサーシ辺境伯邸の柑橘の香りの漂う魔石はかなり強力でしたからね」
思い出したメチルの顔が青ざめていた。
その顔を見て私は思った。どんだけ魔族にとって柑橘が毒なのよ、と。
しかし、そのメチルの顔のおかげで、魔族に対する対抗手段が見つかったのだ。これは吉報と受け取るべきかしらね。
だけど、私以上に嬉しそうな顔をしているのがエスカだった。
それもそうでしょうね。なんといってもエスカはアロマを売り込もうとしていたのだから。そのアロマのために目をつけたのが、ファッティ領の柑橘類。その柑橘類が魔族特効を持っているとなると、そりゃそうなるわよねといった感じである。とにかく笑顔が怖い。
「うふふふ、ここは私の出番のようですね。前世の趣味たるアロマを徹底的に広めてあげるわよ」
「あら、エスカ王女もアロマをたしなんでいましたのね」
不気味な笑みで呟くエスカの言葉に反応するメチルである。
「社畜には癒しが必要なのよ」
「分かります」
拳を握りしめながら訴えるエスカに、即同意するメチルである。どうやら気が合ってしまったようである。
「前世とか、社畜とか、一体どういう事なのですか?」
エスカが思わず漏らしてしまった言葉に、ベジタリウス王妃とサキが反応してしまっていた。そういえば、この世界の人物もいたのである。エスカってば、ついそれを忘れてしまっていたようだった。
「エスカ、本当に不用心ですね」
しまったという顔をしているエスカに対して、ミズーナ王女が両手を腰に当てながら呆れていた。
「この際だから言ってしまいます。私とアンマリア、それとエスカも、メチルと同じように前世持ちなのですよ」
「えっ、ええ?!」
ミズーナ王女が爆弾発言をすると、サキが目を丸くして顎が外れんばかりに叫んでいた。
「やっぱり、熱を出した時に娘は死んだのですね」
「お母様、私は死んでいませんよ。死にかけはしましたけれど」
ベジタリウス王妃の言葉を即否定するミズーナ王女である。
「あらそうでしたのね。ごめんなさい」
「さっきのメチルの話からすればそう思うでしょうけれど、本当に死んでませんから」
ミズーナ王女の手がツッコミの形で虚しく宙を叩いている。間にメチルが居るので、王妃にはどうしても届かないからだ。
「とりあえずその話はいいとしましょう。問題は魔王とその配下の魔族をどうにかする事なんですから」
話が逸れそうになるので、私は必死に話を戻す。
「そうね。とりあえずは私の魔法を使ってアロマを大量に作っておきましょうか」
「それがいいと思いますね。搾る時に大量の香りが浮かぶので、魔石に吸着させておけばそれも魔族除けにできそうですし」
「あっ、もしかしてバッサーシ辺境伯邸の食堂の香りの原因って……」
「ええ、あそこにその香りの魔石を置いたんですよ。みんな集まる場所だからそこがいいだろうということでね」
思い出したように話すメチルに、私は事情を説明しておいた。
「確かに、食堂はたくさんの人が集まりますし、ほぼ確実に1日1回は立ち入りますものね」
ベジタリウス王妃も納得している様子だった。
流れのせいではあったものの、この世界の人間に転生者だという事をばらしてしまった。とはいえ、話の内容のせいでかなりさらっと流されてしまったようだった。
とにかく私たちは、これから起こるだろう魔族たちの襲撃に備えての対策をしっかりと話し合ったのだった。
「私以外で活発に動いているのは、サーロイン王国の中に入り込んだテトロですね。呪具の扱いに長けている魔族です」
「そっか、テールとその家族に呪具を仕掛けたのはそいつってわけね……。許せないわね」
メチルの証言に、エスカが苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「ゲームの中での彼の動きは、王子の誕生日パーティーに乗じて反乱を起こす事です。サーロインの三人の辺境伯の誰かを呪具で操って仕掛ける事になります。もうそろそろフィレン王子の誕生日ですので、起きるとすればそこかと」
「なんて事なの」
説明を聞いたサキが声を上げている。
「ただ、この辺りはなぜか覚えていないんですよね。特定だったかもしれないし、ランダムだったかもしれない。とにかく、辺境伯の誰かが騒ぎを起こす事になると思われます」
これにはさすがに場が静まり返ってしまう。私は先に聞いていたとはいえ、伝手がない。伝えたとしても信じてもらえるか分からなかったので、手の打ちようがなかった。
「テッテイの様子は見てきましたけれど、特に変わった様子はなかったのでこちらは問題なさそうですね」
メチルの証言に、私やサキはほっとひと安心だった。なにせ友人の家なのだから、気になってしょうがないというものだ。
しかし、サーロイン王国には辺境伯は三家存在する。北西のバッサーシ家、南のサングリエ家、そして北東である。
北東の国はゲーム中にまったく出てこないとはいっても、ここは現実世界。警戒をしておくに越した事はない。
「私が柑橘の香りで気分が悪くなったように、おそらくは柑橘の香りがあればテトロや呪具の力を軽減や無効化ができるかと思います。実際、バッサーシ辺境伯邸の柑橘の香りの漂う魔石はかなり強力でしたからね」
思い出したメチルの顔が青ざめていた。
その顔を見て私は思った。どんだけ魔族にとって柑橘が毒なのよ、と。
しかし、そのメチルの顔のおかげで、魔族に対する対抗手段が見つかったのだ。これは吉報と受け取るべきかしらね。
だけど、私以上に嬉しそうな顔をしているのがエスカだった。
それもそうでしょうね。なんといってもエスカはアロマを売り込もうとしていたのだから。そのアロマのために目をつけたのが、ファッティ領の柑橘類。その柑橘類が魔族特効を持っているとなると、そりゃそうなるわよねといった感じである。とにかく笑顔が怖い。
「うふふふ、ここは私の出番のようですね。前世の趣味たるアロマを徹底的に広めてあげるわよ」
「あら、エスカ王女もアロマをたしなんでいましたのね」
不気味な笑みで呟くエスカの言葉に反応するメチルである。
「社畜には癒しが必要なのよ」
「分かります」
拳を握りしめながら訴えるエスカに、即同意するメチルである。どうやら気が合ってしまったようである。
「前世とか、社畜とか、一体どういう事なのですか?」
エスカが思わず漏らしてしまった言葉に、ベジタリウス王妃とサキが反応してしまっていた。そういえば、この世界の人物もいたのである。エスカってば、ついそれを忘れてしまっていたようだった。
「エスカ、本当に不用心ですね」
しまったという顔をしているエスカに対して、ミズーナ王女が両手を腰に当てながら呆れていた。
「この際だから言ってしまいます。私とアンマリア、それとエスカも、メチルと同じように前世持ちなのですよ」
「えっ、ええ?!」
ミズーナ王女が爆弾発言をすると、サキが目を丸くして顎が外れんばかりに叫んでいた。
「やっぱり、熱を出した時に娘は死んだのですね」
「お母様、私は死んでいませんよ。死にかけはしましたけれど」
ベジタリウス王妃の言葉を即否定するミズーナ王女である。
「あらそうでしたのね。ごめんなさい」
「さっきのメチルの話からすればそう思うでしょうけれど、本当に死んでませんから」
ミズーナ王女の手がツッコミの形で虚しく宙を叩いている。間にメチルが居るので、王妃にはどうしても届かないからだ。
「とりあえずその話はいいとしましょう。問題は魔王とその配下の魔族をどうにかする事なんですから」
話が逸れそうになるので、私は必死に話を戻す。
「そうね。とりあえずは私の魔法を使ってアロマを大量に作っておきましょうか」
「それがいいと思いますね。搾る時に大量の香りが浮かぶので、魔石に吸着させておけばそれも魔族除けにできそうですし」
「あっ、もしかしてバッサーシ辺境伯邸の食堂の香りの原因って……」
「ええ、あそこにその香りの魔石を置いたんですよ。みんな集まる場所だからそこがいいだろうということでね」
思い出したように話すメチルに、私は事情を説明しておいた。
「確かに、食堂はたくさんの人が集まりますし、ほぼ確実に1日1回は立ち入りますものね」
ベジタリウス王妃も納得している様子だった。
流れのせいではあったものの、この世界の人間に転生者だという事をばらしてしまった。とはいえ、話の内容のせいでかなりさらっと流されてしまったようだった。
とにかく私たちは、これから起こるだろう魔族たちの襲撃に備えての対策をしっかりと話し合ったのだった。
21
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる