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第七章 3年目前半
第386話 衝撃的光景
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ある程度魔力を流すと、地面が激しく揺れ始める。
私たちは魔王の復活に備えて構えているものの、揺れが激しすぎるためにとてもじゃないけれど立っていられなかった。
「あわわわわ……」
地震に慣れていないサキは青ざめた様子で地面にしゃがみ込んでいる。サクラも耐えてはいるけれども、顔色が悪かった。
当然ながら、後ろの兵士たちも持っている剣を落としてしまった上で尻餅をついていた。
影響がないのは空を飛んでいるアルーだけだった。
やがて、魔力を流し込んだエスカがその場に座り込む。顔色がかなり悪く、相当に魔力を消耗したのが見て取れる。
突然、ズドンと大きく縦に揺れる。
「きゃああっ!」
あまりの衝撃にサキだけではなくメチルも叫び声を上げていた。あとは兵士たちもあわあわと動揺している。
そんな中、私とサクラの二人が揺れの中心地をじっと眺めている。
「アンマリア様、……来ます」
「そのようですね、サクラ様」
私は立ち上がり、サクラと一緒に魔石剣を構える。私も一応護身用に魔石剣を持っているのよ。
警戒をしていると、しゅばっと何か黒い影が目の前に飛び出してきた。そして、その影は空中でぴたりと止まる。
「ふふふっ、我、復活ぞ!」
その影は力いっぱいに大げさにポーズを取っている。
そこにあった姿は、思いの外小さかった。
「あれが、魔王?」
「思ったよりも私たちと体の大きさが変わりませんね」
「でも、魔力は明らかに強いです。油断はいけませんよ」
私たちは視線を互いに向け合いながら、あれこれ感想を言い合っている。
次の瞬間、その背中に黒くて大きな翼が展開される。それを見て、初めて魔王だとはっきり認識できたのだった。
「さて、完全復活をしたのだ。何からしてくれようかな……」
魔王は上空からきょろきょろと地上を見下ろしている。
「……そうだな。そこな裏切者から始末してやろうか」
魔王は上空からメチルを見下ろしている。自分が見られているとはっきりと分かったメチルは、その圧力に息苦しくなってその場にしゃがみ込んでしまった。
「ふははは、恐怖で動けぬか。安心しろ、死ぬのは一瞬だ。ひと思いに楽にしてくれる!」
高笑いをする魔王が、メチルに向けて魔法を使おうとしたその瞬間だった。
「ぬおっ?!」
急に魔王が姿勢崩す。そして、そのまま地面へと叩き落とされてしまった。
一体何が起きたのか、私たちにはまったく分からなかった。
「ぐはっ……。なんだ、体が重いぞ」
地面に這いつくばる魔王。なかなか立ち上がれないその姿に、何が起こったのかようやく理解できたのだった。
「あらあら、寝起きからお痛をするのね……」
エスカである。なんだか雰囲気が怖いんですけれど?!
なんとも『ゴゴゴゴゴゴゴ……』という文字を幻視してしまうくらいの空気をまとったエスカだわ。
その雰囲気のまま、地面に叩きつけられた魔王に近付いていく。
「うふふふ、なかなか顔がよろしいではございませんか」
座り込んで魔王の顔を覗き込むエスカ。
さっきまで魔力を使い果たしたかのように座り込んでませんでしたっけかね。なんでそんなに元気になっているのか不思議でならなかった。
「約束も果たさないで、なに勝手なことをしているのでしょうかね。さすがの面食いの私でも、ちょっとキレちゃいましたわ」
にたーっと笑っているエスカ。
どうやら、復活のために魔力を捧げたら、メチルの両親を解放するという約束が果たされていないことに腹を立てているようだ。
「な、なんだこの魔法は。お前、何をした。我を解放しろ」
「嫌ですよぉ? 約束を守ってくれない方の願いなんて、聞く耳持ちませんわよ」
悪い笑みを浮かべるエスカ。これではどちらが悪役か分からない。
それにしても、ヒロインや聖女たちが六人がかりでもギリギリという相手に対して、エスカは一人で圧倒してみせていた。これがゲームと現実の違いというやつなのかしらね。
「イケメンなら何でも許されると思っているのなら、大した思い上がりですわね。それが許されるのは二次元の話ですわ!」
エスカは大声で叫ぶと、魔王の襟首を掴み上げて往復ビンタを食らわせている。なかなかにえげつない絵面のようで、メチルは青ざめているし、サクラですらドン引きだった。
予想外の展開に、さすがの魔王も混乱している。
「や、やめろ。やめてくれ」
まさかの魔王が許しを乞う展開である。これには思わず点目になってしまう私たち。
魔王がその強力な魔法を行使できないまま一方的に叩かれている光景というのは、おそらく誰も見た事がない光景だろう。私たちは歴史的瞬間に立ち会っていたのだった。
「うふふふ。やめてほしいのなら、メチルの両親を元に戻しなさい。それと……」
「それと?」
エスカは魔王に凄みながら、条件を提示している。あの魔王が震えながらそれを聞いている。
その直後、エスカの口からとんでもない発言が飛び出した。
「私のお相手になってもらおうかしらね。強くてイケメンでかっこいいんですもの。逃す手はないわ」
エスカのこの発言に、その場は大きなどよめきに包まれたのだった。
私たちは魔王の復活に備えて構えているものの、揺れが激しすぎるためにとてもじゃないけれど立っていられなかった。
「あわわわわ……」
地震に慣れていないサキは青ざめた様子で地面にしゃがみ込んでいる。サクラも耐えてはいるけれども、顔色が悪かった。
当然ながら、後ろの兵士たちも持っている剣を落としてしまった上で尻餅をついていた。
影響がないのは空を飛んでいるアルーだけだった。
やがて、魔力を流し込んだエスカがその場に座り込む。顔色がかなり悪く、相当に魔力を消耗したのが見て取れる。
突然、ズドンと大きく縦に揺れる。
「きゃああっ!」
あまりの衝撃にサキだけではなくメチルも叫び声を上げていた。あとは兵士たちもあわあわと動揺している。
そんな中、私とサクラの二人が揺れの中心地をじっと眺めている。
「アンマリア様、……来ます」
「そのようですね、サクラ様」
私は立ち上がり、サクラと一緒に魔石剣を構える。私も一応護身用に魔石剣を持っているのよ。
警戒をしていると、しゅばっと何か黒い影が目の前に飛び出してきた。そして、その影は空中でぴたりと止まる。
「ふふふっ、我、復活ぞ!」
その影は力いっぱいに大げさにポーズを取っている。
そこにあった姿は、思いの外小さかった。
「あれが、魔王?」
「思ったよりも私たちと体の大きさが変わりませんね」
「でも、魔力は明らかに強いです。油断はいけませんよ」
私たちは視線を互いに向け合いながら、あれこれ感想を言い合っている。
次の瞬間、その背中に黒くて大きな翼が展開される。それを見て、初めて魔王だとはっきり認識できたのだった。
「さて、完全復活をしたのだ。何からしてくれようかな……」
魔王は上空からきょろきょろと地上を見下ろしている。
「……そうだな。そこな裏切者から始末してやろうか」
魔王は上空からメチルを見下ろしている。自分が見られているとはっきりと分かったメチルは、その圧力に息苦しくなってその場にしゃがみ込んでしまった。
「ふははは、恐怖で動けぬか。安心しろ、死ぬのは一瞬だ。ひと思いに楽にしてくれる!」
高笑いをする魔王が、メチルに向けて魔法を使おうとしたその瞬間だった。
「ぬおっ?!」
急に魔王が姿勢崩す。そして、そのまま地面へと叩き落とされてしまった。
一体何が起きたのか、私たちにはまったく分からなかった。
「ぐはっ……。なんだ、体が重いぞ」
地面に這いつくばる魔王。なかなか立ち上がれないその姿に、何が起こったのかようやく理解できたのだった。
「あらあら、寝起きからお痛をするのね……」
エスカである。なんだか雰囲気が怖いんですけれど?!
なんとも『ゴゴゴゴゴゴゴ……』という文字を幻視してしまうくらいの空気をまとったエスカだわ。
その雰囲気のまま、地面に叩きつけられた魔王に近付いていく。
「うふふふ、なかなか顔がよろしいではございませんか」
座り込んで魔王の顔を覗き込むエスカ。
さっきまで魔力を使い果たしたかのように座り込んでませんでしたっけかね。なんでそんなに元気になっているのか不思議でならなかった。
「約束も果たさないで、なに勝手なことをしているのでしょうかね。さすがの面食いの私でも、ちょっとキレちゃいましたわ」
にたーっと笑っているエスカ。
どうやら、復活のために魔力を捧げたら、メチルの両親を解放するという約束が果たされていないことに腹を立てているようだ。
「な、なんだこの魔法は。お前、何をした。我を解放しろ」
「嫌ですよぉ? 約束を守ってくれない方の願いなんて、聞く耳持ちませんわよ」
悪い笑みを浮かべるエスカ。これではどちらが悪役か分からない。
それにしても、ヒロインや聖女たちが六人がかりでもギリギリという相手に対して、エスカは一人で圧倒してみせていた。これがゲームと現実の違いというやつなのかしらね。
「イケメンなら何でも許されると思っているのなら、大した思い上がりですわね。それが許されるのは二次元の話ですわ!」
エスカは大声で叫ぶと、魔王の襟首を掴み上げて往復ビンタを食らわせている。なかなかにえげつない絵面のようで、メチルは青ざめているし、サクラですらドン引きだった。
予想外の展開に、さすがの魔王も混乱している。
「や、やめろ。やめてくれ」
まさかの魔王が許しを乞う展開である。これには思わず点目になってしまう私たち。
魔王がその強力な魔法を行使できないまま一方的に叩かれている光景というのは、おそらく誰も見た事がない光景だろう。私たちは歴史的瞬間に立ち会っていたのだった。
「うふふふ。やめてほしいのなら、メチルの両親を元に戻しなさい。それと……」
「それと?」
エスカは魔王に凄みながら、条件を提示している。あの魔王が震えながらそれを聞いている。
その直後、エスカの口からとんでもない発言が飛び出した。
「私のお相手になってもらおうかしらね。強くてイケメンでかっこいいんですもの。逃す手はないわ」
エスカのこの発言に、その場は大きなどよめきに包まれたのだった。
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