伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
402 / 500
第八章 3年生後半

第402話 無理なものは無理ですね

しおりを挟む
 翌日の私は、剣術大会の観戦に向かう。
 そこでテールを見かけたので、私は声を掛ける。
「テール様、こちらにいらしたのですね」
「アンマリア様。どうぞお隣が空いていますよ」
「では、失礼致しますわ」
 テールの誘いを受けて、私は隣に座る。
「テール様はもう観戦ですのね」
「はい。昨日の3回戦で負けてしまいました。さすがに私の実力では敵いませんでしたね」
「そうなのですね」
 さっぱりとした感じで話すテールに、私は少し安心している。
「アンマリア様もご観戦なのですか?」
「ええ、私も3回戦で負けてしまいましたのでね。さすがにタン様相手では厳しすぎましたわ」
「わわわっ、タン様と戦われたのですか? それは、仕方ございませんね」
 さすがに一緒に鍛錬をしていただけに、テールもタンの実力がよく分かっている。それがゆえにものすごくすんなり納得してくれたようだった。

 少し話し込んだ私たちは、会場の真ん中へと視線を向ける。
 そこには、ちょうどサクラが登場しているようだった。
「今日は準々決勝から決勝までを一気に消化しますからね。試合間隔が詰まりますから、体力勝負になってきますね」
「そうですね。ですけれど、残られた方はどなたもその辺りは心配なさそうな方ばかりですね」
 テールの言う通りだわね。
 フィレン王子を除けば、将来的には騎士を目指すような方ばかり。さすがにこの程度は余裕でこなせる学生ばかりなのである。
 さて、サクラの対戦相手は誰なのかしらね。
 私はサクラの反対側へと視線を向ける。そこには思ってもみない人物が現れた。
「まあ、あれはレッタス殿下ですね。ベジタリウス王国の王子様もご参加されていたのですね」
 テールが驚いていた。確かに意外といえば意外な感じだった。
 ミズーナ王女と同様に、どちらかといえば魔法型な印象を受けたからだった。まさか剣術大会に参加して、準々決勝まで勝ち進んでくるとは思ってもみなかった。
「そういえば武術型に通われてましたね」
 今さらながらに思い出す私である。
「アンマリア様は昨日ご観戦ではありませんでしたものね。すごかったですよ、レッタス殿下の剣捌きは」
「へえ、それはとても楽しみですね。さて、サクラ様に通じるかは別な問題ですけれども」
「そ、そうですね」
 私がじっとサクラたちに視線を向けると、テールは苦笑いを浮かべながら同じように視線を向けた。
 ベジタリウス王国の王子と、それと隣接する領地を治める辺境伯の娘の対決は、この準々決勝の注目カードのひとつらしい。
 この闘技場内の観客の数は、かなり膨れ上がっているようだった。
 この後には、私に勝ったタンも控えているし、フィレン王子だって出てくる。注目株が多すぎるから、それは自然と人が集まってしまうというわけだった。
 そんな注目が集まる中、サクラとレッタス王子の試合が始まる。
「やあ、妹と仲良くしてくれているようで、ありがとう」
「いえいえ、お礼を言われるほどではございません」
「バッサーシ辺境伯の娘だからどんなかと思ったけど、意外と謙虚なんだね」
「よく言われます。お父様はもちろん、叔母様もあんな感じですからね」
 レッタス王子の言葉ににこやかな笑みを浮かべるサクラ。
「だからといいましても、私の実力を甘く見ないで下さいませ」
「そうだね。せっかくだからじっくり直に見させてもらおうじゃないか」
 二人の会話が終わったところで、審判の合図が入る。
 試合開始と同時に揃って飛び込む。激しく剣がぶつかり合っている。
 さすがに準々決勝ともなれば実力者の集まりなので、試合も見ごたえのあるものになる。
 さっきすっ飛ばした第1試合だって、それは見ごたえのあるものだった。ただ、知り合いが出ていなかったので描写はなかったのよ。
 そんな事よりも目の前のサクラとレッタス王子の戦いね。
 レッタス王子の実力ははっきり言って予想よりも上だった。あのサクラ相手に一歩も引けを取っていないんだもの。
 でも、それはうわべだけの印象ね。サクラってば笑ってるんだもの。
 つまり、サクラはかなり軽くいなしているって状態だった。隣国の王子相手に舐めプですか。さすがは規格外、バッサーシ辺境伯の血筋だわ。
 時間が経つにつれて、レッタス王子の表情は険しくなっていく。それに対してサクラの表情はまだまだ余裕。これは勝負あったわね。
「うわっ!」
 そう思った時、レッタス王子の持つ剣が弾かれる。そして、サクラに剣を突きつけられてしまったレッタス王子。
「まいったね。さすがは辺境伯令嬢、参りました」
「勝者、サクラ・バッサーシ!」
 両手を上げて降参するレッタス王子。それと同時にサクラの勝ち名乗りが響き渡る。
 すると会場の中は割れんばかりの大歓声。
 相手が隣国の王子だという事を忘れるくらいに白熱した試合だったのだ。
「まったく、どのみち王子対決はできなかったんだろうな」
「多分無理ですね。タン様がいらっしゃいますから」
 どうやらレッタス王子はフィレン王子との対決を願っていた模様。しかし、さすがにサーロイン王国最強のバッサーシ辺境伯の力の前には及ばなかったのだった。
 二人が握手を交わすと、会場内はもう一度大きな拍手と歓声に包まれたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...