451 / 500
第九章 拡張版ミズーナ編
第451話 夏合宿を前に
しおりを挟む
あっという間に前期が終わりを迎える。
当然ながら前期末試験ではエスカが頭から煙を上げてぶっ倒れていた。どれだけ座学が苦手なのかと毎回思う。これで残るは後期試験だが、最後まで心配になる状態だった。
「まったく何をやっているのだ、この小娘は」
「あら、誰かと思えば魔王ではないですか。どうしてこちらにいらしているのですか」
ミズーナ王女が、突如姿を現した魔王に問い掛けている。
「あらかたやる事が済んだのでな、我を倒した小娘の様子を見に来たのだ」
「あらあら、あなたにもそんな感情があるのですね」
「貴様なぁ……。我とて魔族といわれる種族の王ぞ。その伴侶の状態は権威に影響するのだぞ」
魔王は怒っているような口調で話している。
「それは理解できますね」
ミズーナ王女はさらっと答えていた。同じ考えを持っているようだった。
「とはいっても、今この世界にいる魔族は、あなたとメチルだけじゃないですか。何をそんなに気にする必要がありますか?」
「ぐっ……」
痛いところを突かれて、魔王は思わず胸に手を当てる。本当に痛すぎた。
「い、いずれ魔族は復活するのだ。我が居る以上その可能性は否定できまい」
「それはそうですね。悪い魔族が出てきたら、地面に埋め戻してやりますよ」
自信ありげに話す魔王に、ミズーナ王女はさらっと返しておいた。
「貴様らなら本当にやりそうだな」
怒りながら言う魔王の姿に、ついつい笑ってしまうミズーナ王女である。
「ああ、そうだわ。魔王、ちょっといいかしら」
「なんだ」
ミズーナ王女に話し掛けられて、少し不機嫌そうに返す魔王。
「せっかくですから、学園の合宿に参加しません? 今回はバッサーシ辺境伯領のクッケン湖ですからね」
「ああ、あの塩の湖か。懐かしいな」
「あら、ご存じなんですね」
「あそこは我の力が色濃く残る土地だ。それが証拠に魔物がよく出現するだろう?」
「それは興味深いですね。よく聞かせてもらえませんかね」
ミズーナ王女と魔王が話をしていると、入口の方から突然声が聞こえてきた。
「アンマリア。どうしてここに?」
「モモの誕生日の相談に来たのよ。学園の夏合宿の直前ですからね、あの子の誕生日は」
どうやらアンマリアは、王妃教育でなかなか城を抜けられないために、ミズーナ王女に相談を持ちかけようとしたようだった。現在は学生である王女たちなら、ある程度自由が利くからである。
「分かりました。では、アンマリアの代わりに出席させてもらいます」
「ええ、お願いするわ。私の家に引き取られてからというもの、ずっと私と一緒だっただけに寂しがるだろうからお願いするわ」
「任せておいて」
そんなわけで、モモの誕生日の心配がなくなったことで、アンマリアは改めてミズーナ王女と魔王を見ている。
「クッケン湖の辺りは、魔王と関連した地域なのですってね」
さっき魔王が言っていた言葉の意味を問い掛けるアンマリアである。
すると、魔王は真顔でアンマリアを見ている。
「その方、表情を見る限り、何度か魔物氾濫を経験しているようだな」
「ええ、子どもの頃と3年前の合わせて2回ですね」
「ふむ、なるほどな。去年の暮れくらいにも、一度人為的に起こした形跡があるし、思ったよりも魔物の管理権限が我から離れているようだな……」
アンマリアの話を聞いて、考え込む魔王である。
「クッケン湖近辺でなければ、2年前にも南のサングリエ辺境伯領までけしかけたパターンもありましたからね。本当にいろいろ大変でしたよ」
「そうか……」
意外と頻繁に起きていた魔物氾濫に、思わず言葉が出なくなってしまう魔王だった。
「今年も、ミール王国で呪具を原因とした魔物の襲撃がありましたからね。正直、魔王の管理能力を問われても仕方ありませんよ」
「まぁ、それは、そうだな……」
ミズーナ王女に言われ、黙り込む魔王である。
「まぁ、我の復活を願っていろいろやってくれた事だから、我としては強くは言えんのだがな。なにぶん人間の魔力が我の封印を解くカギだったのだからな」
頭を書きながら言い訳を並べる魔王である。
大きくため息をついた魔王は、ミズーナ王女へと視線を向ける。
「合宿といったが、今回は私も特別に同行してやろう。実際に自分で現場を見た方がよさそうだからな。我の眠っている間に、何かおかしなことになっているかも知れん」
「ええ、頼みますよ」
「第一、10年もしない間に魔物氾濫が二度も起きる事自体がおかしいのだ。魔物を管理するものとして見逃せぬ事態なのでな、勘違いするでないぞ」
頭をわしゃわしゃとかいた魔王は、ミズーナ王女を指差してはっきりと言っておく。
「ええ、魔物の専門家の参加は歓迎ですわ。それに、ミスミ教官がとても喜ぶと思いますのよ、魔王と戦えるとなると」
「ああ、あの人ならなりかねないわね」
にこりと微笑むミズーナ王女とは対照的に、嫌そうな表情をするアンマリアだった。
「何者かは知らないが、我に勝負を挑むというのなら歓迎するぞ。正直体を動かしたくて仕方ないからな」
魔王も魔王で前向きだった。
こうして、前期最後のイベントとなる合宿の日が迫ってきたのだった。
当然ながら前期末試験ではエスカが頭から煙を上げてぶっ倒れていた。どれだけ座学が苦手なのかと毎回思う。これで残るは後期試験だが、最後まで心配になる状態だった。
「まったく何をやっているのだ、この小娘は」
「あら、誰かと思えば魔王ではないですか。どうしてこちらにいらしているのですか」
ミズーナ王女が、突如姿を現した魔王に問い掛けている。
「あらかたやる事が済んだのでな、我を倒した小娘の様子を見に来たのだ」
「あらあら、あなたにもそんな感情があるのですね」
「貴様なぁ……。我とて魔族といわれる種族の王ぞ。その伴侶の状態は権威に影響するのだぞ」
魔王は怒っているような口調で話している。
「それは理解できますね」
ミズーナ王女はさらっと答えていた。同じ考えを持っているようだった。
「とはいっても、今この世界にいる魔族は、あなたとメチルだけじゃないですか。何をそんなに気にする必要がありますか?」
「ぐっ……」
痛いところを突かれて、魔王は思わず胸に手を当てる。本当に痛すぎた。
「い、いずれ魔族は復活するのだ。我が居る以上その可能性は否定できまい」
「それはそうですね。悪い魔族が出てきたら、地面に埋め戻してやりますよ」
自信ありげに話す魔王に、ミズーナ王女はさらっと返しておいた。
「貴様らなら本当にやりそうだな」
怒りながら言う魔王の姿に、ついつい笑ってしまうミズーナ王女である。
「ああ、そうだわ。魔王、ちょっといいかしら」
「なんだ」
ミズーナ王女に話し掛けられて、少し不機嫌そうに返す魔王。
「せっかくですから、学園の合宿に参加しません? 今回はバッサーシ辺境伯領のクッケン湖ですからね」
「ああ、あの塩の湖か。懐かしいな」
「あら、ご存じなんですね」
「あそこは我の力が色濃く残る土地だ。それが証拠に魔物がよく出現するだろう?」
「それは興味深いですね。よく聞かせてもらえませんかね」
ミズーナ王女と魔王が話をしていると、入口の方から突然声が聞こえてきた。
「アンマリア。どうしてここに?」
「モモの誕生日の相談に来たのよ。学園の夏合宿の直前ですからね、あの子の誕生日は」
どうやらアンマリアは、王妃教育でなかなか城を抜けられないために、ミズーナ王女に相談を持ちかけようとしたようだった。現在は学生である王女たちなら、ある程度自由が利くからである。
「分かりました。では、アンマリアの代わりに出席させてもらいます」
「ええ、お願いするわ。私の家に引き取られてからというもの、ずっと私と一緒だっただけに寂しがるだろうからお願いするわ」
「任せておいて」
そんなわけで、モモの誕生日の心配がなくなったことで、アンマリアは改めてミズーナ王女と魔王を見ている。
「クッケン湖の辺りは、魔王と関連した地域なのですってね」
さっき魔王が言っていた言葉の意味を問い掛けるアンマリアである。
すると、魔王は真顔でアンマリアを見ている。
「その方、表情を見る限り、何度か魔物氾濫を経験しているようだな」
「ええ、子どもの頃と3年前の合わせて2回ですね」
「ふむ、なるほどな。去年の暮れくらいにも、一度人為的に起こした形跡があるし、思ったよりも魔物の管理権限が我から離れているようだな……」
アンマリアの話を聞いて、考え込む魔王である。
「クッケン湖近辺でなければ、2年前にも南のサングリエ辺境伯領までけしかけたパターンもありましたからね。本当にいろいろ大変でしたよ」
「そうか……」
意外と頻繁に起きていた魔物氾濫に、思わず言葉が出なくなってしまう魔王だった。
「今年も、ミール王国で呪具を原因とした魔物の襲撃がありましたからね。正直、魔王の管理能力を問われても仕方ありませんよ」
「まぁ、それは、そうだな……」
ミズーナ王女に言われ、黙り込む魔王である。
「まぁ、我の復活を願っていろいろやってくれた事だから、我としては強くは言えんのだがな。なにぶん人間の魔力が我の封印を解くカギだったのだからな」
頭を書きながら言い訳を並べる魔王である。
大きくため息をついた魔王は、ミズーナ王女へと視線を向ける。
「合宿といったが、今回は私も特別に同行してやろう。実際に自分で現場を見た方がよさそうだからな。我の眠っている間に、何かおかしなことになっているかも知れん」
「ええ、頼みますよ」
「第一、10年もしない間に魔物氾濫が二度も起きる事自体がおかしいのだ。魔物を管理するものとして見逃せぬ事態なのでな、勘違いするでないぞ」
頭をわしゃわしゃとかいた魔王は、ミズーナ王女を指差してはっきりと言っておく。
「ええ、魔物の専門家の参加は歓迎ですわ。それに、ミスミ教官がとても喜ぶと思いますのよ、魔王と戦えるとなると」
「ああ、あの人ならなりかねないわね」
にこりと微笑むミズーナ王女とは対照的に、嫌そうな表情をするアンマリアだった。
「何者かは知らないが、我に勝負を挑むというのなら歓迎するぞ。正直体を動かしたくて仕方ないからな」
魔王も魔王で前向きだった。
こうして、前期最後のイベントとなる合宿の日が迫ってきたのだった。
21
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる