486 / 500
第九章 拡張版ミズーナ編
第486話 無敗の王者は手加減しない
しおりを挟む
「さて、卒業してから一年になるけど、今年の学生たちはどんな感じかな」
武術型の学生たちの前に姿を見せるサクラ。今回の試験におけるサクラの格好は、どういうわけか女子の制服そのものだった。
貴族令嬢の着る服だけあって、それなりにひらひらとした服であり、かかとも高いブーツを履いている。見るからに動きにくそうな服装だった。
「さて、こんな格好だからと甘くて見もらっては困りますね。私はなにせ、バッサーシ辺境伯家ですからね」
どんと構えるサクラに、学生たちが思わず怯む。
さすがサクラ・バッサーシ。その微笑みひとつで万人を怯えさせてしまうのである。
なんともいえない緊張感に包まれた中、武術型の実技試験が始まったのである。
武術型の実技試験は教官との模擬戦闘だ。普通なら複数人の教官が担当するのだが、なんと今回はサクラ一人のみ。たくさんいる学生を一人で相手するとか、はっきり言って正気ではない話である。
だが、サクラは実際に一人で実技試験でこなしていく。しかも涼しい顔でだ。あくまでも試験であるがために、サクラは学生からの攻撃を受けた上で反撃する。それを淡々と繰り返しているのだから相当のものだった。
「まったく、誰もかれも攻撃が甘い。その上反撃に弱いときたものです。こんな事では実戦では何の役にも立ちませんよ」
厳しい言葉が飛ぶ。さすがはバッサーシ辺境伯の一族で見習いとはいえ現役騎士だ。剣術大会三年連続優勝の実力は、まったくもって疑いの余地のない事実なのである。
「さて、次は誰でしょうか?」
あまりに圧倒的な力を見せるサクラに、学生たちがどんどんとやる気をなくしているようだ。
「出てこないのなら、受けていない全員を赤点にするしかなくなりますよ。さあ、次はどなたですか?」
赤点という言葉に体を震わせる学生たちである。赤点は嫌なのだが、だからといってサクラと戦えるといったらノーである。それくらいに、サクラの実力は圧倒的なのだった。
「では、僕がいかせてもらいます」
「あなたはアンマリア様のいとこですね。知り合いの身内だからといって、手加減はしませんよ」
「望むところです」
タミールが前へと歩み出ていく。そして、サクラと相対すると木剣を構えた。
「他の方と同じように、最初はそちらから一方的に攻撃して下さい。ひと通りの攻撃が終わると反撃しますので、対処して下さいね」
「はい!」
他の学生たちにもした説明を繰り返すサクラ。タミールは元気よく返事をしている。
両者が構えると、サクラが合図を送る。それをもってタミールはサクラへと斬りかかっていく。
右斜め、左斜め、薙ぎ払い。
タミールの放ったその攻撃は、あえなくサクラに受け止められてしまう。これには分かっていたとして驚くしかないタミール。
「さすがはアンマリア様のいとこ。なかなかな剣の腕です。ですが!」
その瞬間、サクラの剣があっという間にタミールの首元に寸止めされる。あまりにも速い剣筋だった。
「うっ……」
剣を目で追う事もできず、タミールの試験はこれで終わりとなってしまった。アンマリアのいとこ相手でもまったく手加減がなかったサクラなのである。
「さあ、次はどなたですか?」
とぼとぼと戻るタミールを見送ったサクラが声を上げると、今度はレッタス王子が動いた。
「私が行こう」
「ミズーナ王女殿下のお兄様でいらっしゃいますか。これは少し楽しめそうですね」
レッタス王子が出てくると、サクラはそんな言葉を喋っている。なんだか目的が変わってきていないだろうか。
それはともかくとして、実技試験のために二人は向かい合う。サクラが合図を行えば、今までと同じようにサクラは相手に攻撃を一方的に受けることとなる。
レッタス王子の攻撃も、サクラは実に涼しい顔で淡々と捌いている。しかし、タミールの時よりは少し力が入っているように見える。
「ふむ、少し力が入っていませんでしょうか。衝撃が来るので攻撃が重いのですが、力が入っているせいか少し動きが悪いですね」
しっかりと分析されてしまうレッタス王子である。さすがは脳筋系のサクラ。戦いのこととなるとずいぶんと頭が回るようである。
「攻撃は十分見ましたから、今度は防御側ですね。お相手は王族ですので、わざわざ宣告させて頂きますよ」
だが、サクラはそういうと同時に剣を振りかざす。
「くっ!」
カンという乾いた音が響き渡る。どうやら、レッタス王子が一撃防いだようである。
だが、次の瞬間、脇腹に剣を当てられそうな状態になっており、周りにいた誰もが何が起きたのか分からなかった。武術型の教官たちですら、ミスミ・バッサーシ教官を除いて誰も目で追えなかったのである。
「は、速すぎる……」
振り下ろしから薙ぎ払いまでに要した時間はほんの一瞬だ。あまりの剣速に、レッタス王子は冷や汗を流しながら固まることしかできなかった。
「目で追えていたようなので、なかなかなやり手という評価が下せますね。ですが、まだまだです」
にこやかなサクラではあるものの、もう学生たちは青ざめるばかりである。こんな状況で無事に実技試験が終われるのか、教官たちはずっと心配した様子で見守っているのであった。
武術型の学生たちの前に姿を見せるサクラ。今回の試験におけるサクラの格好は、どういうわけか女子の制服そのものだった。
貴族令嬢の着る服だけあって、それなりにひらひらとした服であり、かかとも高いブーツを履いている。見るからに動きにくそうな服装だった。
「さて、こんな格好だからと甘くて見もらっては困りますね。私はなにせ、バッサーシ辺境伯家ですからね」
どんと構えるサクラに、学生たちが思わず怯む。
さすがサクラ・バッサーシ。その微笑みひとつで万人を怯えさせてしまうのである。
なんともいえない緊張感に包まれた中、武術型の実技試験が始まったのである。
武術型の実技試験は教官との模擬戦闘だ。普通なら複数人の教官が担当するのだが、なんと今回はサクラ一人のみ。たくさんいる学生を一人で相手するとか、はっきり言って正気ではない話である。
だが、サクラは実際に一人で実技試験でこなしていく。しかも涼しい顔でだ。あくまでも試験であるがために、サクラは学生からの攻撃を受けた上で反撃する。それを淡々と繰り返しているのだから相当のものだった。
「まったく、誰もかれも攻撃が甘い。その上反撃に弱いときたものです。こんな事では実戦では何の役にも立ちませんよ」
厳しい言葉が飛ぶ。さすがはバッサーシ辺境伯の一族で見習いとはいえ現役騎士だ。剣術大会三年連続優勝の実力は、まったくもって疑いの余地のない事実なのである。
「さて、次は誰でしょうか?」
あまりに圧倒的な力を見せるサクラに、学生たちがどんどんとやる気をなくしているようだ。
「出てこないのなら、受けていない全員を赤点にするしかなくなりますよ。さあ、次はどなたですか?」
赤点という言葉に体を震わせる学生たちである。赤点は嫌なのだが、だからといってサクラと戦えるといったらノーである。それくらいに、サクラの実力は圧倒的なのだった。
「では、僕がいかせてもらいます」
「あなたはアンマリア様のいとこですね。知り合いの身内だからといって、手加減はしませんよ」
「望むところです」
タミールが前へと歩み出ていく。そして、サクラと相対すると木剣を構えた。
「他の方と同じように、最初はそちらから一方的に攻撃して下さい。ひと通りの攻撃が終わると反撃しますので、対処して下さいね」
「はい!」
他の学生たちにもした説明を繰り返すサクラ。タミールは元気よく返事をしている。
両者が構えると、サクラが合図を送る。それをもってタミールはサクラへと斬りかかっていく。
右斜め、左斜め、薙ぎ払い。
タミールの放ったその攻撃は、あえなくサクラに受け止められてしまう。これには分かっていたとして驚くしかないタミール。
「さすがはアンマリア様のいとこ。なかなかな剣の腕です。ですが!」
その瞬間、サクラの剣があっという間にタミールの首元に寸止めされる。あまりにも速い剣筋だった。
「うっ……」
剣を目で追う事もできず、タミールの試験はこれで終わりとなってしまった。アンマリアのいとこ相手でもまったく手加減がなかったサクラなのである。
「さあ、次はどなたですか?」
とぼとぼと戻るタミールを見送ったサクラが声を上げると、今度はレッタス王子が動いた。
「私が行こう」
「ミズーナ王女殿下のお兄様でいらっしゃいますか。これは少し楽しめそうですね」
レッタス王子が出てくると、サクラはそんな言葉を喋っている。なんだか目的が変わってきていないだろうか。
それはともかくとして、実技試験のために二人は向かい合う。サクラが合図を行えば、今までと同じようにサクラは相手に攻撃を一方的に受けることとなる。
レッタス王子の攻撃も、サクラは実に涼しい顔で淡々と捌いている。しかし、タミールの時よりは少し力が入っているように見える。
「ふむ、少し力が入っていませんでしょうか。衝撃が来るので攻撃が重いのですが、力が入っているせいか少し動きが悪いですね」
しっかりと分析されてしまうレッタス王子である。さすがは脳筋系のサクラ。戦いのこととなるとずいぶんと頭が回るようである。
「攻撃は十分見ましたから、今度は防御側ですね。お相手は王族ですので、わざわざ宣告させて頂きますよ」
だが、サクラはそういうと同時に剣を振りかざす。
「くっ!」
カンという乾いた音が響き渡る。どうやら、レッタス王子が一撃防いだようである。
だが、次の瞬間、脇腹に剣を当てられそうな状態になっており、周りにいた誰もが何が起きたのか分からなかった。武術型の教官たちですら、ミスミ・バッサーシ教官を除いて誰も目で追えなかったのである。
「は、速すぎる……」
振り下ろしから薙ぎ払いまでに要した時間はほんの一瞬だ。あまりの剣速に、レッタス王子は冷や汗を流しながら固まることしかできなかった。
「目で追えていたようなので、なかなかなやり手という評価が下せますね。ですが、まだまだです」
にこやかなサクラではあるものの、もう学生たちは青ざめるばかりである。こんな状況で無事に実技試験が終われるのか、教官たちはずっと心配した様子で見守っているのであった。
15
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる