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第九章 拡張版ミズーナ編
第497話 ベジタリウス王国の年末
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ベジタリウス王国の年末パーティーはいつもよりも実に賑やかだった。
サーロイン王国に留学していたレッタス王子とミズーナ王女が戻ってきたために、王国の貴族たちが勢ぞろいで出迎えているのである。会場の中は貴族たちであふれ返り、その熱気に雪降る年末である事を忘れてしまいそうだった。
「すごい人数ね」
エスカもこの反応である。
「仕方ないわ。私たち王族が久しぶりに勢ぞろいなんですもの。貴族たちも力が入ってるってことよね。お父様お母様の話では、私たちの婚約者を探しているという話も噂として広まっているみたいだもの」
「なるほどね……」
ミズーナ王女の話を聞いて、納得がいってしまうエスカである。
王子様の婚約者探しともなれば、貴族たちはこぞって玉の輿を狙いに来るというわけだった。それがこの騒ぎとなっているのである。なにせ、さっきからレッタス王子には人が群がっているのだから。
ところが、それとは対照的に、ミズーナ王女の周りにはほとんど人がいなかった。大体はこの人のせいだ。
「まったく、なぜ我までがこんな席に出ねばならんのだ」
そう、魔王である。
今や魔王もベジタリウス王国の臣下の人に過ぎない。そのために、パーティーに参加せざるを得ないのである。
初めは魔王はパーティーへの参加を断るつもりだったらしい。だが、エスカの度重なる説得で渋々応じたらしい。ミズーナ王女は、エスカが何をやったのかうっすらとながら想像できてしまった。まったく、どっちが魔王なのやら。
ちなみに魔王の近くには、メチルの両親であるコール子爵夫妻もやって来ていた。久しぶりの王城でのパーティーで非常に緊張した面持ちで臨んでいるようである。
だが、すぐに夫妻は何かに気が付いたようで、ミズーナ王女におそるおそる声を掛けてきた。
「あの、娘はどこに?」
「メチルでしたら、今頃はミール王国ですよ」
子爵の質問にミズーナ王女はさらりと答える。
「そうそう、私のお兄様の婚約者として、ミール王国に滞在していますよ」
「え、エスカ王女殿下?! ということは、王太子の婚約者ですか?!」
エスカが口を挟むと、子爵夫妻はものすごく混乱していた。
知らない間に娘が王族の婚約者になっていた件。
寝耳に水である。
だがしかし、子爵夫人がまごまごしながらエスカに質問を投げかける。
「よ、よろしいのでしょうか。うちの娘は今魔族となっているのです。そのような者を妻として迎えるのであれば、ミール王国の威信に関わったりは……」
「ないわね」
きっぱりと答えるエスカである。
「だって、私の相手は魔王様だもの。両親もメチルのことは気に入ってくれてたみたいなので、気にしなくていいですよ」
「お、おい。くっつくな」
エスカの行動にたじたじの魔王である。この光景と合わさって、コール子爵夫妻は完全に沈黙してしまった。なんて反応していいのか分からないのである。
黙り込むメチルの両親に、エスカはにこにことした笑顔を向けている。その様子を見ながら、呆れた表情を見せるミズーナ王女なのであった。
ある程度歓談が進むと、エスカが魔王に対して話し掛ける。
「そろそろ一曲踊りましょうか。それとも、魔王様はダンスが苦手かしら?」
エスカが煽るように言うものだから魔王はカチンときたらしく、お返しにとばかりにエスカを睨み付ける。
「バカを言うな。我にできぬ事などあってたまることか。いいだろう、我がダンスの前にひれ伏すがよいぞ、異国の王女よ」
強がる魔王と一緒にエスカは会場の真ん中へと出ていく。その際、後ろを振り返ってミズーナ王女に手をひらひらと振っていた。
エスカの行動にしょうがないなという表情を見せるミズーナ王女。しかし、メチルの両親と残された状況では、はたしてどうしたものかと困った様子である。
手持無沙汰になってしまったミズーナ王女は、とりあえず適当に料理に手を付けておく。多少食べたところで以前みたいに太ることがないせいか、少々遠慮はなかった。
そんなもりもりと料理を頬張るミズーナ王女に、ゆっくりと近付く影があった。
「ミズーナ王女殿下」
「ひゃい?!」
突然声を掛けられて、食事に夢中だったミズーナ王女は声を上げて驚く。
おそるおそる振り返った視線の先には、ここにいるはずのない人物の姿があった。
「あ、アンマリア? どうしてここに」
そう、アンマリアである。
「ええ、ちょっと野暮用ができたので、瞬間移動魔法でここまで跳んできたのよ。まったく、この魔法の消耗は激しいわ。少し休ませてもらうから、その間この子の相手を頼むわね」
「この子?」
アンマリアの言葉を聞いて、ふとその後ろに見えた影を覗き込むミズーナ王女。そこにいたのは予想外の人物だった。
「ちょっと、タミールじゃないの?!」
ゆっくりと姿を見せたのは、アンマリアのいとこであるタミール・ファッティだった。
「ほら、タミール」
「わわっ。お、押さないでくれよ、姉上」
急に背中を押されて、転びそうになるタミール。よく見ると服装はぴっちりと整えられて礼装だった。
しばらく動きのなかったタミールだが、小さく「よし」と呟くと、ミズーナ王女の前に跪いてこう告げる。
「ミズーナ王女殿下、僕と踊って頂けませんか?」
サーロイン王国に留学していたレッタス王子とミズーナ王女が戻ってきたために、王国の貴族たちが勢ぞろいで出迎えているのである。会場の中は貴族たちであふれ返り、その熱気に雪降る年末である事を忘れてしまいそうだった。
「すごい人数ね」
エスカもこの反応である。
「仕方ないわ。私たち王族が久しぶりに勢ぞろいなんですもの。貴族たちも力が入ってるってことよね。お父様お母様の話では、私たちの婚約者を探しているという話も噂として広まっているみたいだもの」
「なるほどね……」
ミズーナ王女の話を聞いて、納得がいってしまうエスカである。
王子様の婚約者探しともなれば、貴族たちはこぞって玉の輿を狙いに来るというわけだった。それがこの騒ぎとなっているのである。なにせ、さっきからレッタス王子には人が群がっているのだから。
ところが、それとは対照的に、ミズーナ王女の周りにはほとんど人がいなかった。大体はこの人のせいだ。
「まったく、なぜ我までがこんな席に出ねばならんのだ」
そう、魔王である。
今や魔王もベジタリウス王国の臣下の人に過ぎない。そのために、パーティーに参加せざるを得ないのである。
初めは魔王はパーティーへの参加を断るつもりだったらしい。だが、エスカの度重なる説得で渋々応じたらしい。ミズーナ王女は、エスカが何をやったのかうっすらとながら想像できてしまった。まったく、どっちが魔王なのやら。
ちなみに魔王の近くには、メチルの両親であるコール子爵夫妻もやって来ていた。久しぶりの王城でのパーティーで非常に緊張した面持ちで臨んでいるようである。
だが、すぐに夫妻は何かに気が付いたようで、ミズーナ王女におそるおそる声を掛けてきた。
「あの、娘はどこに?」
「メチルでしたら、今頃はミール王国ですよ」
子爵の質問にミズーナ王女はさらりと答える。
「そうそう、私のお兄様の婚約者として、ミール王国に滞在していますよ」
「え、エスカ王女殿下?! ということは、王太子の婚約者ですか?!」
エスカが口を挟むと、子爵夫妻はものすごく混乱していた。
知らない間に娘が王族の婚約者になっていた件。
寝耳に水である。
だがしかし、子爵夫人がまごまごしながらエスカに質問を投げかける。
「よ、よろしいのでしょうか。うちの娘は今魔族となっているのです。そのような者を妻として迎えるのであれば、ミール王国の威信に関わったりは……」
「ないわね」
きっぱりと答えるエスカである。
「だって、私の相手は魔王様だもの。両親もメチルのことは気に入ってくれてたみたいなので、気にしなくていいですよ」
「お、おい。くっつくな」
エスカの行動にたじたじの魔王である。この光景と合わさって、コール子爵夫妻は完全に沈黙してしまった。なんて反応していいのか分からないのである。
黙り込むメチルの両親に、エスカはにこにことした笑顔を向けている。その様子を見ながら、呆れた表情を見せるミズーナ王女なのであった。
ある程度歓談が進むと、エスカが魔王に対して話し掛ける。
「そろそろ一曲踊りましょうか。それとも、魔王様はダンスが苦手かしら?」
エスカが煽るように言うものだから魔王はカチンときたらしく、お返しにとばかりにエスカを睨み付ける。
「バカを言うな。我にできぬ事などあってたまることか。いいだろう、我がダンスの前にひれ伏すがよいぞ、異国の王女よ」
強がる魔王と一緒にエスカは会場の真ん中へと出ていく。その際、後ろを振り返ってミズーナ王女に手をひらひらと振っていた。
エスカの行動にしょうがないなという表情を見せるミズーナ王女。しかし、メチルの両親と残された状況では、はたしてどうしたものかと困った様子である。
手持無沙汰になってしまったミズーナ王女は、とりあえず適当に料理に手を付けておく。多少食べたところで以前みたいに太ることがないせいか、少々遠慮はなかった。
そんなもりもりと料理を頬張るミズーナ王女に、ゆっくりと近付く影があった。
「ミズーナ王女殿下」
「ひゃい?!」
突然声を掛けられて、食事に夢中だったミズーナ王女は声を上げて驚く。
おそるおそる振り返った視線の先には、ここにいるはずのない人物の姿があった。
「あ、アンマリア? どうしてここに」
そう、アンマリアである。
「ええ、ちょっと野暮用ができたので、瞬間移動魔法でここまで跳んできたのよ。まったく、この魔法の消耗は激しいわ。少し休ませてもらうから、その間この子の相手を頼むわね」
「この子?」
アンマリアの言葉を聞いて、ふとその後ろに見えた影を覗き込むミズーナ王女。そこにいたのは予想外の人物だった。
「ちょっと、タミールじゃないの?!」
ゆっくりと姿を見せたのは、アンマリアのいとこであるタミール・ファッティだった。
「ほら、タミール」
「わわっ。お、押さないでくれよ、姉上」
急に背中を押されて、転びそうになるタミール。よく見ると服装はぴっちりと整えられて礼装だった。
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