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第295話 春の小麦
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真家レニの復活配信の翌日のことだった。
家の呼び鈴が突然鳴り響く。
何事かと思った満だったが、母親が対処していた。
部屋に戻ろうとする満だったが、満の存在に気が付いた母親が手招きをしている。
「満、いらっしゃい」
「なあに、お母さん」
母親に呼ばれたので、満は仕方なく母親のところにやって来る。
「今開けるので、ちょっと待ってて下さいね」
母親はそういうと、インターフォンの通話を終わらせてしまった。
結局誰が来たのか、満には分からなかった。
「もう、お母さん。誰が来たんだよ」
「まあまあ、すぐ分かるから」
母親が玄関を開けると、そこにいたのは小麦だった。
「やっほ、ルナち。じゃなかった満くん。お久しぶり」
右手を上げて、にこやかに挨拶をしている。
さすがにもう大学生となる小麦は、だいぶ大人びた印象を受ける。なんというか、年明けに見た時と感じが違うのだ。
「お久しぶりです、小麦さん」
「小麦ちゃん、お久しぶりね。ちょっと上がっていくかしら」
「はい。ちょっとお話もしたいので、お邪魔します」
小麦は家に上がって居間へとやって来る。
母親が飲み物とお菓子を準備している間、二人は黙って向かい合うように座っていた。
満の母親がやって来て座ると、小麦がおもむろに話し始めた。
「実はですね。私、無事に大学受験に合格しました。十日後くらいには、晴れて大学生です」
「あら、そうなのね。おめでとう」
「おめでとうございます、小麦さん」
「にしし、ありがとうございます」
小麦はいつものように気さくに笑っている。
「でも、どうしてうちに来たのかしら。引っ越しで大変じゃないのかしらね」
「はい。でも、荷物はもうまとめ終わりました。引っ越しの予定日はあさってです」
小麦はにっこりと余裕の表情である。
満は、小麦の引っ越し予定日を聞いてはっとしていた。
「僕とのコラボ配信をしてから、出発する予定なんですか」
そう、明日に控えている真家レニと光月ルナの合同配信。どうやらそれを終えてから引っ越しをするようなのである。
まったく、まさかそんなギリギリまで残って配信をしようとは……。満は思わず頭が下がってしまう。
「それで、それの前にね、今日は一緒に花見でもしようと思ってね。それで満くんの家を訪ねたのよ」
しれっととんでもないことを言ってのける小麦である。
「いいんですか? 今日の僕は男の子ですよ? 誰かに見られたらどうするんですか」
「だいじょぶだいじょぶ。そんなの適当にごまかしておけばいいんだよ。私たち、ご近所さんなんだから」
小麦はずいぶんと軽く考えているようだった。
だが、いろいろ考えた結果、やむなくある方法を取ることにしたのだった。
しばらくして、満が降りてくる。そこに現れた満の姿に、母親が歓喜の表情を見せていた。
「ど、どうかな?」
「うんうん、似合ってるよ、満くん。どこからどう見ても女の子だよ」
そう、満が女装して現れたのだった。ウィッグもあったので、どこからどう見てもルナ・フォルモントである。
「恥ずかしいけれど、女の子同士なら変なことにはならないだろうからね。僕が我慢すればそれで済むんだ」
満は覚悟を決めていたようだった。
女装した満は、にこにこと笑う母親が見守る中、小麦と一緒に花見へと出かけていった。
街に流れる河川敷には、桜の花が咲き始めていた。今年の満開はちょっと遅れ気味らしく、多くがつぼみ。一分咲きかどうかといったところだった。
「あーあ、思ったより咲いてないね」
「うん、ちょっと残念かな」
「まっ、しょうがないね。自然相手じゃ調整できないもん」
小麦は白い歯を見せている。
「でもまぁ、引っ越す前に満くんとまた話ができてよかったかな」
「僕も、小麦さんと話ができて嬉しいです。だって、憧れの人ですから」
「にししし。それは私自身のことかな? それとも、アバ信『真家レニ』のことかな?」
恥ずかしそうに話す満に対して、小麦は意地悪な質問をしている。
こんな質問をされて、満は困ってしまう。どう答えたらいいのか分からなかったのだ。
「りょ、両方です。僕がアバ信になろうとしたきっかけは、レニちゃんですけど……」
「なになに~、聞こえないよ~?」
耳に手を当てて、にやにやと聞き返してくる小麦。なんとも意地悪である。
「もう、レニちゃんが憧れだったから、僕はアバ信になったんです。でも、あれだけの技術を持っているのは、小麦さん自身だから……」
はっきりと答えた後、満はごにょごにょと声が小さくなっていく。
その満の姿を見て、小麦はなんとも満足そうだった。
「まあ、満くん。意地悪してごめんね。でも、そういってもらえて嬉しいよ」
小麦はそういうと、両手を頭の後ろで組む。
「あーあ、まさかレニちゃんよりルナちの方が登録者数上になっちゃうなんて思ってもみなかったな。でも、そんなアバ信の憧れでいられることは、私も幸せだよ。これからも続けてよね、ルナち」
「う、うん。僕、頑張るよ」
小麦に言われて、満はふんすと気合いを入れていた。
「で、満くん」
「な、なに? 小麦さん」
小麦が呼び掛けてきたので、満が振り向くと、なんと小麦が頬に口づけをしてきた。
「こ、こ、こ、小麦さん?!」
「やっだな~、ママの祖国だと挨拶だよ? もう、満くんってば可愛いなぁ」
「小麦さん~っ!」
慌てる満の姿に、小麦は緩み切った笑顔を見せていた。
顔が真っ赤になっている満だったが、春の陽気のせいにして、小麦との散歩をどうにか続けたのだった。
家の呼び鈴が突然鳴り響く。
何事かと思った満だったが、母親が対処していた。
部屋に戻ろうとする満だったが、満の存在に気が付いた母親が手招きをしている。
「満、いらっしゃい」
「なあに、お母さん」
母親に呼ばれたので、満は仕方なく母親のところにやって来る。
「今開けるので、ちょっと待ってて下さいね」
母親はそういうと、インターフォンの通話を終わらせてしまった。
結局誰が来たのか、満には分からなかった。
「もう、お母さん。誰が来たんだよ」
「まあまあ、すぐ分かるから」
母親が玄関を開けると、そこにいたのは小麦だった。
「やっほ、ルナち。じゃなかった満くん。お久しぶり」
右手を上げて、にこやかに挨拶をしている。
さすがにもう大学生となる小麦は、だいぶ大人びた印象を受ける。なんというか、年明けに見た時と感じが違うのだ。
「お久しぶりです、小麦さん」
「小麦ちゃん、お久しぶりね。ちょっと上がっていくかしら」
「はい。ちょっとお話もしたいので、お邪魔します」
小麦は家に上がって居間へとやって来る。
母親が飲み物とお菓子を準備している間、二人は黙って向かい合うように座っていた。
満の母親がやって来て座ると、小麦がおもむろに話し始めた。
「実はですね。私、無事に大学受験に合格しました。十日後くらいには、晴れて大学生です」
「あら、そうなのね。おめでとう」
「おめでとうございます、小麦さん」
「にしし、ありがとうございます」
小麦はいつものように気さくに笑っている。
「でも、どうしてうちに来たのかしら。引っ越しで大変じゃないのかしらね」
「はい。でも、荷物はもうまとめ終わりました。引っ越しの予定日はあさってです」
小麦はにっこりと余裕の表情である。
満は、小麦の引っ越し予定日を聞いてはっとしていた。
「僕とのコラボ配信をしてから、出発する予定なんですか」
そう、明日に控えている真家レニと光月ルナの合同配信。どうやらそれを終えてから引っ越しをするようなのである。
まったく、まさかそんなギリギリまで残って配信をしようとは……。満は思わず頭が下がってしまう。
「それで、それの前にね、今日は一緒に花見でもしようと思ってね。それで満くんの家を訪ねたのよ」
しれっととんでもないことを言ってのける小麦である。
「いいんですか? 今日の僕は男の子ですよ? 誰かに見られたらどうするんですか」
「だいじょぶだいじょぶ。そんなの適当にごまかしておけばいいんだよ。私たち、ご近所さんなんだから」
小麦はずいぶんと軽く考えているようだった。
だが、いろいろ考えた結果、やむなくある方法を取ることにしたのだった。
しばらくして、満が降りてくる。そこに現れた満の姿に、母親が歓喜の表情を見せていた。
「ど、どうかな?」
「うんうん、似合ってるよ、満くん。どこからどう見ても女の子だよ」
そう、満が女装して現れたのだった。ウィッグもあったので、どこからどう見てもルナ・フォルモントである。
「恥ずかしいけれど、女の子同士なら変なことにはならないだろうからね。僕が我慢すればそれで済むんだ」
満は覚悟を決めていたようだった。
女装した満は、にこにこと笑う母親が見守る中、小麦と一緒に花見へと出かけていった。
街に流れる河川敷には、桜の花が咲き始めていた。今年の満開はちょっと遅れ気味らしく、多くがつぼみ。一分咲きかどうかといったところだった。
「あーあ、思ったより咲いてないね」
「うん、ちょっと残念かな」
「まっ、しょうがないね。自然相手じゃ調整できないもん」
小麦は白い歯を見せている。
「でもまぁ、引っ越す前に満くんとまた話ができてよかったかな」
「僕も、小麦さんと話ができて嬉しいです。だって、憧れの人ですから」
「にししし。それは私自身のことかな? それとも、アバ信『真家レニ』のことかな?」
恥ずかしそうに話す満に対して、小麦は意地悪な質問をしている。
こんな質問をされて、満は困ってしまう。どう答えたらいいのか分からなかったのだ。
「りょ、両方です。僕がアバ信になろうとしたきっかけは、レニちゃんですけど……」
「なになに~、聞こえないよ~?」
耳に手を当てて、にやにやと聞き返してくる小麦。なんとも意地悪である。
「もう、レニちゃんが憧れだったから、僕はアバ信になったんです。でも、あれだけの技術を持っているのは、小麦さん自身だから……」
はっきりと答えた後、満はごにょごにょと声が小さくなっていく。
その満の姿を見て、小麦はなんとも満足そうだった。
「まあ、満くん。意地悪してごめんね。でも、そういってもらえて嬉しいよ」
小麦はそういうと、両手を頭の後ろで組む。
「あーあ、まさかレニちゃんよりルナちの方が登録者数上になっちゃうなんて思ってもみなかったな。でも、そんなアバ信の憧れでいられることは、私も幸せだよ。これからも続けてよね、ルナち」
「う、うん。僕、頑張るよ」
小麦に言われて、満はふんすと気合いを入れていた。
「で、満くん」
「な、なに? 小麦さん」
小麦が呼び掛けてきたので、満が振り向くと、なんと小麦が頬に口づけをしてきた。
「こ、こ、こ、小麦さん?!」
「やっだな~、ママの祖国だと挨拶だよ? もう、満くんってば可愛いなぁ」
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顔が真っ赤になっている満だったが、春の陽気のせいにして、小麦との散歩をどうにか続けたのだった。
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