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第345話 マイカの単独配信
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「おはようございます」
夏休み中ということもあり、珍しく平日の配信をすべくVブロードキャスト社に香織は姿を現した。
入口で森に連れられて入場許可を提示して中に入ると、香織ではなくアバター配信者『黄花マイカ』となる。
「今日はマイカちゃん単独での配信になるけれど、大丈夫かしら」
「えっと、ぴょこらちゃんは不在なんですか?」
森から単独だと告げられて、マイカは思わずびっくりしていた。
それというのも、デビューからはほとんど一緒に活動してきたぴょこらが、今日はいないというのだから。
「あら、マイカは知っているはずだけど?」
森に言われて、マイカは首を捻っているようだ。
「去年も話をしていたはずなんだけどね。ぴょこらは親せきの食堂を手伝っているから、この時期はどうしても配信に出てこれないのよ」
「あっ……」
森に言われて思い出していた。
そう、ぴょこらは土用の丑の日に合わせて親戚を手伝いに出かけているのである。なので、とてもではないが出てこれないというわけなのだ。
「そっかあ、ぴょこらちゃんも大変なんですね」
「まあ、タイミングよね」
マイカが言うと、森は腕を組んで頷きながら答えていた。
そんなわけで、今日はマイカ一人で配信をすることになった。
とはいえ、今日はどんな話をするのかは、事前に森たちと打ち合わせをしてからだ。マイカ一人ではまだまだ不安があるため、森たちがしっかりと監督してあげないといけないのだ。
一企業の中で活動をするため、自分は企業の看板を背負っていることをしっかりと認識してもらいたい。そのため、この打ち合わせは行われるのである。
「何を話すのかはあまり制限はしないけれど、個人情報につながるような情報は、よろしくないから注意すること。あと、あまり交友関係も口にはしないこと。特に異性絡みだとあっという間に炎上しかねないから、友人の性別は確実に伏せておいてね」
「はい、気をつけます」
森から注意点を再度言われて、マイカは背筋を伸ばして返事をしている。
慣れてくると、どうしても気が抜けてしまいがちなのだ。なので、森からのこの注意喚起は、マイカとしても助かるというものだった。
「さて、今日の配信は夏の過ごし方をメインに喋ってちょうだいね。あと、最後には新曲のアピールも忘れずに」
「はい」
森に言われて、気合いの入った返事をするマイカである。
「でも、夏休み入ってからすぐにその辺りの話をしたかったのに、ことごとく用事が入っているなんてどういうことなのかしら」
「すみません。友人からどうしてもと誘われて、断れなかったんです」
「なるほどね。まっ、その時のことは、配信後の反省会の中で聞かせてもらうわね」
「はい、分かりました」
話を終えて、マイカは配信の準備を始める。
今日は雑談をしつつ、最後に八月発売の新曲の宣伝を入れるという流れだ。
いつもならぴょこらがいてその辺りを仕切ってくれるのだが、今日はマイカ一人。一人で話をして、宣伝までできるのか。ちょっと心配になってきてしまうマイカである。
「こんにちは、黄花マイカです」
平凡な挨拶ではあるけれど、リスナーたちからはもっさりと挨拶を返されて、なぜかいきなりいっぱいいっぱいになるマイカである。いつもならぴょこらがうまく返すせいで、慣れていなかったようである。
とはいえ、それでもさすがに一年以上活動してきたアバター配信者。満との息抜きで力をもらっていたこともあってか、どうにかこうにかマイカは配信を進めていっていた。
「えっと、そろそろお時間ですね」
『えーっ』
『もうそんなに経ったのか』
終わりになると響く定番のコメントである。
「はい。最後になりますけれど、私の配信に来て下さるみなさまにお知らせがあります」
『お?』
『おっ?』
マイカのお知らせという言葉に、リスナーたちが目ざとく反応している。
「はい、もう明日になりますが、私とぴょこらちゃんとが歌う新曲が配信開始となります」
『マジか?!』
『うおお、ぴょこまい、ぴょこまい!』
『まさかの二曲目か!』
マイカからの発表を受けて、リスナーたちが大盛り上がりである。なにせ一曲目の発表からというものしばらく音沙汰がなかったのだから。
『明日からということは、8/1からか』
『これは買いだな、前回のもよかったし』
『二人とも歌も踊りも上手でびっくりした』
『踊りってプログラムじゃないんだよね?』
「はい、私とぴょこらちゃんが実際に踊って、それをアバターに反映させています。頑張りましたので、ぜひともミュージックビデオも見て下さいね」
『りょ!』
『楽しみだぁ』
新曲の発表で、リスナーたちは大盛り上がりのようだった。これにはマイカもひと安心である。
「それでは、本日のところはこれで終わりにさせていただきます。みなさん、暑いですけれどお体に気をつけて下さいね」
『おつおつ~』
『マイカちゃんも気をつけてね』
最後の挨拶を終えて、マイカは配信を終了させたのだった。
直後、やり切ったということで、大きく息をついたのだった。
夏休み中ということもあり、珍しく平日の配信をすべくVブロードキャスト社に香織は姿を現した。
入口で森に連れられて入場許可を提示して中に入ると、香織ではなくアバター配信者『黄花マイカ』となる。
「今日はマイカちゃん単独での配信になるけれど、大丈夫かしら」
「えっと、ぴょこらちゃんは不在なんですか?」
森から単独だと告げられて、マイカは思わずびっくりしていた。
それというのも、デビューからはほとんど一緒に活動してきたぴょこらが、今日はいないというのだから。
「あら、マイカは知っているはずだけど?」
森に言われて、マイカは首を捻っているようだ。
「去年も話をしていたはずなんだけどね。ぴょこらは親せきの食堂を手伝っているから、この時期はどうしても配信に出てこれないのよ」
「あっ……」
森に言われて思い出していた。
そう、ぴょこらは土用の丑の日に合わせて親戚を手伝いに出かけているのである。なので、とてもではないが出てこれないというわけなのだ。
「そっかあ、ぴょこらちゃんも大変なんですね」
「まあ、タイミングよね」
マイカが言うと、森は腕を組んで頷きながら答えていた。
そんなわけで、今日はマイカ一人で配信をすることになった。
とはいえ、今日はどんな話をするのかは、事前に森たちと打ち合わせをしてからだ。マイカ一人ではまだまだ不安があるため、森たちがしっかりと監督してあげないといけないのだ。
一企業の中で活動をするため、自分は企業の看板を背負っていることをしっかりと認識してもらいたい。そのため、この打ち合わせは行われるのである。
「何を話すのかはあまり制限はしないけれど、個人情報につながるような情報は、よろしくないから注意すること。あと、あまり交友関係も口にはしないこと。特に異性絡みだとあっという間に炎上しかねないから、友人の性別は確実に伏せておいてね」
「はい、気をつけます」
森から注意点を再度言われて、マイカは背筋を伸ばして返事をしている。
慣れてくると、どうしても気が抜けてしまいがちなのだ。なので、森からのこの注意喚起は、マイカとしても助かるというものだった。
「さて、今日の配信は夏の過ごし方をメインに喋ってちょうだいね。あと、最後には新曲のアピールも忘れずに」
「はい」
森に言われて、気合いの入った返事をするマイカである。
「でも、夏休み入ってからすぐにその辺りの話をしたかったのに、ことごとく用事が入っているなんてどういうことなのかしら」
「すみません。友人からどうしてもと誘われて、断れなかったんです」
「なるほどね。まっ、その時のことは、配信後の反省会の中で聞かせてもらうわね」
「はい、分かりました」
話を終えて、マイカは配信の準備を始める。
今日は雑談をしつつ、最後に八月発売の新曲の宣伝を入れるという流れだ。
いつもならぴょこらがいてその辺りを仕切ってくれるのだが、今日はマイカ一人。一人で話をして、宣伝までできるのか。ちょっと心配になってきてしまうマイカである。
「こんにちは、黄花マイカです」
平凡な挨拶ではあるけれど、リスナーたちからはもっさりと挨拶を返されて、なぜかいきなりいっぱいいっぱいになるマイカである。いつもならぴょこらがうまく返すせいで、慣れていなかったようである。
とはいえ、それでもさすがに一年以上活動してきたアバター配信者。満との息抜きで力をもらっていたこともあってか、どうにかこうにかマイカは配信を進めていっていた。
「えっと、そろそろお時間ですね」
『えーっ』
『もうそんなに経ったのか』
終わりになると響く定番のコメントである。
「はい。最後になりますけれど、私の配信に来て下さるみなさまにお知らせがあります」
『お?』
『おっ?』
マイカのお知らせという言葉に、リスナーたちが目ざとく反応している。
「はい、もう明日になりますが、私とぴょこらちゃんとが歌う新曲が配信開始となります」
『マジか?!』
『うおお、ぴょこまい、ぴょこまい!』
『まさかの二曲目か!』
マイカからの発表を受けて、リスナーたちが大盛り上がりである。なにせ一曲目の発表からというものしばらく音沙汰がなかったのだから。
『明日からということは、8/1からか』
『これは買いだな、前回のもよかったし』
『二人とも歌も踊りも上手でびっくりした』
『踊りってプログラムじゃないんだよね?』
「はい、私とぴょこらちゃんが実際に踊って、それをアバターに反映させています。頑張りましたので、ぜひともミュージックビデオも見て下さいね」
『りょ!』
『楽しみだぁ』
新曲の発表で、リスナーたちは大盛り上がりのようだった。これにはマイカもひと安心である。
「それでは、本日のところはこれで終わりにさせていただきます。みなさん、暑いですけれどお体に気をつけて下さいね」
『おつおつ~』
『マイカちゃんも気をつけてね』
最後の挨拶を終えて、マイカは配信を終了させたのだった。
直後、やり切ったということで、大きく息をついたのだった。
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