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第88話 先輩と後輩
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夕方5時を迎える。
ひとつのブースに四人が集まって、仲良く配信の予定である。ただ、新人である香織としずくは最初は画面外に待機だ。先輩二人が呼んだタイミングで画面に入る流れになっている。
デビューした日に、先輩たちの配信に呼ばれる。こんな光栄なことがあるだろうか。香織のドキドキはまったく留まるところを知らなかった。
「うん、緊張し過ぎよ。マイカ、自分で出るって言ったんだから、覚悟を決めなさい」
「う、うん」
しずくに言われて、香織は手を固く握って気合いを入れ直す。
その目の前では、先輩二人はここからは喋らないようにと口にバッテンを作っている。それを見て二人はこくりと頷いた。
やがて放送が始まる。
「みなさん、こんにちは。華樹ミミでございます」
「蒼龍タクミ様だぜ」
配信が始まり、二人が挨拶をする。
すると、挨拶でコメントがザクザクと流れていく。
さすがにさっきの新人お披露目配信から時間が空いているので、同接人数はさっきより減っている。それでも同接50万人以上を平然と叩き出すあたり、ブイキャスの一、二を争う人気アバター配信者だというのが見て取れる。
「それでは、お披露目配信後の余談という形で、みなさんからのいろいろな質問などにお答えして参ります」
「新人たちにあまり最初から負担をかけるもんじゃないからな。先輩らしく肩代わりってわけだ」
「もちろん、あまりつっ込んだ質問には答えられませんけれどね」
タクミの言葉に、華樹ミミは笑いながら補足を入れる。
「にしても、今回は四人とちょっと少なめだったな。俺の時は七人だったから、びっくりしたもんだぜ」
「そうですね。一期生の私たちでも六人ですからね。とはいえ、リアルの都合で半分は引退済みですけれど」
「それをいったら、俺の二期生もすでに二人引退か……。って、なにこんな暗い話題をしてるんだ。今日は後輩がデビューした日だぞ」
『それなwww』
リスナーからも鋭いツッコミが飛んできている。これには二人も反省である。
「おほん。では、改めてお聞きになりたいことを伺いましょう」
『今回の新人で一番期待しているのは?』
華樹ミミの発言の直後に出たコメントに、二人はつい目を止めてしまう。
この手の質問は、毎回出てくるものだ。昨年デビューした三期生たちの時にも出てきた質問なのだ。
「そうですね。私は今回の選考に関わっておりますので、今回の皆さんには平等に可能性を感じております」
『それいっていいの?』
「ええ、本来はよろしくないでしょう。ですけれど、これは後輩に対するひいきにもなりかねません。ここできっぱり伝えておいた方がいいと思いましたので、はっきり言わせて頂きました」
『なるほど』
『可愛い後輩だもんな、気持ちは分かる』
華樹ミミの発言は、思ったより好意的に受け止められたようである。
「さすが一期生の言葉だな。深いぜ」
タクミも感心するしかなかった。
「さて、本日の配信にはゲストをお招きしております。そろそろ入って頂きましょうかね」
「だな。あまり待たせるのも悪いしな」
『お?』
『誰だ、想像できねえ(棒』
「先程デビューしました四期生からお二人。鈴峰ぴょこらさんと黄花マイカさんです」
『し、新人だ!』
『残ってたのか、予定大丈夫なのか?』
驚く声と心配する声の両方が聞こえてくる。
「予定を確認した上で残ってくれています。では、お呼びしますね」
「おう、入って来いよ」
タクミが声をかけると、にゅっと画面に二人が入り込んできた。
「鈴峰ぴょこらだよ、よろしく!」
「黄花マイカです。よろしくお願いします」
しずくの方は演じているが、香織をすっかり地の状態だった。
『うさ耳に猫のしっぽって、どっちも長いな』
『うんうん、こういうのでいいんだよこういうので』
『子どもっぽい感じでこういうの好きだよ』
コメントがものすごい勢いで流れていく。
「ふえええ、こんなにコメントが……。圧倒されてしまいます」
「これがこのブイキャス一期生の私と二期生のタクミの人気が合わさった結果ですね。ここまでとはいかなくても、少しでも近づけるように頑張ってもらいたいですね」
「は、はい。頑張ります!」
『まるで年の離れた姉妹』
『てえてえ』
「ずるいよ、マイカ。あたしも混ぜるの!」
「ひゃう!」
ぴょこらが気合いを入れるマイカに飛びついていく。その姿を見つめながら笑う華樹ミミという構図に、コメントはお祭り状態になっていく。
『タクミ様の疎外感www』
『女の子の絡みに入れなくて草』
「おいおい、俺は常識あるドラゴンだぞ。こういうものは一歩引いて見守るのがいいんだよ」
『後方保護者面wwww』
『さすが二期生トップなだけはある』
『完璧な立ち位置に草生える』
だが、そんな状況もうまく利用するのがトップたる余裕だった。
配信はほのぼのした様子で進んでいく。リスナーたちからの質問も華樹ミミとタクミとでうまく捌いていた。
「それでは、あっという間の1時間でしたね」
「おう、もうそんなに経っていたか。さすが時間管理は得意だな、ミミ」
「ええ。個性的なメンバーをまとめ上げるんです、このくらいは余裕ですよ」
『さすがミミたそ』
『やはりミミたそ、ブイキャスのママだぜ』
「ふふっ、ありがとうございます。それでは、これからもこの新人四人たちも含めて、私たちブイキャスのアバ信をよろしくお願いしますね」
華樹ミミが呼び掛ければ、了承したというような内容のコメント次々に流れていく。
「それじゃ、今日はこのくらいでお別れだ。今後の配信については、ホームページかブイキャス公式のSNSを確認してくれ。さらばだ!」
「みなさん、またにゃ~ん」
「またお会いしましょう」
こうして、華樹ミミと蒼龍タクミによる配信は終わりを告げたのだった。
ひとつのブースに四人が集まって、仲良く配信の予定である。ただ、新人である香織としずくは最初は画面外に待機だ。先輩二人が呼んだタイミングで画面に入る流れになっている。
デビューした日に、先輩たちの配信に呼ばれる。こんな光栄なことがあるだろうか。香織のドキドキはまったく留まるところを知らなかった。
「うん、緊張し過ぎよ。マイカ、自分で出るって言ったんだから、覚悟を決めなさい」
「う、うん」
しずくに言われて、香織は手を固く握って気合いを入れ直す。
その目の前では、先輩二人はここからは喋らないようにと口にバッテンを作っている。それを見て二人はこくりと頷いた。
やがて放送が始まる。
「みなさん、こんにちは。華樹ミミでございます」
「蒼龍タクミ様だぜ」
配信が始まり、二人が挨拶をする。
すると、挨拶でコメントがザクザクと流れていく。
さすがにさっきの新人お披露目配信から時間が空いているので、同接人数はさっきより減っている。それでも同接50万人以上を平然と叩き出すあたり、ブイキャスの一、二を争う人気アバター配信者だというのが見て取れる。
「それでは、お披露目配信後の余談という形で、みなさんからのいろいろな質問などにお答えして参ります」
「新人たちにあまり最初から負担をかけるもんじゃないからな。先輩らしく肩代わりってわけだ」
「もちろん、あまりつっ込んだ質問には答えられませんけれどね」
タクミの言葉に、華樹ミミは笑いながら補足を入れる。
「にしても、今回は四人とちょっと少なめだったな。俺の時は七人だったから、びっくりしたもんだぜ」
「そうですね。一期生の私たちでも六人ですからね。とはいえ、リアルの都合で半分は引退済みですけれど」
「それをいったら、俺の二期生もすでに二人引退か……。って、なにこんな暗い話題をしてるんだ。今日は後輩がデビューした日だぞ」
『それなwww』
リスナーからも鋭いツッコミが飛んできている。これには二人も反省である。
「おほん。では、改めてお聞きになりたいことを伺いましょう」
『今回の新人で一番期待しているのは?』
華樹ミミの発言の直後に出たコメントに、二人はつい目を止めてしまう。
この手の質問は、毎回出てくるものだ。昨年デビューした三期生たちの時にも出てきた質問なのだ。
「そうですね。私は今回の選考に関わっておりますので、今回の皆さんには平等に可能性を感じております」
『それいっていいの?』
「ええ、本来はよろしくないでしょう。ですけれど、これは後輩に対するひいきにもなりかねません。ここできっぱり伝えておいた方がいいと思いましたので、はっきり言わせて頂きました」
『なるほど』
『可愛い後輩だもんな、気持ちは分かる』
華樹ミミの発言は、思ったより好意的に受け止められたようである。
「さすが一期生の言葉だな。深いぜ」
タクミも感心するしかなかった。
「さて、本日の配信にはゲストをお招きしております。そろそろ入って頂きましょうかね」
「だな。あまり待たせるのも悪いしな」
『お?』
『誰だ、想像できねえ(棒』
「先程デビューしました四期生からお二人。鈴峰ぴょこらさんと黄花マイカさんです」
『し、新人だ!』
『残ってたのか、予定大丈夫なのか?』
驚く声と心配する声の両方が聞こえてくる。
「予定を確認した上で残ってくれています。では、お呼びしますね」
「おう、入って来いよ」
タクミが声をかけると、にゅっと画面に二人が入り込んできた。
「鈴峰ぴょこらだよ、よろしく!」
「黄花マイカです。よろしくお願いします」
しずくの方は演じているが、香織をすっかり地の状態だった。
『うさ耳に猫のしっぽって、どっちも長いな』
『うんうん、こういうのでいいんだよこういうので』
『子どもっぽい感じでこういうの好きだよ』
コメントがものすごい勢いで流れていく。
「ふえええ、こんなにコメントが……。圧倒されてしまいます」
「これがこのブイキャス一期生の私と二期生のタクミの人気が合わさった結果ですね。ここまでとはいかなくても、少しでも近づけるように頑張ってもらいたいですね」
「は、はい。頑張ります!」
『まるで年の離れた姉妹』
『てえてえ』
「ずるいよ、マイカ。あたしも混ぜるの!」
「ひゃう!」
ぴょこらが気合いを入れるマイカに飛びついていく。その姿を見つめながら笑う華樹ミミという構図に、コメントはお祭り状態になっていく。
『タクミ様の疎外感www』
『女の子の絡みに入れなくて草』
「おいおい、俺は常識あるドラゴンだぞ。こういうものは一歩引いて見守るのがいいんだよ」
『後方保護者面wwww』
『さすが二期生トップなだけはある』
『完璧な立ち位置に草生える』
だが、そんな状況もうまく利用するのがトップたる余裕だった。
配信はほのぼのした様子で進んでいく。リスナーたちからの質問も華樹ミミとタクミとでうまく捌いていた。
「それでは、あっという間の1時間でしたね」
「おう、もうそんなに経っていたか。さすが時間管理は得意だな、ミミ」
「ええ。個性的なメンバーをまとめ上げるんです、このくらいは余裕ですよ」
『さすがミミたそ』
『やはりミミたそ、ブイキャスのママだぜ』
「ふふっ、ありがとうございます。それでは、これからもこの新人四人たちも含めて、私たちブイキャスのアバ信をよろしくお願いしますね」
華樹ミミが呼び掛ければ、了承したというような内容のコメント次々に流れていく。
「それじゃ、今日はこのくらいでお別れだ。今後の配信については、ホームページかブイキャス公式のSNSを確認してくれ。さらばだ!」
「みなさん、またにゃ~ん」
「またお会いしましょう」
こうして、華樹ミミと蒼龍タクミによる配信は終わりを告げたのだった。
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