VAMPIRE STREAMING

未羊

文字の大きさ
96 / 387

第96話 出るものは目につく

しおりを挟む
 真家レニの配信があった翌日、Vブロードキャスト社にアバター配信者たちを担当する社員が集められた。

「なんなのでしょうかね、先輩」

「海藤、今日の話題は多分あれでしょうね」

「あれってなんですか?」

 海藤は森のいうことが理解できずに首を傾げている。
 唸っている海藤の姿を見て、森は困った顔をしている。
 配信の補佐をしているとはいえ、海藤はそれほどアバター配信者の配信を見ていないのである。

「あら、橘と柊も来ていたのね」

「そりゃそうですよ。アバター配信課の人間が全員集められてますからね」

「……なるほど、確かにみんなそうね。というより、うちの課だけじゃなさそうだけど?」

「ああ、アバター配信課だけじゃなくて、映像部の人間がほとんど集められている。まったく、面倒なことになったもんだな」

 森が状況を確認すると、面接を受け持った時のリーダーである柊がなんとも嫌そうな表情をしていた。

「こんにちは、私まで招集とは一体どうしたんですか」

「あら、星見さん。あなたもなの?」

「俺もいるぞ。なんだって一期生と二期生のトップである俺らまで呼ばれたんですか」

 会議室には、華樹ミミの中の人である星見とタクミの中の人である男性もやって来ていた。
 社が抱えるトップアバター配信者まで呼ばれるとは、一体どんな会議が行われるというのだろうか。森はすごく険しい表情をしている。

「それにしても、今日の議題は何だっていうのかしら。詳しい話は何も聞かされていないから、私でも分からないわ」

「ああ、問題はあれだよ。光月ルナの出した動画だな」

「光月ルナ?」

 柊の出した名前に、森は強く反応をしている。

「たしか、去年に出てきた個人勢のアバター配信者よね。すごい勢いでチャンネル登録者を増やしてるっていう……」

「ああ、そうだ。その光月ルナの出した、最新の動画がちょっと社の中で話題になってるんだよ」

「最新っていつ?」

「おとといだ」

「おととい!?」

 柊から話を聞いた森や海藤たちが驚いている。

「なるほど、私が知らないはずだわ。ずっと新人たちの企画を考えて詰めてたから……」

「お疲れさん。……そろそろ会議の時間だ、とりあえず座れよ」

「ええ、そうね」

 柊に言われて席に座る森たち。星見たちも隣り合うように席に着く。
 しばらくすると、Vブロードキャストの映像部の部長が入ってくる。その後ろから背筋を伸ばした若い男性が入ってきた。

「えっ、社長?」

 思わず声が出てしまう。
 そう、部長に次いで入ってきたのは、Vブロードキャストの社長だった。
 なんということだろうか、思った以上に若かった。
 会場に緊張感が走る。身を入れて社員たちは社長たちの話を聞くが、衝撃の内容すぎてそのほとんどを覚えていないようだった。

「なんなの。あれがヴァーチャルの映像なのかしらね」

「すごいですよね。リアルの料理番組見ているような感じでしたよね」

「これでも学生時代にチョコレートを手作りした経験はありますけど、まさにあんな感じでしたね。あれを再現した人物には会ってみたいですね」

「へえ、森って思い人でもいたのか?」

「黙ってて下さい、柊さん!」

 自爆したとはいえ、そこに反応されて森は顔を真っ赤にして怒っている。森に迫られた柊はちょっと反応に困っている。

「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ、お二人とも」

 星見が間に入って仲裁する。これでようやく森と柊は落ち着いて距離を取った。

「だが、あの技術を欲しいというのは分かるな。個人だからこそできるという面はあるかもしれないが……」

 タクミが考え込んでいる。

「コンタクトは取れそうか?」

「光月ルナのモデラーなら、多分あの人でしょうね」

「うん? ミミくんは分かるのかい?」

「はい、一応。彼女のように急に伸びたようなアバ信は極力チェックしていますからね」

 柊の質問に対して、星見は正直に答えている。

「ほらここです」

「そこは3Dモデルの販売サイトだね」

 柊が確認すると、星見はこくりと頷いている。

「このページで売られているのは、光月ルナの配信で出てきた犬と猫なんです。名前もクロワとサンで一致していますからね」

「ほ、本当ね」

 覗き込む森たちが、ページの内容に驚いている。

「ふむ……。このサイトの運営者はウォリーンというのか。コンタクトを取ることは……可能なようだな」

 じっくり見てみると、販売者への問い合わせ先が書かれていた。挙動がおかしいなどの不具合が見つかった時時のために、すぐに連絡を取れるようにしてあるのである。

「相手にとっては迷惑かもしれないが、社長命令だしな。森、頼まれてくれないか」

「えっ、私がですか?!」

 リーダーである柊から無茶振りをされて、森が思わず大きな声を上げてしまう。
 大役を押し付けられて困惑する気持ちと、人に押し付けてという苛立ちと、この技術はなんとしても手に入れなきゃという使命感で、森の心はとても複雑になってしまっていた。

「あのー。ちょっといいですかね」

 そこに星見が手を挙げて何かを言いたそうにしている。

「なんですか、星見さん」

「光月ルナとのコラボを出ししてみるというのはどうでしょうか。モデラーの方にいきなり話を通すと、個人勢である彼女への影響が大きいと思いますからね」

「ふむ……、確かにそうだな。世間的に見れば、彼女を企業が潰したとも取られかねない。それは確かに問題だ」

 星見の提案に、柊は考え込んでいる。

「でも、企業から個人勢に申し入れをするというのは……」

 橘が不安げに横やりを入れている。

「いや、そういう柔軟なところもあってもいいと思う。俺は賛成だぜ、そのコラボの話」

「まぁそうだな。ただ、誰とコラボをさせるかが問題だがな」

「なら、私がやりましょう。ただし、私たちの配信にゲスト参加させるという形に致しますが」

「分かった。ミミに任せよう」

 こうして、Vブロードキャストの中は慌ただしい雰囲気に包まれていくのだった。
 将を射んとする者はまず馬を射よ。華樹ミミと光月ルナのコラボ配信、はたして実現するのかどうか。
 すべては中の人である星見にかかっているのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...