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第96話 出るものは目につく
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真家レニの配信があった翌日、Vブロードキャスト社にアバター配信者たちを担当する社員が集められた。
「なんなのでしょうかね、先輩」
「海藤、今日の話題は多分あれでしょうね」
「あれってなんですか?」
海藤は森のいうことが理解できずに首を傾げている。
唸っている海藤の姿を見て、森は困った顔をしている。
配信の補佐をしているとはいえ、海藤はそれほどアバター配信者の配信を見ていないのである。
「あら、橘と柊も来ていたのね」
「そりゃそうですよ。アバター配信課の人間が全員集められてますからね」
「……なるほど、確かにみんなそうね。というより、うちの課だけじゃなさそうだけど?」
「ああ、アバター配信課だけじゃなくて、映像部の人間がほとんど集められている。まったく、面倒なことになったもんだな」
森が状況を確認すると、面接を受け持った時のリーダーである柊がなんとも嫌そうな表情をしていた。
「こんにちは、私まで招集とは一体どうしたんですか」
「あら、星見さん。あなたもなの?」
「俺もいるぞ。なんだって一期生と二期生のトップである俺らまで呼ばれたんですか」
会議室には、華樹ミミの中の人である星見とタクミの中の人である男性もやって来ていた。
社が抱えるトップアバター配信者まで呼ばれるとは、一体どんな会議が行われるというのだろうか。森はすごく険しい表情をしている。
「それにしても、今日の議題は何だっていうのかしら。詳しい話は何も聞かされていないから、私でも分からないわ」
「ああ、問題はあれだよ。光月ルナの出した動画だな」
「光月ルナ?」
柊の出した名前に、森は強く反応をしている。
「たしか、去年に出てきた個人勢のアバター配信者よね。すごい勢いでチャンネル登録者を増やしてるっていう……」
「ああ、そうだ。その光月ルナの出した、最新の動画がちょっと社の中で話題になってるんだよ」
「最新っていつ?」
「おとといだ」
「おととい!?」
柊から話を聞いた森や海藤たちが驚いている。
「なるほど、私が知らないはずだわ。ずっと新人たちの企画を考えて詰めてたから……」
「お疲れさん。……そろそろ会議の時間だ、とりあえず座れよ」
「ええ、そうね」
柊に言われて席に座る森たち。星見たちも隣り合うように席に着く。
しばらくすると、Vブロードキャストの映像部の部長が入ってくる。その後ろから背筋を伸ばした若い男性が入ってきた。
「えっ、社長?」
思わず声が出てしまう。
そう、部長に次いで入ってきたのは、Vブロードキャストの社長だった。
なんということだろうか、思った以上に若かった。
会場に緊張感が走る。身を入れて社員たちは社長たちの話を聞くが、衝撃の内容すぎてそのほとんどを覚えていないようだった。
「なんなの。あれがヴァーチャルの映像なのかしらね」
「すごいですよね。リアルの料理番組見ているような感じでしたよね」
「これでも学生時代にチョコレートを手作りした経験はありますけど、まさにあんな感じでしたね。あれを再現した人物には会ってみたいですね」
「へえ、森って思い人でもいたのか?」
「黙ってて下さい、柊さん!」
自爆したとはいえ、そこに反応されて森は顔を真っ赤にして怒っている。森に迫られた柊はちょっと反応に困っている。
「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ、お二人とも」
星見が間に入って仲裁する。これでようやく森と柊は落ち着いて距離を取った。
「だが、あの技術を欲しいというのは分かるな。個人だからこそできるという面はあるかもしれないが……」
タクミが考え込んでいる。
「コンタクトは取れそうか?」
「光月ルナのモデラーなら、多分あの人でしょうね」
「うん? ミミくんは分かるのかい?」
「はい、一応。彼女のように急に伸びたようなアバ信は極力チェックしていますからね」
柊の質問に対して、星見は正直に答えている。
「ほらここです」
「そこは3Dモデルの販売サイトだね」
柊が確認すると、星見はこくりと頷いている。
「このページで売られているのは、光月ルナの配信で出てきた犬と猫なんです。名前もクロワとサンで一致していますからね」
「ほ、本当ね」
覗き込む森たちが、ページの内容に驚いている。
「ふむ……。このサイトの運営者はウォリーンというのか。コンタクトを取ることは……可能なようだな」
じっくり見てみると、販売者への問い合わせ先が書かれていた。挙動がおかしいなどの不具合が見つかった時時のために、すぐに連絡を取れるようにしてあるのである。
「相手にとっては迷惑かもしれないが、社長命令だしな。森、頼まれてくれないか」
「えっ、私がですか?!」
リーダーである柊から無茶振りをされて、森が思わず大きな声を上げてしまう。
大役を押し付けられて困惑する気持ちと、人に押し付けてという苛立ちと、この技術はなんとしても手に入れなきゃという使命感で、森の心はとても複雑になってしまっていた。
「あのー。ちょっといいですかね」
そこに星見が手を挙げて何かを言いたそうにしている。
「なんですか、星見さん」
「光月ルナとのコラボを出ししてみるというのはどうでしょうか。モデラーの方にいきなり話を通すと、個人勢である彼女への影響が大きいと思いますからね」
「ふむ……、確かにそうだな。世間的に見れば、彼女を企業が潰したとも取られかねない。それは確かに問題だ」
星見の提案に、柊は考え込んでいる。
「でも、企業から個人勢に申し入れをするというのは……」
橘が不安げに横やりを入れている。
「いや、そういう柔軟なところもあってもいいと思う。俺は賛成だぜ、そのコラボの話」
「まぁそうだな。ただ、誰とコラボをさせるかが問題だがな」
「なら、私がやりましょう。ただし、私たちの配信にゲスト参加させるという形に致しますが」
「分かった。ミミに任せよう」
こうして、Vブロードキャストの中は慌ただしい雰囲気に包まれていくのだった。
将を射んとする者はまず馬を射よ。華樹ミミと光月ルナのコラボ配信、はたして実現するのかどうか。
すべては中の人である星見にかかっているのである。
「なんなのでしょうかね、先輩」
「海藤、今日の話題は多分あれでしょうね」
「あれってなんですか?」
海藤は森のいうことが理解できずに首を傾げている。
唸っている海藤の姿を見て、森は困った顔をしている。
配信の補佐をしているとはいえ、海藤はそれほどアバター配信者の配信を見ていないのである。
「あら、橘と柊も来ていたのね」
「そりゃそうですよ。アバター配信課の人間が全員集められてますからね」
「……なるほど、確かにみんなそうね。というより、うちの課だけじゃなさそうだけど?」
「ああ、アバター配信課だけじゃなくて、映像部の人間がほとんど集められている。まったく、面倒なことになったもんだな」
森が状況を確認すると、面接を受け持った時のリーダーである柊がなんとも嫌そうな表情をしていた。
「こんにちは、私まで招集とは一体どうしたんですか」
「あら、星見さん。あなたもなの?」
「俺もいるぞ。なんだって一期生と二期生のトップである俺らまで呼ばれたんですか」
会議室には、華樹ミミの中の人である星見とタクミの中の人である男性もやって来ていた。
社が抱えるトップアバター配信者まで呼ばれるとは、一体どんな会議が行われるというのだろうか。森はすごく険しい表情をしている。
「それにしても、今日の議題は何だっていうのかしら。詳しい話は何も聞かされていないから、私でも分からないわ」
「ああ、問題はあれだよ。光月ルナの出した動画だな」
「光月ルナ?」
柊の出した名前に、森は強く反応をしている。
「たしか、去年に出てきた個人勢のアバター配信者よね。すごい勢いでチャンネル登録者を増やしてるっていう……」
「ああ、そうだ。その光月ルナの出した、最新の動画がちょっと社の中で話題になってるんだよ」
「最新っていつ?」
「おとといだ」
「おととい!?」
柊から話を聞いた森や海藤たちが驚いている。
「なるほど、私が知らないはずだわ。ずっと新人たちの企画を考えて詰めてたから……」
「お疲れさん。……そろそろ会議の時間だ、とりあえず座れよ」
「ええ、そうね」
柊に言われて席に座る森たち。星見たちも隣り合うように席に着く。
しばらくすると、Vブロードキャストの映像部の部長が入ってくる。その後ろから背筋を伸ばした若い男性が入ってきた。
「えっ、社長?」
思わず声が出てしまう。
そう、部長に次いで入ってきたのは、Vブロードキャストの社長だった。
なんということだろうか、思った以上に若かった。
会場に緊張感が走る。身を入れて社員たちは社長たちの話を聞くが、衝撃の内容すぎてそのほとんどを覚えていないようだった。
「なんなの。あれがヴァーチャルの映像なのかしらね」
「すごいですよね。リアルの料理番組見ているような感じでしたよね」
「これでも学生時代にチョコレートを手作りした経験はありますけど、まさにあんな感じでしたね。あれを再現した人物には会ってみたいですね」
「へえ、森って思い人でもいたのか?」
「黙ってて下さい、柊さん!」
自爆したとはいえ、そこに反応されて森は顔を真っ赤にして怒っている。森に迫られた柊はちょっと反応に困っている。
「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ、お二人とも」
星見が間に入って仲裁する。これでようやく森と柊は落ち着いて距離を取った。
「だが、あの技術を欲しいというのは分かるな。個人だからこそできるという面はあるかもしれないが……」
タクミが考え込んでいる。
「コンタクトは取れそうか?」
「光月ルナのモデラーなら、多分あの人でしょうね」
「うん? ミミくんは分かるのかい?」
「はい、一応。彼女のように急に伸びたようなアバ信は極力チェックしていますからね」
柊の質問に対して、星見は正直に答えている。
「ほらここです」
「そこは3Dモデルの販売サイトだね」
柊が確認すると、星見はこくりと頷いている。
「このページで売られているのは、光月ルナの配信で出てきた犬と猫なんです。名前もクロワとサンで一致していますからね」
「ほ、本当ね」
覗き込む森たちが、ページの内容に驚いている。
「ふむ……。このサイトの運営者はウォリーンというのか。コンタクトを取ることは……可能なようだな」
じっくり見てみると、販売者への問い合わせ先が書かれていた。挙動がおかしいなどの不具合が見つかった時時のために、すぐに連絡を取れるようにしてあるのである。
「相手にとっては迷惑かもしれないが、社長命令だしな。森、頼まれてくれないか」
「えっ、私がですか?!」
リーダーである柊から無茶振りをされて、森が思わず大きな声を上げてしまう。
大役を押し付けられて困惑する気持ちと、人に押し付けてという苛立ちと、この技術はなんとしても手に入れなきゃという使命感で、森の心はとても複雑になってしまっていた。
「あのー。ちょっといいですかね」
そこに星見が手を挙げて何かを言いたそうにしている。
「なんですか、星見さん」
「光月ルナとのコラボを出ししてみるというのはどうでしょうか。モデラーの方にいきなり話を通すと、個人勢である彼女への影響が大きいと思いますからね」
「ふむ……、確かにそうだな。世間的に見れば、彼女を企業が潰したとも取られかねない。それは確かに問題だ」
星見の提案に、柊は考え込んでいる。
「でも、企業から個人勢に申し入れをするというのは……」
橘が不安げに横やりを入れている。
「いや、そういう柔軟なところもあってもいいと思う。俺は賛成だぜ、そのコラボの話」
「まぁそうだな。ただ、誰とコラボをさせるかが問題だがな」
「なら、私がやりましょう。ただし、私たちの配信にゲスト参加させるという形に致しますが」
「分かった。ミミに任せよう」
こうして、Vブロードキャストの中は慌ただしい雰囲気に包まれていくのだった。
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