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第100話 ブイキャス恒例配信・前編
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「おはようございます!」
夕方6時半、香織はVブロードキャストに到着していた。
約束通り5時半に森が家まで迎えに来て、そのままやって来たのである。
今日はVブロードキャストのアバター配信者が集まっての配信が行われる。司会一名に参加者四名という合同配信である。
本当は一期、二期、三期の五人が集まって行う予定だったのだが、三期の一名が病気で倒れてしまい、急きょ香織が招集されたのである。
香織が事前の打ち合わせで会社の配信スタジオに顔を出すと、華樹ミミと蒼龍タクミ、それと見たことのない二人が待ち構えていた。
「あら、マイカちゃんじゃないの。お披露目の日以来ですね」
「か、華樹ミミ先輩! 今日はお世話になります」
「すまないな。今年はちょっと風邪もインフルも流行っちまってるからな。俺は花粉症もあるからマスクが外せないぜ」
「た、タクミ先輩もお久し、振りです」
タクミのことが怖いのか、挨拶の最後の声が小さくなってしまう香織であった。
それにしても、初めて見る人物も二人いる。男女が一人ずつのようだ。ちなみに病気で倒れたのは三期生の男性らしい。
さわやか系の二十代イケメンと、同じ四期生であるふぃりあとは違った感じのおっとりタイプの女性が話し掛けてくる。
「やあ、君が代打で来た四期生だね。俺は二期生の『腐乱ケン』。まっ、名前の通りのアバターを持った配信者だ」
「初めまして、私は『夜風パピヨン』と申します。ミミちゃんとは同期ですよ」
「は、初めまして。『黄花マイカ』といいます。先日デビューしたばかりの四期生です。本日は、よろしくお願いします」
先輩二人の挨拶に、香織は背筋をピンと伸ばして挨拶をしている。
「他の子にも声をかけてみたんだけど、どうにか連絡がついて了承してもらえたのは、この子だけだったのよね」
「いやぁ、とはいえ助かったぜ。このままじゃ日数的に外部ゲストをってことにもできなかったからな。定番番組に穴が開くとこだったぜ」
挨拶を終えたところで、ミミとタクミが困ったような顔をして話をしている。どうやら、状況的に配信を中止する可能性があったようだった。
先輩二人が困り果てる様子を見て、急きょ参加することになった香織は反応に困ってしまっていた。
「まぁまぁ、ミミ様もタクミ様もあまり暗い顔をなさらないで下さい。マイカ様が困ってらっしゃいますわ」
「そうだね。それよりもさっさと番組の概要を説明した方がいいと思う。もう1時間もしたら始まってしまうからね」
「そうですね。では、配信予定の番組に関してご説明しますね」
「はい、お願いします」
ひと息ついたミミが、香織の方へと顔を向ける。
森や海藤といった社員たちが配信に向けて準備をする中、ミミたち先輩が香織に対して説明を始める。
今回の配信は、毎年バレンタインデーを含めた前後に行っている配信のようで、一期生がデビューした時から毎年行っている。
一体どのような配信なのかは想像がつかないものの、先輩たちの雰囲気を見ている限りは、Vブロードキャスト所属のアバター配信者たちにとっては一大イベントのようである。
「それにしても、どうして五人でないといけないんですかね」
「まぁなんていうか、盛り上がらないんだよな」
「真似たものを配信したことはあるのですけれど、自分たちがどうも楽しくなれないんですよね」
「そ、そうなんですね」
先輩たちの答えに、よく分からないけれど納得してしまう。
「それよりも多い人数は試したことはないが、なにせ新規を入れて全部で十七人いるとはいえ、全員の都合を合わせるのは至難の業だからな」
「なるほど。つまり、人数をそろえやすくて、なおかつ面白くなる最低ラインが五人というわけなんですね」
「そういうことですね」
「視聴者受けはそこそこなんだが、やってるこっちがつらいんだよ」
先輩アバター配信者たちの雰囲気が段々と怪しくなってくる。
「はい、そのくらいにしておきましょう。私たちがこんな状態では、マイカちゃんがつらくなるだけです。気持ちを切り替えますよ」
「わ、悪かったな」
さすがは一期生でVブロードキャストのアバター配信者たちをまとめ上げる華樹ミミである。リーダーとしてちゃんと場を取り仕切っている。
もう配信時間が迫ってきたというわけで、森たち社員が香織たちを呼びに来る。
「では、こちらの準備が整いましたので、みなさんモーションキャプチャを着けてスタンバイ願います」
「分かりました。では、参りましょうか」
「はい!」
「おう!」
ミミの呼び掛けに、全員が元気よく返事をする。
モーションキャプチャを装備しながら、パンツスタイルで来るように言われた理由をようやく理解した香織だった。
異性のアバター配信者もいる環境では、服装に気を付けなければいけなかったからだ。そもそも、お披露目配信でもそういわれていたわけだし、今後もパンツスタイルで来た方がいいなと悟る香織であった。
そして、午後8時を迎え、Vブロードキャスト所属のアバター配信者たちによるバレンタイン配信が始まる。
この日を選んで、一体どんな配信が行われるというのだろうか。
臨時の代打とはいえ、初めての名前をアナウンスされての配信となる香織は、緊張しながらも気合いを入れて臨むのだった。
夕方6時半、香織はVブロードキャストに到着していた。
約束通り5時半に森が家まで迎えに来て、そのままやって来たのである。
今日はVブロードキャストのアバター配信者が集まっての配信が行われる。司会一名に参加者四名という合同配信である。
本当は一期、二期、三期の五人が集まって行う予定だったのだが、三期の一名が病気で倒れてしまい、急きょ香織が招集されたのである。
香織が事前の打ち合わせで会社の配信スタジオに顔を出すと、華樹ミミと蒼龍タクミ、それと見たことのない二人が待ち構えていた。
「あら、マイカちゃんじゃないの。お披露目の日以来ですね」
「か、華樹ミミ先輩! 今日はお世話になります」
「すまないな。今年はちょっと風邪もインフルも流行っちまってるからな。俺は花粉症もあるからマスクが外せないぜ」
「た、タクミ先輩もお久し、振りです」
タクミのことが怖いのか、挨拶の最後の声が小さくなってしまう香織であった。
それにしても、初めて見る人物も二人いる。男女が一人ずつのようだ。ちなみに病気で倒れたのは三期生の男性らしい。
さわやか系の二十代イケメンと、同じ四期生であるふぃりあとは違った感じのおっとりタイプの女性が話し掛けてくる。
「やあ、君が代打で来た四期生だね。俺は二期生の『腐乱ケン』。まっ、名前の通りのアバターを持った配信者だ」
「初めまして、私は『夜風パピヨン』と申します。ミミちゃんとは同期ですよ」
「は、初めまして。『黄花マイカ』といいます。先日デビューしたばかりの四期生です。本日は、よろしくお願いします」
先輩二人の挨拶に、香織は背筋をピンと伸ばして挨拶をしている。
「他の子にも声をかけてみたんだけど、どうにか連絡がついて了承してもらえたのは、この子だけだったのよね」
「いやぁ、とはいえ助かったぜ。このままじゃ日数的に外部ゲストをってことにもできなかったからな。定番番組に穴が開くとこだったぜ」
挨拶を終えたところで、ミミとタクミが困ったような顔をして話をしている。どうやら、状況的に配信を中止する可能性があったようだった。
先輩二人が困り果てる様子を見て、急きょ参加することになった香織は反応に困ってしまっていた。
「まぁまぁ、ミミ様もタクミ様もあまり暗い顔をなさらないで下さい。マイカ様が困ってらっしゃいますわ」
「そうだね。それよりもさっさと番組の概要を説明した方がいいと思う。もう1時間もしたら始まってしまうからね」
「そうですね。では、配信予定の番組に関してご説明しますね」
「はい、お願いします」
ひと息ついたミミが、香織の方へと顔を向ける。
森や海藤といった社員たちが配信に向けて準備をする中、ミミたち先輩が香織に対して説明を始める。
今回の配信は、毎年バレンタインデーを含めた前後に行っている配信のようで、一期生がデビューした時から毎年行っている。
一体どのような配信なのかは想像がつかないものの、先輩たちの雰囲気を見ている限りは、Vブロードキャスト所属のアバター配信者たちにとっては一大イベントのようである。
「それにしても、どうして五人でないといけないんですかね」
「まぁなんていうか、盛り上がらないんだよな」
「真似たものを配信したことはあるのですけれど、自分たちがどうも楽しくなれないんですよね」
「そ、そうなんですね」
先輩たちの答えに、よく分からないけれど納得してしまう。
「それよりも多い人数は試したことはないが、なにせ新規を入れて全部で十七人いるとはいえ、全員の都合を合わせるのは至難の業だからな」
「なるほど。つまり、人数をそろえやすくて、なおかつ面白くなる最低ラインが五人というわけなんですね」
「そういうことですね」
「視聴者受けはそこそこなんだが、やってるこっちがつらいんだよ」
先輩アバター配信者たちの雰囲気が段々と怪しくなってくる。
「はい、そのくらいにしておきましょう。私たちがこんな状態では、マイカちゃんがつらくなるだけです。気持ちを切り替えますよ」
「わ、悪かったな」
さすがは一期生でVブロードキャストのアバター配信者たちをまとめ上げる華樹ミミである。リーダーとしてちゃんと場を取り仕切っている。
もう配信時間が迫ってきたというわけで、森たち社員が香織たちを呼びに来る。
「では、こちらの準備が整いましたので、みなさんモーションキャプチャを着けてスタンバイ願います」
「分かりました。では、参りましょうか」
「はい!」
「おう!」
ミミの呼び掛けに、全員が元気よく返事をする。
モーションキャプチャを装備しながら、パンツスタイルで来るように言われた理由をようやく理解した香織だった。
異性のアバター配信者もいる環境では、服装に気を付けなければいけなかったからだ。そもそも、お披露目配信でもそういわれていたわけだし、今後もパンツスタイルで来た方がいいなと悟る香織であった。
そして、午後8時を迎え、Vブロードキャスト所属のアバター配信者たちによるバレンタイン配信が始まる。
この日を選んで、一体どんな配信が行われるというのだろうか。
臨時の代打とはいえ、初めての名前をアナウンスされての配信となる香織は、緊張しながらも気合いを入れて臨むのだった。
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