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未羊

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第163話　月初のお約束

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　週末である土曜日、満はいつものように風斗と街に繰り出していた。
　天気は相変わらずのしとしとと雨が降る状況だった。

「今日は男でほっとしたぜ」

「なんだよ、風斗。僕が女だったら何か不都合でもあるわけ？」

「いやぁまぁ。昨日も男だったからさ、今日は女じゃないかとひやひやしてたんだ。最近一日交代のようになってたからな」

「ああ、確かにそうだったね」

　風斗は自分が落ち着かなくなるという状況をごまかすために、二日連続男の状態が続いたことを指摘していた。
　満も満で、そういえばそうだったと、うまくごまかされたようだった。

「今日はいつも通り、『月刊アバター配信者』を買って配信ネタにするんだろ？」

「まあね。月の始めの土曜日は、ネタに困らなくて助かるよ。さすがにこれだけの頻度だと、ネタがなくて配信どうしようかなって悩むようになってきたからね」

「お前、あんまり特技ないからな」

「ぶぅ……」

　風斗にからかわれた満は、その頬を膨らまして不機嫌になっていた。
　特技がないと言われた満ではあるが、男でも女でもその声の状態にまったくといっていいほど差がない。
　満の手元にはボイスチェンジャーはないので、これまでの配信は満の地声である。
　つまり、男の状態満でも女の状態ルナでも、地声で配信しているのである。
　あれだけたくさんいるリスナーたちも、配信をしている満に違和感を感じている気配がない。あるならどこかで指摘が出ているはずだ。
　それが今まで一切ないのだから、満の地声は差がない、もしくはまったく同質であるといえる。これも十分特技ではないだろうか。
　ただ、リアルの場合は、そこに満とルナの外見情報が加わる。なので、風斗ですらもその影響で二人の声は別物と受け取ってしまっているのである。

「それにしても、今日もよく降るよな」

　傘から手を出して、風斗が愚痴を漏らしている。

「うん、そうだね。でも、男の時でよかったよ。服装が楽で済むから」

　満が無意識にこんなことを言うと、風斗はどういうわけか満から顔を逸らしていた。

「風斗？」

　すぐに反応がないことに疑問を感じた満がちらりと顔を向ける。

「な、なんでもねえよ。それよりも、さっさと書店に行くぞ」

　満に顔を見られそうになった風斗は、急に怒鳴り始めてしまった。あまりにも突然だったので、満はびっくりして動きが止まってしまっていた。

「う、うん。さっさと本を買っちゃおうか」

　どうにか気を取り直した満は、風斗の後を追って書店へと向かったのだった。

　発売日がかぶっていた漫画と一緒に目的の本を買った満と風斗が、書店から一緒に出てくる。

「ずいぶんとたくさん買ったな」

「うん、アバター配信者の収益が思ったより多かったからね。このくらいは余裕で払えるよ」

　風斗の呆れたような顔に、満は満面の笑みで答えていた。

「そっかぁ。同い年だっていうのに、そんなに稼ぐようになっちまって、まったく羨ましい限りだぜ」

「だったら、風斗もアバター配信者を初めてみる？」

　満はくすくす笑いながら風斗に問いかけている。

「いや、俺は遠慮しておくよ。それをするくらいだったら、俺は俺自身で勝負をしたいと思う」

「親友を否定しないでよ、風斗ってば」

　風斗の言葉に怒るような言葉を返す満だが、その顔は笑っていた。
　風斗らしいなと思っているからか、怒る気にもなれないのである。
　その後、風斗から謝罪を受けた満は、いつものようにハンバーガーを食べて家に戻っていったのだった。

　家に戻った満は、早速今日の配信のために買ってきた本を机の上に取り出していた。

「今日買ってきたのは、月刊アバター配信者と、いつも読んでる漫画の単行本四冊っと。これでどうにか話題にはできそうかな」

　まだお昼過ぎなので、満は早速本を読み始める。
　月刊アバター配信者には、しっかりとＶブロードキャスト社の新規アバター配信者募集のニュースも載せられていた。社長へのインタビュー付きで。
　今まで、本社配信にこだわってきたので、急に外部からの配信を容認する方向に切り替えたことなど、いろんな話が載っていた。

「満ー、そろそろ夕ご飯の時間よ。降りてきなさい」

「えっ、もうそんな時間？！」

　突然母親に呼ばれて、満は慌てて時計を見る。
　時間はもう夕方の６時。
　どうやら、インタビュー記事をじっくり見過ぎてしまったようだ。
　興味深かったせいで、つい時間を忘れて最初から最後まで熟読してしまったようなのだ。

「いっけない。配信の予告しなくちゃ」

　慌てた満は、ＳＮＳに早速打ち込みをする。
　ひとまず今夜の配信の告知ができたので、満は安心して食堂へと向かった。
　夕食を終えて部屋に戻った満は、配信時間を忘れないように３０分前にアラームをセットする。
　今日の配信のために、しっかりと準備をしなければならないが、その配信の時間を忘れてしまっては意味がないからだ。

　時間は２０時半。セットしておいたアラームが鳴り響く。

「あっ、もうそんな時間か。それじゃ、今日の配信の準備をしなくちゃね」

　読んでいた本を閉じると、満はモーションキャプチャを装着して配信の準備を始めていく。

「よーし、今日も頑張りますか」

　夜９時を迎えて、満は配信を始めたのだった。

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