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第192話 恋愛なんてそれぞれ・後編
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あまりにも大きな歓声に、満は正直怖くなった。
何をもってここまで自分に興味が注がれているのか、それが分からないからだ。
『落ち着け、満。いつも通りやればいいんだよ』
風斗はスマートフォンのメモにそのように書いて満へと見せていた。
後ろを振り返った満の目にそのメモが映り込んだようで、はっとした表情を見せて、こくりと頷いていた。
ひとまずは落ち着きを取り戻せたように見えるので、風斗は小さく安堵のため息を漏らしていた。
「グッジョブだ、風斗」
世貴は小さく風斗に声をかけ、親指を立てていた。
会場の中はというと、相変わらずの盛り上がりである。
ここまで話を済ませた二人は、自分たちとの歓声の大きさの違いに羨ましがるどころか戸惑いすら感じている。
しかし、いい年をした大人であるので、光月ルナがどのように答えるのか黙って見守っているようだ。
「おほん、おはようですわ、みなさん。光月ルナでございます」
ルナは落ち着いていつも挨拶をする。
これだけで会場はまた盛り上がっている。光月ルナのリスナーがどれだけ来ているのかがよく分かるというものだ。
「このような場で、これほどの方たちに声援を送って頂けるとは、なんとも光栄なことですわね。僕は嬉しく思いますよ」
にこにこと微笑んでいるルナは、自分の今の衣装のことはすっかり忘れているようだ。
「そういえば、光月ルナさんは吸血鬼ですが、今の時間に出てこられて大丈夫でしたでしょうかね」
司会が思わず尋ねてしまう。
そう、今は真夏であるために、まだまだ外が明るい状況なのだ。それゆえに心配をしているというわけである。
「問題ございませんわ。僕は真祖ですよ? そこらの半端な吸血鬼と同じにしないで下さいませ」
『おお、かっこいい・・・』
『これでこそルナちだよ』
配信のコメント欄に、次々と書き込まれていくルナへのコメント。
ここでも他のアバター配信者とは大きく水を開ける結果となっている。
「それは素晴らしい。では、その真祖たるルナさんの恋愛に関してのお話を聞いてみましょうか」
改めて、司会がテーマを振りかざしてルナに襲い掛かってきた。
さすがに困ったものである。
受け答えからして、他の二人は間違いなく成人している人たちだろう。しかし、満はまだ中学二年生。恋愛もよく分からないし、満はその点に関しては致命的に鈍い。
同じブースの中で構える世貴と風斗は、満の反応を息を飲んで見守っている。
「よく分かりませんわね」
口を開いたかと思うと、満から出てきたのはある意味満らしい答えだった。
「分からない、ですか。どういった理由ででしょうか」
司会も食い下がってくる。
「僕は吸血鬼の真祖ですわよ? 長い時を生きる僕にとって、そのようなものは無価値ですし、興味もわきませんわ。ゆえに、よく分からないと申しておりますの」
実に堂々とした受け答えをしている。
これでも直前まで緊張で全身を震わせていたのだ。そのような状況にあった人物とは思えないくらいに、はきはきとした答えなのである。
『ヒュー♪』
『かっけえ・・・』
『さすがルナち、一生ついていく』
再びリスナーたちのコメントがものすごい勢いで流れていく。
『司会、ものすごく対応に困ってるやんwww』
『大物芸能人すらも戸惑わせるとは、そこに痺れる、憧れるぅっ!』
楽しそうなリスナーたちである。
「これはなかなか本物のようですね。さすがはアバター配信者といったところでしょうか」
司会はアバター配信者たちを甘く見ていたようで、今回の三人を相手にかなり調子がおかしくしているようだ。
どうも狙ったような答えを引っ張り出せなかったようだ。これは司会としてはちょっと頂けない結果なのである。
ここは、アバター配信者としての役を押し通した三人の勝利である。
「それぞれの恋愛観について、どうもありがとうございました」
司会もさすがにやけくそだった。
しかし、三人ともあっさりと終わってしまったがために、まだ時間が5分ほど余っている。
持ち時間は持ち時間なので、使い切らなければならない。ここでこそ、司会の腕の見せどころではないのだろうか。
「恋愛に関しては、あまりお話を聞き出せそうにありませんね。仕方ありませんので、これまでのアバター配信者活動を振り返ってお好きに語って下さい」
『司会者やけくそやんwwwww』
『この三人のキャラはぶれんかったなぁ』
『完w全w敗w北w達w成w』
思ってもみなかった事態に、リスナーたちは大爆笑である。
「きしし、普段はBLメインで語ってますけれど、百合もブロマンスもいけるクチです。このやっしん様の談議についてきたければチャンネル登録よろしくぅっ!」
「私はこの通り固いと言われますが、ためになる講座を開いております。お聞きになりたい項目がありましたら、チャンネルのDMまで投げて下さい」
「僕は時折ゲーム配信を行っております。気になる方は過去のアーカイブもありますので、一度ご覧になって下さい」
好きに語ってもらおうとしたら、まさかのチャンネルの宣伝である。
この三人、最後まで司会の思う通りには動いてくれなかったようだった。
『あwかwんw、腹wがw痛wいw』
『明日の芸能一面が楽しみやわぁ』
結局マイペースな三人に振り回されたまま、この三人の10分間は過ぎ去っていったのである。
何をもってここまで自分に興味が注がれているのか、それが分からないからだ。
『落ち着け、満。いつも通りやればいいんだよ』
風斗はスマートフォンのメモにそのように書いて満へと見せていた。
後ろを振り返った満の目にそのメモが映り込んだようで、はっとした表情を見せて、こくりと頷いていた。
ひとまずは落ち着きを取り戻せたように見えるので、風斗は小さく安堵のため息を漏らしていた。
「グッジョブだ、風斗」
世貴は小さく風斗に声をかけ、親指を立てていた。
会場の中はというと、相変わらずの盛り上がりである。
ここまで話を済ませた二人は、自分たちとの歓声の大きさの違いに羨ましがるどころか戸惑いすら感じている。
しかし、いい年をした大人であるので、光月ルナがどのように答えるのか黙って見守っているようだ。
「おほん、おはようですわ、みなさん。光月ルナでございます」
ルナは落ち着いていつも挨拶をする。
これだけで会場はまた盛り上がっている。光月ルナのリスナーがどれだけ来ているのかがよく分かるというものだ。
「このような場で、これほどの方たちに声援を送って頂けるとは、なんとも光栄なことですわね。僕は嬉しく思いますよ」
にこにこと微笑んでいるルナは、自分の今の衣装のことはすっかり忘れているようだ。
「そういえば、光月ルナさんは吸血鬼ですが、今の時間に出てこられて大丈夫でしたでしょうかね」
司会が思わず尋ねてしまう。
そう、今は真夏であるために、まだまだ外が明るい状況なのだ。それゆえに心配をしているというわけである。
「問題ございませんわ。僕は真祖ですよ? そこらの半端な吸血鬼と同じにしないで下さいませ」
『おお、かっこいい・・・』
『これでこそルナちだよ』
配信のコメント欄に、次々と書き込まれていくルナへのコメント。
ここでも他のアバター配信者とは大きく水を開ける結果となっている。
「それは素晴らしい。では、その真祖たるルナさんの恋愛に関してのお話を聞いてみましょうか」
改めて、司会がテーマを振りかざしてルナに襲い掛かってきた。
さすがに困ったものである。
受け答えからして、他の二人は間違いなく成人している人たちだろう。しかし、満はまだ中学二年生。恋愛もよく分からないし、満はその点に関しては致命的に鈍い。
同じブースの中で構える世貴と風斗は、満の反応を息を飲んで見守っている。
「よく分かりませんわね」
口を開いたかと思うと、満から出てきたのはある意味満らしい答えだった。
「分からない、ですか。どういった理由ででしょうか」
司会も食い下がってくる。
「僕は吸血鬼の真祖ですわよ? 長い時を生きる僕にとって、そのようなものは無価値ですし、興味もわきませんわ。ゆえに、よく分からないと申しておりますの」
実に堂々とした受け答えをしている。
これでも直前まで緊張で全身を震わせていたのだ。そのような状況にあった人物とは思えないくらいに、はきはきとした答えなのである。
『ヒュー♪』
『かっけえ・・・』
『さすがルナち、一生ついていく』
再びリスナーたちのコメントがものすごい勢いで流れていく。
『司会、ものすごく対応に困ってるやんwww』
『大物芸能人すらも戸惑わせるとは、そこに痺れる、憧れるぅっ!』
楽しそうなリスナーたちである。
「これはなかなか本物のようですね。さすがはアバター配信者といったところでしょうか」
司会はアバター配信者たちを甘く見ていたようで、今回の三人を相手にかなり調子がおかしくしているようだ。
どうも狙ったような答えを引っ張り出せなかったようだ。これは司会としてはちょっと頂けない結果なのである。
ここは、アバター配信者としての役を押し通した三人の勝利である。
「それぞれの恋愛観について、どうもありがとうございました」
司会もさすがにやけくそだった。
しかし、三人ともあっさりと終わってしまったがために、まだ時間が5分ほど余っている。
持ち時間は持ち時間なので、使い切らなければならない。ここでこそ、司会の腕の見せどころではないのだろうか。
「恋愛に関しては、あまりお話を聞き出せそうにありませんね。仕方ありませんので、これまでのアバター配信者活動を振り返ってお好きに語って下さい」
『司会者やけくそやんwwwww』
『この三人のキャラはぶれんかったなぁ』
『完w全w敗w北w達w成w』
思ってもみなかった事態に、リスナーたちは大爆笑である。
「きしし、普段はBLメインで語ってますけれど、百合もブロマンスもいけるクチです。このやっしん様の談議についてきたければチャンネル登録よろしくぅっ!」
「私はこの通り固いと言われますが、ためになる講座を開いております。お聞きになりたい項目がありましたら、チャンネルのDMまで投げて下さい」
「僕は時折ゲーム配信を行っております。気になる方は過去のアーカイブもありますので、一度ご覧になって下さい」
好きに語ってもらおうとしたら、まさかのチャンネルの宣伝である。
この三人、最後まで司会の思う通りには動いてくれなかったようだった。
『あwかwんw、腹wがw痛wいw』
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