ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第21話 ゴールデンウィーク入口

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 気が付けば4月も最終週に入り、いよいよ世間的にはゴールデンウィークだ。世間が浮かれるその空気は、着実に栞の周りの学生たちからも漏れ出していた。
「おーい、しおりん。ゴールデンウィークはどっか行くのか?」
 教室でくつろいでいると、唐突に歩く拡声器が近付いてきた。でもまあ、この話題は世間一般的なものであるために、栞は邪険にする事なく普通に対応する事にした。
「ゴールデンウィークねぇ……。私んちはどこにも出かけないわね。家でのんびりしながら、運動がてら散歩するくらいかしら」
 栞が悩んだふりをしてしれっと答えると、わっけーが不満げな顔をして栞を見てきた。
「はーーっ?! せっかくの連休なのにどこも行かないなんて、つまんないじゃないか、しおりん!」
 わっけーが過剰反応で絡んでくる。うるさいにはうるさいが、栞は大人の対応でこれに対処する。
「だって、みんな出かけるからどこ行っても混んでるでしょう? 気分転換なのに逆に疲れるなんて嫌よ!」
 栞の答えにわっけーが一瞬怯むが、何を思ったか突然栞の頭をわしゃわしゃと掻き乱した。
「よーし。だったらしおりんの家に遊びにくぞーっ!」
 急にとち狂った事を言い始めるわっけー。
「はぁ?! なんでそうなるのよ」
「友だちだろうがっ! 親睦を深めるんじゃーっ!」
 困惑顔でわっけーを見る栞だったが、一度騒ぎ始めたわっけーは止められない。よく見てみれば、真彩も理恵もすっかり諦めて栞たちを見ている。栞が「えーっ」という顔していると、わっけーの攻撃が知らない間にくすぐり攻撃に変わっていて、こうなると栞もさすがに耐えられなかった。
「ちょ……、やめてよ、くすぐったい。分かったわよ。分かったから、やめなさいってば!」
 だが、これだけではわっけーのくすぐり攻撃は止まらなかった。
「次の、次の休みの日、この日でいいでしょ!」
 栞がここまで言って、ようやくわっけーの手が止まった。
「おー、分かった。じゃ、楽しみにしてるのだーっ! わーはっはっはっ!」
 満足したわっけーは、うるさく笑いながら自分の席へと、大きな足音を立てながら歩いて戻っていった。それを見送った真彩と理恵は、謝りながら栞を宥めていた。
 わっけーから無事に解放された栞は、その後も休み時間中はずっと机に突っ伏していた。相当にわっけーの相手は疲れるのである。
 ただ、突っ伏しながらも、ここまでの事を振り返っていた。
 学校の修繕を教師がしているという事実、給食費の未納分肩代わりの件、まぁ実にとんでもない事が分かったものである。ちなみに給食費の件もすでに上司へ報告済みで、あとは向こうの対応待ちといった感じだ。栞は学校内の調査を淡々とするだけの状況に戻っていた。
「栞ちゃん、大丈夫?」
 ずっと机に突っ伏している栞を心配して、真彩が声を掛けてきた。わっけーの件の後はずっとこの状態なのだから仕方がないだろう。
「あーうん、大丈夫よ。先週までもたくさんあったし、いろいろ思い返してたところよ。まあ、さっきのわっけーの一撃が最大の原因だけど」
 栞はそう言って、露骨に嫌そうな顔をした。大体わっけーのせいである。
「本当に栞ちゃん、大変そうよね。私も何か役に立てればいいのだけれど……」
「いろいろ面倒な事が多そうだからね、気が付いた事を警部や私に伝えてくれればいいわよ。それよりも、問題はわっけーよ」
 栞と真彩がわっけーを見る。理恵を相手に何か言っているようだ。
「……そうね。わっけーったら栞ちゃんの事をなぜか気に入っているみたいだし、これからも事あるごとにちょっかいを掛けてきそう」
「そうなってくると、調査どころじゃなくなるわね。はぁ……」
 わっけーから視線を戻すと、栞と真彩は揃ってため息を吐いた。
「まーちゃんは、とりあえずわっけーをお願い。うまく理恵ちゃんに押し付けて」
「うん、分かった」
 二人はわっけー対策の事で確認し合って頷くのだった。

 そうして昼休み。
 栞は何を思ったか、新聞部の部室へと足を向けていた。本当にただ何となくである。
 部室の扉をノックすると、中から調部長が反応した。
 栞が部室に入ると、調部長と軽部副部長が、二人揃って何かしらの作業をしているようだった。
「高石さん、おはようございます」
「あっ、おはようございます」
 昼なのにおはようと挨拶されて、栞は一瞬戸惑った。そして、落ち着いた栞が二人に質問する。
「お二方とも、こんな時間に何をされているんですか?」
 二人揃ってパソコンに向かって作業しているので、不思議に思ったようである。
「私たち3年生は、5月末に卒業旅行があるんですよ。今行っているのはその卒業旅行で使う冊子の作製です。今年こそ存続が危ぶまれた我が部ですが、先輩方からずっと行われてきた大事な部活動なのですよ」
 カタカタと打ち込みながら、調部長が答える。相変わらず軽部副部長は黙々と作業をしている。
「へえ~、そうなんですか」
「教職員の方々は冊子を作る労力は最後のチェックだけで済みますし、新聞部としては編集技能が鍛えられますから、双方に利点があるのですよ」
 栞の反応に、調部長は手の動きを止めずにさらに説明を加えていた。それと同時に軽部副部長に指示のメモを手渡していた。この人何気にスペックがやばい。
 そうこうしていると、昼休み終了5分前の予鈴が鳴った。
「あらら、もうこんな時間なのですね」
 調部長はここまでの作業を保存して手を止める。
「高石さん、また放課後に来られますか?」
「え、あ、はい」
 また不意を突かれたのか、調部長の質問に怪しい返事をしてしまう栞。
「ふふっ、この作業をするのは来年からはあなた方後輩の仕事になります。作りながらお教えしなければなりませんからね」
 なるほどと納得した栞は、今度はしっかりと返事をした。
 面白そうだなと思った栞。二度目の中学生という事に最初はうんざりしていたが、これはこれで楽しめそうだなと思うのだった。
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