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第59話 疑いの先は
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夏休みに入って、栞は今日も学校にやって来ていた。グラウンドの使用は禁止が言い渡されてるとはいえ、練習できるのはグランドだけじゃないし、部活棟にはシャワーがあるのでこれほど練習にもってこいな場所はないのだ。着替えさえ持ってきていれば、いくらでも練習のしようがあるというのだ。というわけで、栞はほぼ毎日のように校舎周りをぐるぐると走り込んでいた。
こうも頻繁に学校に来ているせいか、栞はその異様な光景が目について仕方なかった。
(何だろう、なんでこんなに人の出入りがあるの? 私は長くても2時間しか居ないのに、それでも数回見る事もある。これは怪しいわね……)
そう、実に不自然なまでの人の出入りなのだ。郵便局の配達だったら毎日でもおかしくはないが、それ以外にも宅配業者や施工業者の出入りが見られた。工事をするなら学生にも通達が来るはずだし、明らかに怪しさを放っていた。
宅配業者も大小様々な物を持ってくる。だが、荷物を抱えて出てくる方はほぼ皆無だ。何をそんなに搬入しているというのだろうか。
千夏に確認してみるが、夏休み中の工事の予定はまったく聞いていないらしい。
どうにも疑念が払拭できない栞は、この間のドリンクの分析結果を聞くついでに、水崎警部に相談を持ち掛けてみる事にした。
というわけで、お昼ご飯を一緒にする約束で、市内のファミレスへとやって来た栞。そこへは水崎警部と真彩と勝の姉弟も顔を出してきた。どうやら警部は今日は代
替の非番らしいのだが、服装はシャツにスラックスとぴっしり決めていた。
「申し訳ありません、水崎警部。急な呼び掛けに応じて頂いて」
「いや構わんよ。真彩も高石くんに会いたがっていたから、むしろちょうどよかったよ」
水崎警部がそう言うと、栞はふと思い出した。夏休みに入ってから会うどころか連絡すらしていなかったのだ。
「久しぶりだね、栞ちゃん」
「うん、久しぶりだね」
栞と真彩は挨拶を交わす。挨拶をしてきた時の真彩は笑顔だったが、座席に座るなりちょっと頬を膨らませていた。
(あー、これは怒ってる?)
そこまで人の気持ちに鈍感ではない栞なので、真彩の感情をひしひしと感じている。さっきの挨拶も、ちょっと定型句的に冷たく返してしまったのだ。
四人揃ってテーブルについて注文を済ませた後、隣に座った真彩が栞に突っ掛かってきた。
「ねえ、栞ちゃん。ちょっとさっき冷たいんじゃないの?」
どうやら素っ気ない挨拶に怒っているようだ。
「ごめん、ちょっといろいろ考えてたから。最近いろいろありすぎちゃってね、話す内容をまとめてたのよ」
栞は一生懸命に弁明しているのだが、真彩はぷんぷんと怒ったままだった。その様子を見ていた水崎警部が助け舟を出す。
「まあまあ、真彩。それくらいにしておきなさい。高石くんだってやる事が多いんだからね」
「ううう、分かってるわよ、分かってるけど……」
真彩はどうにも納得がいかないが、父親に言われてちょっと縮こまったようだ。
「それはそうと高石くん。先日頼まれていたものの分析結果が出た。こいつにちょっと目を通してほしい」
「はい、分かりました」
栞は返事をすると、対面に座る水崎警部から書類を受け取って目を通す。ぱらっぱらっと目を通していく栞だったが、見ていくにつれてその表情がどんどんと曇っていく。そこにはありえない結果が書かれていたからだ。
「水崎警部……」
「なんだい?」
「この結果、本当に事実なんですか?」
栞は正直信じたくなかったようだ。なので、水崎警部に確認を取るのである。だが、水崎警部からの答えは、
「残念だが、この結果は紛れもない真実なんだ。正直この結果なら、強制捜査に踏み切る事も可能なんだが、隣の市という事もあって、ちょっと慎重にならざるを得ないといったところだな」
こういった感じだった。
なるほど、今回調べてもらったものは隣の根田間市で起きた事だ。水崎警部はあくまで浦見市の警察署の人間なので、調査しようとなると少なくとも根田間市警察の協力が必要になるという事なのである。
だが、今回の事は根田間市の総合運動公園の中、しかも中学生の陸上部記録会で起きた一件だ。伸び盛りの子どもたちが居た場所ではびこっている事だけに、放置するという事はまず考えられないしありえない。もしこれが、組織だった犯行であるとするならば、より慎重にならざるを得ない。確実に潰すためには証拠をそろえる必要があるのだ。
「……まったく、骨の折れる話ですね」
「ああ、その通りだよ」
栞と水崎警部は腕を組んで唸っている。真彩と勝は事情が飲み込めないので、二人の行動にどう反応していいのか分からなくて戸惑っている。
「ごめん、二人も調査員だから情報の共有はするけど、ちょっと二人には今回の事案は厳しいかなと思うわ。だから、二人には気になった事とかそういうのを警部に教えてあげて」
双子の様子に気が付いた栞は、そう声を掛けておく。まだ中学生の二人には、深入りしてほしくないのだ。真彩と勝は、栞の表情に気持ちを察したのか、黙って頷いていた。
ますます混迷を極める草利中学校の調査。初めこそ不審な噂の調査からのスタートだったが、ここにきて大掛かりな犯罪組織の影がちらつき始めたのだ。
果たして、この調査の終着点は一体どこにたどり着くというのだろうか。この時点では誰にも分からない事なのであった……。
こうも頻繁に学校に来ているせいか、栞はその異様な光景が目について仕方なかった。
(何だろう、なんでこんなに人の出入りがあるの? 私は長くても2時間しか居ないのに、それでも数回見る事もある。これは怪しいわね……)
そう、実に不自然なまでの人の出入りなのだ。郵便局の配達だったら毎日でもおかしくはないが、それ以外にも宅配業者や施工業者の出入りが見られた。工事をするなら学生にも通達が来るはずだし、明らかに怪しさを放っていた。
宅配業者も大小様々な物を持ってくる。だが、荷物を抱えて出てくる方はほぼ皆無だ。何をそんなに搬入しているというのだろうか。
千夏に確認してみるが、夏休み中の工事の予定はまったく聞いていないらしい。
どうにも疑念が払拭できない栞は、この間のドリンクの分析結果を聞くついでに、水崎警部に相談を持ち掛けてみる事にした。
というわけで、お昼ご飯を一緒にする約束で、市内のファミレスへとやって来た栞。そこへは水崎警部と真彩と勝の姉弟も顔を出してきた。どうやら警部は今日は代
替の非番らしいのだが、服装はシャツにスラックスとぴっしり決めていた。
「申し訳ありません、水崎警部。急な呼び掛けに応じて頂いて」
「いや構わんよ。真彩も高石くんに会いたがっていたから、むしろちょうどよかったよ」
水崎警部がそう言うと、栞はふと思い出した。夏休みに入ってから会うどころか連絡すらしていなかったのだ。
「久しぶりだね、栞ちゃん」
「うん、久しぶりだね」
栞と真彩は挨拶を交わす。挨拶をしてきた時の真彩は笑顔だったが、座席に座るなりちょっと頬を膨らませていた。
(あー、これは怒ってる?)
そこまで人の気持ちに鈍感ではない栞なので、真彩の感情をひしひしと感じている。さっきの挨拶も、ちょっと定型句的に冷たく返してしまったのだ。
四人揃ってテーブルについて注文を済ませた後、隣に座った真彩が栞に突っ掛かってきた。
「ねえ、栞ちゃん。ちょっとさっき冷たいんじゃないの?」
どうやら素っ気ない挨拶に怒っているようだ。
「ごめん、ちょっといろいろ考えてたから。最近いろいろありすぎちゃってね、話す内容をまとめてたのよ」
栞は一生懸命に弁明しているのだが、真彩はぷんぷんと怒ったままだった。その様子を見ていた水崎警部が助け舟を出す。
「まあまあ、真彩。それくらいにしておきなさい。高石くんだってやる事が多いんだからね」
「ううう、分かってるわよ、分かってるけど……」
真彩はどうにも納得がいかないが、父親に言われてちょっと縮こまったようだ。
「それはそうと高石くん。先日頼まれていたものの分析結果が出た。こいつにちょっと目を通してほしい」
「はい、分かりました」
栞は返事をすると、対面に座る水崎警部から書類を受け取って目を通す。ぱらっぱらっと目を通していく栞だったが、見ていくにつれてその表情がどんどんと曇っていく。そこにはありえない結果が書かれていたからだ。
「水崎警部……」
「なんだい?」
「この結果、本当に事実なんですか?」
栞は正直信じたくなかったようだ。なので、水崎警部に確認を取るのである。だが、水崎警部からの答えは、
「残念だが、この結果は紛れもない真実なんだ。正直この結果なら、強制捜査に踏み切る事も可能なんだが、隣の市という事もあって、ちょっと慎重にならざるを得ないといったところだな」
こういった感じだった。
なるほど、今回調べてもらったものは隣の根田間市で起きた事だ。水崎警部はあくまで浦見市の警察署の人間なので、調査しようとなると少なくとも根田間市警察の協力が必要になるという事なのである。
だが、今回の事は根田間市の総合運動公園の中、しかも中学生の陸上部記録会で起きた一件だ。伸び盛りの子どもたちが居た場所ではびこっている事だけに、放置するという事はまず考えられないしありえない。もしこれが、組織だった犯行であるとするならば、より慎重にならざるを得ない。確実に潰すためには証拠をそろえる必要があるのだ。
「……まったく、骨の折れる話ですね」
「ああ、その通りだよ」
栞と水崎警部は腕を組んで唸っている。真彩と勝は事情が飲み込めないので、二人の行動にどう反応していいのか分からなくて戸惑っている。
「ごめん、二人も調査員だから情報の共有はするけど、ちょっと二人には今回の事案は厳しいかなと思うわ。だから、二人には気になった事とかそういうのを警部に教えてあげて」
双子の様子に気が付いた栞は、そう声を掛けておく。まだ中学生の二人には、深入りしてほしくないのだ。真彩と勝は、栞の表情に気持ちを察したのか、黙って頷いていた。
ますます混迷を極める草利中学校の調査。初めこそ不審な噂の調査からのスタートだったが、ここにきて大掛かりな犯罪組織の影がちらつき始めたのだ。
果たして、この調査の終着点は一体どこにたどり着くというのだろうか。この時点では誰にも分からない事なのであった……。
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