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第58話 記録会・後編
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栞は一人、ドリンクサーバーに異変を感じていた。しかし、周りのみんなは平然とドリンクを注いで飲んでいる。その光景に栞はとても驚いている。
(えっ? なんでみんな平気なの? この臭いに気が付かない?)
そう思っている栞だったが、このドリンクサーバーの前で動きを長く止めているのは、帰って栞の方が不審がられてしまう。仕方なく栞は、事前によくすすいでおいた水筒にドリンクを注ぐと、これ以上邪魔にならないうちにその場を後にした。
その後も記録会は順調に進み、無事に全日程を終了していた。閉会式も簡単に行われて、陸上部の面々はそれぞれの学校ごとに帰路に就いた。今日の記録は参考記録になるとはいえ、どこの学校の部員たちもそれなりに満足のいく結果を出せたようである。とはいえ、早速反省会をしている学校も見受けられた。
そんな中、栞は何やら難しい顔をしながら歩いている。
「どうしたんだ、高石」
表情に気付かれたのか、松坂先生に声を掛けられてしまう栞。
「あっ、いえ。……何でもありません」
「……、そうか? ならいいが、置いてかれるなよ?」
「あ、はい」
栞の答えに一瞬不思議がっていたが、特に気に留める事なく松坂先生は引率に戻った。その間も栞はずっと考える仕草をしていた。
暑い中の記録会だったが、特にけが人も急病人も出る事なく、無事に終わる事ができた。浦見市駅に着いた草利中学校陸上部の面々は、駅でそのまま解散となったのだった。
「栞ちゃん、ちょっと様子がおかしいみたいだけど、大丈夫?」
その際に杏梨が気になっていたのか、声を掛けてきた。
「ああ、うん、大丈夫よ。やっぱりちょっと緊張してたみたい」
はにかみながら栞が答えると、杏梨はそれで納得したのか、「またね」と挨拶をして帰っていった。
しばらくして、栞は人気の少ない所へ移動した。そこで、とある人物に電話を入れるためだ。どうしても違和感の払拭できない栞なのだ。
その場で待つ事しばらくして、栞が電話をした相手が現れた。
「高石くん、急に呼び出すなんて一体どうしたんだね」
その相手は水崎警部だった。慌てたように走って来た水崎警部は、すっかり汗ばんでいた。
「申し訳ございません、水崎警部。本日は確か非番だと伺っていましたのに、こうやって呼び出してしまいまして……」
頭を下げて謝罪する栞。
「いや、それは別に構わない。事件や事故があれば非番だとか関係なく呼び出されるしな。それよりも、君からの呼び出しとは、よっぽどな事があったのだろうな」
水崎警部はあごに手を当てながら栞に聞いてくる。なので、栞は記録会であった事を水崎警部に話し、持っていた水筒をと渡した。
「一応中は、注ぐ前に全部一回すすいでありますので、余計な成分は出てこないと思いますが、中身の鑑定をお願いします」
そう、根田間市の総合運動公園のスタジアムのドリンクサーバーで注いだドリンクである。
「ふむ、みんなが感じない程度の異臭ねえ。分かった、一応科学班に頼んで分析してもらうとするよ」
栞から水筒を受け取った水崎警部はそう言って水筒を抱えた。
これからすぐに中身の鑑定に入ったところで、結果が出るまでには2、3日は掛かるだろう。結果が気になるところであるが、こればかりは仕方がない。栞は気長に待つ事にする。
少し水崎警部と話をした後、栞はようやく家に帰ったのである。
ただ、この懸念が事実であった場合、草利中学校からスタートしたこの問題が、すでに浦見市の中だけに留まらなくなってしまうという事になる。正直、気のせいである事を願うばかりだった。
さて一方の話題。夏休み中の陸上部は自主練習という事になっていた。これは陸上部には秋まで大会が無いというのが一つの理由だ。それに加えて、炎天下のグラウンドは結構熱くなってしまう。こうなると熱中症などを誘発してしまうので、そういった事故を防ぐ意味合いもあるのだ。部員たちには自主練習でも極力グラウンドを使うなという通達が出ていた。
ところがどっこい、栞は夏休み中も学校へと出てきていた。グラウンドが使えなくてもやれる事はたくさんあるし、草利中学校を調査するという目的があるのだ。そして、何よりも栞は体を動かさないと気がすまない、じっとしていられない性分の持ち主なのである。
ちなみに、園芸部の顧問を務める千夏も、草木や田んぼの世話に学校へと出てきているのだ。そして、夏休み中は教員の姿もちらほらと少なくなる。つまりは、結構堂々と栞と千夏は出会えるのである。そういう機会はなかなかに貴重なのである。
栞は園芸部を手伝うフリをして、千夏といろいろ意見や情報の交換を行っている。とりあえず、草利中学校に関しては、お互いこれといった情報を掴めていないようだった。まだまだ先は長いようである。
こうして暑い中学一年生の夏は始まったばかりである。だというのにいきなりこんな事があったとなると、これから先が不安に駆られてしまう。なんとも出鼻をくじかれるような形となってしまったのだった。
まったく、隣の根田間市まで巻き込んだ形で、浦見市の中では一体何が起きているというのだろうか。
(えっ? なんでみんな平気なの? この臭いに気が付かない?)
そう思っている栞だったが、このドリンクサーバーの前で動きを長く止めているのは、帰って栞の方が不審がられてしまう。仕方なく栞は、事前によくすすいでおいた水筒にドリンクを注ぐと、これ以上邪魔にならないうちにその場を後にした。
その後も記録会は順調に進み、無事に全日程を終了していた。閉会式も簡単に行われて、陸上部の面々はそれぞれの学校ごとに帰路に就いた。今日の記録は参考記録になるとはいえ、どこの学校の部員たちもそれなりに満足のいく結果を出せたようである。とはいえ、早速反省会をしている学校も見受けられた。
そんな中、栞は何やら難しい顔をしながら歩いている。
「どうしたんだ、高石」
表情に気付かれたのか、松坂先生に声を掛けられてしまう栞。
「あっ、いえ。……何でもありません」
「……、そうか? ならいいが、置いてかれるなよ?」
「あ、はい」
栞の答えに一瞬不思議がっていたが、特に気に留める事なく松坂先生は引率に戻った。その間も栞はずっと考える仕草をしていた。
暑い中の記録会だったが、特にけが人も急病人も出る事なく、無事に終わる事ができた。浦見市駅に着いた草利中学校陸上部の面々は、駅でそのまま解散となったのだった。
「栞ちゃん、ちょっと様子がおかしいみたいだけど、大丈夫?」
その際に杏梨が気になっていたのか、声を掛けてきた。
「ああ、うん、大丈夫よ。やっぱりちょっと緊張してたみたい」
はにかみながら栞が答えると、杏梨はそれで納得したのか、「またね」と挨拶をして帰っていった。
しばらくして、栞は人気の少ない所へ移動した。そこで、とある人物に電話を入れるためだ。どうしても違和感の払拭できない栞なのだ。
その場で待つ事しばらくして、栞が電話をした相手が現れた。
「高石くん、急に呼び出すなんて一体どうしたんだね」
その相手は水崎警部だった。慌てたように走って来た水崎警部は、すっかり汗ばんでいた。
「申し訳ございません、水崎警部。本日は確か非番だと伺っていましたのに、こうやって呼び出してしまいまして……」
頭を下げて謝罪する栞。
「いや、それは別に構わない。事件や事故があれば非番だとか関係なく呼び出されるしな。それよりも、君からの呼び出しとは、よっぽどな事があったのだろうな」
水崎警部はあごに手を当てながら栞に聞いてくる。なので、栞は記録会であった事を水崎警部に話し、持っていた水筒をと渡した。
「一応中は、注ぐ前に全部一回すすいでありますので、余計な成分は出てこないと思いますが、中身の鑑定をお願いします」
そう、根田間市の総合運動公園のスタジアムのドリンクサーバーで注いだドリンクである。
「ふむ、みんなが感じない程度の異臭ねえ。分かった、一応科学班に頼んで分析してもらうとするよ」
栞から水筒を受け取った水崎警部はそう言って水筒を抱えた。
これからすぐに中身の鑑定に入ったところで、結果が出るまでには2、3日は掛かるだろう。結果が気になるところであるが、こればかりは仕方がない。栞は気長に待つ事にする。
少し水崎警部と話をした後、栞はようやく家に帰ったのである。
ただ、この懸念が事実であった場合、草利中学校からスタートしたこの問題が、すでに浦見市の中だけに留まらなくなってしまうという事になる。正直、気のせいである事を願うばかりだった。
さて一方の話題。夏休み中の陸上部は自主練習という事になっていた。これは陸上部には秋まで大会が無いというのが一つの理由だ。それに加えて、炎天下のグラウンドは結構熱くなってしまう。こうなると熱中症などを誘発してしまうので、そういった事故を防ぐ意味合いもあるのだ。部員たちには自主練習でも極力グラウンドを使うなという通達が出ていた。
ところがどっこい、栞は夏休み中も学校へと出てきていた。グラウンドが使えなくてもやれる事はたくさんあるし、草利中学校を調査するという目的があるのだ。そして、何よりも栞は体を動かさないと気がすまない、じっとしていられない性分の持ち主なのである。
ちなみに、園芸部の顧問を務める千夏も、草木や田んぼの世話に学校へと出てきているのだ。そして、夏休み中は教員の姿もちらほらと少なくなる。つまりは、結構堂々と栞と千夏は出会えるのである。そういう機会はなかなかに貴重なのである。
栞は園芸部を手伝うフリをして、千夏といろいろ意見や情報の交換を行っている。とりあえず、草利中学校に関しては、お互いこれといった情報を掴めていないようだった。まだまだ先は長いようである。
こうして暑い中学一年生の夏は始まったばかりである。だというのにいきなりこんな事があったとなると、これから先が不安に駆られてしまう。なんとも出鼻をくじかれるような形となってしまったのだった。
まったく、隣の根田間市まで巻き込んだ形で、浦見市の中では一体何が起きているというのだろうか。
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