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第85話 残り半年
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夏休みが明けて、二学期に入る。まだ夏の日差しの残る日々だが、学生たちはすっかり学校生活に戻っていた。
9月中は何事も起きる様子はなく、ただただ普通に過ぎていくばかりだ。夏休み中はあれだけやって来た配送業者もすっかり頻度が減り、夏休み中の忙しさは何だったのかというくらいである。
噂の調査もまったく進展がなく、隣の根田間市での動きも見られない。不気味なくらい静かになっていた。見えないだけで活動しているかも知れないが、それにしても表立った動きはすっかりと鳴りを潜めていた。
そうこうしているうちにあっという間に9月も末を迎えてしまう。来月10月になれば体育祭が行われる。気が付いたら、調部長たちが在校していられるのも半年を切ってしまったのだ。本当に早いものだ。
「こうものんびりはしていられないのですが、学校行事はちゃんと参加しませんとね。体育祭当日にはカルディにも来てもらいますので、何かあれば対処できると思います」
新聞部の部活に参加していた栞と真彩は、調部長からそのような話を聞かされていた。
調部長と軽部副部長にとっては最後の半年だし、学校行事に力が入る一方で、実に正念場なのだ。バーディア一家の調査もそうだが、今後の進路の事も悩み始めている。このまま日本の高校に進むか、地元に帰って進学するか、結構悩んでいるらしい。ちなみに父親からは好きにしていいような風に言われている。ここまで2年半も住んできた上に、妹であるリリックがやってきた事で事情が変わってきてしまった。これが余計に悩みに拍車を掛けているようである。どちらにしても、年内には結論を出さないといけないようだった。
しかしながら、さすがにこれは調部長たちの話なので、栞たちにどうこう言えるような事情ではない。栞たちは黙って見守る事しかできなかった。
肝心の噂の調査も進まないまま、ついには10月を迎える。ついに勝負の後半へと突入してしまった。
そして、迎えた第一日曜日は体育祭の日である。運動音痴の人たちにとっては恐怖の日である。
「うーん、いい天気。絶好の運動日和だわ」
「よっしゃー、しおりん。今日こそ勝負じゃーっ!」
伸びをしながらいい気分でいる栞だったが、響き渡るわっけーの声ですべてが台無しである。その発言には真彩と理恵も呆れ返るばかりだった。
「あのね、わっけー」
「なんだ、しおりん」
いつも通りのわっけーの行動に、栞はついついツッコミを入れたくなってしまった。
「今日の私たちは同じチームなの。そもそも勝負できないんだからね?」
「おおん? そうなのか?」
そしたらば、栞の言葉に間の抜けた反応を返してくるわっけー。思わず栞はこけそうになった。
「そうだよ、わっけー。体育祭はクラス対抗のチーム戦なんだからね。私たちは各学年の5組とチームを組んで他の5クラスと点数を競うのよ?」
栞のコケっぷりに、真彩が代わってわっけーに体育祭の仕組みを話している。しかし、当のわっけーは首を捻るばかり。どうにも仕組みを理解していないようだった。本当にこんなので大丈夫なのか。そしたらわっけーは、
「なんだかよく分からんが、とにかく勝てばいいのだな? はっはっはー、それなら任せるのだーっ!」
どうにも分かっていないような事を口走っていた。ここまで来ると真彩たちも説明を放棄する。もう好きにしてちょうだいと言わんばかりだった。
そんなわっけーに呆れながらも、栞はふとある事に気が付いた。
「あれ、理恵ちゃん。今日はずいぶんと気合いが入ってない?」
そう、理恵の様子がいつもと少し違ったのだ。どちらかといえば控えめな行動の目立つ理恵なのだが、今日はわっけーほどではないものの、なんだかそわそわとした感じなのだ。
「うん、今日はお父さんも見に来てくれるの。有休を使って仕事を休んできてくれるんだよ。お父さん、配送の仕事だから、あまり曜日関係ないからね」
「へえ、そうなんだ」
うきうき気分の理恵なのだが、栞はここでは簡単な反応で流しておいた。
こうして、体育祭はいよいよ始まろうとしていた。
「ふふっ、あなたが理恵の学校行事に参加するなんて、どういう風の吹き回しなんですかね」
理恵の家では両親が話をしていた。
「ええやん、たまには。家空けてばっかで理恵には寂しい思いをさせてきたからなぁ」
父親は、母親の言葉にそんな風に返している。
「そういや、理恵は何に出るんやったっけ?」
「4×100mリレーだとか言ってましたよ。あの子、ちゃんと最後まで走れるかしら」
「ああ、確かにそれは心配やなぁ。真彩ちゃんや恵ちゃんに比べて、運動が苦手やからなぁ、理恵は」
父親が出場競技を確認すると、二人揃って心配そうに言っている。そのくらいに理恵は運動が得意ではないのだ。
「せやけど、親としては子どもの頑張る姿は見逃せへんからなぁ。うちの会社いっつもごねよるさかい、有休押し通すんも苦労するで」
「有休の拒否は法律違反なんですけれどねぇ」
「まっ、今回は通ったさかい、理恵の頑張りをしっかりと見届けおくかいな」
「ええ、そうですね」
そう言って、理恵の両親はお弁当と体育祭のプログラムを手に家を出ていく。その父親の顔は、怖いくらいに笑っていた気がする。
「ほんま、今日は楽しみやわぁ」
まだ暑さが残る秋の日に、冷徹な笑みが浮かんでいた。
9月中は何事も起きる様子はなく、ただただ普通に過ぎていくばかりだ。夏休み中はあれだけやって来た配送業者もすっかり頻度が減り、夏休み中の忙しさは何だったのかというくらいである。
噂の調査もまったく進展がなく、隣の根田間市での動きも見られない。不気味なくらい静かになっていた。見えないだけで活動しているかも知れないが、それにしても表立った動きはすっかりと鳴りを潜めていた。
そうこうしているうちにあっという間に9月も末を迎えてしまう。来月10月になれば体育祭が行われる。気が付いたら、調部長たちが在校していられるのも半年を切ってしまったのだ。本当に早いものだ。
「こうものんびりはしていられないのですが、学校行事はちゃんと参加しませんとね。体育祭当日にはカルディにも来てもらいますので、何かあれば対処できると思います」
新聞部の部活に参加していた栞と真彩は、調部長からそのような話を聞かされていた。
調部長と軽部副部長にとっては最後の半年だし、学校行事に力が入る一方で、実に正念場なのだ。バーディア一家の調査もそうだが、今後の進路の事も悩み始めている。このまま日本の高校に進むか、地元に帰って進学するか、結構悩んでいるらしい。ちなみに父親からは好きにしていいような風に言われている。ここまで2年半も住んできた上に、妹であるリリックがやってきた事で事情が変わってきてしまった。これが余計に悩みに拍車を掛けているようである。どちらにしても、年内には結論を出さないといけないようだった。
しかしながら、さすがにこれは調部長たちの話なので、栞たちにどうこう言えるような事情ではない。栞たちは黙って見守る事しかできなかった。
肝心の噂の調査も進まないまま、ついには10月を迎える。ついに勝負の後半へと突入してしまった。
そして、迎えた第一日曜日は体育祭の日である。運動音痴の人たちにとっては恐怖の日である。
「うーん、いい天気。絶好の運動日和だわ」
「よっしゃー、しおりん。今日こそ勝負じゃーっ!」
伸びをしながらいい気分でいる栞だったが、響き渡るわっけーの声ですべてが台無しである。その発言には真彩と理恵も呆れ返るばかりだった。
「あのね、わっけー」
「なんだ、しおりん」
いつも通りのわっけーの行動に、栞はついついツッコミを入れたくなってしまった。
「今日の私たちは同じチームなの。そもそも勝負できないんだからね?」
「おおん? そうなのか?」
そしたらば、栞の言葉に間の抜けた反応を返してくるわっけー。思わず栞はこけそうになった。
「そうだよ、わっけー。体育祭はクラス対抗のチーム戦なんだからね。私たちは各学年の5組とチームを組んで他の5クラスと点数を競うのよ?」
栞のコケっぷりに、真彩が代わってわっけーに体育祭の仕組みを話している。しかし、当のわっけーは首を捻るばかり。どうにも仕組みを理解していないようだった。本当にこんなので大丈夫なのか。そしたらわっけーは、
「なんだかよく分からんが、とにかく勝てばいいのだな? はっはっはー、それなら任せるのだーっ!」
どうにも分かっていないような事を口走っていた。ここまで来ると真彩たちも説明を放棄する。もう好きにしてちょうだいと言わんばかりだった。
そんなわっけーに呆れながらも、栞はふとある事に気が付いた。
「あれ、理恵ちゃん。今日はずいぶんと気合いが入ってない?」
そう、理恵の様子がいつもと少し違ったのだ。どちらかといえば控えめな行動の目立つ理恵なのだが、今日はわっけーほどではないものの、なんだかそわそわとした感じなのだ。
「うん、今日はお父さんも見に来てくれるの。有休を使って仕事を休んできてくれるんだよ。お父さん、配送の仕事だから、あまり曜日関係ないからね」
「へえ、そうなんだ」
うきうき気分の理恵なのだが、栞はここでは簡単な反応で流しておいた。
こうして、体育祭はいよいよ始まろうとしていた。
「ふふっ、あなたが理恵の学校行事に参加するなんて、どういう風の吹き回しなんですかね」
理恵の家では両親が話をしていた。
「ええやん、たまには。家空けてばっかで理恵には寂しい思いをさせてきたからなぁ」
父親は、母親の言葉にそんな風に返している。
「そういや、理恵は何に出るんやったっけ?」
「4×100mリレーだとか言ってましたよ。あの子、ちゃんと最後まで走れるかしら」
「ああ、確かにそれは心配やなぁ。真彩ちゃんや恵ちゃんに比べて、運動が苦手やからなぁ、理恵は」
父親が出場競技を確認すると、二人揃って心配そうに言っている。そのくらいに理恵は運動が得意ではないのだ。
「せやけど、親としては子どもの頑張る姿は見逃せへんからなぁ。うちの会社いっつもごねよるさかい、有休押し通すんも苦労するで」
「有休の拒否は法律違反なんですけれどねぇ」
「まっ、今回は通ったさかい、理恵の頑張りをしっかりと見届けおくかいな」
「ええ、そうですね」
そう言って、理恵の両親はお弁当と体育祭のプログラムを手に家を出ていく。その父親の顔は、怖いくらいに笑っていた気がする。
「ほんま、今日は楽しみやわぁ」
まだ暑さが残る秋の日に、冷徹な笑みが浮かんでいた。
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