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第159話 バーディア一家の選択
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「はい、メロディですが?」
その週の土曜日の夜、調部長の元に一本の電話がかかってきた。
「お父様、一体何の用でしょうか」
どうやら電話の相手はバロック・バーディアのようである。相変わらず低い声で、聞く度に体が引き締まる思いである。
緊張をもって話を聞いていた調部長だったが、その中の一つにとても驚いた表情をしていた。
「それは……本当なのでしょうか?」
『嘘を言ってどうなる。俺の部下のファントムが居ただろう? そいつをレオンに対して差し向けたんだ』
「まあ……ファントムをですか? では、レオンもひとたまりもないですね」
バロックの言い分に肯定する反応を見せる調部長。調部長もそのファントムなる人物の事をよく知っているようだった。レオンを捕まえたという情報を信じるには十分だったようである。
「では、これで私がこちらに居る理由はなくなったというわけですか?」
レオンが捕まったという事実を聞いて、調部長は父親であるバロックに確認を取っている。
すると、返ってきた答えは意外だった。
『カルディから聞かされている。そっちの高校に通うつもりらしいな。お前の好きにしたらいいぞ』
連れ戻すどころか、日本への滞在の延長を認めてくれたのだった。
「よろしいのですか、お父様?」
『お前たちの好きにするといい。周りの環境は不自由のない程度には整えてやる』
「……ありがとうございます、お父様」
バロックの気遣いに、頭の下がる思いの調部長だった。
『その代わり、しっかりと学んで帰ってこい。お前は我がバーディア家の大事な跡取りなのだからな。レオンの事は俺に任せておけばいい』
「はい、分かりました。よろしくお願い致します、お父様」
話を終えると、調部長は通話を切った。
そして、急に力が抜けたかのように椅子にだらしなく腰を掛けた。
それというのも無理もないだろう。自分が日本へ来た最大の理由がなくなったのだから。もう気を張る必要はないと、今まで張りつめていたものが一気に無くなったのだ。
「……調部長?」
物音が気になったのか、部屋に軽部副部長が顔を出した。
だが、調部長はその声に反応する事なく、ただ力なく椅子に座っていた。
「おい、どうしたんだ。何があったんだ」
軽部副部長が珍しく声を荒げている。勢いよく調部長に駆け寄ると、その肩をがくがくと揺らしていた。
「ちょっと落ち着きなさい」
揺らされながら、怒る調部長。その声を聞いて、ようやく軽部副部長が揺らすのをやめた。
「まったく、気持ち悪くなりそうでしたよ……。揺らし過ぎです」
「……悪かったな」
額に手を当てて呆れる調部長に、軽部副部長は反省の色がないような口調で謝っていた。
「それよりも、ぼーっとしているなんて珍しかったが、何があったんだ?」
腕を組みながら軽部副部長が問い質している。
「お父様から報告がありました」
「バロック様からだって?!」
調部長の言葉で大きく慌てる軽部副部長。
「落ち着いて下さい。カルディも交えて話をしますので、食堂へ移動しましょう」
「兄貴にもか……、まあ仕方ないな」
調部長の言葉に渋々応じる軽部副部長だった。
「おや、どうなさったのでしょうか、鳥子様」
食堂へやって来ると、そこにはカルディが居た。
「ええ、お父様から電話がかかってきましたので、その内容についてお話をしようかと思いましてね」
「バロック様からですか?」
驚くカルディ。だが、すぐさま冷静さを取り戻し、調部長からの話に耳を傾けていた。カルディの手伝いをしていた詩音も真剣に聞いている。
「なんでもレオンの件で決着したとの事でした。お父様ったらファントムを投入なさったようです」
「ファントムを?! あの寡黙な大男を使われたのか。……よっぽど腹に据えかねたと見えますね」
カルディの言葉にこくりと頷く調部長である。
「しかし、レオンの件が解決したとなると、鳥子様たちはどうなるのでしょうか……」
心配そうに調部長たちの方を見るカルディである。それに対して、調部長は数回首を横に振って正面を見据える。
「ご心配なく。お父様は私たちがこのまま日本に居てもいいと仰られました。ですので、高校卒業まではこちらで過ごすつもりです。……大学進学の際はまた考えますが」
「畏まりました。鳥子様がそう判断されたのでしたら、このカルディ、お付き合い致します」
椅子に座ったまま頭を深く下げるカルディである。
「お姉ちゃん、日本に残るの?」
「ええ、リリックもその方がいいでしょう?」
「うーん……」
調部長の言葉に悩む詩音。しばらく悩みはしたものの、詩音は判断を出したようだ。
「うん、今の生活も楽しいもの。お姉ちゃんが一緒に居てくれるなら、もっと楽しくなる」
にこやかな笑顔を見せる詩音。その顔を見て、調部長も安心したように笑顔を浮かべていた。
「軽部副部長は無理にとは言いませんよ?」
「バカを言うな。日本から去ったら遊べるゲームが減るだろう?」
「……あなたは結局そこなんですか。まったく、ぶれるって事を知らないですね」
はっきり言い切った軽部副部長に呆れる調部長。すると、詩音はおかしそうに笑っていた。
レオンの一件はひとまずの決着を見たものの、調部長たちは改めて、本国に戻らずに日本に滞在を続ける事に決めたのだった。
その週の土曜日の夜、調部長の元に一本の電話がかかってきた。
「お父様、一体何の用でしょうか」
どうやら電話の相手はバロック・バーディアのようである。相変わらず低い声で、聞く度に体が引き締まる思いである。
緊張をもって話を聞いていた調部長だったが、その中の一つにとても驚いた表情をしていた。
「それは……本当なのでしょうか?」
『嘘を言ってどうなる。俺の部下のファントムが居ただろう? そいつをレオンに対して差し向けたんだ』
「まあ……ファントムをですか? では、レオンもひとたまりもないですね」
バロックの言い分に肯定する反応を見せる調部長。調部長もそのファントムなる人物の事をよく知っているようだった。レオンを捕まえたという情報を信じるには十分だったようである。
「では、これで私がこちらに居る理由はなくなったというわけですか?」
レオンが捕まったという事実を聞いて、調部長は父親であるバロックに確認を取っている。
すると、返ってきた答えは意外だった。
『カルディから聞かされている。そっちの高校に通うつもりらしいな。お前の好きにしたらいいぞ』
連れ戻すどころか、日本への滞在の延長を認めてくれたのだった。
「よろしいのですか、お父様?」
『お前たちの好きにするといい。周りの環境は不自由のない程度には整えてやる』
「……ありがとうございます、お父様」
バロックの気遣いに、頭の下がる思いの調部長だった。
『その代わり、しっかりと学んで帰ってこい。お前は我がバーディア家の大事な跡取りなのだからな。レオンの事は俺に任せておけばいい』
「はい、分かりました。よろしくお願い致します、お父様」
話を終えると、調部長は通話を切った。
そして、急に力が抜けたかのように椅子にだらしなく腰を掛けた。
それというのも無理もないだろう。自分が日本へ来た最大の理由がなくなったのだから。もう気を張る必要はないと、今まで張りつめていたものが一気に無くなったのだ。
「……調部長?」
物音が気になったのか、部屋に軽部副部長が顔を出した。
だが、調部長はその声に反応する事なく、ただ力なく椅子に座っていた。
「おい、どうしたんだ。何があったんだ」
軽部副部長が珍しく声を荒げている。勢いよく調部長に駆け寄ると、その肩をがくがくと揺らしていた。
「ちょっと落ち着きなさい」
揺らされながら、怒る調部長。その声を聞いて、ようやく軽部副部長が揺らすのをやめた。
「まったく、気持ち悪くなりそうでしたよ……。揺らし過ぎです」
「……悪かったな」
額に手を当てて呆れる調部長に、軽部副部長は反省の色がないような口調で謝っていた。
「それよりも、ぼーっとしているなんて珍しかったが、何があったんだ?」
腕を組みながら軽部副部長が問い質している。
「お父様から報告がありました」
「バロック様からだって?!」
調部長の言葉で大きく慌てる軽部副部長。
「落ち着いて下さい。カルディも交えて話をしますので、食堂へ移動しましょう」
「兄貴にもか……、まあ仕方ないな」
調部長の言葉に渋々応じる軽部副部長だった。
「おや、どうなさったのでしょうか、鳥子様」
食堂へやって来ると、そこにはカルディが居た。
「ええ、お父様から電話がかかってきましたので、その内容についてお話をしようかと思いましてね」
「バロック様からですか?」
驚くカルディ。だが、すぐさま冷静さを取り戻し、調部長からの話に耳を傾けていた。カルディの手伝いをしていた詩音も真剣に聞いている。
「なんでもレオンの件で決着したとの事でした。お父様ったらファントムを投入なさったようです」
「ファントムを?! あの寡黙な大男を使われたのか。……よっぽど腹に据えかねたと見えますね」
カルディの言葉にこくりと頷く調部長である。
「しかし、レオンの件が解決したとなると、鳥子様たちはどうなるのでしょうか……」
心配そうに調部長たちの方を見るカルディである。それに対して、調部長は数回首を横に振って正面を見据える。
「ご心配なく。お父様は私たちがこのまま日本に居てもいいと仰られました。ですので、高校卒業まではこちらで過ごすつもりです。……大学進学の際はまた考えますが」
「畏まりました。鳥子様がそう判断されたのでしたら、このカルディ、お付き合い致します」
椅子に座ったまま頭を深く下げるカルディである。
「お姉ちゃん、日本に残るの?」
「ええ、リリックもその方がいいでしょう?」
「うーん……」
調部長の言葉に悩む詩音。しばらく悩みはしたものの、詩音は判断を出したようだ。
「うん、今の生活も楽しいもの。お姉ちゃんが一緒に居てくれるなら、もっと楽しくなる」
にこやかな笑顔を見せる詩音。その顔を見て、調部長も安心したように笑顔を浮かべていた。
「軽部副部長は無理にとは言いませんよ?」
「バカを言うな。日本から去ったら遊べるゲームが減るだろう?」
「……あなたは結局そこなんですか。まったく、ぶれるって事を知らないですね」
はっきり言い切った軽部副部長に呆れる調部長。すると、詩音はおかしそうに笑っていた。
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