163 / 182
第163話 気の重い栞
しおりを挟む
翌日、栞はいつも通りに登校する。
靴を履き替えて教室に顔を出すと、いつものようにわっけーに声を掛けられた。
「わーはっはっはーっ、おはようなのだ、しおりん!」
「お、おはよう、わっけー」
ちょっとびっくりしている栞。その姿を見てわっけーが違和感を感じたのか、首を少し傾げている。
「どうしたのだ、しおりん?」
ずずいっと迫ってくるわっけーに、
「近い、近いってば!」
両手を出して引き離そうとする栞。わっけーはそれに必死に抵抗していた。
「むむっ、おかしいぞ、しおりん! おとなしく白状するのだ!」
「分かった、分かったから。とりあえず昼休みまで待ってくれない?」
しつこいわっけーに、栞は仕方なく折れる。しかし、それが今すぐ説明できるかといったら無理な話なので、少々ばかり待ってもらう必要がある。栞のこの提案に、わっけーは仕方ないなといって納得して離れた。わっけーも少しは成長したようである。
「まぁちゃんと理恵ちゃんと詩音ちゃんも、みんな揃って新聞部の部室でいいかしら」
栞がそう付け加えると、事情を知る真彩はもちろん、理恵と詩音も了承したのだった。
そんなわけで昼休み。
みんな揃って新聞部の部室に行くと、調部長と軽部副部長もしっかり揃っていた。この二人が居ないと部室の鍵が開けられないので、ちょうどよかった。
「あら、今日は皆さんお揃いですね」
部室に入った栞たちをいつもの笑顔で出迎える調部長である。
「本当に、みなさん。毎日のように来て下さってありがとうございます。軽部副部長があんな調子ですので、正直退屈なんですよね」
パソコンを操作する手を止める調部長。一度視線を向けた先では、軽部副部長が相変わらずスマホを必死にいじっている。
ため息を吐いて視線を戻した調部長は、立ち上がるとゆっくりと栞へと近付いていく。
「扉の開けっ放しは困りますよ。ちゃんと閉めて下さいね」
体を強張らせた栞だったが、通り過ぎて扉を閉める調部長の動きに、心臓をバクバク言わせていた。一体何を思ったのだろうか。
調部長は座っていた椅子に戻ると、栞に向けてくすりと笑っていた。
「年度末まで待たれるとは、本当にありがたい限りです。バーディア一家の情報も密かに渡せますからね」
不敵に笑う調部長である。
これが本当に15歳の顔なのだろうか。さすがギャングとして名を馳せた事のある家の一員である。
「今現在もレオンの取り調べは続いております。お父様もかなり怒っていらっしゃいますから、そのうちに全容は明らかにできると思います」
調部長の説明を聞いて、理恵の表情が暗くなる。レオンは理恵の父親だからだ。
「それにしても、あのレオンの娘さんがこのような方だとは思いませんでしたね。でも、レオンのあの親バカぶりを見ていたら、なんだか納得できてしまいます」
ギャップを思い出して、どうしても笑ってしまう調部長である。それに対して理恵の表情は曇ったままだった。
「あのお父さんが、まさかそんな悪い人だっただなんて……。私にはまだ信じられないです」
理恵は弱々しく呟くように話している。
「それはそうでしょうね。普段知っている姿と違うものというのは、簡単に受け入れられるものではありません。理恵さんがそう仰るように、私の方からしてみれば、あの親バカ全開のレオンの姿の方が信じられませんでしたからね。仮にも『バーディアの狂犬』と呼ばれた男ですからね」
調部長は理恵を慰めながら話している。
「信じられないっていうのはあたしもそうだな。調べているうちにとんでもない過去が出てきて、あたしは動揺したもんだからね」
わっけーは頭の後ろで手を組みながら話している。そういえばわっけーも親バカなレオンしか見た事がなかったのだ。
わっけーがレオンの事を正式に調べ始めたのは、自分のおじが行方不明になってからだ。知った時には思わずしばらくの間動けなくなったらしい。そのくらいには、浦見市に居る間の表のレオンは人当たりがよかったのである。
「レオンを追い込んだのは、結果的にあたしだ。だから、友だちとして、りぃの事はちゃんと面倒見させてもらうぞ」
「わっけー……」
理恵は思わず瞳を潤ませていた。
「それはそうとして、栞ちゃん」
その最中、真彩が栞に話し掛けてきた。
「なに、まぁちゃん」
思わずびっくりした顔をして尋ね返す栞。
「もう、とぼけないでよ。ここで何かを話しするんだったんでしょ?」
このまま忘れてくれていればと思う栞である。さすがは警部の娘が相手では、そう事は思うように運ばないのである。栞は観念したような顔をしてしまう。
「そうなのだ。さあ、正直に吐くのだ、しおりん」
ちゃっかりわっけーが思い出してしまう。さすがにわっけーに思い出されてしまえば、これ以上とぼけるのは厳しいというものだった。
「分かった、分かったから、話せばいいんでしょ?!」
半ばやけくそになる栞である。そして、盛大にため息を吐くと、真面目な表情で重大発表を行う事になった。
「実は昨日なんだけどね、市役所に呼ばれて行ってきたのよ」
「それは、まさか……」
神妙な面持ちの栞の言葉に、調部長が察したのか栞に声を掛ける。それに対して、栞はこくりと小さく頷く。
「実は、草利中学校の調査団なのですが……」
ごくりと息を飲む一同。
「今年度末、つまり来年の3月31日をもって解散することが決まりました」
衝撃的な決定事項が、栞の口から告げられたのだった。
靴を履き替えて教室に顔を出すと、いつものようにわっけーに声を掛けられた。
「わーはっはっはーっ、おはようなのだ、しおりん!」
「お、おはよう、わっけー」
ちょっとびっくりしている栞。その姿を見てわっけーが違和感を感じたのか、首を少し傾げている。
「どうしたのだ、しおりん?」
ずずいっと迫ってくるわっけーに、
「近い、近いってば!」
両手を出して引き離そうとする栞。わっけーはそれに必死に抵抗していた。
「むむっ、おかしいぞ、しおりん! おとなしく白状するのだ!」
「分かった、分かったから。とりあえず昼休みまで待ってくれない?」
しつこいわっけーに、栞は仕方なく折れる。しかし、それが今すぐ説明できるかといったら無理な話なので、少々ばかり待ってもらう必要がある。栞のこの提案に、わっけーは仕方ないなといって納得して離れた。わっけーも少しは成長したようである。
「まぁちゃんと理恵ちゃんと詩音ちゃんも、みんな揃って新聞部の部室でいいかしら」
栞がそう付け加えると、事情を知る真彩はもちろん、理恵と詩音も了承したのだった。
そんなわけで昼休み。
みんな揃って新聞部の部室に行くと、調部長と軽部副部長もしっかり揃っていた。この二人が居ないと部室の鍵が開けられないので、ちょうどよかった。
「あら、今日は皆さんお揃いですね」
部室に入った栞たちをいつもの笑顔で出迎える調部長である。
「本当に、みなさん。毎日のように来て下さってありがとうございます。軽部副部長があんな調子ですので、正直退屈なんですよね」
パソコンを操作する手を止める調部長。一度視線を向けた先では、軽部副部長が相変わらずスマホを必死にいじっている。
ため息を吐いて視線を戻した調部長は、立ち上がるとゆっくりと栞へと近付いていく。
「扉の開けっ放しは困りますよ。ちゃんと閉めて下さいね」
体を強張らせた栞だったが、通り過ぎて扉を閉める調部長の動きに、心臓をバクバク言わせていた。一体何を思ったのだろうか。
調部長は座っていた椅子に戻ると、栞に向けてくすりと笑っていた。
「年度末まで待たれるとは、本当にありがたい限りです。バーディア一家の情報も密かに渡せますからね」
不敵に笑う調部長である。
これが本当に15歳の顔なのだろうか。さすがギャングとして名を馳せた事のある家の一員である。
「今現在もレオンの取り調べは続いております。お父様もかなり怒っていらっしゃいますから、そのうちに全容は明らかにできると思います」
調部長の説明を聞いて、理恵の表情が暗くなる。レオンは理恵の父親だからだ。
「それにしても、あのレオンの娘さんがこのような方だとは思いませんでしたね。でも、レオンのあの親バカぶりを見ていたら、なんだか納得できてしまいます」
ギャップを思い出して、どうしても笑ってしまう調部長である。それに対して理恵の表情は曇ったままだった。
「あのお父さんが、まさかそんな悪い人だっただなんて……。私にはまだ信じられないです」
理恵は弱々しく呟くように話している。
「それはそうでしょうね。普段知っている姿と違うものというのは、簡単に受け入れられるものではありません。理恵さんがそう仰るように、私の方からしてみれば、あの親バカ全開のレオンの姿の方が信じられませんでしたからね。仮にも『バーディアの狂犬』と呼ばれた男ですからね」
調部長は理恵を慰めながら話している。
「信じられないっていうのはあたしもそうだな。調べているうちにとんでもない過去が出てきて、あたしは動揺したもんだからね」
わっけーは頭の後ろで手を組みながら話している。そういえばわっけーも親バカなレオンしか見た事がなかったのだ。
わっけーがレオンの事を正式に調べ始めたのは、自分のおじが行方不明になってからだ。知った時には思わずしばらくの間動けなくなったらしい。そのくらいには、浦見市に居る間の表のレオンは人当たりがよかったのである。
「レオンを追い込んだのは、結果的にあたしだ。だから、友だちとして、りぃの事はちゃんと面倒見させてもらうぞ」
「わっけー……」
理恵は思わず瞳を潤ませていた。
「それはそうとして、栞ちゃん」
その最中、真彩が栞に話し掛けてきた。
「なに、まぁちゃん」
思わずびっくりした顔をして尋ね返す栞。
「もう、とぼけないでよ。ここで何かを話しするんだったんでしょ?」
このまま忘れてくれていればと思う栞である。さすがは警部の娘が相手では、そう事は思うように運ばないのである。栞は観念したような顔をしてしまう。
「そうなのだ。さあ、正直に吐くのだ、しおりん」
ちゃっかりわっけーが思い出してしまう。さすがにわっけーに思い出されてしまえば、これ以上とぼけるのは厳しいというものだった。
「分かった、分かったから、話せばいいんでしょ?!」
半ばやけくそになる栞である。そして、盛大にため息を吐くと、真面目な表情で重大発表を行う事になった。
「実は昨日なんだけどね、市役所に呼ばれて行ってきたのよ」
「それは、まさか……」
神妙な面持ちの栞の言葉に、調部長が察したのか栞に声を掛ける。それに対して、栞はこくりと小さく頷く。
「実は、草利中学校の調査団なのですが……」
ごくりと息を飲む一同。
「今年度末、つまり来年の3月31日をもって解散することが決まりました」
衝撃的な決定事項が、栞の口から告げられたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる