ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第180話 感傷的には終われない

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 迎えた3月31日。栞はとても感慨深くなっていた。なにせ、この日で一年間偽ってきた中学生という身分から解放されるのだから。
 本音を言うと、真面目な栞からすれば早く終わってほしかった状況だった。
 ところが、実際に迎えてみたこの日は当初の気持ちとは真逆のものだった。
(さて、そろそろ行かなきゃいけないわね。服装これでよかったかしらね)
 この時の栞は、薄いピンクのフォーマルな服装を着用していた。
 それはなぜか……。
 栞が向かった先は、駅近くにある結婚式場だった。そう、何を隠そう千夏の結婚式なのである。
 飛田先生のプロポーズからたったのひと月半。よくも準備ができたものである。ちゃんと手順も踏んで、正式に双方の両親からも認められたそうな。意外とやり手だった模様。
 ちなみに結婚の費用は校長先生と鳥子たちバーディア一家から出してくれたらしい。お詫びという事なのだろう。
 会場には親族とちょっとした関係者のみが集まっていた。実にこじんまりした結婚式なのだ。
 とはいえ、関係者ということで市役所の職員がいたり警部がいたりと、なかなかに物々しい面々である。
 なかなかに緊張した様子の千夏と飛田先生だったけれど、つつがなく結婚式は終了したのだった。
(これで千夏は寿退社か。いや、会社じゃないから寿退職の方がいいかしらね)
 なんて事をぼんやり思う栞だった。
「栞ちゃん、寂しいの?」
 式が終わったところで、参列していた真彩が話し掛けてきた。
「まぁねえ。千夏は幼馴染みだからね。先越されちゃったかなって思っちゃうわね」
「ふむふむぅ、なるほど……」
 栞がしんみりと答えると、真彩はちょっと考え込んだようだった。
「まあちゃん?」
「えっとね、私も同じような状況になったらどうなっちゃうのかって、ちょっと考えちゃったの」
 てへっと小さく舌を出しながら笑う真彩である。なんとも子どもっぽい年相応の思考と仕草だった。
「まぁ先の事なんて分からないんだから、それはその時に考えたらいいんじゃないのかしらね」
 そんな真彩に、栞は大人の余裕で答えたのだった。
「確かに、そうかも知れないね」
 真彩も笑顔で頷いていた。
「それにしても、今日の栞ちゃんの服装ってちょっと大人びてるかな」
 今さらながらに、栞の格好にツッコミを入れる真彩である。
「あのね。私はまあちゃんよりも10歳年上なのよ? 大人びてるんじゃなくて大人なの」
 眉を曲げて呆れて言う栞である。
 栞自身は23歳のつもりだが、真彩からすれば同級生のイメージしかないので仕方がない。
「あっ、ごめん。そうだったよね」
 口を押さえて慌てて謝る真彩である。
「あーあ、明日からはまた市役所の職員かぁ。うるっさい市民を相手にしなきゃと思うと憂鬱だわね」
「うん、そうだね。栞ちゃんともお別れかぁ」
 感傷に浸るように呟く栞と真彩である。
「なによ。同じ市内に住んでるんだから、その気になれば会えるでしょうに。今生の別れみたいに言わないの。連絡先だって交換してるのよ?」
「あっ、うん。そうだね」
 あっけらかんという栞に、やっぱりどこか寂しそうな表情をする真彩である。そのくらいには、この1年間の付き合いが濃かったという事なのだろう。
「ふふっ、可愛い子ね」
「ちょっと福江。何か怖いこと考えてないわよね?」
「別に? ただね、私たちの中で千夏が一番最初に結婚したのが悔しいかなって思うだけよ」
 面倒くさそうな顔をする栞に、福江は正直な気持ちを吐露していた。付き合いの長い三人だからこそといったところだ。
「福江だって、その気になればいつでも結婚できるでしょうに」
「まぁそうかもね。ただ興味がないわね」
 皮肉っぽく栞が言えば、福江はあっけらかんと即答していた。早すぎである。
「今の仕事が楽しいから、結婚したいっていう気が起きないだけよ。子ども服をデザインしているとはいえ、それとこれはまったくの別だからね」
 福江はにこやかに話していた。
「それに、私にはいいモデルが居るからね」
「ちょっと、福江……。目が怖いんだけど」
 思わずドン引きの栞だった。
「真彩、帰るよ」
 そこへ水崎警部がやって来た。
 結婚式は既に終わっているわけだし、確かにいつまでも居座るのもおかしな話だった。
 そんなわけで、水崎警部の言葉をきっかけに、私たちは解散して帰路に着く事にしたのだった。
「高石くん」
「はい」
 水崎警部が声を掛けてくる。
「本当にこの1年間、娘ともども世話になったね。本当にありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございました。まあちゃんのおかげで、あの場違いな中で1年間平気に過ごせましたからね」
「ふっ、そう言ってもらえるとありがたい。娘のわがままを聞き入れたかいがあるというものだ」
 水崎警部は、栞に対して軽く頭を下げていた。そして、真彩と勝を連れて去っていった。
「すごいわね、栞。警部さんとも知り合いだったのね」
「あれ、福江って水崎警部のこと知ってたの?」
「そりゃもう、うちでよく買い物してくれてたからね。話もした事はあるし、その中で知ったのよ」
 そんな話をしているさなか、福江は突然ポンと手を叩いていた。
「話をしていたらいいアイディアが浮かんだわ。千夏の子どもに着せるためにもすぐにデザイン始めなきゃ」
「ちょっと、何年先の話よ……」
「栞、あんたも付き合いなさい。あとで家まで送ってあげるから」
「あー、はいはい。付き合えばいいんでしょ、付き合えば」
 そんなこんなで、せっかくの結婚式でめでたかった気分が吹き飛んでいく栞なのであった。
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