ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第181話 輝く黒歴史

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「314番の番号札をお持ちの方、4番の窓口までお越し下さい」
 今日も録音された音声が窓口案内をしている。
 栞はこの日も市役所の窓口で業務をこなしていた。
 1年ぶりという事もあってか、さすがの栞も少々不安があったようだ。しかし、意外と業務というものは覚えているようで、簡単なおさらいをするだけで問題なくこなせるようになっていた。
 お昼を迎えて、今日も職員用の食堂で昼食を取る栞。この日の栞は白身フライ定食を食べていた。
「まったく、1年ぶりだからどうなるかと思ったけど、どうにかなるものよね」
 食事を食べようとしている栞に声を掛けてくる人物がいた。
「千夏、あんた結局仕事辞めてないのね」
 そう、年度末で結婚したはずの千夏だった。結婚を機に仕事を辞める人も多い中、千夏は勤務の継続を希望したのである。
「だって、私は栞と違って裏方の仕事だもの。窓口よりは気楽だからね、裏方は」
「はあ、好き勝手言ってなさいよ。飛田先生に嫌われても知らないからね」
「ちょっと、そこでそういう事言うのかしら?」
 栞がにししと笑いながらちょっと憎まれ口を叩くと、千夏は本気で怒っているようだった。
「おお、怖い怖い」
 しかし、栞はさらりと流すかのように反応して、白身フライに醤油をかけて食べていた。
 そして、一口食べてほろりとこぼす。
「はあ、いいわねぇ、お相手が見つかってさ」
 栞はため息をついていた。
 これまでずっと勉強や運動に打ち込んできたせいもあってか、恋愛というものに恐ろしいほどに縁がなかったからだ。結婚した千夏の事は、正直羨ましくて仕方がない栞である。
「大丈夫よ、栞だってきっと縁があるってば」
「中学生をやってても、寄ってきたのは女子ばかりだったんだけど?!」
 適当な事を言う千夏に、栞は真顔で迫っていた。
「はははっ、いいじゃないの。性別はともかくとして人から好かれるっていうのはある種才能なんだから」
「はあ……、千夏と話をするのがばからしくなってくるわね……」
「ちょっと、栞ってば拗ね過ぎよ」
 お箸を開いたり閉じたりしながら不機嫌顔をする栞に、千夏はツッコミを入れていた。
「ようやく元の生活に戻れたんだから、恋愛くらいしたいわね」
「できるといいわよね。ただ、栞の相手をするとなると男の方も苦労しそうだわ」
「ちょっと、それどういう意味よ」
「中学生のふりをしてた時の自分の行動を思い出してよ」
「ぐっ……」
 千夏に指摘されると、さすがに反論のできない栞だった。そのくらいにめちゃくちゃをしてきたのだから当然だろう。普通の人間は銃撃されないし、銃弾を躱せないのだから。
「くぅ、気長に待つしかないかしらね」
「そうそう、応援はするから気楽にしましょ」
 栞と千夏はさっさと食事を平らげると、午後の業務へと戻っていった。

「おつかれさまー」
「おつかれ」
 窓口の営業時間が終わり、同僚たちが次々と上がっていく。
「あれ、高石さんはまだ残っていくの?」
「ええ、自分の受けた相談の処理がまだ残っていますからね」
「そうなのね。相変わらず真面目なんだから」
 同僚はくすくすと笑いながら、栞に手を振って帰宅のために更衣室へと向かっていった。
(さて、さっさと終わらせて帰りますかね)
 その時、ふと視線を感じた栞は入口の方を見る。すると、そこには見た事のある姿が見えたのだった。
 それに気が付いた栞は、さっさと処理を終わらせたのだった。

「まったく、こんな時間に何やってるのよ」
 外に出てきた栞は、駐車場に居た面々に声を掛けている。
「いやあ、しおりんの仕事している姿が見たくなっただけなのだ」
「私と理恵ちゃんはわっけーに巻き込まれただけだよ」
「うん、わっけーって強引だもの」
 そう、真彩にわっけーに理恵の仲良し三人衆だった。
 元の生活に戻ってから一週間ほどは経つものの、この三人や新聞部の面々との交流は続いているのである。
「まったく、明日も学校でしょうに。こんな遅くまで出歩いてると、ご両親から怒られるわよ」
「はははっ、しおりんも怒られろなのだ」
「私は今年で24なんだけど?!」
 苦言を呈する栞にわっけーが茶々を入れるものだから、栞は真面目に反論していた。それに対して笑うわっけーたち。同級生でなくなっても、この関係性は崩れていないようだった。
 駐車場で喋っていてもいろいろと迷惑なので、車に三人を乗せた栞は以前鳥子と入った駅前商店街の喫茶店へと向かった。
 一人だけ大人に戻ったとはいっても、栞たちの間に漂う空気というのはまるで変わらなかった。そのせいで、ついつい話が弾んでしまうのだった。
「っと、そろそろ帰らなくちゃいけないわね。私はいいとしても、さすがにみんなはダメでしょうからね」
「ええ~。もっと話していたかったな」
「ダメよ、お父さんに怒られたら嫌でしょ?」
「むぅ~……」
 栞の言い分に、真彩も仕方なしに従うしかなかった。

 みんなを家に送って帰路に就く栞。みんなと話したせいか、去年一年間をついつい懐かしみながら思い出してしまった。
 そもそもは市役所側からの無茶振りだった。
 背が小さくて子どもにしか見えないからということで押し付けられた業務だった。
 しかし、いざ引き受けてみたら、思わぬ団体まで絡んでくる大掛かりな事件だった。
(はあ、本当に濃い1年だったわね……)
 しみじみと微笑む栞。
 結局生活環境は元に戻ったものの、人間関係は大きく広がった。
 黒歴史のような1年ではあったものの、きっと栞たちの中ではこれからも輝き続けるのだろう。


 ――おしまいにしようかと思いましたが、もう1回だけ続きます。
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