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第83話 ワイスは語る
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ブラークの襲撃からだいぶ日付が経った。もうすっかり夏休みに入っており、千春と美空はサッカー部の部活、杏と楓はお寺で手伝いをしながら修行、雪路はイエーロとワイスを伴って動画撮影に勤しんでいた。
「へえ、こんなヘンテコの箱で、こんな事ができるのねぇ。特殊な能力は使えないくせに、面白い事ができるのね、この世界って」
イエーロがビデオカメラに興味を示していた。
「そうですわね。ですから、ワイスたちパステル王国の聖獣が居なければ、あっさりこの世界は陥落していたと思いますわ。いくら銃火器があるとはいえ、あなたたちにどこまで通用するのか分かりませんもの」
雪路がカタカタとパソコンを弄りながら、何かの作業をしている。
「ところでぇ、一体何をなさってるのかしら~?」
「次の動画の作成ですわね。わたくし、一応プロとまではいかなくても著名なダンサーを目指していますの。もちろん親の跡を継いで事業家としても頑張りますけれど、わたくしにしかできない事は何なのかを常に考えていますわ」
パソコンに向かったまま、雪路は自分の夢のような事を語っている。だが、モノトーンの中で生きてきたイエーロや、聖獣としての役目に縛られてきたワイスには、どうもいまいち理解できるような事ではなかった。
「お二方が理解できなくても無理はありませんわよ。同じ世界ですら理解できない方がいらっしゃるのです。生きてきた世界が違うのなら、考え方も違って当然ですわ」
中学二年生にして、だいぶ達観した様子を見せる雪路である。その後ろでは、イエーロとワイスがすっかり首を傾げていた。
「そういえばイエーロさん」
「何かしら~?」
ふと思い出したように雪路が声を掛けると、不意を突かれたらしく驚いたように返事をするイエーロ。
「サッカー部のお手伝いはどうなのです?」
「ああ、結構楽しませてもらってるわよ~。雪路様に見せて頂いた映像はとても参考になったわ~。おかげでルールとかはしっかり理解できてるから、ちゃんと教えられるもの~」
「なんだ、結構サッカーにはまってんのかよ」
ワイスは鼻で笑って口を挟んできた。
「モノトーンの世界に娯楽なんてないもの。相手をボコボコにしてなんぼの世界なんですもの~」
「はっ、俺っちたちの世界も遊び感覚で滅ぼしたって事かよ」
イエーロの証言を聞いて、もの凄く不機嫌になるワイス。遊びで滅ぼされたならそれも無理もない反応である。
「それはもう悪かったと思ってるわよ~。でも、正直言って、私たちを倒したからといって、世界が元に戻る保証はないわよ~。その辺は分かってるの~?」
「俺っちだって、そういう保証がない事くらい分かっているさ。ただ、お前らを倒せば、俺っちたちみたいな目に遭う奴を減らせるんだ。それでも十分なんだよ」
イエーロが言い聞かせるように言うと、ワイスは少し声を震わせながら言い放つ。自分の国の女王たちを助けられないかもという事態は、最初から頭の片隅にあったようだ。
「……パステルピンクとパステルシアンが力を発揮できない理由ってやつを、俺っちなりの推測で言ってやろうか」
「あらあら、なんなの~?」
急なワイスの切り出しに、イエーロと雪路は興味を持った。
「それはぜひお聞かせ願いたいわね」
「簡単な事さ。チェリーとグローリにも覚悟が足りてねえんだよ。あいつらは春と夏っていう明るい季節を担当する聖獣だ。そのせいで、どこか楽観的に考えてんだよ。だから、それがあの二人の力に影響を及ぼしてるんだ。パシモとメルプ、それと雪路が力を発揮できるのは、最悪の事態も覚悟してるからなんだ」
ワイスの声が詰まり気味だった。やっぱり思っていても悲しかったようである。
「俺っちだって、女王様が蘇る事を信じてはいるさ。でもよ、俺っちたちを逃すために力を使い切った姿を思い出すと……よ、もの凄く、つらいんだぜ……」
感極まったワイスが泣き出し始めた。今までに見た事のないワイスの姿に、雪路はパソコンから離れてワイスに歩み寄った。そして、ワイスを両手で抱えると、そのまま抱き締めた。
「なるほどねぇ。そういう気持ちは、今までの私ならまったく理解できないものだったわねぇ」
イエーロも何とも言えない気持ちになったようである。敗北を認めてパステル王国側に寝返った事で、イエーロの中にも何かしらの変化が起きているようだ。
とりあえず今は、ワイスが落ち着くまでそのまま何もしないでいる事にした。
よく思えば、雪路たちはパステル王国の事をよく知らない。元々はどういった国で、どういう風に滅んだのか。雪路はそれを改めて知るべきだと思った。
「イエーロさん、明日はサッカー部の様子を見に行くのですわよね?」
「ええ、その予定よ?」
「だったら、その帰りに千春さんと美空さんを捕まえておいて下さい。杏さんと楓さんの家に行って、パステル王国の事を聞き出しますわよ」
雪路の表情が真剣だった。その顔を見たイエーロは、
「おっけ~。しっかり捕まえておくから、帰りの時間に合わせて出向いて下さるかしら~?」
とノリノリに答えていた。
「もちろんですわよ。杏さんの家には、わたくしから連絡を入れておきますから、イエーロさんはそちらを頼みますわよ」
雪路はワイスを強く抱き締めると、とても気合いの入った表情をしていたのだった。
「へえ、こんなヘンテコの箱で、こんな事ができるのねぇ。特殊な能力は使えないくせに、面白い事ができるのね、この世界って」
イエーロがビデオカメラに興味を示していた。
「そうですわね。ですから、ワイスたちパステル王国の聖獣が居なければ、あっさりこの世界は陥落していたと思いますわ。いくら銃火器があるとはいえ、あなたたちにどこまで通用するのか分かりませんもの」
雪路がカタカタとパソコンを弄りながら、何かの作業をしている。
「ところでぇ、一体何をなさってるのかしら~?」
「次の動画の作成ですわね。わたくし、一応プロとまではいかなくても著名なダンサーを目指していますの。もちろん親の跡を継いで事業家としても頑張りますけれど、わたくしにしかできない事は何なのかを常に考えていますわ」
パソコンに向かったまま、雪路は自分の夢のような事を語っている。だが、モノトーンの中で生きてきたイエーロや、聖獣としての役目に縛られてきたワイスには、どうもいまいち理解できるような事ではなかった。
「お二方が理解できなくても無理はありませんわよ。同じ世界ですら理解できない方がいらっしゃるのです。生きてきた世界が違うのなら、考え方も違って当然ですわ」
中学二年生にして、だいぶ達観した様子を見せる雪路である。その後ろでは、イエーロとワイスがすっかり首を傾げていた。
「そういえばイエーロさん」
「何かしら~?」
ふと思い出したように雪路が声を掛けると、不意を突かれたらしく驚いたように返事をするイエーロ。
「サッカー部のお手伝いはどうなのです?」
「ああ、結構楽しませてもらってるわよ~。雪路様に見せて頂いた映像はとても参考になったわ~。おかげでルールとかはしっかり理解できてるから、ちゃんと教えられるもの~」
「なんだ、結構サッカーにはまってんのかよ」
ワイスは鼻で笑って口を挟んできた。
「モノトーンの世界に娯楽なんてないもの。相手をボコボコにしてなんぼの世界なんですもの~」
「はっ、俺っちたちの世界も遊び感覚で滅ぼしたって事かよ」
イエーロの証言を聞いて、もの凄く不機嫌になるワイス。遊びで滅ぼされたならそれも無理もない反応である。
「それはもう悪かったと思ってるわよ~。でも、正直言って、私たちを倒したからといって、世界が元に戻る保証はないわよ~。その辺は分かってるの~?」
「俺っちだって、そういう保証がない事くらい分かっているさ。ただ、お前らを倒せば、俺っちたちみたいな目に遭う奴を減らせるんだ。それでも十分なんだよ」
イエーロが言い聞かせるように言うと、ワイスは少し声を震わせながら言い放つ。自分の国の女王たちを助けられないかもという事態は、最初から頭の片隅にあったようだ。
「……パステルピンクとパステルシアンが力を発揮できない理由ってやつを、俺っちなりの推測で言ってやろうか」
「あらあら、なんなの~?」
急なワイスの切り出しに、イエーロと雪路は興味を持った。
「それはぜひお聞かせ願いたいわね」
「簡単な事さ。チェリーとグローリにも覚悟が足りてねえんだよ。あいつらは春と夏っていう明るい季節を担当する聖獣だ。そのせいで、どこか楽観的に考えてんだよ。だから、それがあの二人の力に影響を及ぼしてるんだ。パシモとメルプ、それと雪路が力を発揮できるのは、最悪の事態も覚悟してるからなんだ」
ワイスの声が詰まり気味だった。やっぱり思っていても悲しかったようである。
「俺っちだって、女王様が蘇る事を信じてはいるさ。でもよ、俺っちたちを逃すために力を使い切った姿を思い出すと……よ、もの凄く、つらいんだぜ……」
感極まったワイスが泣き出し始めた。今までに見た事のないワイスの姿に、雪路はパソコンから離れてワイスに歩み寄った。そして、ワイスを両手で抱えると、そのまま抱き締めた。
「なるほどねぇ。そういう気持ちは、今までの私ならまったく理解できないものだったわねぇ」
イエーロも何とも言えない気持ちになったようである。敗北を認めてパステル王国側に寝返った事で、イエーロの中にも何かしらの変化が起きているようだ。
とりあえず今は、ワイスが落ち着くまでそのまま何もしないでいる事にした。
よく思えば、雪路たちはパステル王国の事をよく知らない。元々はどういった国で、どういう風に滅んだのか。雪路はそれを改めて知るべきだと思った。
「イエーロさん、明日はサッカー部の様子を見に行くのですわよね?」
「ええ、その予定よ?」
「だったら、その帰りに千春さんと美空さんを捕まえておいて下さい。杏さんと楓さんの家に行って、パステル王国の事を聞き出しますわよ」
雪路の表情が真剣だった。その顔を見たイエーロは、
「おっけ~。しっかり捕まえておくから、帰りの時間に合わせて出向いて下さるかしら~?」
とノリノリに答えていた。
「もちろんですわよ。杏さんの家には、わたくしから連絡を入れておきますから、イエーロさんはそちらを頼みますわよ」
雪路はワイスを強く抱き締めると、とても気合いの入った表情をしていたのだった。
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