マジカル☆パステル

未羊

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第92話 間違いなく強者

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 それはもう鬼気迫る笑顔で立つ住職に、その場に居た誰もが固まっている。杏と楓も見た事のない表情だ。しかも、この住職は次の瞬間、驚く事を言い放ってくれた。
「誰かと思えば、シイロじゃないですか。そんな悪い子に育てた覚えはないんですけれどね。まったく、これから夕食の準備だったというのに、邪魔をしてくれたお礼をしなければなりませんね」
 住職が目の前に居るモノトーン三傑の名前ををしっかりと呼んだのである。
「ちょっと待て、私の名前を知っているとは、あんたは何者……」
 シイロが慌てていると、住職がそこからともなく警策きょうさくを取り出すと、
「喝っ!」
「いったぁっ!」
 バシンとシイロの肩を叩いた。
「ふむ、姿が変わってしまったせいで、私を思い出せないとはやっぱりまだまだ修行が足りないようですな」
 肩をコキコキと言わせながら、住職は警策をパンパンと手でバウンドさせている。
「まったく未熟者ですな。逃げ出すか、私に再教育されるか、お好きな方を選びなさい」
「だ、誰が、そんな事! 誇り高きモノトーン三傑、そのどちらも選べようか!」
 住職の言葉を拒否して、シイロは大きく一歩下がって自分の武器を取り出した。
「消えてなくなれ。ホワイティ・サイクロン!」
 シイロの構えた筆から、白い渦が巻き起こる。どうやら修正液ホワイトのようである。
「ふむ、まだ精度が甘いですね」
 住職がすっと警策を縦に振ると、シイロの放った技がすっと静かに消え去ってしまった。この様子に、シイロはもちろんパステルピンクたちも驚いていた。ただの人間であるはずの住職に、なぜこんな力があるというのだろうか。
「ば、ばかなっ! 私の技がこんな簡単に……っ!」
 シイロの表情が驚愕に満ちている。
「ふむ、明らかに心が乱れていますね。技の威力、速度、精度どれをとっても甘すぎます」
 警策をひと振りしてシイロの技を評価する住職。三傑の攻撃をひと振りでかき消してしまうとは、本当に何者なのだろうか。
「さぁ、もう一度聞きます。逃げますか? 修行をやり直しますか?」
 ずいっと迫る住職に、悔しさいっぱいの表情を浮かべたシイロはこう叫ぶ。
「くそっ、覚えていろ。私はモノトーン三傑が一人、シイロだ。この屈辱、必ずや晴らしてくれようぞ!」
 そして、すっとシイロはその姿を消し去った。すると、シイロに閉ざされていた景色は元通りに戻っていった。
「やれやれ、ずいぶんと心が荒れていますな。素直な子だったのに、どうしてああなったのやら」
 住職が立ち尽くしていると、ワイスが近付いていく。
「あんた、もしかして、パステル王国の関係者か?」
 普通の人間には見えないはずのワイス。だが、住職はその姿をしっかりと捉えていた。
「ええ、そうですよ。ワイス、君なら私が誰だか分かると思うのだけれどね。一番の古株の聖獣なんですから」
 ワイスの質問にしっかりと答える住職。これにはパステルオレンジとパステルブラウンが驚かずにはいられなかった。
「いや、和尚。パステル王国の関係者ってどういう事?!」
「そうよ、住職。どう見たって人間じゃないですか!」
 パステルブラウンとパステルオレンジがそれぞれ叫ぶと、住職は少し考え込んだ後「ちょうどいいですし、みなさん、ちょっとうちの寺でお話をしましょう。ご家族の方には、今夜はうちで泊まるとでもご連絡下さい」
 そう言って住職は、中へと戻っていった。その間にパステルピンクたちは変身を解いて、車の中で気絶している運転手たちを起こして事情を説明しておいた。
 そして、運転手たちを帰らせた雪路たちは、お寺の中へと入っていく。千春と美空は久しぶりの色鮮寺である。
「さて、何からお話ししましょうかね」
 住職がお茶を用意して配ると、座って最初にそう切り出した。杏と楓をはじめとして、誰もがいろいろ聞きたいものだが、聞きたい事が多すぎて絞り切れなかった。
「ワイス? 何をそんなに考え込んでいるのです?」
 腕組みをしているワイスが気になった雪路が、ワイスに声を掛ける。
「俺っちが知っているパステル王国の関係者を思い出してたんだ。俺っちたち聖獣たちは国民の誰もが知っている存在だが、今居る五体の聖獣の誕生の順番を知っている奴となるとかなり絞られるんだ」
「そうなるね。ボクとグローリが一番若くなるんだ。だから、ボクたちにとってワイスは頼りになる兄ってところなんだよ」
「よせやい、照れるだろ」
 ワイスの言葉に反応したチェリーの言葉に、顔を赤くしながら頭を掻くワイス。頼られるのは好きなようである。
「で、俺っちたちの間に挟まるのが、そこのパシモとメルプなんだ。とはいえ、俺っちよりは100年は若い。つまり、この100年の内に誕生した誰かって事だ。それでいてパシモとメルプの事も知っているいうのが、このおっさんの正体を探るカギになる」
「おっさんとは酷いですね。間違いはないですが、その言葉、向こうの娘には聞かれたくないですな」
「うん? 向こうの娘?」
 ワイスが思いっきり引っ掛かったのか、住職を見て首を傾げている。すると、住職は言葉を続けた。
「ええ、石になりながらも祖国を守ろうとした勇敢な娘ですよ。最後の言葉は、はっきりと聞こえましたからね。全然違う世界だっていうのに……」
 ここまで言われてしまっては、聖獣五体はこの住職の正体に気付いてしまう。
「えっ、和尚ってまさか……」
「チュナラ大王様?!」
 なんと、色鮮寺の住職の正体は、パステル王国の女王レインの実の父親だったのだ。
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