マジカル☆パステル

未羊

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第110話 誰の記憶?

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 モノトーンのアジトでは、シイロが自分の部屋で一人になっている。というのも、自分に起きた異変について考え込んでいるためである。
 色鮮寺で自分の身に起きた事を改めて思い返しているシイロなのだが、どうにも心が落ち着かなかった。
「くそっ、なんだあの男は……」
 シイロは、部屋の壁を思い切り殴りつける。悩ましい上に腹立たしい。シイロにはまったく落ち着きが無くなっていたのだ。
 シイロの頭からはあの住職の顔が離れなかった。そのせいで、三傑としての冷静さを掻き乱されてしまっているのである。
「どうしてこうも落ち着かぬ。一体あの男が何だというのだ……っ!」
 シイロは歯を食いしばっている。
「私は……、モノトーン三傑の一人、シイロだ。あんな男など知らぬ。知らぬというのに、なぜこうも落ち着かない」
 ベッドすらもない殺風景な部屋の中で、壁に手をついて頭を抱えるシイロ。
「ぐっ……」
 不意に頭に痛みが走る。
「あ、頭が割れそうだ……」
 その頭の痛みは次第に大きくなり、シイロは立っているのがつらくなってくる。そして、シイロはいよいよ床にしゃがみ込み、やがて気を失って倒れてしまった。

 色とりどりの花が咲き乱れる、在りし日のパステル王国。
「お母さん……、どうして?」
 白髪が特徴的な少女が一人で花畑の中で座り込んでいた。まだ小さな少女は、母親を亡くしてしまったようで、悲しみに明け暮れていた。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
 そこへ現れたのはマントを羽織った男性だった。その男性は優しい微笑みを浮かべて少女を見ている。
「お母さんが、死んじゃったの。あれだけ元気だったのに、急に体調を崩して、そのまま……」
「そうかい。それは大変だったね」
 泣きじゃくる少女に、男性は心配そうに声を掛ける。
「そうか。君の母親の事は知っていたけれど、まさか急に体調を崩すとは思わなかったな。……もっと早く来れればよかった」
 男性の表情が歪む。
「おじさん、お母さんの事を知っているの?」
「ああ、とてもよくね。だから、代わりと言うわけではないけれど、君を引き取りたいと思っているのだよ。君のお母さんとの約束だからね」
「やく、そく……?」
 少女は首を傾げていた。目の前の男性は自分の知らない人だ。その男性と母親との間で何か約束事が交わされていたと聞いて、理解できないのである。
「本当なら君も、私の所で育てるつもりだったのだがな。彼女の体調を考慮して、わがままを聞き入れたのは間違いだったかな……」
 ぽつりと男性が呟く。
「やはり、体が強くないのに双子を生んだ影響は、出てしまったのだな。……残念だ」
 ぶつぶつと男性が呟いているが、白髪の少女にはまったく理解ができなかった。
 だが、同時に男性に恐怖を感じてしまったのか、少し後退り始めていた。
「おっと、すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ」
 その動作に気が付いた男性が、少女に話し掛ける。
「住むかどうかは別として、一度私の家に一緒に来てもらえないかな」
 優しく微笑む男性。そのどこか悲しそうな表情に、少女はさっきまでの恐怖感がすっかり消えてしまった。そして、少女は気が付くとその手を取っていた。
「……ありがとう。感謝するよ」
 こうして少女は、男性と一緒に男性の住む家へと向かった。
 そこで少女が見たものは、
「ふああ、お城!」
 パステル王国の王城だった。
「国王陛下、どこへ行ってらしたのですか!」
 城から大臣らしき男性が駆け出てくる。
「えええええっ! こ、こ、こ、国王陛下!?!?」
 少女は混乱して大絶叫である。
「こ、こ、こ、これは、し、失礼しました」
 少女は取り乱しながらも、頭を下げて謝っている。だが、国王は少女の頭を撫でて、
「気にしなくていいんだよ。お忍びで出ていたんだからね」
 と優しく微笑んでいた。そして、国王と少女は一緒に歩いて城の中へと入っていく。少女のみすぼらしさに大臣たちが嫌な表情をしていたが、国王の顔を見るとそんな顔をしていられなかった。なにせ、その国王の表情には見覚えがあったのだから。
「お父様!」
 城を歩いていると、廊下を走ってくる煌びやかな少女の姿が見えた。
「レイン、走ると危ないよ」
 国王にこう声を掛けられて、レインと呼ばれた少女は立ち止まってからゆっくり歩き始めた。
「お父様、その方はどなたですか?」
 目の前までやって来たレインは、国王の後ろに立つ少女に気が付いて父親に尋ねている。
「そういえば名前を聞いてなかったね。君の名前はどういうのかな?」
 国王が見下ろすと、少女はものすごくおずおずとしながら国王の横に立ち、レインと面向かって、
「し、シイロと申します。お、お初にお目にかかります、レイン王女様」
 頭を思いっきり下げながら名乗っていた。
「まあ、シイロと仰るのですね。素敵な名前ですわ」
 レインは嬉しそうに褒めていた。
 レインとシイロ、よく見ると髪色や顔立ちなどよく似ている。その姿に呆然とするシイロである。そこへ、国王が声を掛けてきた。
「君のお母さんとは以前ね、自分にもしもの事があったら娘を引き取って欲しいと言われていたんだよ。だから、君次第になるんだけど、城に住んでみないかい?」
 これはシイロにとって衝撃だった。憧れを持って見ていたお城に自分が住める。しかし、シイロは思いとどまった。
「いえ、私のような者が住むには、世界が違い過ぎます。申し出は嬉しいのですが、お断りをさせて頂きます」
 精一杯言葉を紡いで、国王の提案を断ったのだ。
「そうか、それは残念だね。でも、レインは君に興味があるみたいだ。城の近くに君の住む場所は用意させてもらうから、たまに遊んであげて欲しい」
「そ、それくらいでしたら、喜んで」
 シイロはその申し出は受け入れた。つまり、城という場所には自分はふさわしくないが、王女は年が近い事もあって子ども同士の付き合いだから構わないという判断を、子どもながらにしてみせたのだ。
 こうして、シイロとレイン、それと国王の関係が始まったのだった。
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