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第111話 白の記憶
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「はっ!」
真夜中、住職が勢いよく目を覚ます。
「い、今のは……、国王時代の記憶か?」
住職は自分の見ていた夢の事を思い返していた。
見ていた夢は、自分の娘である王女時代のレインと、まだただの一般国民だった頃のシイロの出会いの場面だった。
それにしても、夢というにはついさっき起きた事のように感じられたのである。どのくらい前の事だか、もう分からないくらいの頃の話だというのに、不思議な感覚である。
それにしても、起こした自分の体に違和感を感じる住職。全身がこれでもかというくらいに汗をかいていた。
「……あの頃の事を思い出すとは、やはり、私の中でいまだに大きな後悔となっているという事ですね……」
住職は体を起こすと、汗を拭って服を着替えた。夏の真っただ中とはいえ、汗をかいた状態をそのままにしておくのは気分的によろしくないのだ。
「レインにも、シイロにも、親の秘密を隠したままでいた事が、今頃になって後悔として襲ってくるとは……、本当に私は罪深い事をしてしまったのでしょうね」
住職はばしゃばしゃと顔を洗う。
「ですから、シイロの事は、私が決着をつけねばなりません。……あの子たちにこれ以上の負担を掛けさせるわけにはいけませんね」
そして、水を拭いながら何やら決意を固めているようだった。
「正式に妻とするはずだった女性を追いやった挙句に、あのような最期を迎えさせてしまうなんて……、正直、私は国王失格でした」
住職はぶつぶつと独り言を言いながら部屋へと戻る。
「私の娘であるレインとシイロを救うために、私はパステル王国の大王として立ち上がらなければならないのです。ですから、あなたも見守っていて下さい、我が妻プリム……」
住職はそう言って、自分の机の引き出しから何かを取り出して、そっと握りしめていた。
一方のシイロ。
「はあはあ……、なんだ今のは」
突然、変な映像が頭に浮かんできてシイロはとても混乱していた。場所はどう見てもパステル王国であり、自分がパステル王国の国王と王女と会っていたという、今の自分からすると信じがたい場面が見えたのである。
「わ、私は、なぜあんな所に? しかも、とても幼い姿だったぞ。一体今のは何だというのだ?」
シイロの鼓動が早くなっている。それに、妙に苦しく感じる。一体あの場面が、今の自分にどう関係あるというのだろうか。今のシイロにはとても理解できない。
しかし、あの白髪の幼子は間違いなく自分であると、自分の中の何かが叫んでいる。シイロはその不思議な感覚のせいで、激しい動悸に襲われている。
(いやいやいや、私はモノトーン三傑の一人のシイロだ。パステル王国は憎むべき相手であって、そのような記憶があるはずがない!)
シイロは自分の中に流れてきた場面を必死に否定している。しかし、いくら首を激しく振ろうとも、自分の中に生まれた疑念を払拭する事はできなかった。
「くっ、やはりあの男か……。あの珍妙な武器を振り回していたあの男が原因かっ!」
シイロが部屋の壁を思い切り殴りつける。ボコォッと壁が凹んでひびが入る。だが、シイロの気持ちは一向に落ち着きが見られなかった。
「くそっ、こうなったら元凶の男ともども全部を白く塗りつぶしてくれる!」
激しい動揺に襲われ、まったくもって晴れる様子が見られないために、シイロは地球へと打って出る事にした。自分がおかしくなったのは住職に会ってからだと強く認識していたので、原因となる住職を消せば気持ちが晴れると踏んだのである。
とにもかくにも、落ち着きを失ってしまったシイロは、単身地球へ向かっていった。
ワイスがやって来た翌朝、色鮮寺の中を杏と楓が掃除をしている。まだ夏休みが続いている最中とあって、これが二人の朝の日課となっているのだ。
「まったく、まだ朝だっていうのに、なんでこんなに暑いのかしらね」
「ええ、本当にきついわ」
この日の朝は相変わらずの熱帯夜明けで、朝の6時だとかいうのにとても汗ばむような状態になっていた。薄着で掃除をしていても汗で気持ち悪くなる。
「とにかく早く掃除しちゃいましょう。終われば住職の朝ごはんが待ってるわけだしね」
「ええ、そうね。なんだかんだで一人暮らしが長いせいか料理はとてもおいしいものね」
汗ばむ陽気に文句を言いながらも、杏と楓は朝ご飯を楽しみに掃除をちゃっちゃと進めていた。
だが、それは突然の事だった。
びゅうっと一陣の強い風が起きたかと思うと、そこにはモノトーン三傑のシイロが立っていたのである。
「あ、あんたはっ!」
楓が叫ぶ。
「むぅ、やはりここでは私の力は使えないか……。まったく忌々しい空間だ」
シイロは自分の手を見ながら、ぶつぶつと文句を言っている。そして、そこに居た杏と楓を見るなり大声で叫ぶ。
「おい、パステルオレンジ、パステルブラウン。あの男に会わせろ!」
ものすごく鋭い目つきで見てくるシイロ。力は使えなくとも三傑の眼力は健在だった。
「和尚に何の用よ。会いたければ」
「あたしたちが相手になるわよ!」
杏と楓が変身して身構える。
「ちっ、さすがに互いに話は通じないか……。まあいい、力が使えなくともお前らくらいなら軽くあしらえる」
シイロも色鮮寺の敷地内では力が使えないが、応戦するために身構えた。
じりじりと睨み合う中、いよいよぶつかり合うと思われたその時だった。
「待ちなさい!」
住職の声がその場に響き渡ったのだった。
真夜中、住職が勢いよく目を覚ます。
「い、今のは……、国王時代の記憶か?」
住職は自分の見ていた夢の事を思い返していた。
見ていた夢は、自分の娘である王女時代のレインと、まだただの一般国民だった頃のシイロの出会いの場面だった。
それにしても、夢というにはついさっき起きた事のように感じられたのである。どのくらい前の事だか、もう分からないくらいの頃の話だというのに、不思議な感覚である。
それにしても、起こした自分の体に違和感を感じる住職。全身がこれでもかというくらいに汗をかいていた。
「……あの頃の事を思い出すとは、やはり、私の中でいまだに大きな後悔となっているという事ですね……」
住職は体を起こすと、汗を拭って服を着替えた。夏の真っただ中とはいえ、汗をかいた状態をそのままにしておくのは気分的によろしくないのだ。
「レインにも、シイロにも、親の秘密を隠したままでいた事が、今頃になって後悔として襲ってくるとは……、本当に私は罪深い事をしてしまったのでしょうね」
住職はばしゃばしゃと顔を洗う。
「ですから、シイロの事は、私が決着をつけねばなりません。……あの子たちにこれ以上の負担を掛けさせるわけにはいけませんね」
そして、水を拭いながら何やら決意を固めているようだった。
「正式に妻とするはずだった女性を追いやった挙句に、あのような最期を迎えさせてしまうなんて……、正直、私は国王失格でした」
住職はぶつぶつと独り言を言いながら部屋へと戻る。
「私の娘であるレインとシイロを救うために、私はパステル王国の大王として立ち上がらなければならないのです。ですから、あなたも見守っていて下さい、我が妻プリム……」
住職はそう言って、自分の机の引き出しから何かを取り出して、そっと握りしめていた。
一方のシイロ。
「はあはあ……、なんだ今のは」
突然、変な映像が頭に浮かんできてシイロはとても混乱していた。場所はどう見てもパステル王国であり、自分がパステル王国の国王と王女と会っていたという、今の自分からすると信じがたい場面が見えたのである。
「わ、私は、なぜあんな所に? しかも、とても幼い姿だったぞ。一体今のは何だというのだ?」
シイロの鼓動が早くなっている。それに、妙に苦しく感じる。一体あの場面が、今の自分にどう関係あるというのだろうか。今のシイロにはとても理解できない。
しかし、あの白髪の幼子は間違いなく自分であると、自分の中の何かが叫んでいる。シイロはその不思議な感覚のせいで、激しい動悸に襲われている。
(いやいやいや、私はモノトーン三傑の一人のシイロだ。パステル王国は憎むべき相手であって、そのような記憶があるはずがない!)
シイロは自分の中に流れてきた場面を必死に否定している。しかし、いくら首を激しく振ろうとも、自分の中に生まれた疑念を払拭する事はできなかった。
「くっ、やはりあの男か……。あの珍妙な武器を振り回していたあの男が原因かっ!」
シイロが部屋の壁を思い切り殴りつける。ボコォッと壁が凹んでひびが入る。だが、シイロの気持ちは一向に落ち着きが見られなかった。
「くそっ、こうなったら元凶の男ともども全部を白く塗りつぶしてくれる!」
激しい動揺に襲われ、まったくもって晴れる様子が見られないために、シイロは地球へと打って出る事にした。自分がおかしくなったのは住職に会ってからだと強く認識していたので、原因となる住職を消せば気持ちが晴れると踏んだのである。
とにもかくにも、落ち着きを失ってしまったシイロは、単身地球へ向かっていった。
ワイスがやって来た翌朝、色鮮寺の中を杏と楓が掃除をしている。まだ夏休みが続いている最中とあって、これが二人の朝の日課となっているのだ。
「まったく、まだ朝だっていうのに、なんでこんなに暑いのかしらね」
「ええ、本当にきついわ」
この日の朝は相変わらずの熱帯夜明けで、朝の6時だとかいうのにとても汗ばむような状態になっていた。薄着で掃除をしていても汗で気持ち悪くなる。
「とにかく早く掃除しちゃいましょう。終われば住職の朝ごはんが待ってるわけだしね」
「ええ、そうね。なんだかんだで一人暮らしが長いせいか料理はとてもおいしいものね」
汗ばむ陽気に文句を言いながらも、杏と楓は朝ご飯を楽しみに掃除をちゃっちゃと進めていた。
だが、それは突然の事だった。
びゅうっと一陣の強い風が起きたかと思うと、そこにはモノトーン三傑のシイロが立っていたのである。
「あ、あんたはっ!」
楓が叫ぶ。
「むぅ、やはりここでは私の力は使えないか……。まったく忌々しい空間だ」
シイロは自分の手を見ながら、ぶつぶつと文句を言っている。そして、そこに居た杏と楓を見るなり大声で叫ぶ。
「おい、パステルオレンジ、パステルブラウン。あの男に会わせろ!」
ものすごく鋭い目つきで見てくるシイロ。力は使えなくとも三傑の眼力は健在だった。
「和尚に何の用よ。会いたければ」
「あたしたちが相手になるわよ!」
杏と楓が変身して身構える。
「ちっ、さすがに互いに話は通じないか……。まあいい、力が使えなくともお前らくらいなら軽くあしらえる」
シイロも色鮮寺の敷地内では力が使えないが、応戦するために身構えた。
じりじりと睨み合う中、いよいよぶつかり合うと思われたその時だった。
「待ちなさい!」
住職の声がその場に響き渡ったのだった。
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