マジカル☆パステル

未羊

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第128話 三傑決戦・その11-最後の刃

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「勝負、ありましたわね」
 氷のレイピアをグーレイに突きつけるパステルパープル。だが、グーレイはまだ諦めたような様子はない。歯を食いしばってパステルパープルを睨み付けている。
「ありえぬ! 我ら三傑がおぬしらごときに敗れるなどっ!」
 唇がかみ切れそうな勢いで歯を食いしばるグーレイ。だが、グーレイは実際に、パステルパープルの手によって激しく吹き飛び、尻餅をついたのだ。
「往生際が悪いですわよ。ブラークとか申されましたか、彼のように潔く敗北を認めればよろしいのですわ」
「うるさい、うるさいっ、うるさいっ!!」
 グーレイは氷のレイピアを突き付けられた状態だが、逆上してパステルパープルへと一撃を食らわせようとしている。
「……醜いですわ」
 パステルパープルがそう呟くと、辺り一面が一瞬で凍り付いた。反撃しようとしていたグーレイも、反撃虚しく、その氷の中に閉じ込められてしまった。
「……せめて、最期くらいは美しく散りなさい。冬の静寂に安らかに眠れ、ウィンター・アメジスト・コフィン!」
 パキン……。
「かっ……はっ……」
 すべての終焉を示すかのように、グーレイは氷結の中に閉じ込められた。
「ダクネース、様……。申し、訳……、ございま、せん……」
 そう言って、グーレイは自分の武器である木炭へと姿を変え、地面に落ちる。だが、その木炭は最後の最後で一矢報いんと、パステルパープル目がけて飛び掛かってきた。
「……まったく、最後まで油断できない奴だわね」
 その木炭も、パステルパープルには結局届かなかった。パステルブラウンが飛び込んで粉微塵に斬り裂いたのだった。
「助かりましたわ、パステルブラウン」
「最後の油断はらしくないわよ、パステルパープル」
 二人が言葉を交わす中、斬り刻まれた木炭は地面へと落ち、灰色の霧となって儚く消え去ったのだった。
 これで残るモノトーン三傑はシイロのみ。パステルブラウンとパステルパープルは、少し休むと今まさに激しい戦いが行われているその場へと向かったのだった。

 シイロと住職の戦いは熾烈を極めていた。モノトーン三傑最強の剣士を相手に、一介の仏教の僧侶が善戦、いやむしろ押し気味に戦いを進めているなど、誰が想像しえただろうか。
 その戦いっぷりに、住職は確かにシイロの剣の師匠だという事を認識せざるを得なかった。
「すげえ……」
 その戦いっぷりに、パステルピンクはただただ見惚れるしかなかった。
 このままいけば、住職がシイロに勝ってしまうのでは? そう思っていたのだが、少しずつ形勢が逆転し始めた。
 ……二人の間には決定的な差があったのだ。
 住職は前世の力を取り戻しつつあったとはいえ、今はしがない住職、地球人なのだ。しかも少なく見積もっても40~50歳のおじさんである。
 そう、体力が限界を迎え始めたのだ。だが、それでも決定的な崩れ方を見せなかったのは、彼の持つその技術と技量他ならなかった。
「はははっ、さっきまでの勢いはどうした! とうとう化けの皮が剥がれたか!」
 シイロはさらに攻撃を激しさを増していく。
「ぐっ、やはり年には勝てませんかね……」
「何をごちゃごちゃと!」
 ここでようやくシイロの攻撃が住職を捉える!
「ぐっ!」
 住職は左肩を貫かれ、痛みに片膝をついてしまった。
「ははっ、下等な生き物のくせに、よくここまで粘ってくれたものだな。さあ、その身をダクネース様のために捧げなさい!」
 醜く住職を見下すシイロ。とどめを刺すべく剣を振り上げたが、突然その動きを止めてしまった。
「な……」
 その時の住職の表情に、どういうわけかシイロは体が動かなくなってしまったのである。
「や、やめろ……。やめろ、やめろ、やめろ!」
「ふっ、本当に強くなりましたね、シイロ。これならレインの護衛を任せられますね」
 突如として、レインの名を出す住職。その言葉に、シイロの動揺が激しくなっていく。
「れい……ん? 私……は、私は……、うおおおおっ!!」
 顔面を押さえて動揺したかと思った次の瞬間、シイロは剣を振りかぶって住職へと斬り掛かった。
「危ねえっ!」
 これにはさすがにパステルピンクが危険と判断して飛び込んだ。
 ガキーンッ!!
 パステルブラシを変化させた剣で、シイロの剣を受け止める。受け止めたのはいいが、その剣撃が重く、止めるのが精一杯だった。
(くそっ、なんて重い一撃なんだ!)
 必死に食い止めるパステルピンクだったが、少しずつ攻撃が沈み込み始めている。完全に押されてしまっているのだ。
「パステル・シュトローム・アロー!」
 そこへパステルシアンが浄化の矢を放つ。だが、その矢はあえなくシイロによって打ち落とされてしまった。あの状況からの反応速度。さすがは女王の護衛騎士になっただけの事はあった。
「ひっ!」
 パステルシアンは思わず悲鳴を上げる。その時のパステルシアンを睨んだシイロの目が、この世のものとは思えないレベルの鋭いものだったからだ。
「きゃあっ!」
 次の瞬間、パステルシアンは吹き飛んでいた。だが、吹き飛んだだけで追撃は受けなかった。シイロも同時に吹き飛ばされていたからだ。パステルシアンの反射技である。完全な状態で跳ね返したにもかかわらず、パステルシアンも大きく吹き飛んでしまった。シイロの攻撃のすさまじさを物語る光景だった。
「お前ら……、全員、殺すっ!」
 反射を受けながらも倒れずに踏みとどまったシイロ。鬼のような気迫を放ちながら立ち尽くし、すっと剣を構えたのだった。
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