マジカル☆パステル

未羊

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第155話 思わぬ乱入者

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 パステルピンクたちとダクネースが戦っている最中、シイロもまた、自分の母親プリムと戦っていた。
「あら、あんなに離れて大丈夫なのかしら」
「問題ない。これだけ離れれば、私たちの戦いを邪魔する者は居ない。闇に堕ちたお前に引導を渡してくれる!」
 煽るように喋るプリムだが、シイロだってそんな安い挑発に乗るような愚か者ではない。だが、正義感に厚すぎるがゆえに、暴走しがちなのだ。しかも、今戦っているのは闇堕ちしているとはいえ、実の母親。油断ができる相手ではなかった。
「ふふっ、威勢が良くなったわね、シイロ」
 プリムは口に手の甲を当てて、不敵に微笑む。
「あの頃に比べて、どれだけ強くなったのか、この母親にしっかりと見せてちょうだい!!」
 プリムがまとうオーラが手となってシイロに襲い掛かる。
 プリムはあの住職、チュナラ大王が恋に落ちた相手である。今ではずいぶんと失われてしまっているが、当時は一般人としてはかなりの整った美人だったのだ。それがゆえに、市井巡りの最中にチュナラが惹きつけられてしまったのだ。
 チュナラ大王の愛する妻プリムと愛する娘シイロが、今こうして対峙している。なんとも嘆かわしい事ではあるが、これもすべては大王チュナラが引き起こした事態でもあるのだ。彼が世間の目を気にせずプリムを城に迎えていれば、このような事態は避けられたかもしれない。しかし、今となってはいくら言ったところで後の祭りなのだった。
「はあっ!!」
 シイロは剣を振るい、闇のオーラでできた手を斬り捨てていく。だが、その数はとても多く、シイロの剣術をもってしても捌き切る事は厳しかった。その手数に徐々に追い込まれていくシイロ。だが、その時だった。
「むんっ!」
 何かが突如現れ、その手をすべて斬り裂いてしまった。
「あら、誰かと思えば、私たちを捨てたつまらない男じゃないの……。何よ、その格好……、笑えるわね!」
 その姿を確認したプリムは、吐き捨てるように叫ぶと、再び闇の手を発動させる。
「ふむ、君にはそう思われていても仕方ないか」
 冷静に呟くと、手に持った剣で再び闇の手をすべて斬り裂てしまった。
「チュナラ大王?!」
「シイロ。この姿でも私だとすぐに分かるのか?」
「あ、当たり前ではありませんか。その身にまとうオーラ。一日たりとも忘れた事はございません!」
 不思議そうに見る住職に、シイロははっきりとそう答えた。その言葉に、住職はつい口元が緩んでしまう。
「お前、どうやってここにやって来た?!」
「そんな事はどうでもいいではないか。せっかくだ。恨みがあるというのなら、ここで気の済むまで夫婦喧嘩といこうではないか」
 驚きの表情を浮かべるプリムに、住職は冷静な表情で剣を構えてみせた。その姿に、プリムはぎりっと唇を噛む。
「はんっ、余裕ぶっているのも今のうちよ。私たちが受けた苦悩と仕打ち、その身に味あわせてあげるわ!」
 プリムは闇のオーラを増大させる。これを見るに、今までは本気ではなかったようだった。
「ぬるいっ!」
 だが、住職もまったく怯む様子はない。それどころか、逆にプリムの懐へと飛び込んでいっている。その動きには、まったくの躊躇がなかった。
「ふむ、近くで見ると、闇に堕ちても美しいな。さすがは私が惚れた相手だ」
「ほざくなっ!」
 飛び込んできた住職を、プリムは一閃、薙ぎ払う。だが、住職はそれを軽く躱してしまった。
「ふむ、恨みと怒りで力を増しているようだが、精確性に欠けるようだね。軌道が甘い」
 躱して着地した住職は、剣を握ってプリムに飛び掛かる。
(くっ、速いっ!)
 プリムは身構えて、迎撃する。だが、そんなとっさの攻撃で捉えられるほど、住職の動きは易しいものではなかった。
 一撃を食らう。プリムは覚悟した。
 だが、その次の瞬間、ものすごい音が場に響き渡った。
「喝!」
 それは、住職が持つ警策きょうさくが命中した音だった。スパーンという乾いた音に、プリムもシイロも面食らってしまっていた。
「えっ、えっ?」
「ふっ、私が愛した妻を斬るわけがないじゃないですか。ですので、その性根を叩き直してあげましょう。ああ、これですか。禅で使う警策という叩き棒ですよ。音はすごいですけれど、痛くはありませんから……」
 ここまで言って、住職の表情が一気に変わる。
「覚悟して下さいね?」
 顔は笑顔だというのに、放たれるオーラが実に禍々しい。下手をするとプリムよりもどす黒いのではないのだろうか。
「シイロはそこで見ていて下さい。親子での殺し合いなど、見たくありませんから」
「えっ、あっ、はい……」
 住職に気圧されて、シイロはおとなしく引き下がる事しかできなかった。
「私も後悔をしているんですよ。自分のあの時の選択が正しかったのか。まったく、周りになんだかんだ言われて、あなたを城に迎え入れられなかった自分が情けない限りです。だからこそ、シイロにはあれ以上の苦労は掛けたくなかった……」
 警策を構えて、住職はプリムを見る。
「ですので、私は過去との決別のために、この夫婦喧嘩に臨むのです。プリム! ……全力で掛かってきて下さい」
 住職は、じっとプリムを睨み付けた。
「はっ、言われなくてもやってあげるわ。私が満足するのが先か、お前が死ぬのが先か、徹底的にやり合ってやろうじゃないの!」
 プリムはオーラを爆発させる。ただ、その顔はどういうわけか、少し笑っているように見えたのだった。
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