マジカル☆パステル

未羊

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第165話 隠れていた真実

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 バアンっと大きな音を立てて扉が開く。
 真っ先に飛び込んだシイロが剣を構えて辺りを見回すが、特に何かが居る気配はなかった。
 だが、バルコニーの方に視線をやった時に、シイロの表情は驚愕に染まってしまう。
「あ……あ……、女王、陛下……」
 後ろからぞろぞろと入ってきたパステルピンクたちも、その声に反応してシイロが見る方向を見る。
「噓っ、女王様?!」
 聖獣たちが驚きの声を上げる。
 その視線の先には、いまだに石化したままのレインの姿があったのだ。その姿は聖獣たちを逃がした後の祈りの姿そのままだった。
「なぜだ? ダクネースを倒したのに、なんで固まったままなんだよ……」
 ワイスがてとてととレインへと近付いていく。石になっているとはいえ、そこからわずかに感じ取れる力のおかげで、その石像がレイン本人だと確認された。
「間違いねえ……。この石はレイン様本人だ……」
「レイン!」
 住職が石化したレインに駆け寄る。しかし、触って何かあってはいけないと、住職は触れる事はできなかった。
 パステル王国の住人からしたら、誰もが疑いたくなる光景だが、これが現実なのである。
「なぜだ……。なぜダクネースを倒したというのに、レイン様は、パステル王国は元に戻らないのだ……」
 シイロが愕然として膝を落としている。
「噓でしょ? 私たち、頑張ったのにこんな事ってありえるの?」
 パステルシアンも泣きそうな顔をしながら、この状況を見守っている。
 誰もがこの状況に気を取られている最中、予想外の行動に出る者が居た。だが、
「パステル・ヴァニッシング・ブリザード!」
 それにいち早く気が付いたパステルパープルによって、その者の動きを止められてしまった。
「あたたた……、気付かれちゃうなんて、予想外だったな」
「フォシンズ。あなた、今何をなさろうとしましたの?」
 パステルパープルがフォシンズを睨み付ける。だが、フォシンズは悪びれる様子もなくにこにことしている。
「何って、君たちは僕の事を信じ切っていたからね。裏切ったらどんな反応をするのか見てみたかったんだよ」
「なぜ、そのような事を?」
 にこにことしながら答えるフォシンズに、パステルパープルは更に表情を険しくする。
「フォシンズ、お前まさか……」
 ワイスが走ってくる。
「まさか? とんでもない。僕は最初から、君たちの仲間なんかじゃないんだよ。忘れたのかい? 僕が誕生した経緯を」
 フォシンズはにやりと笑って、ワイスたちを睨み付けている。
「あははははっ、滑稽だったね。僕を信じ切っている君たちの姿は。なぜ僕が鳴いて、ダクネースの力で生み出された連中が止まったのか、不思議に思わなかったのかい?」
 そう話すフォシンズの体が、みるみるうちに変わっていく。
「僕はね、君たちの上位の聖獣には違いないさ。でも、その実態は……」
 可愛らしかった外見が、みるみる醜い化け物へと変わっていく。その変化に、パステルシアンたちは固まって動けなかった。
「うらあっ!」
「へぶっ!」
 パステルピンクを除いて。
 気が付いたらパステルピンクがフォシンズに蹴り掛かっていた。その飛び蹴りを食らったフォシンズは、変身途中とあって簡単にその攻撃を食らい、吹き飛んでしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよ。変身中は攻撃しないっていうお約束じゃないのかい?」
「敵だと認識したらそうともいかないだろうが!」
 メタいツッコミを入れるフォシンズに、そんな事知るかと言い切るパステルピンク。その光景に誰もがぽかーんと立ち尽くしていた。
「まったく、せっかく決めようとしたのに締まらなくなっちゃったじゃないか」
 フォシンズは立ち上がりながら、体の埃を払っている。そして、改めて変身を完了させてパステルピンクたちに向き合った。
「僕は聖獣フォシンズなのはいいよね?」
 確認を取ってくるので、パステルピンクたちは頷く。
「でも、その実態はダクネースの分身なんだ。浄化されて君たちの側に傾いたダクネース本人なんだよ」
 さらりとフォシンズはとんでもない事を告白してくる。
「つまり、お前を倒さないと真の平和は訪れないって事だな」
「まあそういう事だね。ただ、倒せるかどうかといったら、倒す事はできないけれどね」
「どういう事だ?」
 フォシンズの強がりに、パステルピンクが睨みを利かせる。
「ダクネースの正体は負の感情だ。つまり僕もその負の感情の塊なんだ。その感情が尽きる事がない以上、消し去る事は不可能なんだよ」
 フォシンズが怯む事なく説明をする。
「だから、今までは僕の体を媒体として、再び城の地下に閉じ込める事で事態を収束してきたんだ」
「つまり、さっき倒したダクネースは、過去のお前ってわけなのか」
「そういう事だね」
 さらりと明かされるとんでもない真実。この事にはシイロたちは驚きを隠せなかった。
「でも、今回は予想外だったね。ダクネースが最後の力を振り絞って、僕の中に入ってきたんだから」
 フォシンズはそう呟くと、鋭い目をパステルピンクたちに向ける。
「今は……君たちを殺したくて仕方がないよ。さあ、真の平和のために僕に刃を向ける覚悟はあるかい?」
 そう言い放つフォシンズの瞳が怪しく光ったのだった。
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