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第185話 封印の間にて
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元通りに戻ったパステル王城の地下深く、厳重に封印された扉の前に立つパステルピンクたち。レインが扉に触れると、カチャッという音が鳴る。
「これで中に入れます。負の感情に支配されたフォシンズを浄化しましたから、おそらくは大丈夫だと思いますが、念のために警戒をお願いします」
レインは振り返ってみんなに警告している。
「でしたら、私が開きましょう。護衛騎士として当然の務めですから」
シイロが先頭に立つ。
「そうですね。頼みましたよ、シイロ」
「はっ!」
シイロが扉に手を掛けて、扉を開く。外開きの扉の中に鋭い視線を送りながら、ゆっくりと扉を開いた。
「気配が残っているわ」
プリムが叫ぶ。
「どうやらそのようですね。ほとんどは過去にダクネースとして出て行ったようですが、それからもここに負の感情は集まっていたようですね」
扉が完全に開き、封印の間の全体が姿を見せる。広い部屋の中心に四本の柱があり、その真ん中で人の握り拳より大きい黒い塊が浮いているのが見える。これが封印の間に集められたパステル王国の負の感情らしい。
「キュイ!」
「ちょっと落ち着きなさい、フォシンズ」
レインの腕の中で浄化されて小さくなったフォシンズが暴れている。
「女王陛下、仕方がないかと。フォシンズの役目は負の感情をその身に受ける柱なのですから」
「そう、なのですよね……」
レインの顔が曇る。
ダクネースの正体は、先代フォシンズだった。その身に負の感情を吸収し続け、それが限界を迎えた事で暴走したのだ。
「これからは、小刻みに浄化すればいいだけですよ。長年放置していたからこそ、感情が暴走してしまったのです」
プリムが前に出てきて、レインに声を掛ける。
「お母様?」
レインがふとプリムを見る。
「あっ、体が、透けてきてる……」
パステルシアンが声を上げる。そう、よく見るとプリムの体がうっすらと透け始めてきていたのだ。
「ええ、私はダクネースやフォシンズの出す漆黒のオーラを受けて一時的に蘇った身です。本当の私は、すでに病気で死んでいますからね」
プリムがレインからフォシンズを取り上げる。
「お母さん、一体何を!?」
シイロが叫んで剣に手を掛けている。
「シイロ、何を構えているの? 私は何も危害を加えるつもりなんてないですよ」
プリムはにこりと微笑みをシイロに向ける。
「このままだと私は、また消え去ってしまう。せっかく娘と会えたのに、それはあまりにも辛いわ」
プリムはフォシンズを抱き締めながら呟いている。その表情は、どこか悲痛に満ちていた。
「だからね、こうするのよ」
フォシンズを抱え上げて、その額に口づけをするプリム。すると、その次の瞬間、プリムとフォシンズが眩い光を放った。
「くっ、一体何が起こってるんだ?!」
「これって、まさか……」
「プリム、お前は……」
パステルブラウンと住職は何かを察したようである。
光が収まった瞬間、成体と化したフォシンズがその場に立っていたのだった。
「まさかよ……、こんな事があると、言うのか?」
ワイスが呆然として呟いている。
「まったく、無茶をするものだね。散々利用したからって、最後に僕を逆に利用してくるとは、思わなかったよ」
フォシンズが喋っている。
「お母さんはどこに? どこに居るんだ!」
シイロが叫ぶ。
「僕の中さ。どうせ消えてしまうのなら、少しでも一緒に居られる方法を選んだんだろう。まったく、人間っていうのは理解しがたいね」
フォシンズはトンと自分の胸を叩いて説明していた。
「それでは、もうお母様に出会う事はできないと?」
レインがフォシンズに問い掛ける。
「そんな事はないよ。僕と一体化して、彼女は今眠っている。君たちを思うあまりに現世に留まり続けていたんだ。その無茶の反動が来ているからね、このまま眠らせてやってほしい」
フォシンズはそう答える。
「時が来れば、少しだけど君たちの前に姿を現す事ができるようになるよ。だから、時々僕を浄化しにここに来てほしい。じゃないと、僕はまたダクネースとして暴走する事になりかねないからね」
フォシンズはこう続けて、にこりと怖い笑顔をレインたちに向けた。だけれども、レインやシイロにとって、それはちょっとした、いや、大きな希望となった。
「分かりました。では、年に一度、こちらに出向く事をお約束します。……もう、二度と同じ過ちは繰り返しません」
レインは強く、強くそうフォシンズとの間で約束を交わした。その隣で、シイロも真剣な表情をフォシンズに対して向けていた。
「そうかい。だったら、絶対に約束は違えないでほしい。彼女は僕と一緒に長い時間このパステル王国を見守る事になるんだからね」
フォシンズは、天井を見上げてどこか寂しそうに呟いた。聖獣には寿命がないからだ。そんな永遠に、プリムたちを付き合わせる事は憚られるのである。その気持ちが、そこには表れているのだ。
「さあて、最初の浄化を頼もうかな。そこにある負の感情の塊を、浄化してほしい。あの程度の大きさとはいえど、一気に取り込むのは、今の僕には厳しいからね」
「……分かりました」
パステルピンクたちが見守る中、レインは負の感情の塊、漆黒のオーラの前に立ち、杖を掲げて浄化を行う。すると、その場に溜まっていた漆黒のオーラは、さらさらと光の粒になって消え去ってしまった。
「ありがとう。これで僕は無事に役目を果たす事ができるよ」
レインが浄化してきれいになった台座に、フォシンズはちょこんと座り込んだ。
「これで僕はここから動けなくなった。いいかい、絶対に年に一回、ここに出向いて浄化をしてよ。約束は絶対だからね」
しっかりと念を押したフォシンズは、そのまますっと眠りに就いたのだった。
「これで中に入れます。負の感情に支配されたフォシンズを浄化しましたから、おそらくは大丈夫だと思いますが、念のために警戒をお願いします」
レインは振り返ってみんなに警告している。
「でしたら、私が開きましょう。護衛騎士として当然の務めですから」
シイロが先頭に立つ。
「そうですね。頼みましたよ、シイロ」
「はっ!」
シイロが扉に手を掛けて、扉を開く。外開きの扉の中に鋭い視線を送りながら、ゆっくりと扉を開いた。
「気配が残っているわ」
プリムが叫ぶ。
「どうやらそのようですね。ほとんどは過去にダクネースとして出て行ったようですが、それからもここに負の感情は集まっていたようですね」
扉が完全に開き、封印の間の全体が姿を見せる。広い部屋の中心に四本の柱があり、その真ん中で人の握り拳より大きい黒い塊が浮いているのが見える。これが封印の間に集められたパステル王国の負の感情らしい。
「キュイ!」
「ちょっと落ち着きなさい、フォシンズ」
レインの腕の中で浄化されて小さくなったフォシンズが暴れている。
「女王陛下、仕方がないかと。フォシンズの役目は負の感情をその身に受ける柱なのですから」
「そう、なのですよね……」
レインの顔が曇る。
ダクネースの正体は、先代フォシンズだった。その身に負の感情を吸収し続け、それが限界を迎えた事で暴走したのだ。
「これからは、小刻みに浄化すればいいだけですよ。長年放置していたからこそ、感情が暴走してしまったのです」
プリムが前に出てきて、レインに声を掛ける。
「お母様?」
レインがふとプリムを見る。
「あっ、体が、透けてきてる……」
パステルシアンが声を上げる。そう、よく見るとプリムの体がうっすらと透け始めてきていたのだ。
「ええ、私はダクネースやフォシンズの出す漆黒のオーラを受けて一時的に蘇った身です。本当の私は、すでに病気で死んでいますからね」
プリムがレインからフォシンズを取り上げる。
「お母さん、一体何を!?」
シイロが叫んで剣に手を掛けている。
「シイロ、何を構えているの? 私は何も危害を加えるつもりなんてないですよ」
プリムはにこりと微笑みをシイロに向ける。
「このままだと私は、また消え去ってしまう。せっかく娘と会えたのに、それはあまりにも辛いわ」
プリムはフォシンズを抱き締めながら呟いている。その表情は、どこか悲痛に満ちていた。
「だからね、こうするのよ」
フォシンズを抱え上げて、その額に口づけをするプリム。すると、その次の瞬間、プリムとフォシンズが眩い光を放った。
「くっ、一体何が起こってるんだ?!」
「これって、まさか……」
「プリム、お前は……」
パステルブラウンと住職は何かを察したようである。
光が収まった瞬間、成体と化したフォシンズがその場に立っていたのだった。
「まさかよ……、こんな事があると、言うのか?」
ワイスが呆然として呟いている。
「まったく、無茶をするものだね。散々利用したからって、最後に僕を逆に利用してくるとは、思わなかったよ」
フォシンズが喋っている。
「お母さんはどこに? どこに居るんだ!」
シイロが叫ぶ。
「僕の中さ。どうせ消えてしまうのなら、少しでも一緒に居られる方法を選んだんだろう。まったく、人間っていうのは理解しがたいね」
フォシンズはトンと自分の胸を叩いて説明していた。
「それでは、もうお母様に出会う事はできないと?」
レインがフォシンズに問い掛ける。
「そんな事はないよ。僕と一体化して、彼女は今眠っている。君たちを思うあまりに現世に留まり続けていたんだ。その無茶の反動が来ているからね、このまま眠らせてやってほしい」
フォシンズはそう答える。
「時が来れば、少しだけど君たちの前に姿を現す事ができるようになるよ。だから、時々僕を浄化しにここに来てほしい。じゃないと、僕はまたダクネースとして暴走する事になりかねないからね」
フォシンズはこう続けて、にこりと怖い笑顔をレインたちに向けた。だけれども、レインやシイロにとって、それはちょっとした、いや、大きな希望となった。
「分かりました。では、年に一度、こちらに出向く事をお約束します。……もう、二度と同じ過ちは繰り返しません」
レインは強く、強くそうフォシンズとの間で約束を交わした。その隣で、シイロも真剣な表情をフォシンズに対して向けていた。
「そうかい。だったら、絶対に約束は違えないでほしい。彼女は僕と一緒に長い時間このパステル王国を見守る事になるんだからね」
フォシンズは、天井を見上げてどこか寂しそうに呟いた。聖獣には寿命がないからだ。そんな永遠に、プリムたちを付き合わせる事は憚られるのである。その気持ちが、そこには表れているのだ。
「さあて、最初の浄化を頼もうかな。そこにある負の感情の塊を、浄化してほしい。あの程度の大きさとはいえど、一気に取り込むのは、今の僕には厳しいからね」
「……分かりました」
パステルピンクたちが見守る中、レインは負の感情の塊、漆黒のオーラの前に立ち、杖を掲げて浄化を行う。すると、その場に溜まっていた漆黒のオーラは、さらさらと光の粒になって消え去ってしまった。
「ありがとう。これで僕は無事に役目を果たす事ができるよ」
レインが浄化してきれいになった台座に、フォシンズはちょこんと座り込んだ。
「これで僕はここから動けなくなった。いいかい、絶対に年に一回、ここに出向いて浄化をしてよ。約束は絶対だからね」
しっかりと念を押したフォシンズは、そのまますっと眠りに就いたのだった。
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