不死の少女は王女様

未羊

文字の大きさ
20 / 135

第20話 生息地へ向けて

しおりを挟む
 ランクアップ試験であるグレイウルフの討伐。リューンはトラウマとなっているようだが、しっかりとした足取りで出現する地域へと向かっていく。
 その後ろをついて行くステラは、心配した様子でリューンを見つめている。

(初めて会った時の事ですが、あの時はずいぶんと怯えていましたものね。はたして大丈夫なのでしょうか)

 グレイウルフは隣国との国境付近に現れる魔物で、たまにはぐれた個体がバナルの近くまでやって来る事がある。
 ただ、あの時は集団でやって来ていた。それがゆえに初めての依頼だったリューンにとって、出会いたくない魔物となっているはずである。
 だけども、その気持ちを押し殺してまでこの試験を受けた。
 おそらくは父親から言われた言葉が、リューンの心の支えになっているのだろう。ステラはその気持ちを汲んで、黙ってリューンの後ろをついて行った。

 グレイウルフの出没する地域は、ステラが住んでいる森からさらに国境へ進んだ場所だ。国境付近に森が広がっており、グレイウルフはそこに生息している。

(以前の事を思えば、そこに到着するまでに遭遇する可能性はありますね)

 国境までの途中で野宿するステラとリューン。ステラは火の番をしながらいろいろと考え事をしていた。
 かなり夜は深まっており、リューンはすっかり眠ってしまっている。

(まったく、こうやって熟睡しているあたり、まだまだ子どもですね)

 その寝顔を見ながら、ステラはくすっと笑っていた。
 そういうステラも見た目は子どもなのに、眠る事なくずっと起き続けている。寝なくても大丈夫なのだろうか。

(さて、リューンが無事に試験を遂行できるように、しっかりと見張っておきましょうか)

 ステラは拾い集めてきていた木の枝を火にくべる。そして、揺らめく炎を見つめまま夜が明けるのを静かに待っていたのだった。

 翌日目を覚ますと、再び国境の森を目指して歩き始める二人。
 さすがに中心地から外れてくると、平原の国とはいえども背の高い植物が目立つようになってきていた。
 隣国の森林の国が近くなってきた証拠である。

「さあ、リューン。間もなく国境が近付いてきます。心の準備はよろしいですか?」

 ここまで魔物らしい魔物と遭遇してこなかったので、ステラはあえてリューンに心構えができているか確認している。

「はい。……正直言って怖いですけれど、守られるだけじゃなくて守れる人間になりたいですから」

「そうですか。では、こんなところで足踏みしている状況ではないですね」

 リューンの答えに満足そうにするステラだったが、いきなり足を止めている。

「どうされたんですか、ステラさん」

「まったく、これでは先が思いやられますね。……囲まれています」

「えっ」

 ステラの声に思わず驚くリューン。
 その次の瞬間、がさがさという音が響き渡る。そして、草むらの陰から魔物が姿を現したのだ。

「いつの間に!」

「この程度の気配が感じ取れないようでは、銅級冒険者には上げられませんね」

「うっ……」

 ステラの厳しい評価に、リューンは思わず言葉が詰まってしまう。
 確かにその通りなのだ。冒険者という職業は危険なものであり、死とは常に隣りあわせといっても過言ではない。
 その原因の一つである魔物の気配を感じられないというのは、冒険者としては致命的といってもいいミスなのである。

「さて、出てきたのは試験対象外の魔物ですが、どうしますか?」

「僕が戦います」

「いいでしょう。ただし、無理だと思ったらすぐに加勢しますので、無理はしないで下さいね」

「はい、分かりました」

 出てきた魔物はグレイウルフではなかった。ただのウルフである。グレイウルフに比べれば敏捷性も鋭さも格段に劣る魔物だ。
 しかし、ウルフの習性として群れる傾向がある。実際、今回出てきたのも8匹ほどの群れだった。
 これはリューンの実力を見る上では好都合だった。

「では、私は少し下がって見ていますので、しっかりとやりなさい」

「はい」

 元気よく返事をしたリューンは、ウルフに向かって突進していく。
 そして、魔法鞄から剣を取り出したのだが、その剣を見て思わずステラは驚いてしまった。

(あの剣は……。そうですか、正式に託されたのですね)

 その一瞬の気の緩みをウルフは逃さない。

「うるさいですね」

 だが、ステラはその場から動く事なく、その拳だけでウルフを撃退してしまった。ウルフの吹っ飛び方を見るに、とても少女の力とは思えないものだった。

(エルミタージュ騎士団。その血脈を受け継ぎし者の成長、しかと見届けさせてもらいますよ)

 ステラは、じっとリューンの姿を見守っている。
 ちなみにステラが殴り飛ばしたウルフは2匹。つまり、現在リューンを取り囲むウルフは全部で6匹となっていた。
 ここまでステラによって鍛えられてきたリューンだが、はたしてこの状況を無事に切り抜ける事ができるのだろうか。
 そして、グレイウルフの討伐を無事に達成して、冒険者ランクを上げる事ができるのだろうか。
 リューンの戦いを、ステラは少し引いた位置から見守るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...