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第68話 企みと企みのぶつかり合い
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移動する間も隠れる間もなく、皇帝アンペラトリスとばったりと鉢合わせをしてしまうコメルス。その時のアンペラトリスの姿に思わず見とれてしまう。
さすがは皇帝と思わせる威厳のある姿でありながら、どこか魅力を感じさせるその服装。その素晴らしいまでの調和に、思わず息を飲んでしまう。
「おや、先客がいたか。悪いが私がここに用があるゆえに、出ていってもらえるか?」
アンペラトリスの言葉自体は非常に普通の言い回しだった。だが、その言葉には得体のしれない威圧感があった。
これにコメルスは耐えられていたものの、付き添っている従者は思わず腰を抜かしそうになっていた。
「そうですね。私の用事はちょうど終わりましたので、遺跡の見学でもさせて頂きましょう。失礼致します」
皇帝と同じ場所に居るのはよろしくないと、コメルスはそう判断して建物を出ていく。
「待て」
ところが、アンペラトリスから突然呼び止められてしまった。
「なんでございますでしょうか」
声を掛けてきた人物がコリーヌ帝国の皇帝であるがために、無視のできないコメルス。仕方なく、その声に振り返る。
そしたらば、困ったことにアンペラトリスがコメルスの姿をじーっと怪しく凝視しているのだ。一体どうしたというのだろうか。
「そなた、商人か」
アンペラトリスの言葉に、コメルスは驚いて固まる。今までも驚かされる事はあったものの、ここまで動きを止められたのは実に初めてである。
「お前、陛下が尋ねてられるのだ。さっさと答えろ」
取り巻きの兵士が怒鳴りつけている。
しかし、アンペラトリスは手を掲げてそれを制止した。
「やめろ。あまり威圧的にすると帝国にやってくる者が遠ざかるであろう?」
「はっ、も、申し訳、ございません」
アンペラトリスに咎められると、兵士は震え上がりながら謝罪していた。
その様子を見ながら、これがコリーヌ帝国の皇帝の威圧感かと息を飲んでいた。
「さて、話が逸れたな」
アンペラトリスは、再びコメルスに顔を向ける。
「もう一度問おう。そなたは商人か?」
見下すような態度ではあるものの、相手は皇帝である。皇帝からすれば、対等になるのはせいぜい国王くらいだ。見下すような態度になるのは自然なものかもしれない。
正直言うと、この時のコメルスは迷っていた。
ベルオムの依頼でコリーヌ帝国と取引をする予定ではあった。だが、まさかその帝国のトップである皇帝と直に話をする事になるとは思ってもみなかったのだ。
その予想外な状況であるがために、コメルスは判断に手間取っているのである。
「どうした、答えられぬのか? 怪しい者であるなら、今すぐこの場で剣の錆にしてやってもよいのだぞ?」
コメルスの判断が遅いと感じたアンペラトリス。耐えられなくなったのか脅しをかけてきたのである。
「いえいえ。その通りでございます」
もう迷ってられないと判断したコメルスは、その場に跪いて答えた。
「パント連国タクティクを拠点としている商人で、コメルスと申します。お初にお目にかかります、アンペラトリス・コリーヌ皇帝陛下」
正直に名乗った上で、しっかりと皇帝の名前を話すコメルスである。さすがは大陸全土に取引を拡大させたいだけあって、為政者の名前は完璧である。
この答えに満足したアンペラトリスは、改めてコメルスに話し掛ける。
「ほう、あの寄せ集めの国の者か。そんな国の者がわざわざここまで来るとは、実に珍しいものよな」
実にいやみったらしい言い回しである。
というのも、パント連国は国を治める者が存在しない国である。それはゆえに、アンペラトリスの中では国として認めていない向きがあるのだ。それがこの言い回しに出ているのである。
とはいえ、コメルスもこれは認めるところなので、この皮肉った言い回しはあまり気にしていなかった。
それどころか、コメルスは別の事を考えていた。これは実はチャンスなのでは、と。
(思わぬ事に気が動転してしまうとは……。私はまだまだ商人として未熟なようですね)
ひと息つくと、コメルスはアンペラトリスに向けて発言する。
「私は将来的にこのエルミタージュ大陸全土を股にかける承認を目指しております。そこで、皇帝陛下にご提案がございます」
「ほほう、なんだ。申してみよ」
アンペラトリスは興味を持ったらしく、コメルスに発言を許可する。
「ここでお会いしたのも何かの縁。私にも皇帝陛下の偉業のお手伝いをさせて頂きたく存じます。いかがでございますでしょうか」
コメルスの発言に、面白そうな笑みを浮かべるアンペラトリス。
少し考え込んでいたようだが、アンペラトリスは部下に命じて何かを持ってこさせた。
「面白い話だ。何か裏はありそうだが、乗ってやろうではないか」
アンペラトリスのこの言葉と同時に、先程命じられた部下が何かを持ってコメルスの前にやって来た。
「お前にこれを与えよう。これでお前もコリーヌ帝国の関係者だ。しかと私のために働いておくれよ?」
包まれていた布を払うと、そこにはコリーヌ帝国の紋章があしらわれた勲章が姿を見せた。
「ありがたく頂戴させて頂きます。何なりとお申し付け下さいませ」
コメルスは勲章を受け取るのだった。
さすがは皇帝と思わせる威厳のある姿でありながら、どこか魅力を感じさせるその服装。その素晴らしいまでの調和に、思わず息を飲んでしまう。
「おや、先客がいたか。悪いが私がここに用があるゆえに、出ていってもらえるか?」
アンペラトリスの言葉自体は非常に普通の言い回しだった。だが、その言葉には得体のしれない威圧感があった。
これにコメルスは耐えられていたものの、付き添っている従者は思わず腰を抜かしそうになっていた。
「そうですね。私の用事はちょうど終わりましたので、遺跡の見学でもさせて頂きましょう。失礼致します」
皇帝と同じ場所に居るのはよろしくないと、コメルスはそう判断して建物を出ていく。
「待て」
ところが、アンペラトリスから突然呼び止められてしまった。
「なんでございますでしょうか」
声を掛けてきた人物がコリーヌ帝国の皇帝であるがために、無視のできないコメルス。仕方なく、その声に振り返る。
そしたらば、困ったことにアンペラトリスがコメルスの姿をじーっと怪しく凝視しているのだ。一体どうしたというのだろうか。
「そなた、商人か」
アンペラトリスの言葉に、コメルスは驚いて固まる。今までも驚かされる事はあったものの、ここまで動きを止められたのは実に初めてである。
「お前、陛下が尋ねてられるのだ。さっさと答えろ」
取り巻きの兵士が怒鳴りつけている。
しかし、アンペラトリスは手を掲げてそれを制止した。
「やめろ。あまり威圧的にすると帝国にやってくる者が遠ざかるであろう?」
「はっ、も、申し訳、ございません」
アンペラトリスに咎められると、兵士は震え上がりながら謝罪していた。
その様子を見ながら、これがコリーヌ帝国の皇帝の威圧感かと息を飲んでいた。
「さて、話が逸れたな」
アンペラトリスは、再びコメルスに顔を向ける。
「もう一度問おう。そなたは商人か?」
見下すような態度ではあるものの、相手は皇帝である。皇帝からすれば、対等になるのはせいぜい国王くらいだ。見下すような態度になるのは自然なものかもしれない。
正直言うと、この時のコメルスは迷っていた。
ベルオムの依頼でコリーヌ帝国と取引をする予定ではあった。だが、まさかその帝国のトップである皇帝と直に話をする事になるとは思ってもみなかったのだ。
その予想外な状況であるがために、コメルスは判断に手間取っているのである。
「どうした、答えられぬのか? 怪しい者であるなら、今すぐこの場で剣の錆にしてやってもよいのだぞ?」
コメルスの判断が遅いと感じたアンペラトリス。耐えられなくなったのか脅しをかけてきたのである。
「いえいえ。その通りでございます」
もう迷ってられないと判断したコメルスは、その場に跪いて答えた。
「パント連国タクティクを拠点としている商人で、コメルスと申します。お初にお目にかかります、アンペラトリス・コリーヌ皇帝陛下」
正直に名乗った上で、しっかりと皇帝の名前を話すコメルスである。さすがは大陸全土に取引を拡大させたいだけあって、為政者の名前は完璧である。
この答えに満足したアンペラトリスは、改めてコメルスに話し掛ける。
「ほう、あの寄せ集めの国の者か。そんな国の者がわざわざここまで来るとは、実に珍しいものよな」
実にいやみったらしい言い回しである。
というのも、パント連国は国を治める者が存在しない国である。それはゆえに、アンペラトリスの中では国として認めていない向きがあるのだ。それがこの言い回しに出ているのである。
とはいえ、コメルスもこれは認めるところなので、この皮肉った言い回しはあまり気にしていなかった。
それどころか、コメルスは別の事を考えていた。これは実はチャンスなのでは、と。
(思わぬ事に気が動転してしまうとは……。私はまだまだ商人として未熟なようですね)
ひと息つくと、コメルスはアンペラトリスに向けて発言する。
「私は将来的にこのエルミタージュ大陸全土を股にかける承認を目指しております。そこで、皇帝陛下にご提案がございます」
「ほほう、なんだ。申してみよ」
アンペラトリスは興味を持ったらしく、コメルスに発言を許可する。
「ここでお会いしたのも何かの縁。私にも皇帝陛下の偉業のお手伝いをさせて頂きたく存じます。いかがでございますでしょうか」
コメルスの発言に、面白そうな笑みを浮かべるアンペラトリス。
少し考え込んでいたようだが、アンペラトリスは部下に命じて何かを持ってこさせた。
「面白い話だ。何か裏はありそうだが、乗ってやろうではないか」
アンペラトリスのこの言葉と同時に、先程命じられた部下が何かを持ってコメルスの前にやって来た。
「お前にこれを与えよう。これでお前もコリーヌ帝国の関係者だ。しかと私のために働いておくれよ?」
包まれていた布を払うと、そこにはコリーヌ帝国の紋章があしらわれた勲章が姿を見せた。
「ありがたく頂戴させて頂きます。何なりとお申し付け下さいませ」
コメルスは勲章を受け取るのだった。
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