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第84話 結局は見た目
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よく朝目覚めると、ステラはメスティの手によって着替えさせられる。
本当にフリルのたくさんついたふわふわとしたドレスは、エルミタージュの王女だった頃以来の懐かしい服装だった。
それだけでも新鮮な気持ちになるステラではあるものの、この日はいつもと髪型も違っていた。
「簡単に髪を結ぶだけなのもよいのですが、これだけきれいな長い髪ですとあれこれ試したくなっちゃうんですよね」
メスティはそんな事を喋りながら、ステラの髪を弄っている。
そうやってでき上がったステラの髪形は、サイドを三つ編みにして持ち上げたハーフアップと呼ばれる髪型だった。
見慣れない髪型に、ステラはついつい姿見を覗き込んでしまう。
ただこの髪型、今日のお淑やかドレスとの相性はなかなかいいようだ。ステラもご機嫌なようである。
「お似合いですよ、ステラ様」
ステラのお着替えが終わると、両手を合わせながらメスティは満足そうに微笑んでいる。
「驚きましたね。こんな風に着飾ったのは、一体いつぶりでしょうか」
「……ステラ様って、今おいくつでしたっけ?」
つい本音をこぼしてしまうと、メスティに真顔で聞かれてしまうステラだった。
「えへ、えへへへへ……」
ひとまず笑ってごまかすステラだが、メスティは訝しそうに首を捻りながらステラをじっと見ている。
「と、とりあえず朝食ですよね。さっさと向かいましょう。あまり陛下をお待たせするものではありませんからね」
「左様でございますね。それでは、ご案内致します」
どうにかごまかすステラだった。
先程の会話からするに、メスティはステラに関してあまり情報は与えられていないようだ。
ただの間者とするならば、余計な情報は少ない方がいい。変に情報を報告に色がついたり、逆に相手に漏洩してしまったりと懸念点があるからだ。できる限り最低限というのが望ましいのである。
おそらくはアンペラトリスとしては、メスティを通してステラの動向を探ろうとしているのだろう。
口ではああは言っていたものの、最終的にはエルミタージュ王家の手にある魔道具ネットワークを簒奪するのが目的だろうから。
どのくらい世話になるかは分からないものの、ステラは一切気を許すつもりはなかった。
「ステラリアよ、やってみたい事はあるか?」
朝食の席で漠然と問い掛けてくるアンペラトリス。これには思わずステラは固まってしまっていた。
この日の朝食はベルオムもリューンも居ない、アンペラトリスと一対一の席である。
ベルオムがいたらある程度の会話をこなしてくれるのだろうが、今回はその頼れる壁役がいないのである。だからこそ、ちょっと考え込んでしまうステラなのだった。
「そうですね……。剣の腕を磨きたいと存じます。昨日の打ち合いで思い知らされました、自分がまだまだ未熟だと。覚悟を決めたとなれば、やはり私は強くならなければいけないと思います」
ステラの表情は真剣である。
その表情に、アンペラトリスの頬が思わず緩んでいた。
「ふふっ、向上心がある事はいい事ぞ」
笑みがこぼれるアンペラトリス。
「やはりステラリアよ。我が養子とならぬか?」
「お断りします。そればかりは絶対お受けできません」
「そうか……、残念だな。皇帝の座にまで上り詰めた私でも、良縁にだけは恵まれぬのでな。子どもが欲しいと思うのだよ」
本当に残念そうな表情をするアンペラトリスである。
そういえば確かに、ここまでアンペラトリスの夫の姿を見たことがなかった。
見られるわけがないのである。当人の証言通り、伴侶がいないのだから。
ステラはまだ子どもなせいでよく分かっていないようだが、アンペラトリスのような人物でも手に入れられないものがあるというのは驚きである。
「なんというのかな、私がなまじ強すぎるために、男性が遠慮してしまっているということだろう。私の隣に並び立てる自信がない、という感じでな」
「そうなのですか……」
アンペラトリスの言葉の意味が、やっぱり分からないステラである。
「よく覚えておくのだぞ、ステラリア。何かを得る時、同時に何かを失うこともあるということをな。まあ、そなたの場合は私に言われずとも多くを経験していそうだがな」
アドバイスをしながらおかしく笑うアンペラトリスである。だが、やっぱりステラはどうにも理解できないのか、眉間にしわを寄せて首を傾げていた。
「やれやれ、長くは生きてるとはいえ、知識は年齢相当か。よっぽどその手の事に縁がなかったのだろうな」
ステラの可愛らしい仕草に、思わず笑いが止まらないアンペラトリスである。
「子ども扱いしないで下さいませんか」
「いや、今の私の話が分からないようでは十分お子様だよ。実におかしいものだ、わははははは」
しまいには大笑いするアンペラトリスに、ステラは頬を膨らませて抗議をしている。
「いやはや、実に面白いよ、ステラリア・エルミタージュ。そなたみたいな純粋な子どもは初めて見た気がするよ」
「笑わないで下さいよ」
結局しばらくの間アンペラトリスの笑いが収まる事はなかった。おかげで食事がなかなか進まずに、食べる頃にはすっかり冷めきってしまっていたのだった。
本当にフリルのたくさんついたふわふわとしたドレスは、エルミタージュの王女だった頃以来の懐かしい服装だった。
それだけでも新鮮な気持ちになるステラではあるものの、この日はいつもと髪型も違っていた。
「簡単に髪を結ぶだけなのもよいのですが、これだけきれいな長い髪ですとあれこれ試したくなっちゃうんですよね」
メスティはそんな事を喋りながら、ステラの髪を弄っている。
そうやってでき上がったステラの髪形は、サイドを三つ編みにして持ち上げたハーフアップと呼ばれる髪型だった。
見慣れない髪型に、ステラはついつい姿見を覗き込んでしまう。
ただこの髪型、今日のお淑やかドレスとの相性はなかなかいいようだ。ステラもご機嫌なようである。
「お似合いですよ、ステラ様」
ステラのお着替えが終わると、両手を合わせながらメスティは満足そうに微笑んでいる。
「驚きましたね。こんな風に着飾ったのは、一体いつぶりでしょうか」
「……ステラ様って、今おいくつでしたっけ?」
つい本音をこぼしてしまうと、メスティに真顔で聞かれてしまうステラだった。
「えへ、えへへへへ……」
ひとまず笑ってごまかすステラだが、メスティは訝しそうに首を捻りながらステラをじっと見ている。
「と、とりあえず朝食ですよね。さっさと向かいましょう。あまり陛下をお待たせするものではありませんからね」
「左様でございますね。それでは、ご案内致します」
どうにかごまかすステラだった。
先程の会話からするに、メスティはステラに関してあまり情報は与えられていないようだ。
ただの間者とするならば、余計な情報は少ない方がいい。変に情報を報告に色がついたり、逆に相手に漏洩してしまったりと懸念点があるからだ。できる限り最低限というのが望ましいのである。
おそらくはアンペラトリスとしては、メスティを通してステラの動向を探ろうとしているのだろう。
口ではああは言っていたものの、最終的にはエルミタージュ王家の手にある魔道具ネットワークを簒奪するのが目的だろうから。
どのくらい世話になるかは分からないものの、ステラは一切気を許すつもりはなかった。
「ステラリアよ、やってみたい事はあるか?」
朝食の席で漠然と問い掛けてくるアンペラトリス。これには思わずステラは固まってしまっていた。
この日の朝食はベルオムもリューンも居ない、アンペラトリスと一対一の席である。
ベルオムがいたらある程度の会話をこなしてくれるのだろうが、今回はその頼れる壁役がいないのである。だからこそ、ちょっと考え込んでしまうステラなのだった。
「そうですね……。剣の腕を磨きたいと存じます。昨日の打ち合いで思い知らされました、自分がまだまだ未熟だと。覚悟を決めたとなれば、やはり私は強くならなければいけないと思います」
ステラの表情は真剣である。
その表情に、アンペラトリスの頬が思わず緩んでいた。
「ふふっ、向上心がある事はいい事ぞ」
笑みがこぼれるアンペラトリス。
「やはりステラリアよ。我が養子とならぬか?」
「お断りします。そればかりは絶対お受けできません」
「そうか……、残念だな。皇帝の座にまで上り詰めた私でも、良縁にだけは恵まれぬのでな。子どもが欲しいと思うのだよ」
本当に残念そうな表情をするアンペラトリスである。
そういえば確かに、ここまでアンペラトリスの夫の姿を見たことがなかった。
見られるわけがないのである。当人の証言通り、伴侶がいないのだから。
ステラはまだ子どもなせいでよく分かっていないようだが、アンペラトリスのような人物でも手に入れられないものがあるというのは驚きである。
「なんというのかな、私がなまじ強すぎるために、男性が遠慮してしまっているということだろう。私の隣に並び立てる自信がない、という感じでな」
「そうなのですか……」
アンペラトリスの言葉の意味が、やっぱり分からないステラである。
「よく覚えておくのだぞ、ステラリア。何かを得る時、同時に何かを失うこともあるということをな。まあ、そなたの場合は私に言われずとも多くを経験していそうだがな」
アドバイスをしながらおかしく笑うアンペラトリスである。だが、やっぱりステラはどうにも理解できないのか、眉間にしわを寄せて首を傾げていた。
「やれやれ、長くは生きてるとはいえ、知識は年齢相当か。よっぽどその手の事に縁がなかったのだろうな」
ステラの可愛らしい仕草に、思わず笑いが止まらないアンペラトリスである。
「子ども扱いしないで下さいませんか」
「いや、今の私の話が分からないようでは十分お子様だよ。実におかしいものだ、わははははは」
しまいには大笑いするアンペラトリスに、ステラは頬を膨らませて抗議をしている。
「いやはや、実に面白いよ、ステラリア・エルミタージュ。そなたみたいな純粋な子どもは初めて見た気がするよ」
「笑わないで下さいよ」
結局しばらくの間アンペラトリスの笑いが収まる事はなかった。おかげで食事がなかなか進まずに、食べる頃にはすっかり冷めきってしまっていたのだった。
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